【傍観少女じゃいられない】(MHA/傍観/大神要素有)

 ヒロアカの世界に転生トリップした上に前世で好きだったゲームの能力を身につけてしまっていたのでそれとなく傍観を決め込みたいのに何故か巻き込まれていく女の子のおなはし。
 オリジナルキャラ(主に敵)等が登場しますがレギュラー化はしない使い捨てキャラです。

 アマテラス大神の姿に成ることが出来る“個性”。当然、筆で空間に書き込み様々な事象を起こす“筆しらべ”も扱える。
 好きなものは映画、桜餅。映画の感想を書き留めるブログをやっている。
 学校では目立たないようウェリントンの伊達眼鏡に背中までの黒髪を低い位置で二つに結っている(所謂カントリースタイルツインテール)。

※筆しらべの一部の技を改変しています(例:“水飛”の人魚の泉に移動する→一度訪れた任意の水辺へ移動する、“桜花三”で移動するための桃コナハナを空中に円を書くことで生み出すことが出来る、など)。その都度説明を入れる予定。

 落ちは物間か轟を想定して書いてた。


傍観少女じゃいられない01

 私は映画が好きだ。ラブロマンスやドキュメント系に始まり果ては戦争物やファンタジーなど、ジャンルは問わず何でも観る。強いて苦手ジャンルを挙げるならばスプラッタホラーなどグロテスクな類だ。単純に見てるこっちが痛くなる。
 映画は良い。私に新しい世界を与えてくれ、月並みだが感動や笑いや恐怖といった当たり前の感情を当たり前に揺さぶってくれる。
 特に映画館で見る4DXは最高だ。恰もその場に私という存在がいるかのようで、しかし物語自体は私を無視して進んでいく。その何とも言えない疎外感が年甲斐もなく私の胸を高鳴らせる。

 私はゲームも好きだ。これは映画が好きである理由と指して変わりないが登場人物を操作できるという点では映画と大差ある。
 しかし私は主人公になりたいわけではないので基本的に操作キャラクターの名前変換が存在するゲームは全てデフォルト名でプレイし、感情移入するのは決まって主人公と共に行動しているが特に活躍のないようなキャラクターばかり。
 数あるゲームの中でも“大神”という古代日本的な世界を舞台とした日本神話やアイヌ神話などをモチーフにしたネイチャーアドベンチャーゲームが好きだった。
 和風なのにどこか宇宙的な要素を感じさせるその世界観に私はのめり込んでいた。 
 好きが向上し小学生の身分にも関わらず図書館で借りる本は古事記や日本書紀を中心とする所謂神話の類の書籍であったし、おやつは決まって桜餅で、部活動は必ず書道部に所属していた。

 これほど私の人生に影響を及ぼしたものは後にも先にも大神だけだと断言出来るくらい、本当に、大好きなゲームだっだ。
 “だった”と過去表現しているのは、私がもう二度と大神というゲームをプレイ出来ないからである。
 何故プレイ出来ないと断定するのか、それはこの世界には大神というゲームが存在していないからだ。
 何故存在しないのか、答えは簡単。ここは私の生きていた世界ではない。私は生まれ変わってしまったのだ。
 超常能力が“個性”として定着し、それを悪用する者と取り締まる正義の職業が存在する世界。たまたま立ち読みした週刊少年誌をきっかけに購読していた漫画。

 “僕のヒーローアカデミア”、通称ヒロアカと呼ばれるこの世界に、私は転生していた。


傍観少女じゃいられない02

 ヒーローアカデミアの世界に転生していたからといってヒーローを目指したり、登場人物らとお近づきになる気はさらさらない。
 先にも延べた通り私は物語の主人公になりたい訳じゃない。4DX映画のようにその世界に存在しているけれど決して物語の中心人物にはならない、いてもいなくても支障をきたさないエキストラで在りたいのだ。
 エキストラとなって物語の行く末をただただ傍観していたいだけ。だのに、この世界はそれを許してくれないようだ。

