【僕と私の64bit戦争】(吹雪士郎/inzm×SW原作沿い/佳主馬姉主)
佳主馬の姉と吹雪くん
書きたいとこだけ書いて満足しちゃったので敢え無く打ち切り。モチベが上がれば完結させるかも。
・夢主と吹雪士郎は付き合っている
・二人は今高校生
・この小説内での「吹雪」は全て吹雪士郎
池沢名前(ハンドルネーム:ナマエ)
佳主馬の姉でOZのプログラム開発チームに所属している高校2年生。サッカー部マネージャー。
小さい頃からプログラミングが好きでいつの間にやら中高と世界大会で優勝している。その経緯からOZのプログラムチームへスカウトされ、現在に至る。
スポンサーが3社ほど着いているがOZ自体がプログラマーとしてのナマエを支援している。
幼い頃よりサッカーをしておりエイリア事件の際にイナズマキャラバンに乗り吹雪と出会い、ちょっとずつ良い感じになりエイリア事件が解決した際に晴れてお付き合いを始める。FFIではマネージャーとして参加。
高校は北海道の高校に進学し今は一人暮らし。
本アカウントはOZ内の様々な権限を持っているため普段はサブアカウントを使用している。いずれもアバターとハンドルネームに変わりはなし。OZ内でのアバターは猫耳の何か。
吹雪士郎
白恋サッカー部のキャプテンをしている高校2年生。
エイリア事件の際に名前と出会い彼女に精神的に支えられいつの間にか惚れ、最終的に相思相愛に。
名前の両親公認の仲で、栄との面識もあり毎年誕生会と年末年始には陣内本家にお呼ばれしている。
OZ内ではサッカーユニフォームとマフラーを着用したアバター「シロウ」を操る。それ以外の指定は特にないのでご想像にお任せします。
池沢佳主馬
名前の弟でOZ内の格闘ゲームのチャンピオンの中学1年生。シスコンと思春期を患っており恋人である吹雪が気に食わない様子。
プロローグ
オズワールドサッカースタジアム、通称OCS。その名の通りネット上でサッカーを楽しむことができるコンテンツだ。
国内外の様々な人たちとその場限りのチームを組むも良し仲の良い者同士でチームを組むも良しチームで練習するも良しという三拍子がそろっている。もちろん観戦も自由にできる。
イナズマジャパンがおこしたサッカーブーム真っ只中の現在では利用者数はOZ人口の半分以上と言っても過言ではないと思う。もちろん僕もその一人で遠く離れたイナズマジャパンのメンバーなどともチームを組んで試合をしたりしている。
このゲームは入るとまずプレイか観戦かを選んで観戦の場合はそのままスタジアム選択、僕はプレイを選んでチーム選択画面へ行く。沢山のチーム募集の中から目的のチーム名を見付けてあらかじめ教えてもらった合い言葉を入れる。
「サッカーやろうぜ、と」
なんとも円堂くんらしいパスワードに笑みをこぼしているとぴろりんと軽快な音と共に認証が完了しチームに入ることが出来た。
中には見知った顔しかいないので久しぶりだねとボイスチャットを飛ばす。
『吹雪久しぶりだな!』
『円堂、つい三日前にもやったばかりだろ』
『そうだったっけ? とにかく楽しみだよ!』
『あれそう言えば名前はいないのか?』
名前というのは僕の恋人で、イナズマキャラバンでは選手としてイナズマジャパンではマネージャーとして僕たちを支えてくれた女の子。
今日の試合に名前を誘ったのだがOMCのメンテナンスをしなくてはいけないらしくキャンセルされてしまった。用事があるのだと伝えると残念だけど名前の分まで楽しもうとみんなで腕を上げる。
今日対戦するのは鬼道くんたちのチームだ。イナズマジャパンやキャラバンのメンバーがみんな集まったら余裕で試合が出来た。
このゲームの凄いところは現実での必殺技を使うことができるという、僕たちにとっては本物の試合のように楽しむことができる。
試合は白熱しており最初は少なかった観客も試合が終わる頃には客席が殆ど埋まっていた。どうやら必殺技や戦術で僕らが元日本代表だとばれてしまっているようだ。
試合は僕たちのチームの勝利だった。これで名前がいたらもっと満たされたんだろうなと考えたが僕の考えを遮るように試合の申し込みがきた。
