【聲物語】(トキヤ落ち/暦贔屓/物語×utpr)
Attention
物語×utpr長編。一ノ瀬トキヤ落ちutprアニメ沿い。
バイトで地元ラジオのパーソナリティをしていた阿良々木の幼馴染みが早乙女にスカウトされてナレーター業を熟しなながら早乙女学園に通う話。
阿良々木への初恋を拗らせてる夢主と、夢主への初恋拗らせてる一ノ瀬と、何も知らせずに姿を消した幼馴染を探す阿良々木の、三角関係と怪異のぐちゃぐちゃな物語。
連載として書いていたのですがうたプリのアニメ未だにちゃんと観れておらずこのままフォルダの肥やしになるのもと思いとりあえず打ち切りとして掲載。
うたプリアニメ観たらちゃんと完結させたいです。ここに掲載している話は完結時には前後することもあります。
断片的な知識で描いているのでutprサイドのキャラの口調等捏造です。
「第1回おやすみラジオ」からはほぼ未完話が続きます。
▼作中のラジオについて
基本的にゲストのいない一人ラジオのため長々とした台詞のみになります。
ラジオ内で登場する曲とアーティスト名は実在のものを使用しておりますが中傷等の目的は一切ございません。
寧ろ好きな曲しか使っていないので気になった方はぜひ試聴してみてください。
▼メモ
・トキヤがナマエを知ったのはラジオが切っ掛け
・入院していた時に男の子と一緒にアメイジンググレイスを歌っている名前を見かける
・名前はラジオのプロデューサーが入院したと聞き見舞いに来ていた
・そのままトキヤも一緒にアメイジンググレイスを歌う
・歌っているうちの声で彼女がナマエであると確信し、ついに恋心を自覚する
・おはやっほーニュースの映像にナレーションを付ける仕事
・夢主が幼児化しちゃう話、記憶後退系なので暦連呼でutpr勢の誰にも懐かない(もしくはトキヤにしか懐かない)、結局トキヤが暦を呼んで案の定セクハラする、怪異に遭う前なので黒髪黒眼
トキヤメモリー 壹
001
ラジオ。放送局から電波を使って放送し、多数の聴取者に聞かせるもの。
地方ラジオ。特定の放送局から特定地域に向けて発信されるラジオ。
彼がその地方ラジオと出逢ったのは単なる偶然であった。
自身が演じる仮想アイドルの仕事が軌道に乗り始めた頃にその声を聞いた。
「明日は八時入りだから遅れないように」
「はい」
地方ロケの前乗りでとある田舎町のビジネスホテルに宿泊した夜。マネージャーとは別に用意された一室。
普段の自分とは違うキャラクターを演じることへの不安と緊張でなかなか寝付けず、気晴らしにとホテルに備え付けられたラジオのチャンネルを回していた時。ふと耳に入った声色。
「続いて、ラジオネーム『林檎を剥いて歩こう』さんからのお便り」
たまたま耳に入った地方ラジオ。
女性のパーソナリティが淡々とメッセージを読んで、それに対して何かを言い、たまに音楽を流す。
実にありがちな番組内容なのに耳を離せなかった。
「『ナマエさんこんばんは、いつも楽しく聞いています』ありがとうございます」
「『私は最近友達と文房具の使い道についての会話で盛り上がっています。例えばホッチキスなら相手の指や掌を挟むのに便利ですし、鉛筆やボールペンは装備しやすく直ぐに取り出せるので重宝します。友人はGペンがお気に入りです。Gペンはそのまま相手に刺すことも出来るしペン先を変えれば何回でも使えて経済的だという理由です。それを聞いて私も少し感心してしまいました。ナマエさんはどんな文房具が好きですか?』んー、そうですね、ホチキスを口に突っ込んで頬を挟む、というのはどうでしょう。あ、個人的に好きな文房具は付箋ですね。その場ですぐにメモできますし貼り付けたりも出来て便利ですよね。最近は種類も豊富ですから使ってて楽しいですよ」
お便りの内容は極めて物騒なのにパーソナリティの女性は何のこともないといった様子で淡々と返している。
その様子が少しおかしくて、強張っていた表情がいつの間にか笑っていた。
「そうそう、この前迷子の子供がいたから声を掛けたんですよ。そうしたら貴女が嫌いですって言われまして……ええ、初対面の子供にいきなり。まぁでも、あのくらいの年頃の子なら何でも否定したくなるものですよね。その後色々と構っていたら何かデレてくれたので全て許しました」
「といった世間話をしていたらお時間がきてしまいました。本日の無責任ラジオはこれでおしまい。みなさん、よい明日を」
