【OP→T&B】(キース/OP→T&B/海兵主)

・海軍中将、青キジの腹心
・「絶佳のナマエ」
・基本誰にでも敬語
・モットーは「臨機応変な正義」

 新世界の異常現象によりタイバニの世界に飛ばされてしまった夢主が帰る方法を探しつつもキースと惹かれ合う話。


OP→T&B 01

 こちらの世界に来てすぐのこと。この世界や現在いる場所について、色々と調べなければならないと思い即行動に移した。

 どうやらこの世界には海軍はあれど海賊はいないようで、現在いる場所はシュテルンビルトという三層構造になっている都市。
 現在いる煌びやかな最上層はゴールドステージと呼ばれているらしい。
 来たと言うことはいずれ戻れるということで、今は戻る方法を考えるより今宵の宿をどうすべきか考えるべきだろう。
 ベリーは持っているがあちらの世界でしか通用しない通貨で、シュテルンドルというこちらの通貨は持っていない。

「キャーッ!」

 とりあえず中心街へ行こうと歩いていると女性の悲鳴が聞こえた。悲鳴の方を見やれば覆面を被った男が二人、此方に向かって走っているではないか。
 野次馬を遠ざけるようナイフで牽制している彼らの手元にはじゃらじゃらと音を立てる大袋。画に描いたような宝石窃盗犯だ。

 それに加えて逃走中と見た。私の目の前で犯罪を犯して逃げ切ろうなど笑止。
 この都市にはヒーローと呼ばれる正義の味方がいるようだが、だからと言って私が見逃す理由にはならない。
 道を開ける野次馬に紛れることなく、私は犯罪者の前に立ちはだかる。

「邪魔だどけっ!」

 先頭にいた男が叫ぶが、自分から避けて行くという考えはないのだろうか。無いから犯罪を犯すのだろう、犯罪者の思考は理解しかねる。
 ナイフを持っている手を掴み下に引くと同時に足を引っかけ払ってやれば、男は勢いのまま一回転し背中を地面に打ちつける。
 男の手からナイフを奪いそのまま人のいない方へ投げれば少し遠い場所に植えられていた広葉樹の幹に綺麗に突き刺さる。
 ほんの数秒の出来事に、周りにいる一般市民ももう一人の覆面男も呆然と、私と足元の男を見やった。

「ごほっ、かはっ、う、うぅ……」
「っ! このアマ……!」
「……」

 固い地面に背中を打ち付けた男が痛みに呻くのを見て、もう一人の男が我に返る。
 ナイフを持った手を大きく振りかぶり、私を狙う。しかしそんなものでビビるほどか弱い女じゃない。

 振り下ろされたナイフを避け、その手を掴み男の体に背を向けるよう自分の体を潜り込ませ、そのまま踏み込む。そして男を背負い上げ投げやる。
 所謂一本背負投げと呼ばれる技が綺麗に決まったところで男からナイフを奪い再び広葉樹へ投擲する。
 男が動かなくなったことで野次馬から歓声が上がる。ニューヒーローなのかとの声も掛かるが、そんな大層なものではない。

「スカイハイだ!」

 背後から誰から近付いてくる気配がしたので振り返れば、丁度今到着したのか銀と紫の甲冑のような衣装に身を包んだ人が宙に浮いていた。
 この人がヒーローなのだろう。彼の後を追うように赤白と緑白のロボットみたいな二人組や、青いナースの少女、角の生えた緑色のロボットがやってきた。

「こりゃあどういうことだぁ!?」

 声を発したのは緑白のロボット。ロボットにしては人間らしい流暢な喋り、中に人がいるのかはたまたパシフィスタのような物なのか。
 よしんば彼らがロボットであっても今の私には関係のないこと。異世界から来たなど彼らに話しても笑われるのが見えている。頼るという選択肢はない。

