「ホームズ好き?」
ある雨の日。久々に仕事もオフで哀ちゃんに会うために阿笠邸に遊びに来た。実は彼女からのお誘いでわたしに『相談ごとがある』とのこと。どうやらその相談というのはホームズ好きの男性のことらしく、
「そう。今、工藤くんの家に仮住まいしている…名前は確か、沖矢昴…といってたかしら」
「おきやすばる?」
もちろん、聞いたことがない名前だ。
「なんでも東都大学の工学部で院生らしいわ」
「東都大学の院生?その彼になにか悩みの種でもあるの?」
新一くんが仮住まいさせている人ならよほどの事情があり、なおかつ信頼できる人ではないか…と思った。すると、彼女は震えるような声で言った。
「…匂いが、」
「?」
「するのよ…あの組織の匂いが…。もちろん、確信はないけど…。そんなわけで、わたしたちの正体と組織の存在を知っている警察官であるあなたに、相談したってわけ」
「……新一くんは、その匂いのこと知ってるの?」
「さあ、どうかしらね。仮住まいさせた張本人だし」
何を考えているのかしら…と、小さい声で席を立ちコーヒーカップをもってキッチンへ向かった。
「おきやすばる…」
組織臭を感じさせる謎の大学院生。ジョディさんや新一くんから何も聞いてないし、まず彼のことを調べてみて…
「僕のこと、呼びました?」
「え?」
振り向くとそこには、眼鏡をかけた茶髪の男性がいた。
「……!?」
予期せぬ事態のため、どう言葉をかけていいのかわからなかった。すると男性の方から、フッと笑みが漏れる。
「今、僕の名前を呼びましたよね?『沖矢昴』って」
「えーと、あなたが『沖矢』さん?」
もしかしてこの人が…?
「ええ、いかにも。ところであなたは?僕とは、はじめまして、ですよね?」
「あ、わたしは##NAME2####NAME1##です」
すると彼は少し考えた仕草をした。
「##NAME2####NAME1##さん…。ところで、博士はどこにいるか知ってますか?」
そういえば博士、買い物に行ってくるって言ってた気がする。行き先は聞いてないけど。でもあの様子だったら、あと少しで帰ってきそうな雰囲気だ。
「博士だったら、今少し出掛けててそろそろ戻ってくるかと…」
目線を下に向けると、彼の両手は鍋で塞がっていた。そういえばなんでこの人、鍋なんて持ってるの?
「そうですか…」
そう答えた沖矢さんは、持っていた鍋を見つめた。
「あの、その鍋は…?」
「ああ、シチューを作り過ぎてしまいまして。食べきれないので、お裾分けに…」
お裾分け…。よくよく見ると彼は、タートルネックにジャケット、そしてエプロンを付けている。エプロンということは料理でもしていたのだろうか。
「あ、そしたら受け取っておきますね。博士にもちゃんと伝えておきます」
「ええ。よろしくお願いします。博士もいないことだし、僕は帰ります。キッチンにいる彼女にもよろしくお伝えください…」
「彼女って、哀ちゃんのこと?」
「ええ。ところで##NAME2##さん」
「なんでしょうか?」
「気を付けた方がいいですよ」
「え?」
きをつける…?彼は眼鏡を掛け直してこういった。
「玄関、開けっ放しでしたよ。戸締りには気を付けた方がよろしいですよ。こうやって僕も入ってこれたわけですし。博士にお伝えください。最近、このあたりは物騒だと」
彼の言うとおり、確かにここ最近米花町で物騒な事件が続いてた。
「はい。ご丁寧にありがとうございます。」
「それでは、僕はこれで…」
ガチャンと、玄関の扉が閉まったのを確認して、鍵を閉めた。
「哀ちゃん、もう大丈夫だよ」
「…行った?」
キッチンに隠れていた彼女の名前を呼ぶと、恐る恐るリビングを覗くように出てきた。
「行ったよ。でも彼……」
恐ろしいことに気配を感じなかったし、一言も哀ちゃんがどこにいるかなんて沖矢さんに言っていないのに、彼女がキッチンにいることも知っていた。怪しいけど…。
「悪い人じゃない気がする…」
「………」
あくまでも勘にしか過ぎない。雰囲気というか、あの感じ、前にどこかで感じたことがあるような気がする。どこだろう…?
「まあ、調べるに越したことはないけどね。今のところ彼の周りで事件も何もないから警察官として調査はできないけど、個人的に調べてみるね」
「…ええ、お願い」
哀ちゃんは、俯いて返事をした。こういう時に、彼がいればいいのに…。FBIはなんて頼りになる人を失っただろう。死んだ彼は、もう戻らない。当然ことなのに、今でもこうやって彼の名前を呼ぶ。
「秀くん……」
「…すまない、」
まさか彼が、静かにわたしの名前を呼んでることなど知らずに。
2014/04/26
2014/04/28(加筆修正)