【幸村の双子は死神】(白石/脱色×tns)
※原作キャラの嫌われ要素があります
夢主設定
幸村名前
護廷十三隊三番隊隊長
幸村精市の双子の片割れ、どちらが姉か兄かという優劣は無くお互い名前で呼び合っている、二卵性だがそこそこ似ている
肩下までの少し癖のある藍色の髪と紫の瞳
元々病弱だったのもあり中学二年の夏に入院し秋に病死、死神になってからも少しは回復しているものの病弱なのは変わらない
性格は精市に似ている部分があり相手に有無を言わさない威圧感も持ち合わせている
特異体質で一度見たものを使いこなすことができ、二度見れば完璧に自分のものにする
そのため異例の早さで真央霊術院を卒業、三番隊隊長に就任
霊圧はかなり高く普段は指輪型の制御装置を右手の薬指に装着し抑えている
斬魄刀:『炎刀・銃』(えんとう・じゅう)
回転式連発拳銃自動式連発拳銃からなる一対の刀、連射性と速射性に加え高い命中精度を持っている、遠距離から攻撃が可能なため半端な間合いは意味をなさない
回転式は装弾数六発、自動式は装弾数十一発だが霊力を銃弾に変換しているため霊力が続く限り弾は無くならない
解号は「語らえ『炎刀・銃』(かたらえ −)」
※モデルは刀語の炎刀銃
ブリーチをルキア奪還編までしか見たことがないので上記のような設定になってしまいました
今後ブリーチを読むこともこの小説を更新することもないでしょう
幸村双子は死神01
三番隊隊長の幸村名前は三番隊隊舎執務室で仕事をしていた、仕事といっても書類に判を押すという単純作業なのだが
ふと窓の向こうを眺めると遅咲きの桜が綺麗に舞っていた
「桜ね……」
「そうですね、それが終わったらこちらもお願いします」
どさり、副隊長の吉良イヅルが机上に置いた新たな書類に思わず溜め息を吐きたくなった
名前が病死し、尸魂界に現れてから何かが変わった、それまでは藍染の一件で慌ただしかった瀞霊廷も幸村名前という存在に注目した、否、注目せざるを得なかった
生前にはなかった霊圧は尸魂界に着いた途端群を抜き一介の死神ですら無視できないものだった
その桁違いの霊圧を目の当たりにした、当時手の空いていた護廷十三隊の浮竹十四郎は霊圧制御装置を早急に手配し、真央霊術院に入学させた
特異体質のせいか鬼道も剣術も何もかも難なくこなしてしまう彼女は半年という異例の早さで真央霊術院を卒業、九番隊に配属された
それからしばらくは書類処理などの雑務をしていたがある時暇つぶしという簡素な理由により自らの斬魄刀を作り出した
それをきっかけに席官に昇進、雑務ではなく実戦任務を中心に仕事をすることになった
初任務の虚退治も何一つ臆することなく軽々とこなして見せた、それを見た奴らは彼女に恐怖すら抱いたそうな
それから瞬く間に実績を積み重ね三番隊隊長にまで登りつめた
名前の纏う、有無を言わさぬ雰囲気に隊士たちは最初こそ言い知れぬ恐怖に肩を震わせた
だが三年弱の月日が彼女たちのわだかまりを消し去り今では冗談を言い合える仲にまでなった
大切な人を残して死んでしまった彼女は自分の病弱さを恨んだ、悔やんでも悔やみきれない思いがあった
そんな時、この地区の担当だと名乗る死神とやらに尸魂界に連れて行かれた、そこからは上記通りの出世をする
大切な人のいない世界など生きていても仕方がない、すでに死んでいるが死んだも同然のように無気力だった
そこで死神という暇つぶしを見つけ、少しは気が紛れるかと思われた、表面上の穴は埋められても心の穴までは埋めることができなかった
幸村双子は死神02
満開の桜の花びらは、はらりと執務室の名前の元へと舞い落ちる
綺麗なそれを見ると悲しい笑顔も思い出す、脳裏に焼き付いて離れない大切な人の笑顔
頭を左右に振って仕事に戻ろうとすると、窓から一羽の地獄蝶が三番隊舎に入り込んできた
『三番隊幸村名前隊長、至急一番隊舎に来られたし』
