変なヤツ
『そういやオレのクラスにちょっと変なヤツいるんスよ』
前に千冬がそんなことを言っていたような気がする。何が変わっているかとかは正直忘れた。でも千冬曰く良いヤツらしい。ちなみに女子とのこと。千冬から女子の話題なんて珍しいな、と思いつつそいつのことが気になるのか、と尋ねると千冬は「違いますよ!」と頬を赤くしていた。
『てかそいつ、どっちかというと場地さんのこと探ってる感じでした』
『オレを?』
なんだそりゃ、と笑ったがまあ確かに中学を留年する奴なんてそうそう居ねえから、そうなるかと思った。
そんな話を思い出したのは、千冬のクラスを覗いたときである。
「ねえねえ、ハンカチ貸してー」
「良いけど、忘れたの?珍しいね」
「ううん、持ってきたけど人にあげちゃった」
「え、それってまさかさっき場地に会ったときに?」
ふと自分の名前が出て慌てて身を隠してしまった。結局濡れたままの手で教室までやってきた。さすがにこのオレも如何にも女向けのピンクのハンカチなんて使う気になれない。気持ちは有り難かったが、これはこのまま返そうと思っていた。
そんなとき先ほどの会話が聞こえたのだ。
確かこのハンカチをくれた女子生徒は『もう一つ持ってきてるから』と言っていたはずだ。しかしその彼女は今友人から借りたハンカチでしっかりと手を拭いて、また綺麗に折りたたみ返していた。
ということはアイツは本当はハンカチを一つしか持っていないのに、濡れた手をぶら下げていたオレを見兼ねてハンカチをくれたということだろうか。
なんて変なヤツなんだ。
そう思ったとき、オレは確信する。
千冬が言っていたちょっと変なヤツというのは、アイツのことなのだろう、と。
オレは少し乾いてきた手を、もらったハンカチで更にしっかりと拭う。なんとなくこれをこのまま返すのは、アイツの良心に悪い気がした。オレにだってそのくらいは分かる。そしてアイツの顔をよく見て、忘れないように覚えた。
あん時咄嗟のことで何も言えなかったから、お礼くらいはしねえといけねえよな。
***
その日は東卍の集まりがあった。わらわらと集まってくる心地良い排気音をバックにオレは三ツ谷に声をかけられる。
「なあお前さ」
「あ?」
「こんな趣味あったっけ?」
「は?」
質問の意図が分からず思わず凄んでしまうと、三ツ谷は少し笑いながら何かを持っていた。
「これ、落ちてたけど」
「………あ」
「こういうの好きなら、作ってやろうか?」
「ちげーよ、黙れ」
「なに騒いでんの、場地」
「三ツ谷、それ何?」
面倒くさいことにマイキーとドラケンまでやってきやがった。奴らは三ツ谷が未だに持っているピンク色のハンカチを見て、これは格好の餌食だと言わんばかりにイタズラな顔をした。
「えー、場地オマエそんなの好きだったっけ?」
「まァ否定はしねーけどよ」
「だからちげーっつってんだろ」
三ツ谷からハンカチを奪い取り反射的にハンカチをポケットに詰め込む。「じゃあ何だよそれ」と三ツ谷が割と真面目に尋ねてきたので、オレはポケットに詰め込んだハンカチの端を少しだけ掴む。
「なんか学校の女子からもらった」
「え、何で」
「カノジョ?」
「ちげーよ。オレがトイレの後、ちょうどソイツも通りすがりで…」
「通りすがりにハンカチだけくれて行ったのか、どんなヤツだよ」
「いやこれは場地の語彙力にも問題がありそうだわ」
「ドラケンに同意」
「何だよオマエら。つかゴイリョクってなんだよ」
なかなか状況が伝わらずイライラしたが何回か話したところでようやく分かってくれたようだった。
「要するに返そうにも名前も知らないから返せないと」
「ああ」
三ツ谷がうまくまとめてくれたので、欠伸をしながらそれにうなずく。
「分かんねーならもう捨てちゃえばいいんじゃね?場地そういうの気にするタイプじゃねぇじゃん」
マイキーにそう言われてたしかに、と納得してしまった。
しかしその時例の女子生徒の顔が思い浮かぶ。そうするとオレはマイキーの提案に何故か返事ができなかった。
「いや、やっぱこういうのは大事だろうが」
「は?」
「まあアレだ、アレ。千冬に聞いてみるわ」
オレの発言に不服そうだったマイキーは首を傾げていたが、何故かドラケンと三ツ谷は顔をニヤニヤとさせていた。マイキーは納得していないまま「おー」とオレを見送りドラケンも何も言わずにマイキーについていく。そして問題は三ツ谷だ。
「今度どうだったか教えてくれよ」
肩にポンっと置かれた左手の意味がオレにはよく分からなかった。どうだったか、って何が?何の話してんだ?奴を呼び止めようとしたが、隊の連中に話しかけ出したのでそうにもいなかった。
なんか変な感じがするのは気のせいだろうか。