『チームライモン、試合をしましょ!』
サッカーのユニフォームにギンガムチェックのスカート。そして猫耳の付いた愛しいアバターが他のアバターを率いてピッチに現れた。
『ナマエ! 用事はもういいの?』
『あー、うん。たぶん』
さすがに公の場で本名は叫べない。先ほどのようなチームロッカールーム内ではないのでハンドルネームで名前を呼ぶ。
この反応からしてメンテナンスは途中で放り投げて他の人に任せてきたって感じだ。
ナマエの後ろにいたのは僕たちが世界大会で戦った選手たちだった。一之瀬くんや土門くん、それに韓国代表だったアフロディくんもいる。
円堂くんはイタリア代表だった人たちと少しチャットをしてから試合をしようと張り切っている。その様子を見ていた観客たちが湧き上がり、審判のホイッスルが高らかに響いた。
1bit
今年も栄お婆ちゃんの誕生日が近づいてきた。
親戚みんなが参加するこの一大イベントには当然私も参加するわけで。
8月1日は丁度夏休み真っ最中ということで士郎と一緒に名古屋の実家に行き数日過ごした後にそのまま母さんたちと本家に行く、それで直接北海道に帰ってくるというのが私の夏休みの過ごし方だ。
もちろんサッカー部の活動もあるがそれは前半だけで後半に入ったらあんまり活動はない。士郎も毎年私の実家にきてくれるのだが毎回家族水入らずに入るのは悪いと渋る。
父さんも母さんももう士郎のことは家族同然に思っているのだから遠慮なんてしなくて良いのに。大体出会って間もない頃はあんなに猛アタックしてきたり家ではべたべた甘えてくるくせに。
だけどそんな士郎も行く前は渋るくせに準備は完璧なのよね。心の底から楽しみで仕方がないといったご様子、飛行機の中でも子供みたいにはしゃいでるし。
そんな子供みたいな士郎が見れるのは私の特権なのだと考えると自然と笑みが零れた。昨日はOZの新しいコンテンツを考えていてあまり寝ていないので一眠りしようかな。
私の実家に着けば最後に見たときよりもお腹が随分と大きくなった母さんと佳住馬が出迎えてくれた、父さんは仕事らしい。
「あーっと、母さん無理しないでいいから!」
「吹雪さん、その、姉さんとは、一線は……?」
一線というのは十中八九夜の営みのことだろう。中学1年生という点では結構ませているのかもしれない。
正直に言ってしまえばもうとっくに越えてしまっているのだがそれを言ったところで佳住馬くんが不機嫌になることは目に見えている。
「佳住馬くんがお義兄さんって呼んでくれたら教えてあげてもいいよ」
にっこりと微笑めば佳住馬くんはあからさまに不機嫌になった。それもそうだね、今の答えだと一線越えましたと言っているようなものだし。
豪炎寺くんや鬼道くんほどでもないけど佳住馬くんのシスコンも大変だなあ、
「サッカーの必殺技をOMCで使いたいって意見が結構あったみたいで、だから作ってみたの」
まだ試作段階だから不備だらけだと思うけど、そう付け足して部屋のプログラムを書き換える。
2bit
「それで聖美さんの長女の名前と、その恋人の吹雪士郎くん」
「よろしくね、夏希のお婿さん」
「名前とは結婚を前提にお付き合いしています」
「ふ、吹雪士郎!?」
「やっぱり健二くんも知ってるわよね!」
吹雪士郎といえば宇宙人事件解決に世界大会日本代表などサッカーにおいてその名を知らないほどの有名人だ。サッカーセンスが抜群なのはもちろん、加えて誰もが認めるイケメン。
そんな有名人の恋人だなんてさすが先輩の親戚、と思ったが池沢名前という名前にも覚えがあった。確かプログラミングの大会の高校生部門で優勝した人だ。
今期から大会不参加を表意したとネットニュースに出ていて佐久間が騒いでいたのを思い出した。あの時見せられたネット検索の画像でも思ったが凄く綺麗な人だ。美男美女とはまさにこのことなのだろう。
もう寝てしまおう。ログアウトしようとタブレットを動かした刹那短く軽快な音が室内に響き新着メールを知らせた。
「『Correct me』……?」