「これは貴女がやったんですか?」
「余計なお世話でしたらすみません。職業柄、犯罪者は見逃せない質ですので」

 それだけ言って踵を返す。とりあえずこの場から去らねば余計な注目を浴びてしまう、若干出遅れ感はあるが。

「……あっ、せめて名前でも教えてくれよ!」
「名乗るほどの者ではありません。通りすがりの海兵です」


OP→T&B 02

 その日ヒーローTVの名プロデューサー、アニエスは怒りと興奮と好奇心が入り混じる複雑な心境であったが、確かに満たされているのを感じた。
 宝石窃盗犯を追っているカメラが捉えた見知らぬ一人の女性。背面に大きく“正義”と書かれた白いコートを肩に掛けた、まるでヒーローの様な存在。
 颯爽と現れ自分よりも体格の大きい窃盗犯の男性二人を軽々と倒して見せたのだ。
 一連の映像を放送し、視聴率が上がらない訳がない。
 ヒーローたちの出る幕もなかったくらい鮮やかな確保劇に、彼女はニューヒーローなのかという問い合わせも殺到したくらいだ。
 勿論アニエスも各企業のお偉方も知り得ない事であり、むしろ此方が知りたいくらいだと叫ばずにはいられない。

「あなた達を呼び出したのは他でもないわ」
「先ほどの女性のことですね」
「ええ、そうよ」
「そうよ、あれ何だったの!?」

 ヒーローたちをトレーニングルームに呼び出したアニエスに、ブルーローズが声を荒げる。先ほどの出来事で謎の女性に見せ場を横取りされ、あまつさえ犯人確保のポイントは無効となってしまったのだ。当然と言えば当然の反応である。
 他のヒーローたちもブルーローズと同様の反応を見せている。皆、先ほどの女性が何者なのか考えあぐねているのだ。

「彼女のことは私たちにも分からないわ。まずはこの映像を観てちょうだい」

 そう言ってトレーニングルームのテレビに流したのは先ほど生放送されていたヒーローTV、件の女性が映っている部分。
 丸腰の女性がナイフを持った男二人を相手に臆することなく、華麗に倒してゆく様をヒーローたちは静かに見ていた。皆一様に違和感を感じていた。


 肩に掛けているだけのコートを一度も落としていないのだ。それだけでも凄いのだが、更に違和感を感じさせる行動の一つとして彼女の顔が一切カメラに映っていないのだ。
 カメラに背を向けているにも関わらず、常にカメラの位置を把握しているかのような動きを見せている。
 彼女の顔を撮ろうとカメラを回り込ませれば彼女も自然な動きでカメラに背を向ける。まるで偶然そうなってしまったかのように。
 偶然が最後まで続けばそれはもう必然だ。

 無駄のない動きで犯人を伸しているのに肩に掛けたコートを落とすことなく、意図的にカメラを避けている。相当の技量を持った人物ではないと出来ない芸当。
 NEXTという可能性も考えたが、一瞬たりとも体を発光させている様子はないので能力は使っていない。素でこの強さなのだ。
 そのミステリアスさも相まって、後ろ姿しか見えなくとも視聴率は鰻登り、颯爽と去ってゆく姿さえ麗しい。

 映像を見終わったヒーローたちが彼女の能力の高さに感嘆する中、ファイヤーエンブレムが溜め息混じりに発言する。

「……彼女、ただ者じゃないわね」
「確か、通りすがりの海兵って言ってなかったか」
「海兵……って軍人なの!?」

 ワイルドタイガーの言葉に、あの場にいなかったファイヤーエンブレム、ドラゴンキッド、アニエスの三人は驚きを隠せなかった。
 真偽は不明だが、軍人と言われればあの身体能力にも納得のいく理由が付く。

「とにかく、今は彼女を見つけるのが先よ」
「……一応聞いておきますが、彼女を見つけてどうするんです?」
「そんなの決まってるじゃない、彼女をヒーローにするのよ!」

 バーナビーの質問に高らかと答えるアニエス。ヒーローTVの名プロデューサーである彼女は、時折突拍子もない企画を立てるが、ほぼ必ず成功を収めている。今回のそれも彼女の段取り通りならば上手くゆくのだろう。
 本人の意志はともかく、彼女がヒーローになればすぐに人気者になれるのは間違いない。

「というわけで、その女海兵を捕まえたら特別捕獲ポイントをあげるわ!」

 アニエスの声がトレーニングルーム内に響く。それを言い終えると彼女は満足げにトレーニングルームを出て行った。
 ポイントの低いヒーローは是が非でも彼女を見つけだしたいところ。他のヒーローもポイントは多ければ多いほど良い。