「キャーッ! 助けてーっ!!」

 ただの一般人が月に四度も事件に巻き込まれるはずが無い。それも極穏やかにかつ細やかな生活を送っているこの私がだ。
 これから映画館に入り浸ろうと銀行にお金を下ろしに来ただけなのに銀行強盗が押し入って来てあっという間に占拠されてしまったのである。流石にこんなことを今年に入ってから十数回も経験していれば慣れてくるもので、私は咄嗟にトイレへ隠れた。
 持っていたメモ帳に人質の状況や犯人の人数、その他判断できる範囲での“個性”や特徴などを書き込んでいると遠くから足音が近づいてきたので慌ててトイレの窓を開ける。大方犯人グループの一人がトイレに客が残っていないか確認しにきたのだろう。よくあるパターンだ。
 “個性”で大神の姿となり窓から外へ。人間では通れない小さな窓でも大神の姿ならばすんなりと通ることが出来た。
 鏡間を移動することが出来る筆しらべ“霧飛きりとび”でも良かったのだが、行き来可能なのは一度でも姿を映したことのある鏡が水溜り乃至湖か海、それも大きさに制約があるため状況的にこの方が手っ取り早い。
 それから銀行の表へ周り、駆け付けたヒーローらと警察関係者に近付き口に咥えていたメモを渡せば、私の役目は終わりだ。

「どっかから犬が紛れ込んで……!」
「この仔の飼い主さんいたら早急に引き取って下さい!」
「ちょっと待て、何か咥えてるぞ。このメモは……!」
「でかしたぞ! これで突入できる!」
「おいワンコ、このメモは君の飼い主が書いたのか?」
「となると飼い主は人質の一人か!」

 少しの間大人しくしていれば利口な犬だと思い込んでくれて掴まれることもない。後はどさくさに紛れて現場を離れてしまえばいい。あの状況ならば人質の中に飼い主が居ると思い込んでくれるのでこちらとしては好都合だ。
 早くしないと映画の時間に間に合わなくなってしまう。大神のスピードで走って走って走って、映画館が見えたところで人混みに紛れて人間の姿に戻る。見たかった映画の時間には間に合ったので胸をなでおろす。ようやく日常が戻った。


 次の日の朝刊には“お手柄犬は何処に!?”という見出しであの時の白い犬もとい大神の私を探している旨の記事が載っていたのだが、これっぽっちも興味が沸かなかった。私が主役の話など要らない。


傍観少女じゃいられない03

 父親の個性は自在に狼になれるという狼男そのもので。こちらも特にヒーローに対する憧れはなく、元々の夢であった宮大工を生業としており、故に神話の類にも造詣が深い。
 母親の個性は半紙に書いた漢字一文字を現実とするものだ。例えば半紙に炎と書けば半紙は忽ち燃え上がり、雷と書けば半紙から稲妻が走る。しかし威力、持続力ともにいまいちらしく、特訓次第で伸びるのかもしれないが本人の穏やかな性格はヒーローと敵の両方とも向いていなかったようだ。普通のOLを経て現在は自宅の一部を利用して書道教室を開いている。
 私はこの人たちの娘として生まれ変わったことを誇りに思っている。だからこそ雄英高校を受験した理由の一つが最強とも言える学歴を得るべくであった。

 両親は私の個性を自分たちから受け継いだ“狼化”と“筆技”との複合個性だと思っているようだが正しくは、これは“アマテラス大神”という一つの“個性”だ。
 断言出来る理由の一つ、私の大神姿にはゲームで常に見ていたアマテラス大神と同一の朱色の隈取が存在しているけれど父のそれには一切無い。
 その二、私の筆の個性は母の“筆技”ではなく“筆しらべ”そのものである。半紙にではなく宙に筆で墨を塗り様々な事象を起こし、その事象の内容はゲームに存在していた十三の技、ほぼそのものであった。
 それに気を良くし試しにそれっぽい鏡や勾玉や剣を買ってみたが武器として装備は出来なかった。けれども、この個性は“アマテラス大神”そのものなのだ。

 そもそもアマテラス大神の容姿とその能力はあのゲームをプレイしたことのある人間にしか分からない。そして先にも述べたがこの世界に大神というゲームは存在しない。
 故に筆しらべは母の個性の延長に見えなくもないし、隈取は霊力のある人間にしか見えないので一般人にはただの白い狼にしか見えない故に勘違いしてしまうのも仕方ないことなのだ。
 しかしながら個性名は役所で勝手に変えさせてもらった。こればかりは譲れない。拘りは強い方だ。