眠気眼でメールを開いてみればびっしりと英数字が羅列されていてそれが何かのプログラムであると気づいた。しかしスペルミスやループ処理ミスなどが随所に見られる。メールの題名からしてコレを修正しろということだろう。
下っ端とはいえOZのプログラムチームに属している私にとってこんなものは朝飯前。半分しか開いていなかった目は少しずつ開いていき寝ようと思っていた頭はフル回転で修正箇所を見つけては指を動かす。PGの悲しい性だ。
寝ようと思っていた頭はフル回転し、実に二時間半ほどかけて全ての修正箇所を完璧に直してから送り主に送信した。
どこかで見たようなプログラムだとは思ったが今はそれどころではない。すごく眠い。すぐにログアウトしてノートパソコンを閉じて寝た。
隣で眠る士郎に小さくおやすみと呟いて。
夜更かしをしてしまった私が起きたのはいつもより一時間ほど遅くだった。重い瞼を微かに上げればぼやける視界に愛しい人がいる。
「……士郎?」
「うん、僕だよ。おはよう」
「おはよー」
起き抜けにキスをされてぼんやりしていた頭が段々とはっきりしてきた。上半身を無理やり起こして欠伸と伸びを一つずつ。
母さんか誰かに言われて私を起こしにきたのだろう。でも何で起こさなかったのだろうか尋ねてみれば私の寝顔が可愛いとかなんとかでつい見入ってしまったらしい。ちょっと照れる。
布団の上から馬乗りになった士郎に頬を包まれ再び唇が重なる。
私が所属しているOZのプログラム開発チームから本アカウントに凄い数の着信履歴とメールが入っていて、メールを開けば目が回りそうな情報が書かれていた。
昨夜にOZのセキュリティの入り口の鍵である2056桁の暗号が大量に流出し何人かが解いてしまったらしい。そしてその流出した犯人がラブマシーンというAI。
コンピューターで記憶・推論・判断・学習など人間の知的機能を代行出来るモデル化されたソフトウェア・システムのことでいわばパソコンの中で生きている人間のようなもの。邪念があれば凶悪な犯罪だってできる。
というより現在進行形で起こっているのでたちが悪いのは目に見えている。
また、昨夜のメールを返信した人のアカウントがラブマシーンに奪われて使用不可能な状態であることもわかった。
昨夜のメールという点において私にも心当たりがあった。パソコンを立ち上げ昨夜に返信したメールを確認してみる。冷や汗が止まらない。
携帯のメールの続きを読む。昨夜暗号の他にもとある書きかけのプログラムがメールで送られそれを誰かが修正し返信したことによりOZのフィールドプログラムが書き換えられているとのこと。
今私は切腹したい気分だ、そのプログラムの修正をしてしまったのは私です、ごめんなさい。しかも見事にサブアカウントを奪われてしまいました。
明らかに様子のおかしい私を心配してくれたのか士郎が私の肩を抱き顔をのぞき込んできた。私はのどの奥から声を振り絞った。
「士郎どうしよう、プログラム修正しちゃった、しぬ……」
「プログラムって、OZの?」
「うん……」
「うーん、過ぎたことは仕方ないよ。今はこの状況を打開することを優先させよう」
「うん」
優しく抱きしめてくれた士郎に元気をもらって気合いを入れ直す。士郎の言うとおり今はこの状況を打開せねば。
とりあえず我が開発チームの主任に電話を掛けてたっぷりと説教をもらう。電話なのに必要以上に頭を下げる私。
『何のプログラムかも考えずに……このプログラムバカ!』
「うぅ、すみません」
『ああんもう。あんた以外にもプログラムの手直ししちゃった奴何人かいるし、あたしはそいつらの特定で忙しいのよ』
「まじですか」
『兎に角、今は奴のせいで管理棟にも入れないのよ。管理棟に入れ次第復旧作業だからね!』
「はいぃっ!」
ぺこぺことひたすらに頭を下げていると主任は気になる言葉を言い出した。
『キングカズマもラブマシーンに負けちゃったし、OZはどうなっちゃうのよぉ……!』
OZの管理棟にも入れないのを健二くんが何とか暗号を解いてくれたおかげで入ることができた。私は真っ先に自分の担当箇所へ急ぐ、大多数のフィールドが書き換えられているのでそれを元通りに書き直す作業が始まった。