「あんたたち直接見たんでしょ? 何か特徴とか教えなさいよ」
「特徴か……」

「せ、拙者一部始終見ていたでござる!」

 右手を上げ、声をあげたのは折紙サイクロン。興奮しているせいか素顔にも関わらず、ござる口調が出ている。
 瞳を爛々に輝かせた彼は興奮気味に巻くし立てる。

「拙者、いつものように見切れようと木の陰から見ていたで候。すると彼女は犯人たちの前に立ち立ちふさがり、一切無駄のない動きで犯人たちを確保していたでござるよ。しかも羽織ったコートは微動だにしていないという神業! そして市民の安全を考慮したのでござろう、犯人の持っていたナイフを二本とも拙者が待機していた木へ投げ刺したのでござる。手裏剣を投げる忍者の如く見事な投擲でござった!」

「……で、外見的特徴は?」
「あっ、それは……う、動きに夢中で、よく覚えてません」

 静かになったトレーニングルームにヒーローたちの溜め息が漏れる。
 それをきっかけに折紙サイクロンは本来の自分を思い出したかのようにネガティブに戻ってしまった。眉尻を下げ謝罪の言葉を口にしながら縮こまってゆく。

「気にすんなよ折紙! 俺だって美人だなーくらいしか覚えてねぇんだから」
「虎徹さんはもう少し気にしてください……」
「そうだ。スカイハイが一番乗りだったんでしょ? どんな人だった?」
「うーん、そうだな……」

 ドラゴンキッドの問いに、顎に手を当て何かを考える素振りを見せたがすぐにいつもと変わらぬ笑顔で言う。

「とても綺麗な女性だったよ! そして美しい!」

 トレーニングルームに二度目の溜め息が漏れるのだった。
 彼からこれ以上の情報は望めないと、ヒーローたちはアニエスが置いていった映像を観ながら模索する。
 ふと、ブルーローズが彼女のコートに注目した。

「そういえば……コートに書かれている文字は何語なの?」
「ああ、あれは多分日本語だと思います」
「あれは日本語で“正義”。意味はジャスティス(正義)、だな」

 折紙サイクロンの言葉に虎徹が答える。正義だなんて、まさにヒーローに打ってつけではないか。


OP→T&B 03

 鳥たちに色々と教えてもらいながら今夜をどう過ごそうか考える。ちなみに少尉以上の証であるコートはこの世界では目立ちすぎるようで、軽く畳んで手に持つことにした。
 ナンパされるのを待って家に泊めてもらうという案も私の中で出た。そのために体を安売りするのは憚られるが状況が状況だ、やむを得ない。
 覇気を使えば相手の考えなど見通せるのでなるべく善人を選ぶことも出来るし、最悪何が起ころうとも正当防衛として片付けられる。
 しかし私の案はすぐさま却下されてしまった。誰にって、カラスに。彼はこの街に昔からいる古株カラスで、私の境遇を聞いても信じてくれた優しい鳥だ。
 彼の言うことを聞き入れたいが、この世界の通貨を持たない私が一夜を明かせる場所など他にはないのだ。

 やがて、彼の導きにより大きな噴水のある広場のような場所に辿り着いた。
 噴水の前にには丁度良くベンチが設置されており、一息吐くために腰を下ろす。私の足元を歩いていた彼も羽を広げて私の隣に飛び乗る。

「このまま外で一夜を明かすのは憚られるのですが……それに私、別に生娘と言うわけではないので大丈夫ですよ」
『貴女はもっと自分の体を大切にしてください』
「はぁ……」

 頑固な彼と会話をしている間に、一羽、また一羽と、私の周りには様々な鳥が集まってきていた。
 これは私の食べた悪魔の実の副作用とも言える現象で、鳥類は私に付き従いたがる。それは世界の壁を越えても健在であることが今証明された。

 十分も経たないうちに、この街にいる全ての鳥類が集まっているんじゃないかと思える程の量が集まり、暖かいけれど少し息苦しい状態となった。
 天然の羽毛のせいで周りは見えないが覇気を使えば超常現象を疑われていたり私が鳥に襲われていることを心配する声が聞こえる。
 これはまずいと思った刹那、一匹の大型犬の鳴き声が鳥たちを解散させた。