 とまぁこの世界における私の“個性”について話した所で、今回もまた事件に巻き込まれ、しかも筆しらべという技を使わざるを得ない状況に陥ったのだ。



 同じく赤い隈取の大神が目の前にいる。
 完全に失念していた、個性を“コピーする”個性が存在することを忘れていた。いや、忘れてはいないのだがまさかこのタイミングでその人物に会ってしまうなんて、奇跡にも近い確率の偶然。とことん運が悪い。

「オワフ!(なんかごめん!)」

 同じ大神同士ならば伝わっているだろう。何が起きたのか分かっていない彼に向かって短く謝罪し、その場を走り去る。
 逃げながら願うのは彼の大神化が解けるまで保健所に連れて行かれないことだけだ。本当に申し訳ない、物間寧人君。


傍観少女じゃいられない04

 国立雄英高校の受験日当日、三百人を有に超える人数の受験生が講堂でヒーロー科実技試験の説明を受けていた。勿論私もエキストラとしてその他大勢に溶け込んで説明役であるプレゼント・マイクの言葉を聞いている。

「今日は俺のライヴにようこそー! エヴィバディセイヘイ!!」

 夢ある若人の人生が決まる大切な一日である。ぴりぴりとした雰囲気の中彼に言葉を返す人物は一人としていない。

「こいつぁシヴィー! 受験生のリスナー! 実技試験の概要をサクッとプレゼンするぜ!」

 手元の用紙に視線を落とす。実技試験は十分間の模擬市街演習となっており、漫画で読んだ通りそれぞれポイントが割り振られた三種類の“仮想敵”をどれだけ多く行動不能にするかというもの。
 しかし用紙にはもう一種類の仮想敵が記載されており、その点について主要人物の一人である飯田少年が模範的な挙手の後に質問し、ついでに挙動不審な緑谷少年に注意する。
 そういう場面を見るとやはりここが私が前世での購読していた漫画の中のなのだと再認識させられる。

 プレゼント・マイクにより四種目の仮想敵はゼロポイントのお邪魔虫のようなギミックであることを補足される。まぁこの討伐ポイントとは別に他の受験者を助けることで獲得出来る救済ポイントなるものも存在するが、私以外の受験生でそれを知っているのは数えるくらいだろう。

「俺からは以上だ! 最後にリスナーへ我が校“校訓”をプレゼントしよう……かの英雄ナポレオン=ボナパルトは言った! 「真の英雄とは人生の不幸を乗り越えていく者」と!!』

 《プレゼント・マイク》は両手を広げ、今までの少々おちゃらけた雰囲気ではなく真剣な顔つきで言い放った。

「”Plus Ultra更に向こうへ”! それでは皆、良い受難を!!」

 受験生たちは各々の試験会場へと赴いていく。実技入試はポイント制で会場内にいるポイントが割り振られた数種類の仮想敵ロボットをどれだけ倒せるかというフィジカル系“個性”が優位な内容である。一応他の受験生を助けたりした際にレスキューポイントが加算される仕組みになってはいるが公表されていないのでこの試験自体を諦めている受験生は多く見受けられる。
 頭脳系や補助系、回復系などヒーローに成れば活躍間違い無しの“個性”までが埋もれていくこの試験内容は、後に主人公の担任となる人間の言葉を借りるならまさに“非合理”だ。しかし私はことの顛末をただ“眺める”だけ。

 唐突で勢いの無いスタートの合図に一拍遅れて会場に入っていく受験生に紛れて私も会場に入る。が、仮想敵など倒す気は更々ない。まず探すのは手頃な高層ビルだ。
 壁に墨の道を書くことでそこに張り付き歩くことが出来る“壁足かべたり”を使い、この試験会場で一番見晴らしの良さそうな高層ビルの屋上から受験生達の様子を伺うことにした。
 目算通りこのビルの屋上からでは建物の影になってしまう所を除き会場を一望出来るベストポジションであった。

