タイトル



 その日、同じクラスの生徒の父親が亡くなった。
 朝礼の際、担任がとてもとても悲しそうな表情をつくって、淡々とその事実を述べていた。父親が亡くなったという生徒は、私の目の前の席の女子生徒だった。中学生という未熟な年頃で、一般的に一家の大黒柱と呼ばれる父親を亡くしてしまうのは、あまりにも精神的にも経済的にもダメージが大きいだろう。クラスからは彼女を案ずる声が多数上がっていた。それがまるで彼女のカーストを示しているようだった。

 新垣雪という少女は学年内でも上位の学力を持つ優等生だった。人当たりもよく気さくで周囲には常に人がいて、校内では顔も名前も知れているような、私とは住む世界が違うような人なのだ。
 確かに住む世界が違うのだが、実は私と彼女は幼稚園の頃からずっと一緒だった。彼女からするとそんなことどうでもいいだろうし、むしろ一々そんなこと覚えてもいないだろう。
 学校でもまともに会話をしたこともなく、話したことがあると言っても事務的な会話しかないのだ。

 だから遠目にしか見ることができない。

 その日一日、クラスでは新垣の話題で持ちきりだった。彼女自身を案ずる声、何か自分たちにできることはないか、連絡をとっても良いだろうか、そんな声が至るところから聞こえていた。
 私も心配していたものの、それを表に出すことはなく、その日一日を終えた。


 土日を挟んだ翌週。彼女は晴れやかな表情で登校してきた。
 クラスメイトからの心配の声を浴びながら、彼女は相変わらず笑っていて、心配してくれた皆に「ありがとう」と返していた。あっという間にクラスメイトに囲まれて、悲しいことがあったにも関わらずにこやかに応対をしていて、神対応だな、と後ろから頬杖をつきながら眺めていた。

 しかし、どうしてそこまで笑顔で、良い人でいられるのか、私には謎だった。

 ―――それはその日の放課後に起こる。



 学校からの帰路、何をするわけでもなくぼーっと家までの道のりを歩いていた。ひとつ違うのは普段は通らない道を敢えて通っていたこと。子どもたちが走りまわる公園を抜けると、川があり法面は綺麗な芝生で埋め尽くされていた。風がそよぐのに合わせて緑の匂いが鼻をくすぐる。そしてそれに合わせて煙たい臭いが混じっていた。
 こんなところで煙草を吸っている人間がいるのか、と足を進めるたびに強くなる臭いに、ある煙草の銘柄が脳裏に浮かぶ。その銘柄は割と女性に好まれる傾向にあったはずだ。

 その時、何故かその煙草の煙の匂いに混じった仄かな甘い香りに惹かれるように、私はその煙草の匂いを辿った。

 そしてそこに居た人物に、私は自分の目を疑った。

「え、君…」
「………あ」

 いつもキラキラと輝いている瞳は相変わらず綺麗に私を捉えていた。しかし、そこにいつも纏っている清らかな雰囲気はまるで感じられなかった。
 普段からきちんと一番上まで留められているカッターシャツのボタンは上二つが解放されており、鎖骨あたりにはシンプルなシルバーのネックレスが窺えた。当然ながら丁寧に結ばれたリボンも取り外されていた。スカートも普段は規則を守った膝下の長さだったが、座っているとはいえかなり短くなっているように見える。普段から優等生且つ模範生とは思えないほど見違える姿だった。
 そしてここまでは見違える程度で済むだろう。
 しかし、私は何よりも衝撃を隠しきれないのは、彼女の細い指が握っているあるものだ。

 それは先程から緑の匂いに混じっていた、独特の甘い香りの原因―――。


 彼女は私を見るなり、

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