伝令を受け取り、三と書かれた羽織りを翻し斬魄刀を腰に差す、イヅルに言付けし執務室を後にした
「来たか…」
「山本総隊長、何でしょうか?」
いつもとは違う、一隊長としての口調で受け答える名前に対し、山本総隊長と呼ばれた翁は口を開く
「実はお前さんに任務を頼みたいのじゃ」
「任務ですか……、はい、わかりました、どういった内容でしょうか」
名前が任務内容を訊ねると山本の眉間のシワが数本増えたのが目に見えてわかった
口にするのもはばかれるような内容なのか、例えば生命に何らかの危険が生じるような
ごくり、名前が不安を飲み込む音が響く、もしかしたら三番隊長に就任して初めての危険任務になるかもしれなかった
「現世に虚が現れているのはお主も知っておるな?」
「はい……しかし、それは各地区担当の死神が駆除しているはずです」
「そうなのだが……最近、急激に数が増しとるんじゃ」
「……」
「それでお主には現世に赴いて虚を殲滅してほしい」
「わかりました」
現世にはあまり行きたくない名前だったが任務となると話が別だ、すぐに承諾の意を山本に伝える
まあ、任務については決定事項なので拒否権などなかったので返事をするまでもなかったが
内容は虚の殲滅のみなのだからさっさと終わらせて戻って来よう、そう頭の中で考えた次の瞬間、山本の口からとんでめない言葉が発せられた
「お主には学生としてしばらくの間現世に滞在してもらう」
「……は?」
「なぁに、虚の出現数が一定に落ち着くまでの間じゃ」
「……はい、わかりました」
はあ、溜め息を吐きさっさと帰ってくることを諦める
話はそれだけのようなので部屋を出ようと踵を返す、数歩歩いたところで後ろから再び声がかかった
「……あぁ、それとのう」
「まだ何か……?」
「九番隊の四席が虚殲滅の任務に行ったきり帰って来ない」
「九番隊第四席……」
「まぁ、現世で遊び呆けておるんじゃろう、一発渇を入れておいとくれ」
「わかりました」
「頼んだぞ」
山本との会話も完全に終わると早々に三番隊舎に戻り先の内容を吉良に伝える
名前が不在の間三番隊を率いる立場になる吉良は少々顔に疲れを見せたが、お気をつけて、そう頭を下げた
幸村双子は死神03
早川が白石部長に気を寄せとったのは知っとった、早川は気づいとらんかったみたいやけど部長がそれをよく思ってなかったのも、俺は知っとった
早川という女は気に入らんかった、何でも自分の思い通りになると思うとる、化粧は濃いめで何より香水臭かった
他の奴らは早川の表の顔にだまされとるようやった、証拠にあいつをかわええだの好きだのほざいとる
せやから部長が早川の告白を断ったんは予想外やったみたいで、余程ショックやったんやろ、部長に襲われたゆう噂を広めて部長を悪もんにした
悪もんになった部長は全校生徒から目の敵にされた、陰湿なものから明朗なものまで様々な虐めを受け始めた、全て早川の作戦通りになってしまっていた
俺は全てを知っとったから部長側についた、元々あの女は気に入らんかったし
そうなると虐めの手は俺にも伸びてきた、しかし俺は普通の人間とは違うさかい、虐めなんてひょいひょいと流した
でも部長は一般人、ただの人間やからそういつまでも耐えられるか心配やった
そんなときに彼女は現世にやってきた
早川がマネージャーをやっとる男子テニス部にも部長と俺の居場所はなくて、今日も嫌がらせを受けた帰り道、俺は異常なまでの霊圧に肌が痛なったのに気付いた
徐々に制御されていく霊圧の元まで足を急がせれば居たのは綺麗な女性、前に一度だけ見たことがあった、肩下までの藍色の髪と紫の瞳
「幸村、隊長……!」
「あなたは……?」
「俺は十番隊八席の財前光いいます」
「ああ、この地区担当の……」
ふ、と目を細めた幸村隊長に頭を下げる、隊長就任式んときに一度だけ見たことがあったが、この人には逆らえない、本能がそう悟っとった