番組のテーマソングが流れ、そのままCMへと移ったので彼はラジオを消す。
不安と緊張で眠れなかったはずなのに、すっかりといつもの落ち着きを取り戻していて。それどころかうとうとしている。
ここまで気持ち良く入眠できるのは久し振りだと、重たい瞼を押し上げることなく眠りについた。
次の日も不思議と緊張することなく、無事に仮想アイドルを演じきり結果として番組プロデューサーにも気に入られることに成功。
「あの人に気に入られるとは良くやった。この調子で次も頑張れよ」
「はい」
マネージャーが揚々と運転する車内。後部座席で生返事をする彼は流れゆく景色を眺めながら昨日のラジオの事を思い出していた。
彼が聞いたのはたったの十二分程度だったが、その柔らかく落ち着いた声色は彼を優しく包み込み、安心させる。
あのラジオの名前は確か。
「無責任ラジオ……」
「ん、何か言ったか?」
「いえ、何でもありません」
そのラジオとの出会いは単なる偶然であったが、彼、一ノ瀬トキヤにとってはそれが運命の出逢いとなることに未だ気付かない。
第95回無責任ラジオ
大抵の人間が寝る準備を終え、布団に入る二十三時半。ラジオから聞こえてくるは番組のテーマソングと、柔らかく優しい女性の声。
「みなさんこんばんは。今夜も始まりました“ナマエの無責任ラジオ”。番組パーソナリティのナマエです」
とある田舎町の深夜に流れる地方ラジオ。たった三十分の枠にも関わらずその番組は高い人気を誇る。
「では早速、本日一枚目のお便り……ラジオネーム『すぶりをするそぶり』さん。『この間、友達三人とトランプで大富豪をしていた時の話です。カードが配られたあとで、そのうちの一人が言い出しました。「あたしの中学校じゃ、4が一番強いカードだっていうルールだったんだけど」』……そういえば私の中学では同じマークで数字が並んだカードならまとめて出して良いってルールがありましたね」
お便りの内容の真意を分かっているのかいないのか、ナマエは淡々と返す。
「続いてのお便りはラジオネーム『匿名希望』さんから……。『私は元来物静かで真面目な性格なのですが職場ではチャラい、ノリが良い、テンションが高いといった真逆なイメージを持たれてしまい、仕方なくそのキャラを演じています。しかし最近それが辛くて仕方がありません。私はどうすれば良いのでしょうか』……そうですね、職場でのキャラを辞めてしまえば良いんじゃないでしょうか。ただでさえ仕事で疲れるのにやらなくてもいいキャラ作りで更にストレスを溜めるなんてバカげてますよ。それで職場に居辛くなったのなら転職しちゃえばいいことですし。そうして、案外転職先の方が合っている、なんてことよくある話ですよ」
「それに、その仕事は本当に貴方じゃなければいけないのですか? どんな仕事に就いているのか分からないけれど、この世で本当に必要な人材なんてほんの一握りで後はただの歯車に過ぎません。私だってそう、このラジオのパーソナリティを辞めても替えの人間はたくさんいるのです。私じゃなきゃ嫌だって言ってくれる人がいたとしても、数日、数ヶ月、数年経てば他の人でも違和感を感じなくなるもの。人間は慣れる生き物ですから」
「偽りの自分にしか出来ない仕事で辛い思いをし続けるか、本当の自分にしか出来ない仕事を見つけるために苦しむか、決めるのは匿名希望さんです」
「……ああでも、キャラ辞めるのも転職も全て自己責任でやって下さいね。これ無責任ラジオですし、責任は一切取りませんよ」
無責任ラジオはその名の通り番組側は一切責任を取らないというスタンスを貫いており、だからこそ彼女は思ったことをズバズバと言う。
そこがこの田舎町の若者にウケて密かに人気となっているのだ。
「ではここで一曲。ゲスの極み乙女で『私以外私じゃないの』」
「次のお便りはラジオネーム『しのぶ』さんから。『どーなつがすきじゃ』……とてつもなくシンプルかつ分かりやすいお葉書ありがとうございます。実を言うと私もドーナツが唯一にして最大の好物なんですよ。朝昼晩毎日ドーナツを食べたいくらいにはドーナツ好きを自負しております。休日は期間限定品を求めドーナツ屋を巡りを欠かさず行っています。ああ、あの一日二十個限定ドーナツをしのぶさんにも食べさせてあげたいです……!」