「ポップコーンとコーラがあれば最高だったね」

 そして時折、受験生の上に落ちてゆく瓦礫に向かって筆を真横に引いて宙に一本の線を引いて、遠く離れた先の瓦礫を一刀両断する。全ての物を切り裂く力を持つ筆しらべ、“一閃いっせん”である。
 ヒーローに成るつもりはさらさらないが他人を見殺しにするほど性根は腐っていないのでね、目の届く範囲くらいは人助けをするさ。
 まぁこうも距離が開いているならば誰も私の“個性”だとは思うまいが、念のためレスキューポイントのことを視野に入れて、助けるべき人間は見極めているつもりだ。
 第一志望はあくまで普通科であり、ヒーロー科の一般入試を受けたのは記念受験でもなければ本命受験でもない、本当にただの“見学”が目的なのだ。この物語の主人公が敬愛する師から受け継いだ“個性”の初お披露目の瞬間をこの目で見るための。



 出来ることならばもっと間近で見たかったのだが余り近づくと彼らと接触する恐れがある。
 ヒロインを庇い今朝方師匠から受け継いだ能力を使って巨大仮想敵をぶっ壊す様はまさに圧巻。有名映画のワンシーンにも匹敵する迫力がある。

 さて試験も終わったことだし、帰って昨日借りた映画でも観ようかな。


傍観少女じゃいられない05

 早起きし入念に準備を整え朝から夕まで映画館に入り浸って出来るだけ多くの本数観るのが前世から変わりない私の休日である。少し前までは社会人であったので気に入った作品は二度三度繰り返し観ていたが今は学生の身、金銭的な問題で一度に留めざるを得えず、
勿論気に入った作品のパンフレットには金銭は惜しまない。

 本当はレイトショーまでいたいのだが高校生になるまで我慢だ。ま、高校生でも駄目だけどね。


 自由登校日であるその日も朝から夕まで映画館に入り浸ってから帰宅すると私宛の郵便物が届いていたと母から手渡されたのは硬い何かによって膨らみが出来ている洋ニダイヤ封筒だった。
 ようやく来たかと料金後納のそれの差出人を見やればやはり雄英高校からで。合否通知が入っているそれに、私よりも母の方がそわそわと落ち着きがない。

 自室に戻り封筒を開ければ中から短い円柱状の機械が出てきて、ホログラムが再生される。普通科の合格通知か、それもとヒーロー科の不合格通知なのか、はたまたその両方なのか雄英高校はさすが国立というだけあって金をかけている。


『ヒーロー科、合格おめでとう!』

「……は?」

 今の私は相当不愉快な顔をしている筈だ。現に不愉快極まりない状況にいるのだから、例えナンバーワンヒーローに合格通達をされたとてそれは私の通いたい学科ではないのだ。

 実技に置いてのポイントも入念に計算していたし、何ならヒーロー科の筆記試験はほぼ白紙で提出したのだから合格する筈がないのだ。なのに、何故。

『何かと忙しい彼の代わりにボクが説明するよ!』

 そう言ってオールマイトと入れ替わるようにして映ったのは確か雄英高校の校長である鼠、名前はとうの昔に忘れた。

 鼠曰く、雄英高校には設立当初より実績制推薦入試制度が存在し日常生活における事件解決貢献実績に応じて先生方が入学を認めるのだという。
 そんな制度見たことも聞いたことない、ということは私というイレギュラーな存在がいることによる不具合が生じているようだ。
 そしてやはりと言うべきか、この世界はとことん私を傍観者では居させてくれないらしい。

 そもそも日常生活での事件においても私はほぼ常に大神の姿で対応していたし大したことはしていない。あの犬が私であるという痕跡を僅かにも残していないので確証などどこにも存在しないはずだ。

『これまでの事件と今回の試験で見た君の“個性”を照らし合わせたら自ずと答えは出たってわけさ』

 超常社会において“個性”は非常に身近なものであり犯罪に利用するケースが殆どなのだから個性届から特定の個性を割り出すのなんて警察機関ならば日常的に行って当然のこと。加えて、現場に現れる犬を個性だと仮定してしまえばその人物の特定なんてあっという間という訳か。
 雄英の情報力を侮っていた私の敗北だった。