私もOZのシステム復旧をお手伝いして、半日ほどをかけてようやく公共機関や交通機関などは通常通りの運転が再開した。
しかしまだまだ復旧出来ていない重要な施設は山ほどあるのだ。これは徹夜かなと心の中で嘆くが、自業自得でもある。
3bit
作戦を聞いた私は早速準備に取り掛かった。ラブマシーンを誘い込むための罠用プログラムを即席で打ち込んでゆく。
「ばあちゃんが腐りそうだって時に、お子様はのんきにゲームですかぁー?」
栄お婆ちゃんが腐ってしまうのは避けなければいけないが、こちらだって世界を守るために戦っていたんだ。
今の戦いがどれだけ重要なことか、何も分かっていないくせにゲーム呼ばわりした翔太くんに私も少なからずイラついていたのは確かだ。
けれど、こういう状況だからこそ、誰か一人でも冷静になっていなければいけないのだ。
「……っ、お前のせいだ!」
「佳主馬やめなさい!」
「でも姉さん! こいつのせいで……!」
「翔太くんは何も知らないんだから、仕方ないよ」
「何なんだよ! 佳主馬には殴られるし夏希はバカだし、名前にはバカにされるしよぉ! 全部お前のせいだ!」
馬鹿にしたつもりは無いが翔太くんはそう捉えてしまったのなら、馬鹿なんじゃないかな。
「名前、佳主馬、ゲームの中でのことでしょ? そう、よね?」
みんなが絶望する中、名前の指だけは動いていた。静かな部屋にキーボードを叩く音が似つかわしくなく響いている。
僕は名前の額を伝う汗を拭って彼女を見守ることしか出来ない。
きっと少しでも勝算があったから名前はこうして手を動かしているのだろう。
エイリア学園と戦っていた時もFFIでマネージャーをしていた時も、いつだって名前はそうだった。ほんのわずかでも勝てると思ったら諦めなかった。
かたかたとキーを打つ手が、最後の仕上げと言わんばかりに軽快にエンターキーを押した。その音は僕たちの希望の光と変わるのだ。
「……どうした?」
「名前……?」
太助さんと翔太さんが声を掛けると、名前は画面に向けていた顔をみんなに向け、口を開く。
「奪われたアカウントを取り戻す手立てが出来たの」
いつの日かガルシルド邸のコンピュータから機密情報を抜き出した時に見たのと同じ、悪戯を思いついた子供のような笑みを浮べていた。あの時は仕返しに特製ウイルスを仕込んでいたのだから、名前は怒ると恐い。
「どういうこと?」
「ラブマシーンは遊ぶのが好きみたいだから、それを逆手に取るの!」
夏希の問いに答えると愛用のノートパソコンをくるりと回し、先ほど完成したばかりのプログラムをみんなに見せる。
とはいっても分からない人にはただ英語と記号の羅列にしか見えないだろう。
案の定士郎も夏希も叔母さんたちも分かっていない様子。OMCチャンピオンの佳和馬もプログラムにはてんでダメらしい。
その中で健二くんと侘助さんは画面を見て驚いていた。特に侘助さんは画面をスクロールさせては感心したように頷いている。
「急ごしらえにしては上出来じゃねえか」
「これでもOZプログラムチームの一員だからね!」
大きな手で頭を撫でられる。こういう事に慣れていないのか触り方がぎこちない。不器用だけど優しい手。
それが気に入らないのか士郎が侘助さんの手を除けるように間に入り込んできて、侘助さんは小さく笑う。
「フッ、子供だな」
「子供で結構です」
「……んで! 結局何の!?」
痺れを切らした理香叔母さんの怒鳴り声に肩が跳ねる。みんなで食事こそしているが今はのんびりしている場合ではなかったのだと思い出した。
後ろから士郎に抱きしめられながら私は全員に聞こえるように答える。
「カジノステージの仕様をちょっと変えたの」
「どういうこと?」
私が新しく組んだプログラムによりカジノステージで電子マネーやポイント同様にアカウントを賭け種にすることが可能となったのだ。
つまり、ラブマシーンとアカウントを賭けて戦えるように改造したのだ。後は奴に確実に勝てるもので勝負を挑めばいい。
キングカズマの挑戦状に乗ってきた事を考えれば奴はこの勝負に必ず乗ってくる。だからこその作戦。
これでアカウントを奪い返してしまえば後は丸腰の奴を捕まえ、解体してやるだけ。