ふふ、顔を上げなさい、そう優しく言われ頭を上げて初めて、まじまじと幸村隊長を見た気がした、就任式んときは遠かったからあんま見えへんかったんや
少しくせのある藍色の髪、どこか憂いを帯びとる紫ん瞳、その姿を俺はどこか別んとこで見たことがあった気がした
「幸村隊長が何故現世にいてはるんですか……?」
「その呼び名は止めて、ここでは名前と呼んで、それとここに来たのは任務よ」
「さいですか……」
「ええ、不本意だけど」
名前さんの話によれば任務内容は最近増えてきている虚殲滅と最近霊圧が急上昇している人間の保護らしい、後者はたぶん白石部長のことだろう、俺も薄々気づいとった
虚や俺らの姿が見えるようになるんも時間の問題とのことで、とりあえず名前さんは俺んちの近くにあるマンションに住むらしい
さらに驚いたことに四天宝寺高等学校にも通うとのことで、今の状況を踏まえると心強い反面なぜか心配でもあった
とりあえず俺は名前さんのマンションにお邪魔することになっとった、いみわからん
幸村双子は死神04
案内された室内はまさに引っ越してきたばっかりといった感じで、必要最低限のもんしか入っていないことが予想される段ボール箱が数個部屋ん隅に置いてあった
家具類はちゃんと運んであって、白を基調としたシンプルなテーブルを挟んで向かい合って座る
「単刀直入に言うわ、ここでは幸村と名乗りたくないので財前の姓を名乗らせて頂くわ」
「えっ」
「これは決定事項よ」
「拒否権はないっちゅーことっすか、わかりましたわ」
それから俺は現在の四天宝寺の状態を説明した、早川んことや部長やテニス部のこと、全てを話した
名前さんは俺の説明を終始眉間にしわ寄せて聞いとった、まぁいい話ではないしな、それからしばらく何かを考えてから眉間のしわをとって口角を上げる
ぞくり、その笑みに俺は背筋が冷たくなるのを感じた、この人怖いわ
「……わかったわ、もののついでにその女の化けの皮を剥いであげる」
「まじっすか」
「ええ、楽しみね、その女がどんな顔で懇願するのか」
「こわ……」
「何か言った?」
「何でもないです」
あまり長居もしてられんのでひとまずおいとましようとしたら名前さんが何かに気付いたらしく俺を引き止めた
名前さん曰わく虚の気配を感じたらしいが伝令機に反応はないので半ば信じられんかった、だが名前さんが義魂丸を飲み込んだと同時に伝令機が音を立てる
まじかよ、と伝令機を見やれば四天宝寺高校付近に虚出現を示しており俺も慌てて義魂丸を飲み込んだ
「光、行くわよ」
「りょーかい」
幸村双子は死神05
名前さんの後ろについて行けばそこには虚が二体、何かを挟むようにして立っていた
虚は俺たちに気づいていないのか中心にいる誰かを食べようとしとって、名前さんが左にいたやつに鬼道を放つとやっとこちらを向いた
「死神が二人」
「うまそうだな」
「光は左を、私は右を」
「わかりました」
虚たちは俺たちが無視していたのが気に入らなかったのか襲いかかってくる、めんどくさいやっちゃな
すぐさま斬魄刀を解放、解号を唱えれば斬魄刀は形を変える、虚に叩きつけるよう振り下ろす
一太刀目はなんとか避けられてもうたので手首を軽く捻り流れるまま刀を虚の脇へ叩き込んでやれば叫び声を上げて消えていった
名前さんの方を見ればすでに虚は消えており、斬魄刀を解放した様子もなかった、ほんま何もんやねん
弱いわ、名前さんはそう呟いて虚に襲われていた人間の前に降り立った、あ、あの人は……
「白石部長、」
「えっ……、ざい、ぜん?」
そこにおったのは紛れもなく白石部長で、テニスバッグを片手に俺を見つめていた
正確には死覇装を着とる俺と名前さんを交互に、ぼんやりと見ていた
危惧していたことが起きたわ、名前さんが小さく呟き俺の頭もようやく理解した