 今日、事件発生を聞き現場へと向かった私の目に飛び込んできたのは犯罪者を軽々と伸している女性だった。
 振り向いた時の彼女は凛としていて、思わず見惚れてしまっていた。ワイルド君が声を荒げなければ私は永遠に彼女を見続けていただろう。
 もう一度彼女に会いたいと、思ってしまった。この感情は前にも一度体感したから分かる。

「ワフッ!」
「ジョン待つんだ!」

 白髪の女性のことは忘れた訳ではないが、やはり人間は前を向いて歩かなければならない。
 そう考えてはいるものの足が自然と彼女と出会った広場へと向かってしまう。いや、これはジョンに引っ張られているのだなどと自分に言い訳をしながら。
 食材の入った紙袋にジョンのリードと、奇しくもあの日と全く同じ状態でこの広場へと来てしまった私。しかしあの時と違うのは落ち込んでいる私ではなく、いつもの私だということ。

 噴水の前、彼女が座っていたベンチには既に先客がいた。しかしそれは人ではなく大量の鳥の群。 見知った鳥から珍しい鳥まで、生憎私は鳥類に詳しくないのでそれぞれの種類を言い当てることは出来ないが。
 まるで餌に群がっているようだと、遠くから見ていると不意にジョンが動き出した。
 勢いよく鳥の群へと駆けてゆくものだから、リードは私の手から抜けてしまった。結果的に私は彼を追いかけることとなった。
 しかし近付けば近付くほどに興味を引かれてしまう。何のために群れているのかは分からないが、ここまで集まっていると圧巻だ。素晴らしい。

「あの鳥の中に女の人いたよな。何かヤバくね?」

 ふと、野次馬の男性の声が聞こえた。鳥の群に女性が取り込まれているだと。それはいけない。
 大事になる前に助けなければいらないと考えるのとほぼ同時、ジョンがその塊に向かって吠えたのだ。

「バウッ!」

 刹那、鳥で構成された塊が瞬く間に解体されてゆき、現れたのは先ほど出会った彼女だった。白いコートは羽織っていなかったが私には彼女だと直ぐに分かった。
 ふわりと、藍色の艶やかな髪が風に舞う。
 まるで手品みたいに、一斉に飛び立つ鳥の中から現れた彼女は、藍色の艶やかな髪を風に靡かせ、薄茶色の双眼で私を射抜く。
 白髪の彼女ではなかったことは残念だったが、目の前の彼女に再会できたことは非常に喜ばしいことだった。出逢うべくして出会ったのだと感じた。
 うるさい心臓を抑え、私が話しかける切欠を掴みあぐねていると彼女が先に口を開いた。

「ごめんなさい」
「……?」

 なぜ謝られたのかが分からず首を傾げてしまえば彼女は困ったように笑って見せた。
 その顔がまた可愛らしく、私はつい魅入ってしまいそうになったが見計らったようにジョンが彼女に飛びついた。


OP→T&B 04

「バウワウッ!」

 千切れんばかりに尻尾を振った大型犬が飛びついていたのでしっかりと抱き止めてやる。
 ただの犬に押し負けるほど柔ではないのでじゃれようとする彼をしっかりと抑える。
 赤犬なんて呼ばれているお偉いさんの数万倍愛嬌があり、好感が持てる。

 それからワンテンポ遅れて飼い主らしき男性が彼のリードを握り飼い犬の名前を呼ぶ。

「ジョン、それ以上はいけない!」

 飼い主の声に従いジョン君はじゃれるのを止めた。が、私の上から降りる気は全くないらしい。
 どうしたものかと飼い主は肩をすくめ、困ったように笑った。

「すまない、ジョンは君を気に入ってしまったようだ」
「いえ、気にしていませんよ。可愛らしい犬ですね」
「あ、ああ! ジョンはとても可愛い。そして凛々しい!」

 私の言葉に気を良くしたようでにこにこと満面の笑みを浮かべる飼い主。
 ペットは飼い主に似ると言うのは強ち間違いではないようで、もし彼に尻尾があるならば飼い犬同様激しく揺れているのだろう。
 むしろこの場合は飼い主がペットに似ているのかもしれない。