私の説明を聞いてみんなが感嘆した。が、すぐに佳主馬から疑問の声が上がる。
「勝負って言ったって一体何で……?」
「私たちにはそれがあるじゃない」
そう言って健二くんの手中に収められた一組の花札を指差す。そう、栄お婆ちゃんに骨の髄まで叩き込まれた花札で世界を救うのだ。
代表はもちろん夏希。一族の中で栄お婆ちゃんの次に強い為これは満場一致で決まった。
4bit
「健二くんの言うとおり、僕たちはまだ負けてない」
「まだ名前が諦めてない、だから僕たちも諦めてはいけません」
「もっと有効な手段で」
「それについては私から説明する」
先ほどまで動かしていた手が、最後にエンターキーを押す。
解体作業が終わっていない侘助さんの横で名前はフィールドを書き換える作業に移った。
その間僕は自分と佳主馬くんのアバターを回復させる作業に入った。万助さんたちがかき集めた回復薬を有難く使わせて貰いぼろぼろの身体を直してゆく。
OMCの経験がなかったのにキングカズマを助けようと出しゃばったからかダメージはかなり大きい。
OCSとは勝手が違うから上手く力が出せなかったと言えば言い訳だけど、体が勝手に動いていたのだ。このフィールドでは僕は足手まといにしかならない。
「士郎さん、さっきはありがとう」
「全然役に立てなかったけど、そう言ってもらえると嬉しいよ」
「そんなことない。助かった」
うーん、これは佳和馬くんとの距離が縮まったと考えても良いのかな。お義兄ちゃんは嬉しいよ。
5bit
私や士郎にとってそのアバターはよく見知った人物だった。サッカーブームの火付け役で幾度もの絶望を希望に塗り替えてきた、円堂守その人だ。
いつ自分のアカウントも奪われてもおかしくないこの状況で臆することなく現れた彼らしい行動に、追い込まれていたはずの私の心には不思議と余裕が生まれる。
隣を見れば先ほどまで強張っていた士郎の表情もどこか柔らかく、円堂守という人物の偉大さを改めて思い知った。
『俺のアカウントを使ってくれ!』
「円堂くん……!」
円堂くんの言葉にこの場にいたみんなの表情が明るくなった。そうだった、彼は他人のために何かする時にデメリットなんて考えない。常に前向きなんだった。
円堂くんに触発され日本の選手のみならずフィディオやマーク、それにロニージョなど彼に関わった選手たちが自らのアカウントを夏希に預けていく。
それに触発された世界中の人たちが次々にアカウントを預け始めた。
『私たちの家族を守ってください。』
彼らの思いと共に預けられたアカウントたちは夏希だけではなく私たち家族を強くした。私たちはこんなにも沢山の人に支えられているのだ。
様子を見守っているとOZの守り神であるジョンとヨーコからナツキへ何かが送られる。眩しいくらいの光と共に夏希のアバターが着替えたのはレアアイテムである吉祥の着物とアクセサリー。
ラブマシーンの持っているアカウント数を余裕で超えてから、こいこい勝負は再開した。
6bit
「士郎、佳住馬っ、フィールドを書き換えたわ、OCM!」
私の言葉に反応した二人のアバターが同時に動き出す。
OCMの存在を知っているのは私たち三人しかいないのでラブマシーンもただのOCMフィールドと勘違いしているのかそのままカズマに殴りかかろうと動く。
『スノーエンジェル!』
ラブマシーンが動く前にシロウが奴の両足を氷で固めて動きを封じる。
サッカーフィールドではないのに必殺技が出たものだからラブマシーンも理解できなかったのだろう動きが数秒止まった。
その隙をねらって侘助くんが最後の仕上げを施した。
「奴の防御力を無くした! お前らならやれる!」
「おらああっ!」
「エターナル、ブリザードッ!」
カズマの回し蹴りが顔面に、シロウのエターナルブリザードが後頭部に決まる。ボールはもちろん奴の頭。
頭を前後から蹴られたラブマシーンは倒れ、我々の勝利が確定した。
と思われた。
「カウントダウンがとまらない!?」
「うそ……、そんなことって……!」
「名前何があった!?」
「人工衛星あらましがここに向かって落ちてきてる! ラブマシーンが落としたの!!」
「!?」