とうとう見えるようになってもうたんや、まだぼんやりとしか見えへんようやけど、けれどはっきり見えるようになるんも時間の問題や
まだ状況が飲み込めてない上に俺たちがぼんやりとしか見えていない部長をこのままにしておくわけにもいかないので、とりあえず名前さんの家に連れて行くことにした
幸村双子は死神06
名前さん宅に帰った俺ら、部屋には義魂丸の入った俺らがおって、当然のごとく部長は驚いとった
俺と名前さんが義骸に入って一息吐けば部長が不審そうに口を開いた
「えっと……、何がどうなってんのや?」
「白石蔵ノ介、ね」
「そうやけど、何で……?」
「部長、単刀直入に言います、俺たち、死神、なんすわ」
「死神……?」
死神や虚という存在、俺らが死神であることと尸魂界での立場、部長の霊感が高くなり見えてはいけないものが見えてしまっていること、喋っても良いことはほぼ全て話しておくことにした
部長は物分かりがええというか順応性が高いっちゅうかで、俺らの言ったことを全て鵜呑みにしてくれた、学校だけでも辛いのにこんなことに巻き込んでしまって申し訳ない気分だ、半分くらい
「部長、信じるんすか? もしかしたら部長を騙しとるかもしれんのですよ」
「おん、せやけど財前は嘘ついてへんやろ、俺にはわかんねん」
「部長……」
「光、良い先輩を持ったわね」
「名前さん」
俺と部長の会話を聞きながら夕飯の支度をしとった名前さんが会話に入ってきた
「えっと、幸村名前さん」
「名前でいいわ、ここにいる間は財前名前になる予定だから」
「自分ら親戚とちゃうやろ?」
「ええ、明日から四天宝寺高等学校に通うからそっちの方が効率的なのよ」
「ちなみに名前さんは生きとったら部長と同じ高三っす」
俺らが言うと部長は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた、学校での自分の立場や現状を知られたないっちゅうとこやな、でも名前さんは全て知っとる
大丈夫っすよ、一言そう言えば部長は察したのか表情を緩めた
「さよか、ほなよろしゅうな名前、俺んことは蔵ノ介って呼んでな」
「蔵ノ介、私はあなたと同じクラスになってあなたを守るわ」
名前さんが笑みを浮かべると部長も自然と口角を上げた、その後はこれまたなぜか名前さん家で夕飯をごちそうになることになっとった
幸村双子は死神07
なんやかんやで名前の家で夕飯を食べることになっとって、財前と手伝いをする
炊きたての白米に肉じゃがと焼き魚に冷や奴、さらにサラダは温野菜になっとってなんとも美味しそう、即席とは思えへん品数と豪華さや
「めっちゃ美味い!」
「ほんま即席とは思えへんっすわ」
「ふふ、誉めても何も出ないわよ……、そう言えば二人ともテニスをするのね」
楽しく食事を続けているとふと名前が思い出したように話題を変えた
テニス、その言葉を発した名前はどこか懐かしそうに、それでいて悲しい表情やった
その表情を見て気付いたが誰かに似とる、少しくせのある藍色の髪に紫色の瞳、この姿を俺は知っとる気がした
「せやけど……、名前はテニス苦手なん?」
「いいえ、むしろテニスは好きよ、生前はテニス部のマネージャーをしていたくらい」
切ない顔しとったからテニスが苦手なんかと思ったら違ったらしい、ならどうしてあんな顔したんやろ
さっきとは打って変わって笑顔のまま食事を続ける名前に俺は、そや、と思い出したようにテニスバッグを漁る
あったあった、今日持って帰って整理しよ思うとった試合のビデオテープをテーブルの空いた所に積んでいく
中学から六年間の試合記録、と言っても全国大会だけやけど、ビデオテープのラベルを見た名前は顔色を更に明るくする
財前もデザートの善哉を食いながら、懐かしいっすね、と呟いた
「名前これ観るか?」
「観たい、食器片付けないといけないから、悪いけどセットしてくれる?」