 先程は、聞こえてしまったからか謝罪の言葉が口をついて出てしまい不快な、というより不可解な思いをさせてしまった。
 しかし周りの声で状況把握しようとしたらプライバシーな声まで聞いてしまっただけであって、故意ではない。
 随分と昔に極めた見聞色の覇気も、戦う時以外は滅多に使用しないためプライバシーを侵害してしまうケースが多々ある。もう少し融通の利く能力にならないものか。
 幸い、本人も気にしていないようで良かった。

「隣、いいだろうか……」
「ええ、どうぞ」

 彼は笑顔を少々緊張させてから隣に腰掛けた。それから、ジョン君の頭を撫でる私を、ちらちらと確かめるように見てくる。
 どうやら会話するきっかけを掴みあぐねているらしい。その姿が初々しく、微笑ましく感じる。

「その……さ、さっきの鳥の群は凄かったね!」
「私、鳥に好かれてしまう体質なんです。驚かせてしまったならごめんなさい」
「いや、とんでもない! むしろジョンが吠えてしまって私の方こそ……」
「いえ、ジョン君には助けてもらいましたから。あのままでしたら窒息してたかもしれません」
「ちっ……!? それはいけない!」



「君は、何故ここに……?」

 ここに、とはこの広場にという意味なのか、それともこの世界にという意味なのか。
 もしも、万が一後者ならばこの世界には異世界を行き来する技術が盛んと言うことで、私が元の世界に帰る日はそう遠くないことを意味する。
 まあ、そのような文化がないことは鳥たちとの会話から把握済みである故に単なる妄想に過ぎず。
 例えそんな技術が存在したとして、彼は私が異世界から来た人間であることは知らないのだから、十中八九前者だろう。


「歩いていたら偶然、この広場に着いたんです」

「私、この街に知り合いもいなくて……」


OP→T&B 05

・軍人である夢主がシュテルンビルトのヒーロー制度に疑問を持つ

「海軍に所属している私にとって犯罪者を捕えることは日常であり義務ですから、それでポイントを稼ぐ、ということに些か疑問を感じます」
「犯罪者は怖い。だからこそエンターテイメントを織り交ぜ市民から恐怖心を取り除いているのだよ」

「貴方方はそのポイントとやらを獲得するために人助けをするのですか?」

「失礼しました。口が過ぎましたね」



・未知との遭遇

「おお……! これがパーソナルコンピューターなるものですか」
「そんなに珍しいですか?」
「はい。私の世界にはない物ですので」

 映像媒体に電伝虫を使っている世界観からすれば、この世界はさぞハイテクに満ちているだろう。




 今日も今日とてユーリさんに許可を頂いて司法局に登録してあるNEXTの情報を虱潰しに閲覧していた時だった。
 元の世界との唯一の繋がりである子電伝虫が電波を受信する。
 いつも持ち歩いている私専用の子電伝虫なのだが、なぜか青キジさんの子電伝虫とだけ繋がっているのだ。

「プルプルプルプル……ガチャ」

『……よう、俺だ。元気にしてるか?』
「はい、それなりに……そちらに戻る手掛かりは依然見つかりませんが。青キジさんもお変わりないようで何よりです」
『ああ、お前が元気そうで良かった。……俺の方もこれといった手掛かりは見つかってない』
「そうですか」
『まぁ……何だ、こんな時に言うのもアレだが、お前の辞表は俺が預かっておいた』
「ありがとうございます」

 私は頂上戦争が終わって早々こちらの世界に来てしまったから、海軍本部が今どうなっているのかは青キジさんに聞かされた位でしか把握していない。
 センゴクさんが元帥の席を退くと言うのを聞いて、私はいつ辞めても良いよう用意しておいた辞表のことを彼に伝えたのだ。

 センゴクさんは新しい元帥に青キジさんを推しているそうだが、上は赤犬さんを推すだろう。そして二人の間には確執がある。
 そうなってくると見えてくるのは二人の喧嘩だ。自然系能力者、しかも炎と氷の両人が喧嘩をするとなると島一つが犠牲になるくらいの規模になることは容易に想像がつく。
 二人が喧嘩するのは別に構わないが、その結果だけは気になる。どちらか勝った方が元帥になるのだから。
 青キジさんが元帥になれば私は大将になってでもついて行き、赤犬さんが元帥になれば彼は軍を辞めるだろう。
 青キジさんが海軍を辞めれば私も共に海軍を辞める。こちらの世界に来るずっとずっと前から決めていたこと。私は青キジさん以外の下で働く気は毛頭ないのだから。