『それからヒーロー科合格の辞退を申し出るつもりなら無駄だよ。こちらの独断で君の普通科志願を取り下げたからヒーロー科に通う他ないって訳さ!』
「は?」

 この鼠はどこまで私を困らせれば気が済むというのだ。

 ヒーロー科に通うしか道がなくなってしまった私は大神なのに窮鼠となってしまっていた。寧ろ鼠は校長の方なのに。
 しかしこれはヒーロー科というより身近な場所からの傍観が可能となった、そう捉えれば悪くないように思える。そう思いたい。そうだったら良いのに。



『君の対応力はヒーローに相応しいから是非とも我が校に通って欲しい。それじゃあ、詳しくは後日郵送される入学資料を読んでね。』

 それだけ言うと映像は速やかに消え、いつもの部屋の風景に戻る。

 とりあえず溜め息基深呼吸をして平静を取り戻し、上映の合間に書き溜めた感想をきちんと纏めてブログにアップする作業に取り掛かろう。
 ここで取り乱してはこの世界の思う壺だ。


 なる丈目立たない格好を心掛けた結果ウェリントンの伊達眼鏡に背中までの黒髪を低い位置でツインテールもといおさげにするという有りがちな地味な女の子が出来上がった。やり過ぎにならぬよう三つ編みにしていない所がポイントだ。流石に眼鏡と三つ編みおさげの組み合わせはこの時代では少し古い。

 この世界の交通機関はかなり発展しており、ここ神奈川から雄英高校までは電車で一時間もかからない。
 両親と話し合った結果一人暮らしをするより電車通学をする方が経済的だということとなり当面は電車で通う運びとなった。その実私に一人暮らしをさせると寝る間も惜しんで映画鑑賞に励み廃人になる恐れがあると言われたのだ。失敬な、いくら私でもそこまでではない、多分。


傍観少女じゃいられない06

・初めてのヒーロー基礎学

 彼と同じチームになれたのは僥倖だった。確か彼はこの訓練を一人の力で終わらせてしまう。



・ブログが人気になってた

 私は持ち前の映画好きが向上し、観た映画の感想を載せるだけのブログを運営している。人の感性は夫々であり、価値観を押し付ける目的ではなくあくまで素直な感想を載せているだけなのだが、これがネットで密かに人気を博しているらしい。
 らしい、と言うのもたまたまその噂を聞いたのは学校でクラスメイトの会話が偶然聞こえたからである。彼らの口から出たのは確かに私のブログのタイトルであり、そのタイトルで映画の感想を書いているブログは私のものしか存在しないのだから当然彼らの話題は私の映画感想ブログについてだった。
 どうやらテレビでとある映画通が私のブログについて触れていたらしく、
 私の部屋のテレビは映画を見るためだけにあるようなもので、ニュースは基本家から持参した新聞を通学時間に電車内で読む。加えてただ本当に思ったことを書き綴っただけの自己満足ブログに閲覧数などを気にしたことはなかった。


・林間合宿準備

 各系列の映画館毎に会員カードを持っており年会費こそ高いが、“毎回の割引”や“一定数鑑賞毎に一回無料”等の特典を考えると年間百本以上観ている私の場合この会員カードに助けられている部分が大きい。
 本当は毎日でも見に行きたいところではあるが、やはり学生の経済状況では難しい。前世の私は社会人であった故に給与の半分以上を映画に注ぎ込んでおり、そのお陰で好きな時に好きな映画が見られたものだ。しみじみ。

 教室内は林間学校の話題で盛り上がっている。

「ねーねー名字も一緒に買い物行かない?」
「その日は用事があるので、すみません」
「そっか。用事じゃしょうがないね」

 その日は話題の仏映画の封切りで、もう前売りも買ってあるし席も予約済みなのだ。芦戸さんには悪いが今の私はその映画のことで頭がいっぱいなのである。
 林間学校で必要な物を買いに行くのは映画の後に済ませるさ。



 率直な感想を言えばあまり面白くなかった。否、面白くなかったというのは語弊があったか。正確には“私の好みではなかった”だ。

 人の感性は夫々だ。その作品の前評判や多勢の評価と私自身の好みが必ずしも一致するということはあり得ないので、こういったことは多々あるのだ。
 勿論人気作品で私好みの物も沢山あるし、逆に評価が低いけれど私のお気に入りとなった作品だってある。だからこそ映画は面白いのだが。
 観てみなければその作品の善し悪しはわからない。だから、どんなジャンルのどんなものであっても食わず嫌いはせず極力一度は観るようにしている。

