【T&B→AOT】(T&B→AOT/ヒーロー主)

何でも良いから理屈が欲しい

 命の危機に晒された時に思い出すのは決まって小さいときのこと。施設慰問に来ていたMr.レジェンドとたまたま会うことが出来たあの日、あの時の言葉は決して忘れない。

『君は生きるんだ。生きて、人生を全うする義務がある。そのために世界の平和を、君の未来を私が守ろう』

 そう言ってくれたレジェンドに憧れて、その時の記憶が私を奮い立たせ生きることを望ませてくれる。



 こちらの世界に来てから、一体何日経っただろうか。三日くらいだった気もすれば、一か月以上経っているような気もする。
 色々ありすぎたようで、実は何もなかったのかもしれない。それ位に目まぐるしく、呆気なく時は過ぎて行った。
 こちらの世界のキースはグッドマンとは程遠い強面だったり、後姿がすごく似ていたからパオリンがいるのかと思ったら別人の男の子だったりと、色々あった。
 ああ、家のベッドでぐっすり眠りたい。胃が爛れるほどにコーヒーを飲みたい。トレーニングルームで健康的な汗を流したい。ヒーロースーツを着て市民の平和を守りたい。シュテルンビルトに帰りたい。
 そもそもこちらの世界は閉鎖的で娯楽が少ない。食事も質素なものばかりで、常に命の危機にさらされている。
 この世界に居れば居るほど自分がいかに恵まれていたのかを思い知らされる。エンターテイメントでヒーローが成立する世界とは大違いの、嫌な世界。
 でもここに来たのは何か理由があるのだろう。そうでも思わないとやっていけない。

「何でも良いから理屈が欲しいなぁ」
「九時の方向から十メートル級接近!」

 左側にいた男性の声に、私はNEXTで跳躍力を強化し、立体機動を使用せず巨人の項に着地する。
 そのまま超硬質ブレードで弱点である項下縦1メートル横10センチを削ぎ落とせば巨人は蒸気を吹き出しながら消滅した。

 犯罪者を捕まえるのが私たちヒーローの仕事であって、巨人を殺すことは本来の私の仕事ではない。そう考えるとヒーローと憲兵団は似ているのかもしれない。
 しかしこの世界にはヒーロー制度が無いため、いくら巨人を駆逐してもポイントも追加されないし、競い合うライバルもいない。

「勧善懲悪、魅せてあげる」

 従って、いくら気合を込めて決め台詞を言っても私を映してくれるカメラもなければ、応援してくれるファンもいないのだ。
 別段目立ちたがりという訳ではないが、誰も観てくれる人がいないというのは些か寂しくある。
 蒸気を立ち昇らせ消滅してゆく巨人を見ても達成感など生まれる訳もなく、むしろ虚しさのみが広がってゆく。
 この作業にはやりがいというものが感じられない、一切。

「これで何体目……?」

 頬についた返り血を拭う。私にとってヒーローという職は性に合っていたのだとつくづく実感する。
 こんな虚しいこと、いつまで続けなければいけないの。

「そいつで十二体目だ」
「……リヴァイ」

 私の独り言に答えたのはリヴァイだった。彼はこの世界での私の命を握っている人間の一人。
 現在、私の身柄は調査兵団預かりとなっており、実質ちょっと特殊な兵団員という位置づけだ。
 そんな私の監視役兼教育係となったのが、今私の目の前にいる男、リヴァイ兵士長である。したがって彼が私の命を握っているも同然なのだ。
 自身の手に付着した返り血を拭っているリヴァイは、人類最強という大層な肩書きの割に身長はかなり低い。私より低く、女子高生のカリーナと同じくらいって三十路男性としてどうなの。

「……ナマエよ、今失礼なことを考えていなかったか?」
「何も」

 読心したかのような言葉に、私はわざとらしく肩をすくめる。

 エルヴィン団長さんが私の身柄を預かりたいと申し出なければ私は危険分子として憲兵団に殺処分される所まで行っていたのだ。
 まあ、その時はNEXT能力を使って逃げるつもりでいたけれど、そう成らなくて良かった。
 王政側の考えとしては得体の知れない私があわよくばそのまま巨人の餌にでもなればいいといったところだろう。
 だからこそ私は生きるのだ。幼い頃レジェンドが言ってくれた言葉を胸に、私はこの世界でも戦い、生き抜く。

