祈り
―――温泉旅行最終日、最寄りの空港にて
一行は飛行機までの時間を持て余していた。男性陣は横並びに椅子に座っているが、泉は彼らの目の届く範囲のお土産屋を見て回っていた。
「ところでさ、恵」
嫌な予感がする恵はどんな言葉にも対応できるよう心構えをした上で、五条の続きの言葉を待つ。
長い脚を組み替えた五条はお土産に熱心な泉を見ながら、問いかけの続きを述べた。
「結構お値段したんじゃない?」
「?」
「…確かに、あれは本物のダイアモンドでしたね」
「そう!そうなんだよ!僕てっきり偽物かと思ってた」
五条と七海の会話から恵はそれが自身が泉へ贈ったピアスの話だと理解した。
確かにあれは本物のダイアモンドだった。それは恵も分かってはいた。
「本人がピアスがほしいって言ったので」
「ダイアモンドの?」
「いやそこは、まあ…」
「伏黒くんが選んだんですか?」
まさか七海までもこの話に身を乗り出してくるとは思わず「そうですけど」とたじろく。
「…まあ店員さんと一緒に見てもらいました」
「ふうん」
「四月の誕生石がダイアモンドだったので探してたんですけど、佐狐の性格から高額なものだと変に気を遣われそうだったので、誕生石だということで渡しました」
「…実際あれいくら?」
五条がどうしてもそこから離れなかったので、恵は渋々二人にピアスの金額を伝えた。
「マジで!?恵、お金持ちー!」
「やめてください。てかアンタに言われると嫌味なだけなんですけど」
「一応確認しますけど、世間的には高校一年生ということであってますよね?」
「七海さんあの、俺は今まであまり金を使うことがなかったのと、高専に入ってからの任務の報酬があったから、そのタイミングとかが本当にたまたまなんです」
「いえ、そういうことではなく」
必死に弁明をする恵に対し七海は何も自身が恵のお金遣いについてを責めているわけではないことを伝える。
「私が同じ歳の時、もし誰かに好意を寄せていたとして、君と同じ行動が取れたかどうか、と思ったんです」
七海はその言葉に一昨日の恵の言動を含めて言ったつもりだった。自分の好きな相手が、実は死んだ人間に想いを寄せていること。しかもその人間は自分たちの脅威となりうる敵だったということ。その事実を否定するわけでも、見て見ぬ振りをするわけでもなく、難無く肯定し受け入れ、そんな彼女ごと愛そうとする恵の一連の言動に感服していたのだ。現にピアスだって彼女の中で欲しいと答えたその最下層にある理由は夏油傑だったはずだ。
自分が全く同じ立場であったとして、果たして恵のような寛容な態度が取れたかどうかと考えた時、七海は不可能だったと思う。自分だったら相手が死んだ人間に想いを寄せているという時点で、その恋を諦めてしまうと思ったのだ。
「そういう点から考えると、恵はこの中で一番大人かもね」
いつもふざける五条が珍しく真面目に自分を褒めてくれたことに恵は戸惑ってしまう。しかし間髪入れずに七海も同意したため、彼は何と返して良いか分からなくなってしまった。
困った彼の視線は無意識に泉を追いかけていた。すると泉が高い位置にあるものを欲しそうに見ているのが分かると、何も言わずに泉のもとまで向かう。そしてさり気なく目当てのものを泉に渡す恵の姿を見ていた大人二人はその様子をただ眺めていた。
「恵も大人になったなぁ」
「伏黒くんは元から大人びていますからね」
「ちなみにピアスを贈ることにも意味とかってあんの?」
五条は先日泉が夏油から貰ったというハンカチの一件での話を七海に振った。七海は液晶画面に指を滑らせ検索をしているようだった。
「常に身に付けていることから、いつでも自分の存在を感じてもらいたい、だそうです」
「ロマンチックだねぇ」
「ダイアモンドの石言葉というのもありますが、永遠の絆、純粋無垢、純潔などがあるみたいです」
「へえ、まんま泉だね。恵そこまで考えて買ったのかな」
「さあどうでしょう」
そう言って七海は結局一緒にいろんなお土産を見て回っている二人を見た。
「とてもお似合いですね」
五条は七海の言葉が何に対して言われたものなのかをきちんと理解していた。
「そうだね」
願わくば彼女たちの笑顔がこのままずっと続きますように。
僕らが成し得なかった青い時間を彼女たちには是非とも謳歌してほしい。
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