この情報が確かならばここにいては危ない。ラブマシーンの野郎は勝負に負けたけれど諦めてはいなかったみたいだ。
管理者権限であらましの軌道を確認すれば、座標は私たちのいるこの場所。ラブマシーンはこいこいの最中に私たちの居場所をGPS探知してあらましの落下地点をここに設定したのだ。
「あらましがここに落ちてくる!」
しかも任意コース変更は不可能な区域まで到達している。
「管理棟にログが残ってるなら嘘の情報を上書きして軌道をずらすことは!?」
「! その方法ならできるかもしれない!」
「ここは私に任せて! 士郎と健二くんはみんなを手伝って!」
「僕は名前と一緒にいる。どんなことがあっても」
「士郎……」
「ラブコメはいいからさっさとやれ!」
侘助さんの声で現実に戻される。一応手は動かしていたのでギリギリセーフでしょ。ログを見つけ出しそれを元に誤情報を上書きしようとしたときだった。
そこに現れたのはパスワード認証画面とそのパスワードとなる暗号である数字の羅列。生憎私はそこまで数学に長けていないのでこれを解くのには時間がかかる。
認証画面の後ろで笑うラブマシーンが憎くて堪らない。残された時間も少ない。もうここで終わりなのかと諦めかけた時だった。
「僕がやります!」
その声に反応して横を向けば健二くんがレポート用紙とペンを取り出して計算を始めていた。ペンの走る速度が尋常じゃない。
さすが数学オリンピックの日本代表、になり損ねた人だと感心している内に暗号を解き終えパスワードを入力する健二くん。
パスワードが認証され情報を書き換えようとするもすぐに鍵をかけられ新しいパスワードに書き換えられる。当然暗号も違う数列。
ついには健二くんの手からペンが落ちる。もうダメかと思われた次の瞬間、彼の手はキーボードに伸びていた。
「え、暗算……!?」
「邪魔すんなあああぁっ!」
「エターナル、ブリザードッ!」
「よろしくお願いしまあぁすっ!」
「いっけえぇっ!」
佳住馬、士郎、健二くん、私、それぞれの声が重なる。まるでスローモーションのように感じられた瞬間だった。
健二くんがパスワードを入力しエンターキーを押すのと同時に私はあらましの軌道に誤情報を上書きする。どうか上手くいって。
エピローグ
「ほんとに結婚しちゃえばぁ?」
「まずは付き合ってからでしょ」
「大好きです!」
ちゅーしろちゅーしろという大人たちの茶化しに対して夏希は少し照れながらも瞳を閉じて唇を健二くんに向けた。赤い顔をした健二くんの頬にキスをひとつ。あ、鼻血出した。
「ひゅーひゅー!」
「健二くんも大変だねぇ」
「ほーら。名前と士郎くんも!」
「えっ!?」
「おー! ちゅーしろ、ちゅー!」
さっきまで夏希たちを冷やかしていた伯父さんたちが矛先を私たちに向けてきたのでただただ驚くしかなかった。
それに釣られるように一族みんなに見られているんじゃないかってほどの視線を浴びて、一気に顔が熱くなる。
キスなんて普段からしているけどいざこうやって大衆の前でとなると恥ずかしくて溜まらない。健二くん冷やかしてごめんね。
里香伯母さんに肩を捕まれ士郎と向き合わされる。
何で栄お婆ちゃんの前でこんな羞恥プレイをしなければいけないのやら、目の前の士郎を見れば同じく頬が少し赤く照れている。
「士郎男を見せろ!」
「ちょっと僕はまだ認めてない!」
「ほらほら!」
「夏希たちはしたんだからさ!」
「顔真っ赤にしちゃって可愛い〜」
お願いだからみんなもう黙っててよ! なんて言っても聞かないのは百も承知だから言わないけど、冷やかされればされる程心臓が五月蝿くなる。
覚悟を決めた士郎がふぅ、と息を吐いた次の瞬間先程までの羞恥は消えいつもの格好いい士郎の顔に戻っていた。
右手は私の手を握り左手が頬に添えられる。それを合図に私は空いている手を士郎の胸に当て中学の頃より高い位置にある碧の瞳を見詰める。冷やかし達の声が一層大きくなる。
「名前、愛してるよ」
士郎の言葉に応えるように私はそっと目を閉じた。
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