「私には、人生を全うする義務があるのだから」
「……その言葉、前にも言っていたな」
「私に生きる力をくれた……諦めていた私の心を救ってくれた恩人の言葉なの」

 私の言葉にリヴァイは、そうか、と短い言葉を返すとそれ以上は何も言わない。彼が何を考えているかなんて、私には想像もしたくない。
 配給された馬に戻るためブレードを納めようとした時、自然と下がる視界に己の手が映る。
 それは、正義の味方とは思えないほどの血に塗れ、赤黒く変色してしまっていた。
 正直、発狂したかった。私はシュテルンビルトの平和を、市民の未来を守るヒーローなのに何故に手を血で染めなければならないの、と。
 あたかも平静であることを意識し、ハンカチで手を拭う。特にリヴァイには心中を悟られぬようにしなければ。

 こうして私は私自身に嘘を吐く。本当は泣きたいくせに気丈に振る舞って、したくもない愛想笑いをする。
 いつか元の世界へ帰れたとして私は、今まで通りヒーロー業を続けられるのだろうか。こんな手になってしまった私に、市民を助ける資格はあるのだろうか。
 そんな、誰にも分からない答えを探し続けている。みんなに会いたい。


調査兵団か死か

 私は、こちらの世界に一方的に飛ばされた被害者だというのに、こちらの世界では私の命なぞ綿のように軽い物らしい。
 別の世界から来た私に対しこの世界の住人たちがとった行動は裁判という公平な不公平な場を用意することだけだった。
 急に現れた見知らぬ女が異世界から来たなどと世迷い事を並べれば誰だって警戒はする。だからといって一方的に決めつけて殺してしまえだなんて酷すぎる。私だって意思のある人間なのだから。
 異世界から来たのは事実であり敵対する意志はないと何度説明しても聞く耳すらもってもらえなかった。向こう方は王の暗殺だ巨人の仲間だと訳の分からないことを並べ立てるだけ。
 これがペトロフさんならば頭から否定をすることなどなく公平という言葉に相応しい判断をするのだろう。知性のある対話が望めず半ば諦めていた時、異議申し立てがなされたのだ。
 調査兵団の団長を名乗る男性と立つ目つきの悪い男性の二人が私の身柄を預かりたいと申し出たのだ。他のお偉方の判断は早かった。
 今考えれば私に残されていたのは死ぬ道だけだったのだ。そんなことを知らない私に、裁判長は問う、調査兵団か死か。そんなの答えは決まっている。
 この世界で初めて私の意思が受け入れられた瞬間だった。


 それ以来、私の目の前で紅茶を飲んでいる目つきの悪い男性もとい人類最強の男、リヴァイ兵士長が私の監視役だ。
 彼は教育係も兼任しているようで、立体機動装置とやらの訓練やこの世界についての知識、壁外遠征での陣形など、シュテルンビルトに戻っても何の役にも立たないことを教え込まれた。

 リヴァイとの共通点があるとするならば綺麗好きという点だけだろう。彼のは潔癖の域だが。他は共通する気なし。

「二人とも何辛気くさい顔してんの! この後はソニーとビーンとの楽しい実験があるんだからもっとテンション上げなよ!?」
「お前の顔を見てテンションが上がるわけ無いだろ」
「同じく」
「大丈夫! 実験を見たらテンションなんてすぐ上がるよ!」


 何が大丈夫なんだ。私の隣で同じく紅茶を飲みながら楽しそうに笑うのはハンジ・ゾエという男か女か分からない容姿をした人間だ。ここでは彼としよう。
 眼鏡を掛けた彼は、科学者のような役職を兼任しており、興奮気味に私の能力についてあれこれ聞き、実際に見せたりもした。
 こうして初日、二日目、三日目は学生に戻ったような激動の日々で、ジェイクと戦った時程ではないが体がヘトヘトのボロボロだった。
 今では冗談を言えるほどには調査兵団に馴染むことも出来たし、それなりの信用も得られたと感じている。
 それでも私が警戒されていることに変わりはなく、一部の兵団員からは未だ嫌悪されている。NEXTというだけで差別をされるのが珍しくない世を生きてきた私にはどうと言うことはないが。
 そもそも私自身も彼らを信用する気などさらさらないのが事実である。それはそれで市民を守るヒーローとしてどうなんだと思われるかもしれないが、ここはシュテルンビルトでないから他人を信用する必要なんてない。