 私はあくまで“映画好き”であって“映画通”ではない。




 人間は忘れる生き物だ。前世の記憶を持って生まれた私とて例外ではなく幼い頃より常にそのことを肝に銘じて前世のことは覚えているうちに覚えている事柄全てをノートに書き起こし、ふと新たに思い出す度にメモを取るようにしている。
 それもこれもここが前世で読んでいた漫画の世界であり私というイレギュラーが在りながらも大まかな流れはその筋書き通りに進んでいてるが故に、物語への余計な干渉を避けるためだ。
 細かい部分までは思い出せないけれど要所を押さえていれば何が起きてもある程度は冷静に対処出来る、はずだ。
 とは言え、本来ならあり得ない“二十一人目のA組生徒”のように私というイレギュラーによる発生する原作外の事象は前知識が存在しないので避けようがなく、現に目の前にいる見覚えのない敵もまた私というイレギュラーによって生まれた存在なのだとしたら理解出来る。納得はいかないが。


 単行本を購読していたとは言え十数年も経てば記憶なんて曖昧になるに決まっている。




・USJ

 ちょうど都合よく防風ゾーンのドームの上に飛ばされていたらしく、ここは見晴らしも良くドームの中を除くほぼ全てのゾーンが見渡せる位置にあった。
 実技入試の時よろしくここでの傍観を決め込もうと


「ヒャッハー! 空はオレたちのゾーンだぜ!!」

 
「邪魔」

 躊躇なく“一閃”で敵全員の翼を切り裂いていく。この程度の相手ならば“霧隠”を使うまでもなく、敵は地表へと落ちてゆく。



「ウフフ。あたしはあんな男どもとは違って羽なんてないわよおチビちゃん」

 宙に浮いている女が一人。
 壮大な物語の中の取るに足らない、それも私が関わるサイドストーリーなんて興味ないし要らない。

「五月蝿い」

 火災ゾーンの炎から五月蝿い女に向かって線を引いて“紅蓮”を発動させれば、墨が炎に変わり女の体を包み込んだ。

「ギィアアアッ!!」

 女は耳障りな悲鳴を上げて先程の敵たちのように地表に落ちていった。近くに水辺もあるのだから死にはしないだろう。例え死んだとしても正当防衛だ。
 視線を広場に戻せばちょうど相澤先生が脳無に捕まろうとしているところで、盛り上がる場面を見逃さずに済んだことに私は胸を撫で下ろす。



・体育祭

 この競技で脱落するようしっかり後方を走っていたはずなのに、何故騎馬戦にも出場することになっているのだろうか。まぁ何れにせよチームを組まずに棄権すればいいだけのこと。

「ミッドナイト先生、私棄権します」
「あら名字さん。私を納得させる理由がなければ棄権は認められないわ」
「……」



・部屋王

 どうやら“部屋王決定戦”というものを行なっているらしく、私の部屋も見てみたいのだと言うクラスメイトたちに感嘆する。
 私の部屋は至ってシンプル、とは言い難いが一般的な映画好きの部屋と言えるだろう。

「スッゲー! 映画部屋!」
「本格的!」

 3D対応薄型テレビ、プロジェクター、5.1chスピーカーのホームシアターセットは愛用の物を実家から持ってきた。ベッドはこの寮の部屋には邪魔なので大きめのソファベッドを新たに購入した。
 それから私が今までに観た映画の中でも気に入った作品だけを厳選した実家の映画棚より、更に厳選を重ねて持ち込んだDVD/BDが収められている棚。映画のパンフレットも同様に収納されている。
 他に目ぼしい物といえばポップコーンメーカーと、コーラが常備されている小型冷蔵庫、あとは据置型ゲーム機器が一つだけ。あまりゲームはしないのだけれど、前世での“大神”のように特に気に入ってそれだけをやり込んでしまう凝り性的な部分があるので。ソフトはその一本しか持っていない。

「これ幻と言われてるやつじゃね!?」
「……今度観ます?」
「マジで!? サンキュー!」



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