「……おっと、思わず熱弁してしまいました、すみません。ドーナツはカロリーが高いとか言って避ける人もいると思いますが人間、糖分がなければ生きていけませんからね、必要な糖分はドーナツで摂るといいてすよ。なんて言ってみたり……ではここで一曲、perfumeで『スイートドーナッツ』」
「それでは、ラジオネーム『HAYATO様大好きっ子』さん。『ナマエさんこんばんは。いつも楽しく聞いています』ありがとうございます」
「『早速なのですが、私はあるアイドルに憧れて現在作曲家を目指しています。そこで早乙女学園に通おうと考えているのですが倍率200倍で合格できるか不安です。何かアドバイスがあればお願いします』……HAYATO様大好きっ子さんの腕がどの程度の物か知らないので的確なことは言えないけれど作曲家で食べていきたいと思っているのなら無類の才能か並々ならぬ努力が必要なんですよ。でもそれと同等なくらい必要となるものがあります」
「それは運です。運のない人間は才能乃至努力の結果を見せる機会を失い、最終的に有象無象に埋もれてしまう。ほら、言うでしょう? “運も実力のうち”って。どの業界にもいるんですよね、そういう運の悪い人って。とにかくそういった意味で運の良さは重要になると思います。かくいう私は運の良い方でして、こうしてパーソナリティの仕事を頂けているのは運が良かったからだと思っております。三十分ただ喋ってお給料が頂けるなんて私は幸せです。ああでも、HAYATO様大好きっ子さんは運の良い方かもしれませんね。なにせ山のように届くお便りの中から採用されたのですから。貴女はきっと受かりますよ、自信を持って下さい」
「最後に一曲、HAYATOで『七色のコンパス』」
「そういえば、このHAYATO様って今大人気のアイドルでしたよね。私の住んでいる田舎町でも所謂HAYATO様人気は健在で、毎日のように周りの女子が騒いでいて煩いです。でも……私の記憶が正しければ確かHAYATOって仮想アイドルでしたよね。アイドル成らざるアイドル」
「あー、“かそう”と言ってもコスプレなどの仮装ではなくバーチャル、実際に無い物をある物として扱うという意味の仮想ですよ。音声だけでは全てを伝えるのは難しいですね。でもそこがラジオの面白味だと私は思います」
「……で、何の話でしたっけ。……ああ、HAYATOさんの話でしたね。私の記憶では彼は仮想アイドルとしてHAYATOを演じていただけだった気がするのですが……今ではすっかりHAYATOそのものが独り歩きしていますよね。いや、こと芸能に関しては私の記憶は宛にならないので間違った情報かもしれませんが」
「そんなことを話しているうちにお時間が来てしまったようです」
「本日の無責任ラジオもこれでおしまい。みなさん、良い明日を」
名前ライフ
002
名字名前。この物語のヒロインであり現役の女子校生。
計らずとも彼女の人生を変える切っ掛けとなるその人物と出会ったのは彼女がパーソナリティを務める深夜ラジオの収録を終えてすぐのこと。
予定通り夕刻に収録を終え、次のアルバイト先へ移動しようと地元ラジオ局を出たところをその人物に捕まる。
眼前に停まった派手な高級車はこの田舎町には似つかわしくなく、乗っている人物が都会から来ていることを物語る。
何故自分の前に停まったのか彼女が思案していると後部座席のドアが開いた。
出てきたのは派手なスーツにサングラスを掛けた、いかにも怪しい風貌の男。
「ハーイ! アナタがMs.ナマエですか?」
見た目通り胡散臭い口調で話しかけてくる男に名前は微かに眉を顰める。
ナマエ。地方ラジオ“無責任ラジオ”のパーソナリティの名前。
ナマエ。無責任ラジオで使用している名前の芸名。
何故この男がその名を知っているのか。そのラジオはこの田舎町とその周辺地域までしか電波が届かないはず。
彼女が問おうか迷っているまさにその時、男の口から全ての答えが返ってくた。
「私はシャイニング早乙女デース。今日はアナタをスカウトしに来ました」
シャイニング早乙女。その男は自らをそう名乗った。
シャイニング早乙女といえば一斉を風靡した伝説のアイドルではないか。芸能関係に疎い彼女でも彼の名は知っている。
ただしその切っ掛けは彼の往事に大ヒットし伝説と言われる所以となった曲を番組内で流したという、ただの偶然だが。
「ユーのラジオはベリーベリー人気デース」