「さぁ! 紅茶も飲み終わったことだし実験だよ!」
「……」
「ソニー! ビーン! 今行くからねー!」

 嬉々として食堂を出て行ったハンジを後目に、私のため息とリヴァイの舌打ちが重なった。


 もしかしたら私と同じようにこの世界に飛ばされたシュテルンビルト市民がいるかも知れない。彼らを助けるまでは弱音なんて吐いている暇はないのだ。
 手綱を握り締め、今一度己の使命を強く思い浮かべる。



 巨人とは文字通りに巨大な人、人間なのだ。これは必要悪なんて生易しい言葉では片づけられない、行為。
 進んでやらなければいけないの。シュテルンビルトに帰るため、シュテルンビルト市民を守るため。


牛角行きたい

 巨人から削いだ肉を見るたびに思い出すのは、決まって炭火の網の上で焼けるお肉のこと。

『ほら、遠慮せずに食え食え!』

 アントニオのコネで食べる焼き肉は最高に美味しかった。牛角行きたい、焼き肉食べたい。

「はぁ、お肉食べたい……」
「わがまま言うな。肉なんて贅沢品そうそう食えねえよ」

 私の独り言は隣で同じように巨人を使った実験を見学していたリヴァイに聞かれていたらしい。待ってもいない返事が来た。
 それから、すかさずモブリットの声が挟まれる。

「兵長ツッコミ所が違うと思います。ナマエさんは巨人の肉見て食欲増進させないで下さい」

 この実験に私は必要なのかと思えるほど暇だ。
 リヴァイの言うとおりこの世界ではあらゆる肉類が贅沢品となっており、超大型巨人とやらに壁を壊された日からは特に満足な食事も出来ない程の食糧難だとか。
 それでも食いっぱぐれないのは兵士として調査兵団に属しているからである。

「わがまま言ってるわけじゃないの。これは独り言であり、ただの愚痴。私は、肉や魚が当たり前のように食べられる飽食の世界にいたの。急に生活水準ががくっと下がれば、誰だって愚痴の百や二百言いたくなるって話よ」

 生活水準とは、上げるのは容易だが下げるのは困難を要するものなのだ。愚痴をこぼす権利くらい私にだってあるだろう。

 こちらの世界にきてから五日が経った。もはやこの世界での暮らしに飽き飽きしていた。

「せめてコーヒーくらい飲みたいわ」

 珈琲党の私は三度の飯よりコーヒーが無いと生きていけない。
 丁度買い物帰りにこちらの世界へ飛ばされてしまったため、持っていたコーヒー豆は検査対象として憲兵団に持って行かれてしまったのだ。こちらの世界にもコーヒーくらいあるだろうと高をくくっていた自分が恨めしい。
 結果だけを言うとこの世界にコーヒーは存在しなく、私の高級コーヒー豆は返ってこなかった。リヴァイ曰わく味を占めた憲兵団に飲み尽くされてしまったのだろうとのこと。だとしたら絶対に許さん、金返せ。
 カフェイン不足でイライラしてきた。


「紅茶ならありますよ。煎れましょうか?」
「気持ちだけ受け取っておくわ」



「ナマエ・名字はいるか!」
「はぁい。いますけど何か?」

 しかめっ面した男が入ってくる。服装からして憲兵だろうそいつの手には私が渇望して止まない行きつけのカフェのロゴが入った袋。

「この苦い豆は何に使うんだ?」

 その言葉で私の何かが切れた。

「それは私の様な異能力者専用の煎じ薬で、一般の人間にとっては猛毒なんです」
「も、猛毒!?」
「はい。言い忘れてしまい申し訳ありません……もしかして食べてしまいましたか?」

 私の問いに憲兵は蒼くした顔をさっと白くし、力一杯頷いた。それを見た私は心底残念そうな顔をしてやる。

「すぐに死ぬようなことはあませんし一見体に異常は見られませんがこの毒は少しずつ体を蝕んでいき大体三日後にぽっくり。早く大量のアンモニア水を飲んで中和してください!」

 アンモニア水云々も勿論嘘だ、しかもわざとでもある。コーヒー豆を直接食べたくらいで死ぬわけがないが、貴重な私のコーヒー豆を食した罪は重い。文字通り苦水を飲んで悔い改めよ。
 それに、私の薬であり人間にとっては猛毒だと言っておけば後々改めて取り上げられる心配もないだろう。

