少年Cの独白
誰も報われない話のため、後味悪いです。
なんでも許せる方のみお読みください。
この気持ちを誰かに明かそうだなんて思ってもいなかった。
ただアイツのことを考えて、気付けば十二年も経っていた。いい加減オレも前を向かなきゃいけないし、視野を広げなきゃいけねえのにそれができないのは、オレと同じように過去にばかり目を向けて閉じこもり、未来を歩もうとしないアイツのことをオレがずっと追いかけているからかもしれない。
最初にアイツと話したのはオレだった。不良のオレに堂々と分け隔てなく接してくる奴で、最初は少し変わった奴だという認識しかなかった。しかし、中一の時は同じクラスだったこともあり、必然と話す機会も増えたオレたちはあっという間に仲が良くなった。
そして気付いてしまった。
アイツは場地さんのことが気になっていて、オレはその口実に使われていた。おそらく本人にそんなつもりは無いのだろうが、大人になった今考えてみれば、何とも可愛くそして残酷に利用されていたのかがよく分かる。
それと同時に、オレはアイツの目が、話が、考えていることが、全て場地さんに向いていることがとんでもなく不快だと気付いた。きっとそれに気付いた時にはもう遅かったのだ。
オレは誰にも気付かれないよう、ひと知れずこのただただ辛い初恋を認めていた。
必死だった。アイツに夢中になる前に別の誰かを見ようとした。ダチと好みのタイプの話になって適当に作り上げた人物像を述べるが、それが無意識のうちにアイツそっくりの奴で自分でも心底驚いた。驚くほどにアイツはオレを蝕んでいた。
更に最悪の展開は続く。まさかまさかの、場地さんもアイツに気があったのだ。
いや最初から分かりきっていたことなのかもしれない。あまり学校の女子に興味を持っていなかった場地さんが、アイツにだけは矢鱈と興味を抱いていた。オレは多分気付かないフリをしていた。
学校では三人で過ごすことが多かったが、オレって正直邪魔なんじゃねぇかって思ってた。でもアイツも場地さんもオレがどっか行こうモンなら驚くほど何で一緒に来ないのか、とごく当たり前のように訴えてきた。それがどれだけ嬉しくて、どれだけ惨めか知りもしないだろう。
いっそのこと二人がオレの目の前から消えてくれればいいのに、なんて思ってしまった。
―――全てはそれが原因だったのかもしれない。
棺の中で眠る場地さんを見て、オレは涙が出ていた。その涙は場地さんの意思を分かっていながら救うことができなかった悔しさと、自分のエゴで消えてしまえばいいだなんてほんの僅かにでも思ってしまった自分への嫌悪だ。
あの時、彼女は確かに泣いていた。場地さんへの想いを胸に、その場の誰よりも泣いていた。そんなアイツを抱きしめる強さも、そこに付け入る狡猾さもオレは持ち合わせていなかった。
あれから十二年の月日が流れた。
オレは結局視野を広げることができないまま、大人になってしまった。
―――そして
「千冬くん、お待たせ」
彼女もまたオレと同じだった。学生の頃から少し伸びた髪。カールした髪はパーマをかけたと言っていた。誰かを彷彿とさせる真っ黒な色も、当時のオレの心の色を示しているようだった。まるで場地さんの髪型をそのまま真似たような彼女は、当然ながらあの後彼氏はおろか好きな人だってできなかった。
「今週仕事忙しかった〜。今日めちゃくちゃ飲むぞー!」
「あんま飲み過ぎんなよ。介抱するオレの身にもなってくれよ」
なんて言いながら満更でもない自分がいた。
「なんだかんだ言って千冬くんはちゃんと面倒見てくれるもんね」
「まあなー」
「だから安心して飲み潰れちゃうんだよね」
「潰れたらダメだろ」
その安心は一体どういう意味なんだろうか、と考えすぐに答えは見つかる。友人として、だ。当時は苗字で呼ばれていた名前も、いつの間にか下の名前で呼び合うような関係になっていた。だがそこまでだった。それは十二年前から変わらない。
生者のオレたちは常に更新されていくが、死んだ人間との関係は変わらないままだ。当時の記憶も感情の全ても、コイツはあの日、あの時、場地さんの遺体と向き合ったあの瞬間に封じ込め、そこから二度と出てこようとはしなかった。
場地さんは死んだ。オレの好きになった恋をしてキラキラと輝いていたアイツは、本来の自分自身の皮を被った別人のようになってしまった。
オレの願った通り、オレの好きな二人は或る意味では消えてしまった。
アイツはずっと死んだ場地さんに恋し続けたまま、この十二年間を生きていた。
そしてオレはそんな彼女への想いを断ち切ることができず、でも一歩踏み出すこともできずに十二年を過ごしてきた。
最高の先輩と最愛の人を失ったオレたちはずっとその傷を舐め合いながら生きていくしかないのかもしれない。