「まかせときー、ごちそうさまでした」
とりあえずてきとーにビデオを取ってデッキにセットすれば、財前がテレビの電源をいれた
ちょうど俺が中学三年の時の四天宝寺と青学の試合だった、ダブルスなのに千歳と手塚君がシングルをしとる何とも奇妙な試合
名前は食器を洗いながらその試合をじっくりを見ていた、才気煥発やら百鎌自得やらを見ても眉一つ動かさずに観とった
この試合が終わると場面は青学と立海の試合に変わる、そこで初めて名前が眉間にシワをよせた
手塚君と真田君の試合は今観ても凄まじいわ、俺は映像を見てあの時の空気を思い出した、あれから三年も経ったんか
『入らんかーっ!』
真田君の気合いの入った一言が室内に響いたところで食器を洗い終えた名前が食事をしたときと同じ場所に座った
「真田は相変わらずね」
真田君の勝利が確定したと同時に名前がぼそりと呟いた
幸村双子は死神08
それから三人で試合のビデオを観とったときやった、名前の挙動というか様子に明らかな変化があった
それは越前君と幸村君の試合が終わりそうな時やった、名前は明らかに、誰が観ても痛々しい表情をしとる
そらそうなや、五感を奪われとる越前君を見れば誰でも顔を背けたくなる、それだけ幸村精市のイップスは怖い技なんや
「名前、大丈夫か?」
「ええ、それにしても越前って坊や、イップスを克服し始めてるわね」
「ああ、それには当時の俺たちもびっくりやったわ」
「そう……」
それからビデオはイップスを克服した越前君の勝利を流した、当時の迫力を今でも思い出せるくらい白熱した戦いやった
ちらりと名前を見やれば目を見開いて今にも泣きそうに顔を歪める
俺も財前も名前を見て驚きを隠せなかった、今日さっき出会ったばかりなのに彼女のことを過大評価していたんだ
彼女が泣くはずない、そう頭のどこかで考えていたから、彼女の目尻から今にもこぼれそうな涙をどうにかしたかった
「名前さん、」
「立海が負けた……?」
「おん、残念やけどな……」
「っ、」
名前は立海と何か関係がある、きっと元立海生とかそないなとこやろ、いや、たぶんそうなんやろう、立海の負けを自分のことのように悔しがっとる
俺はなぜか知らんがフォローの言葉を必死に探した、名前のこないな顔は見とうない
「ま、まあ、こん時の幸村君は退院してすぐやったからブランクもあったんやろうな」
「あー、そういやそうっすね」
この何気なく言った言葉が名前にとってどれだけ大きくて重たい言葉か、俺たちは気づかんかった
「退院? 何それ……?」
名前の瞳が大きく揺れて、そこでわかった、勝敗が決まったときの幸村君に似とるんや
幸村双子は死神09
幸村精市は入院していた、そう捉えられる言葉を私は信じられなかった、信じたくなかった
「その話、詳しく聞かせて」
「お、おん……、中三の関東大会を控えたっちゅう時期に倒れて入院したらしいんや」
幸村精市は私の双子の片割れで、どっちが上かなんて優劣はなかった、お互いがお互いに特別な存在だった
私は生まれつき病弱だったのもあり中学二年の時に入院、その半年後に病死、精市を残して死んだことだけが唯一の心残り
いつものようにテニスを楽しんでくれているものだと考えていたから、先の事がショックだった
「まあ詳しい事は俺もようけしらんが手術までしたって聞いとるよ」
ビデオに映る精市が元気に成長していたから安堵してしまっていたんだわ、冷静に考えればいつもと違うと解るはずなのに
心なしか精市の動きが鈍って見えた、たぶん事実だろう、ただ気付かれないようにプレイしていたから気づいたのは私くらいだろう、勝敗が決まる大切な場面だったかららしくなく緊張でもしているものだと思っていた
私はどんなに長い間精市と離れていても精市のわずかな変化ですら見分けれる絶対の自信がある
なのに精市が入院していたことなんて知りもしなかった、私は精市の双子失格だ……!