「あとこれは返してもらいますよ。私の薬なので」

 コーヒー中毒者にとっては薬も同然だ。少々劇薬だが。


説明とメモ

 夢主は身体能力強化系のNEXTでスカイハイと同期のヒーロー。
 ある日犯罪者のNEXT能力によってsngk世界へ飛ばされてしまい、調査兵団で巨人を殺しながら助けが来るのを待っていたらスカイハイことキースが助けに来てくれたけど夢主を同じようにこの世界に飛ばされてしまったシュテルンビルト市民がいるとのことでその人たちを探して一緒に帰ろう! という話が書きたかった。キース落ち。

 そんなに長くなる予定でもないのでモチベが戻ったら完結させたい。



・調査兵団に身柄を引き渡されて間もない頃の話


「お前の能力があれば逃げ出すことも可能だろ」
「確かに、余裕で逃げ出せるわ。でも逃げた後のことを考えたら得策ではないと思っただけ」



「立体機動装置?」
「今あいつらが腰に付けてる物だ。巨人の項までは高さがあるからな、基本的にあれで移動する。後でお前の分も用意する」
「要らない」
「は?」

「巨人を倒すためのブレード? ってやつは必要かもしれないけど、その立体機動装置っていうのは要らない」
「馬鹿言え。立体機動装置がないとまともに動く事すらできないんだぞ」
「むしろそれがあったら邪魔まである」


貴方には助けられっぱなしね

 誰かを守って死ぬのなら、私は胸を張って言える。レジェンド、これが私の人生だと。
 刹那、一陣の風が眼前の巨人を吹き飛ばしていた。

「“ラビー”!」

 それはこの世界では聞くことはないと思っていた紛れもなく私のヒーローネームだった。


「グッドマン!?」
「確かに私はグッドマンだ! ああ、グッドマンだとも!」


「これで私帰れるのね!」

「それが実は……こちらの世界に飛ばされた一般市民がまだいるそうなんだ」
「まじか……でも確かに、私だけ飛ばされたのなら事件になってないものね。失踪・誘拐事件の被害者は分かっているだけでも七人」
「ああ。そこで被害者の名簿と君のスーツを持ってきたんだ!」

「私のヒーロースーツ! ありがとう!」

 年甲斐もなくヒーロースーツを抱き締めて跳びはねる私をキースは微笑ましく見てれている。
 装着時のみ髪色を変化させる特別なうさ耳カチューシャに最先端の技術を集結させた露出多めなボディスーツ。カジノ等のバニースーツを彷彿させるデザインのそれが、私にとっての正装である。


「私、このままヒーローを続けていいのかな……」
「何を言ってるんだい、勿論良いに決まってる! むしろ君は己が身を犠牲にして市民を守ったんだ、ヒーローの鑑さ! ヒーローであることを誇って良い、そして誇るべきだ!」

 彼の屈託のない笑顔を目の当たりにして私の中の罪悪感は一瞬で消えてしまった。何故に、彼の笑顔はこんなにも温かく、涙が出るのだろう。
 またヒーローとして活動が出来る、まだヒーローでいられると思うと自然と笑顔になれた。
 

「良かった。いつものナマエに戻ったみたいで。本当に良かった!」
「キース、ありがとう。そしてありがとう」
「やや、それは私の真似かい?」
「ふふっ、そうよ。貴方には助けられっぱなしね」
「ははは! そんなことはないさ。僕だって君には助けられっぱなしだよ」


「てめぇら、イチャついてんじゃねぇ」


 手で直接触れた相手を異世界へ送るNEXT。右と左どちらの手に触れられたかにより能力の影響範囲が変わるらしく、左手で飛ばされた人は一週間から十日、右手は一時間から二時間。

 どんな能力でもよい、NEXTに直接触れた状態で元の世界を思い描き強く念じれば帰れるのだそう。
 私が裁判にかけられた時は前例がないと言っていたし、その後も同じような人間が現れたなんて噂も聞いていない。
 この世界について勉強した私は、何の前知識も力も持たない人間が壁外に飛ばされていたら文字通り最悪な結果が待っているということを理解している。
 ただでさえ勝手の分からない場所に飛ばされ不安と恐怖で衰弱してるだろうに。



「駄目。この人に巨人退治はさせられない……巨人の中身が人間だとすれば尚更、彼の手を汚すわけにはいかない」

 スカイハイはみんなの憧れであり正義の象徴、キングオブヒーローなのだから。その手を、心を汚してはならない。


「今までお世話になった事に関してはは感謝してます。でもそれも今日まで。これ以上、私たちに関わらないで」

「私達はあくまでイレギュラー。貴方達の問題は貴方達で解決して」



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