『しかしまぁ、俺に預けて良かったのか?』
「愚問。私は貴方の下でしか働くつもりはありませんので」
『あらら。とんでもない奴に愛されたもんだ』
「そうですね、貴方への恩を返さないと死ぬに死ねません」

 この関係に恋愛感情は存在しないと分かっていての冗談だ。彼への忠義と彼からの信頼が我々を結んでいる。
 死んでも返せない恩がある。


『……そうだ、言い忘れてた』
「何です?」
『俺はこれから野暮用がある。しばらく連絡は取れなくなると思え』

 大方、件の喧嘩でもするつもりだろう。決着を付けるのには軽く見積もっても三、四か月はかかるはず。
 腹心の部下が大変な目に遭っていると言うのにこの上司ときたら、なんてぼやいても意味はないので心に留めておく。
 それにこの人が唐突で気まぐれなのはいつものことだ。私はただいつも通りの受け答えをするだけ。

「了解しました。くれぐれも無茶はしませんよう、気をつけて下さい」
『分ぁってるよ』
「あともう一つ。電伝虫は寒暖差に弱い生き物ですから、十分に気を配ってくださいね」
『本当、お前には敵わねぇよ』
「あと一つ。もし、貴方が海軍を辞めるようなことがあるならば、私の辞表を受理してからにして下さいね」
『……わーったよ』



・喧嘩後

『まぁ……何だ、こんな時に言うのも何だが、お前の辞表は受理しといた』
「……」
『本当に良かったのか?』
「貴方の居ない海軍に未練はありません」

 元々海軍の利己的な正義にはついて行けない所もあったし、丁度良かったのかもしれない。

『俺は晴れて自由になったわけだから、俺なりにお前を戻す方法を探すことにする。だから、まぁ、何だ。お前も頑張れ』
「はい」
『それから、これはお前の上司としての最後の言葉だ。まぁ、聞け。……お前はお前の正義を貫けよ』
「はいっ!」

 上司としての最後の言葉。これで私と青キジさんは上司と部下という関係ではなくなったけれど、私が彼について行くのは変わりない。




・そろそろ帰る

「君は……君も私の前からいなくなってしまうのかい?」

「違う。元々私はいなかったのよ」


「この世界に私という存在は元々無かった。いなくなるのではなく、元通りになるの」

「ここで貴方と過ごした日々、とても……そう、言葉では表し切れないほど素敵だったわ。ありがとう」


「さようなら」



・OP世界に戻ってきて青キジと会話

「あらら。恋する乙女みたいな顔しちゃって」

「私だって恋くらいします」




・没文章

 何とか、ブロンズステージのバーで住み込みとして雇って貰うことができた。渡りに船とはまさにこのこと。
 店主はどうやら昨日の一悶着を見ていたらしく、思いの外目立っていたコートを畳んでいたにも関わらずすぐに私だと分かったらしい。
 彼は気持ちの良い人間で、身寄りもなく素性も明かせない私を快く雇ってくれた。

「お、店員雇ったのかい?」
「綺麗な娘だろう?」
「ああ、えらい別嬪さんだ!」

 夜になりバーが開店すると店内はあっという間に客で満たされた。小さな店とはいえ今までこれを一人で捌いて来たのだと思うと感心する。
 こう見えても諜報活動は得意でありバーを選んだのも情報収集に役立つからという理由もある。
 バーは多様な職種の人間が集まりやすくが程よく酒が入るため情報も漏洩しやすいのだ。
 私も仕事と会話を両立しながらも、周りの会話を全て聞き漏らさない。情報参謀である私にしか出来ない芸当だと前におつるさんが言っていた。

 勤務初日にしてNEXTと呼ばれる異能力者の存在を聞いた。何でも一人ひとりの持つ能力は違うらしく風や電気を操る者も在れば身体能力を一時的に上昇させられる者もいるという。
 それだけ聞いていればまるで悪魔の実のよう。しかしNEXTは悪魔の実とは違いカナヅチにはならないみたいだ。