「そう、なの……」
「名前さん!」
「大丈夫か!?」
私が泣いているからだろう、蔵ノ介が心配そうにのぞき込んでくる、はは、私、情けない
「私は、知らなかった……!」
「どないしたん!?」
「知らなかった、精市が病気に、私は、何も、精市が苦しんでいたのに、私は、気づけなかった……」
呟きと嗚咽を繰り返しながら涙を流す、そんな光景に驚愕したのか蔵ノ介と光が私を落ち着かせようと必死になっている
二人には悪いがしばらく収まりそうにない、自分の不甲斐なさが悔しい
精市が大変な時に私は何をしていたんだ、死神なんてものにうつつを抜かして平凡な生活を送っていた自分が情けない
うずくまって涙と嗚咽を繰り返す、苦しい
「やっぱり……」
「やっぱりって部長、どういうことっすか?」
「なあ、名前、幸村名前って……」
「っ! まさか、」
「そのまさかよ」
まあ普通に解るわよね、精市のことで泣いてるのだから、しかも私の名字が精市と同じ幸村なら、察しの良い人ならすぐに気づいたはず
「私と精市は双子よ」
幸村双子は死神10
「!」
さすがの光でも気づいていなかったらしい、私の言葉に二人はやっぱり、と呟いた
「生まれた時から病弱でね、中学二年の夏に入院して、秋に病死」
「……」
「それから死神になったの」
「せやったんか……」
「光も知ってるでしょ、浮竹さんが私に死神になるよう言ってくれたの」
私が死神になるきっかけを作った人の名前を出せば光は、ああ、と声を漏らす
ほんと、色々と情けない、初めて会った人にこんな醜態をさらすなんて
「せやから幸村って名乗りたなかったんか」
「そうよ、もしも精市がどこかで私のことを知ったら大変なことになるでしょう?」
「まあ、せやな、死んだ人間がおるっちゅうんやから騒ぎにならへんのがおかしな話やな」
精市に拒絶されたら、そんなことを考えるだけで怖かった、だから幸村の姓ではなく財前の姓を借りたのだ
まあいつかはバレると思っていたことだ、潔く話せば事情を把握してくれたらしい、私も気持ちを落ち着かせ、積まれたビデオを指差す
「蔵ノ介、このビデオ借りてもいい?」
「おん、返すんはいつでもええから」
「ありがとう」
それから二言三言話たら二人は帰路についた、私は二人を見送ってから伝令機を手に取る
テニスのビデオをセットしながら目的の番号へと発信すればすぐに声が聞こえた
『はい、こちら十二番隊技術開発局の阿近です、幸村隊長何かありましたか?』
「阿近くん、丁度良かった、小型カメラと小型録音機をそれぞれ一台ずつ欲しいの、高性能なやつをなるべく早く、出来上がったら誰かに持ってこさせて」
『? はあ、わかりました』
それでは、と用件のみを伝えて通話を終える、いじめなんて現場の映像を押さえてしまえば大丈夫だ、光に聞いたところ早川という女は自らを傷つけて蔵ノ介のせいにしているらしいから証拠を押さえるのなんて簡単だろう
とりあえず私は朝までに蔵ノ介に借りたビデオを観なくてはいけない、義骸の身体能力は人並み以上と言っていたが私自身のブランクを考えて、二回、しっかりと観なければいけない
今日は眠れないかもしれないわね、リモコン片手に笑った
幸村双子は死神11
朝、学校に行けばいつもと同じ軽蔑の視線が痛い、幸い今朝は朝練がなかったから直接教室に向かった
机には落書き、耳に入るのは悪口、何が悲しいってもう慣れてしまったというのが悲しい
しばらくすれば担任が来て教室が静かになる、この時間と授業中だけは嫌がらせから解放されるからまだマシや
担任が転入生の存在を伝えればクラスが盛り上がる、十中八九名前のことや
予想通り名前が教室に入ってきて財前名前と名乗る、名前は贔屓目抜きにして美人やからクラス中の注目を集めてる
「財前さん、こいつんこと知っとるん?」
