「改めまして。サーヴァント、“裁定者”。天草四郎時貞です」
改めて自己紹介をする天草。流暢なドイツ語を話す褐色白髪の人物からはとても出て来ないであろう日本語名。しかしその違和感も彼の存在に比べれば些細なことに過ぎない。
ナマエが昔胡散臭いと言っていた彼の人当たりの良い笑みは初見の相手にはいとも簡単に安心感と好印象を与えてしまう。
現に英霊の召喚だなんて未だ類を見ない“個性”を目の当たりにしたナマエの両親ですら、先程までの恐怖を忘れ両手を上げて喜んでいた。
「ナマエ凄いじゃないか! こんな“個性”初めて見たぞ!」
「ママはよく分からないけどナマエの“個性”で召喚? したの?」
「うん。英霊を呼び出して契約出来る“個性”、だと思う。頭の中に魔法陣と呪文が浮かんできて……」
彼について説明しろと言われれば一から十まで事細かに説明出来得る知識をナマエは有している。しかし彼のことを“個性”で済ませる為には恰も今し方初めて知ったかのような曖昧な説明をするのが最善であった。
そのことを天草も理解していたからこそこの場では何も言わず、使用人に指の手当をされている彼女の横で笑みを浮かべる他ない。
何かのパーティの途中だったのだろう、広い食堂の長いテーブルには所狭しと豪華な食事が並べられ、中央には二段重ねのケーキが鎮座している。
幼い姿のナマエに詰め寄る壮年の男女は彼女の両親だろう。父親の方はドイツ系の端正な顔立ちに少々派手な服装で、年齢の割に落ち着きがないという印象だ。しかし彼から感じる魔力はナマエと同等に量も質も良い。
母親の方はアジア系の少し幼い顔立ちで服装は普通だがセンスは良く洒落ている。父親と比べると多少、否かなり落ち着き払いすぎなくらい冷静である。彼女からは魔力が感じられないため現状について来れてないだけかもしれないが。
「やあシロウ君! 私はナマエの父のゲビート・ミョウジだ!」
「よろしくお願いします」
「君には聞きたいことがいくつかあるんだが良いかね!?」
「ええ。私に答えられる範囲であれば」
それからの食堂は賑やかだった。主にナマエの父親が。
サーヴァントとは何か。ナマエの“個性”で現界しているのか。ナマエの左眼に浮かんだ模様と何か関係があるのか。どんなことが出来るのか。英霊とは。ルーラーとは。
魔術師としての知識欲がそうさせるのか、ナマエの父親は子供のように目を輝かせて天草に詰め寄り質問を浴びせたのだ。
天草は一体どこまでが話して良い範囲なのかを取捨し、丁寧に、でも詳しすぎず分かりやすく説明してやる。
「……なるほど。人々の信仰によって生まれた“英霊”を元に、“裁定者”としてのシロウ君が召喚されたと」
「はい」
「そして召喚されたサーヴァントはマスターであるナマエの魔力を糧に現界している」
「まぁ概ねそんな感じです」
「おおっ! 流石ナマエ! なんて素晴らしい“個性”なんだ! パパは誇らしい!」
彼の存在について理解したナマエの父は、娘の特異な“個性”を受け入れ、彼女を力いっぱいに抱きしめる。
「ちょっとパパ、苦しいから!」
「え! さっきはシロウ君とハグしてただろう!?」
「それとこれはとは別!」
「パパ悲しい……」
「あなたったら、少し落ち着いて下さいな」
「むぐっ、もがほが!」
その光景に天草は目を見開いた。
それまでのやり取りを見ていたナマエの母親が、おっとりと穏やかな笑みを浮かべたまま綺麗に切り分けられたケーキを夫の口に無理やり突っ込み強制的に黙らせたのだ。
「ほら四郎君も驚いているでしょう」
いや貴女に対して驚いているんです、とは流石の天草も言えなかった。
ちらりとナマエを見やれば苦笑しているのでこれが茶飯事なのだと悟る。
「私からもいくつか質問いいかしら?」
「どうぞ」
とりあえず座って、とナマエの母に促されるまま天草はナマエの隣の空いた椅子に腰を下ろす。
視線を斜め前へ戻せばケーキを頬張っているナマエの父ゲビートと、絶やすことなく笑みを浮かべているナマエの母。
横から流れてくるナマエの魔力が懐かしくて、心地良い。
「サーヴァント? っていうのは食事はするの?」
「基本的に食事は必要ありませんが、微々たる量ですが魔力を回復させたり、生前を思い出して食事という行為を楽しむ場合もありますね」
「じゃあ貴方もご飯を食べるのね! 嫌いな食べ物とかはあるのかしら?」
「ありませんよ」
「まあ! それは良いことだわ!」
受肉してからの六十年は肉体を保つためそれなりに食べ物を摂取しており、カルデアに召喚された時も他のサーヴァント同様に食事をしていた記録がある。
まさかそんなことを聞くためにわざわざ勿体付けるような態度を取っていたのか。天草が内心呆れているとナマエの母は次の質問を口にする。
「天草四郎君ってあの“島原の乱”の天草四郎なの?」
「……」
「違ったかしら?」
「……いえ、その天草四郎で間違いありません。貴女は……」
「私はナマエの母親の日菜子よ。貴方と同じ日本人なの、よろしくね」
「ああ、それで……こちらこそよろしくお願いします」
あれ程の大乱だったのだ、現代に語り継がれていてもおかしくはない。気になるから聞いてみただけ、そんなニュアンスが彼女の雰囲気からは伺えた。本当に他愛無い質問に過ぎず、そこに悪意など存在しない。
しかし天草が一瞬でも心を乱してしまったのは事実。貼り付けた笑みは崩れなかったが天草四郎時貞という英霊をよく理解している彼のマスターにはバレてしまったようだ。
彼女の手が、テーブルの下にあった彼のそれにそっと触れる。
「時貞……」
「大丈夫ですよ」
彼女の両親の方を見ながら、彼女にだけ聞こえるように呟いてその小さな手を握り込めば、いくらか表情が和らぐ。彼女の傍にいるとどうしてか隙が出来てしまう。
「……それより、今日は何かの祝い事なのでしょう? ならば私はいない方が……」
「何を言ってるんだい! 今日の主役はナマエなんだからシロウ君もいてくれないと困るよ!」
「そうだったわ。さ、ナマエのお誕生会を再開しましょう。ほら四郎君も、いっぱい食べてちょうだいね」
「……はい。ありがとうございます」
誤魔化すように浮かべた笑みは、やっぱりナマエにはぎこちなく見えてしまった。
初めましてルーラーです