「相手と自分の居場所を交換する奴もいるんだぜ」
「電車に乗り遅れた時なんかはさぞかし便利だろうねぇ」
「ふふっ。乗り遅れないように気をつけて下さいね」

 愛想良く適当に相槌を打っていたら思わぬ情報を手に入れることが出来た。
 聞く限りその所在転換能力は空間移動系だろう。そうなれば次元や異空間を操る能力者がいても何らおかしくはない。
 まだ確証はないが、あちらの世界へ帰るための手掛かりになり得る。

「マスターいつもの」

 そう言って新たにカウンターに座った客は、ベストを着てハンチング帽を被った顎髭の男性。
 どこか聞き覚えのある声だと思ったが、今は自分の仕事に集中する。

「おー、久しぶりだなぁ」
「いやぁ最近職場が変わっちゃってよー、ちょっとごたごたしてたんだわ」

 店主はお喋りをしながら、手慣れた仕事で彼に焼酎をロックで差し出す。

「その年で周りの変化に付いていくのはさぞかし大変だろう?」
「大変も大変、新しい同僚が年下のくせに生意気でなんの……って、んん? マスター新人雇ったの?」
「ああ、正義感溢れる良い子だからな」
「もうマスター、照れちゃいます」

 なんて返事をしてみたが照れたりはしていない。ついでに挨拶でもしようと振り向く。

「初めまして、今日からこの店で働くことになりました。よろしくお願いします」
「おう、こっちこそ、よろし……あ! えっ、お、おま……!」

 私の顔を見たと思ったら彼はたれ気味の目を丸くし、お化けでも見たみたいに狼狽し始めた。
 今の私は当たり障りのない営業スマイルを浮かべているし、覇王色の覇気を持っている訳でもない。怖がられる理由がないのだ。
 それとも私の顔が珍しいのかとも考えたが、この街は多国籍化しており異邦人などさして珍しくもない。
 大体、他の客は普通に接してきたのに何故この人だけ反応が違うのだ。つまり私に非はない。

「どうしたぁ? この娘が綺麗すぎて固まっちまったかぁ?」

 冗談混じりに店主が笑うが、どこぞの海賊女帝じゃないんだからそんな訳はない。

 仮にも初対面の相手にする態度ではない。なんて失礼な人だ、と思っていても口に出さないのは彼が客であり私が店員という立場だから。
 これが同じ立場にあれば、私は間違いなく彼に説教をしていただろう。

 せめて、と小さく溜め息を吐き当たり障りのない、所謂営業スマイルを浮かべる。

「どうかしましたか? 私の顔に……」
「見つけたー!!」
「は?」

 店内に響くほどの大声と共に彼は私を指さした。
 間違っても彼と私は赤の他人であり知り合いではない。そもそもこちらの世界に知り合いなんて一人たりとも存在しないのだ。

「……貴方、先ほどから何なんですか。初対面の相手の顔を見て狼狽し、あまつさえ指を指して大声で叫ぶなんて、初対面の相手に対して失礼ですよ」
「確かに、今のは虎徹が悪い」

 あまりの不快感に思わず口を衝いて出てしまったが、意外にも店主は私の味方だった。
 それと同時にやはり元の世界とこちらの世界の一般マナーは大体同じである事がわかった。

 それから虎徹と呼ばれた彼は、眉尻を下げるなどをして申し訳なさを顔全体で表現した。

「いやぁビックリしちまってつい……確かに初対面の相手にする態度じゃなかったわ、ごめんな」
「いえ、分かって頂けたのならば構いません」

 それでは、と彼から離れようとした際、彼の手が私の腕を掴んだ。

「まだ何か?」
「あのよ、ちょっと会って欲しい人がいるんだけど、明日とか暇?」

 先程も述べたがこの世界に私の知り合いはいない。つまり私に会いたがっている人とは十中八九昨日の件に関係する者のみ。
 こちらのルールを知らなかったとは言え勝手に犯罪者を伸したのはやはり不味かったか。
 一応映像に顔は映らないようにしていたのに、店主といい目の前の彼といい何故にこうも簡単にバレるのか。

 後悔しても現状が変わらないのであればここはとりあえず素直に断ろう。

「……行きたくありません」
「何で!? 別に悪いことはしない」
「私はこの都市に知り合いはいません。よって私は赤の他人と対面したくありません」
「そこをなんとか!!」



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