「ええ、越してきたばかりで道に迷っていた時に助けてもらったの、ね、蔵ノ介」
「お、おん」
「テニスで勝負しない?」
「ふん、ええで」
「ちょ、名前テニス経験あるん……?」
「小学校高学年から中一の終わりまで、たしなむ程度」
「はっ、そんなんで俺らに勝つつもりなん? 笑うてまうわ」
「自分大丈夫なんか? 結構ブランクあるやんか……」
心配する白石部長をよそに、当の本人である名前さんは薄く笑みを浮かべとった、その笑顔はなんやわからんが背筋が凍るような寒気がした
幸村精市の双子やからってまさかイップス使うんやないやろか、俺の心配をよそに名前さんは部長からラケットを受け取ると制服のままコートに入った
「サーブは忍足に譲るわ」
「そないなこと言えんのも今のうちやで!」
にっこり笑う名前さんを挑発と受け取った謙也さんはいやらしい笑みを浮かべてボールを上げた
しばらくラリーをした後に謙也さんがスマッシュでポイントを取る
「なんや、いきがっとる割にはその程度かいな、ざまあないな」
「……」
極普通のサーブ、先程の挑発的な言動とは裏腹なサーブを謙也さんは意図もたやすく打ち返す、見下した笑みを付け足して
普通にやっても勝てると踏んだのだろうが、次の瞬間、名前さんのラケットを持つ手が真っ直ぐに伸び、もう片手は天に向かっていた
そしてボールは名前さんのラケットに当たるやいなや一直線に謙也さんの足元目掛けて飛んでいった、この技を俺は見たことがある
「柳生くんのレーザービームや……」
部長がつぶやいたんと同時に審判をしとった石田先輩が名前さんにポイントが入ったことを告げた
〜〜
スカートを一切翻すことなく、どんな球でもを簡単に返してしまう綺麗なプレイは幸村精市を思い出させるものだった
「というわけで、男子テニス部コーチになります財前名前です、よろしく」
「菊の花言葉は『真実と潔白』、私たちにぴったりだと思わない?」
それに菊は一番隊の隊花、
「そこにいるのはわかってるわ、九番隊第四席……仁王雅治」
「何じゃ、バレとったんか……つまらんのぅ」
「誰のせいで私が現世に来たと思っているのかしら?」
「えっと……もしかしなくても俺のせい?」
「さぁ?……誰かさんが任務に行ったきり帰ってこないから私が来たのよ?」
物凄く棘のある言葉を吐き捨てる
名前の裏のある笑顔を見た仁王の額からは大量の汗が吹き出る
それから暫くの間、彼の口からは乾いた笑いと謝罪の言葉のみが出てきた
「合宿……?」
見る見るうちに名前の顔色が悪くなる
「精市!」
叫ぶより身体が動く方が速かった
「名前、俺の側にいて……もう二度と俺の前から消えないで」
「精市……」
「ば、馬鹿な! 生身の人間が俺たち霊魂に触れるだと!?」
「嫌われるんじゃないかって……!
死んだはずの人間がいるなんて、……拒絶されるんじゃないかって不安だった!」
「馬鹿だなぁ……俺が名前を嫌いになる訳ないだろ?」
俺は名前の体を強く抱きしめた
四年前より、中学の時より成長してる……
俺の知っている名前は俺の知らない場所で成長したんだね……
俺の知っている名前はいなくなったのかな……?
そんな事を考えたら、いなくならないで欲しい一心で名前をより一層強く抱きしめていた
「……大丈夫、死んでから精市を忘れた日はないよ
私は精市の知っている私だから……安心して?」
その一言で俺の押さえていたモノが全て溢れ出す
「名前っ、会いたかった! 名前が死んでから俺、どうしていいか分からなかくなって……何を支えに生きていけばいいか分からなくなったっ!」
四天宝寺嫌われ編の後、立海との合同合宿編もやるつもりだった
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