「はあ……ありがとうございます」
「ユーはこんな地方ラジオで留まっていてはイケナイ人間なので我がシャイニング事務所に来てクダサーイ」
「……あの、とても嬉しいお誘いですがお断りします」
ラジオで聴かせているような淡々とした返しと、綺麗なお辞儀。
彼女の言葉に早乙女は元々サングラスでよく伺い知れないその表情を一瞬だけ驚きの色に変え、すぐに元の笑顔を貼りつけた。
「シャイニング事務所に所属するとなると上京しなければいけませんし、流石に高校三年になったばかりのこの時期に転校だなんて面倒くさい、ましてや中退するのは惜しいです」
「何だそんなコトデスカー。高認を取れば問題ナッシング! 今年の出願受付は来週デース」
「高認……」
高認。高等学校卒業程度認定試験。これに合格すれば高校に進学していなくても高卒と同等の効果を得られる、魔法の試験。
彼女にとって高等学校に通うことは自立への過程に過ぎず、高校生活に意味はない。高等学校卒業の証があれば、それでもいいのだ。
その手もあったかと顎に手を当てる彼女に、早乙女から更に押しの一言。
先ほどまでの胡散臭い口調ではなく、真面目な、早乙女本来の口調。
「お前の声には力がある」
妙にはっきりと言われた言葉。これほどまでに力強い言葉があっただろうか。
無責任ラジオのパーソナリティにならないかと番組プロデューサーに誘われた時以来の高揚感が彼女を支配していく。
「わたしの声に……?」
「イエス! アナタは必要な存在デス。その才能を私の下で遺憾なく発揮してくだサーイ!」
「……よろしく、お願いします」
思わず了承してしまうほど強引であったのは確かだ。
しかし、これくらい強引な切っ掛けがなければ幼馴染みがいるこの地を離れられなかっただろう。
将来的にもこの田舎町をいずれ捨てなければいけないと考えていたが、その決断を今日この日にすることになるとは。
早乙女の強引さにも驚いたが自身の決断の早さにも驚いた。
「お仕事しながら早乙女学園に通ってもらいマース。公認取れば高卒と専門卒の両方ゲットできますからね〜、Ms.ナマエに損はナッシング。学園でボイスレッスンや芸能界のイロハも教わってチョーダイ!」
聞けば早乙女学園は全寮制。スカウトされた立場として彼女の学費と寮費は全面免除される。
これほどの好条件、飲まざるを得なかった。
「表向きはアイドルコースで通ってくだサーイ。デモ退学になってはイケマセンよ〜」
詳しくはこれを読んでくれと分厚い封筒を手渡され、早乙女は颯爽と去っていった。
時間にして一時間にも満たない今のやり取りが自分の人生のターニングポイントになるなんて。名前は驚きを隠せなかった。
だからといって後戻りはしたくない。そうと決まれば彼女の行動は早かった。
現在掛け持っているアルバイト先全てに辞める旨の連絡を入れ、先ほど出てきた放送局に踵を返し番組プロデューサーに事情を説明。
早乙女が根回ししていたのかプロデューサーたちは既に知っており彼女の後釜も用意されていた。
根回し。ある目的を実現しやすいように、関係各位にあらかじめ話をつけておくこと。
つまり早乙女はどんな手を使ってでも彼女を必ず引き入れるため、あの場にいたということ。抜け目の無さも一流だ。
それから自身の担当するラジオ番組の引き継ぎを早々に済ませ最終回を収録した。時刻は十九時を少し過ぎている。
現在離婚調停中で両親が帰ってこない自宅に戻り、衣類やアルバム、僅かな娯楽品などの必要なものを段ボールに詰める。
元々物の少ない部屋だ、三時間弱で荷造りは終わった。これを明朝早乙女学園に送れば、晴れてこの家にいる意味はなくなる。
生まれてから今に至るまでの十七年、この家で過ごしてきたが思い入れは無いに等しい。寧ろやっと家を出ることが出来てせいせいする気分だった。
制服のままベッドに横になる。どうせ二度と行かない学校の制服だ、皺になろうが関係ない。
「あー、暦に何て言おう……」
唯一、彼女に心残りがあるとすれば幼馴染みの彼だけだ。
つい先日怪異の王を助けたことにより自身も怪異に成ってしまったお人好しな幼馴染み。
怪異だなんだと他人が聞けば嘘だと決めつけるような話も、彼が話せば信じられる。
三日に一度程度の頻度で連絡を取り合う彼にどう言い訳をすべきか考えているうちに眠ってしまっていた。
第99回無責任ラジオ
003