ネタ帳


HEROs
安澄(エンペルト♀)
忠直(ペンドラー♂)
清心(ミロカロス♂)
 私は決まった時期に同じ夢を見る。
そこは温かい水の中。自分の目が閉じているからか、それとも外から光が入ってくるのを遮られているからなのかは分からないけれど、視界は真っ暗。でも心地の良い空間。そこで深い呼吸を繰り返し、あの人に会えるのを今か今かと待ち遠しく思っている。そんな夢を、記憶から薄れてきたころに再び見る。

「早く産まれておいで、僕の可愛い妹」
「大丈夫。父様母様がいなくても、兄の僕が守ってあげるから」
「お外は楽しいよ。だから安心して生まれておいで」

 顔も名前も知らないあの人は、いつも優しい声で私に語りかけてくる。繰り返してこの夢を見ているうちに、声をかけてくる人は自分が産まれてくるのを待っている様子であることに気付いた。だから語りかけてくるとき、私のことを必ず僕の妹と呼ぶ。卵なのにどうして性別が分かっているのだろう。そんな疑問をぼんやりと抱きながら、聞き覚えのないはずなのに、どこか落ち着く声に身をゆだねる。

「1人は寂しいんだ。だから早くおにいちゃんのもとにきてよ」

 泣きそうな声。どうしてそんなに寂しそうなの?
 声を出そうとしても、聞こえてくるのは自分の声ではなくこぽぽっと泡を吐く音。ああ、まただ。また私はこの人に返事をすることなく目を覚ましてしまう。どうしてだろう。全く知らない人なのに、自分の兄はあの3人以外の他にいないのに。大丈夫だよおにいちゃん。私が傍にいるからね。と抱きしめたくなる。

「お願いだから、1人にしないで」

 ねえ、あなたは誰なの? 私のなに?

* * * * *

「前ちゃんとみないとぶつかるよ」
「へ?」
「……はあ。全くしっかりしてくれないかな? 安澄は見た目が大人びているんだから振る舞いもそれ相応にしないとタカネの教育が疑われるというか。いや、常に無理をしてとまでは言わないよ。ただ外にいるときは気を張ってほしいんだ、特に今回の任務は」
「清心、煩い、鬱陶しい」

 面倒臭いと舌打ちをする忠直と、舌打ちなんて行儀が悪い! とお説教をする矛先を忠直に変えた清心。いつも通りの光景、なにも変わらない2人の兄。この2人が自分のことを「おにいちゃん」と呼んで寂しさを呟くところはあまり考えられない。タカネと別の任務へ行っている勇言なら……ありえなくもないのかなあと思うけど、それを言うとしたらあずではなく、忠直に対しての方がしっくりくる。だったらあの夢は誰なのだろう。3人の兄が傍にいてくれるだけで十分満たされているのに、それ以外に兄を名乗る人が現れる夢を見るなんて。
 今朝見ていた夢を思い出してはまた悩む。これを起きてからずっと繰り返している。だから清心にしっかりしてと注意されるのも本日何度目になるのか。もうすぐ両手じゃ数え切れなくなりそう。まだ本日の護衛対象に会ってもいないこの段階で。うう、ちゃんとしないと。ぺちぺちと頬を叩いてから2人の言い合いに割り込む。

「ねーねー。今日の任務って護衛なんだよね?」
「あ、ちゃんと聞いてたんだ。朝からぼーっとしてるから頭に入ってないと思ってた」
「あず、お仕事はちゃんとするもん! でもなんでそれ、タカネのところにきたの? 護衛系ってしぐりんとからむちーたちの方が得意じゃん」
「先方からの希望みたいだね。だからこそ今回の任務はいつも以上に気を引き締めてほしいんだよ。あちらから指名してくれたのに、よこすのはこんなふざけた奴だとはどういう了見だと印象を悪くしたくないし」

 途切れる様子のない清心の心構えを右から左へ聞き流す。忠直の方を見てみれば、面倒臭いと顔に大きく書いてため息を1つ吐いていた。ああ、幸せがまた逃げちゃう。代わりにあずが大きく息を吸えば「人の口から出た幸せを吸おうとしない」と頭を軽く叩かれた。何も言っていないのに察してくれるなんて、さすがあずたちの次男!

「ちょっと2人とも聞いてる?」
「聞き流してる。で、その俺たちを指名した物好きな護衛対象って誰だっけ」
「……今人気が右肩上がりの男性アイドルグループ・風林火山だよ。なんでも最近ファンの行動が目に余るもので、彼らに危害が加えられそうとか」
「あずその人たち知ってるよ! あのね、リーダーの人がね、ポケブルーなの!」

 アイドルには興味ないけど、その人だけはお気に入りなの! 右手を挙げてそう伝えれば、忠直は「安澄が戦隊物好きなのは知っていたけど、特定の人物に入れ込むのは珍しいね」と驚いた表情を浮かべていた。

「んー、あずもアイドルとかあんまり興味ないんだけどねー。なんだろう、あの人には惹かれるものがあるというか」
「同じエンペルトとして何かあるんじゃない? 種族違いだけど同じタイプの僕も惹かれるときあるんだよね、さすが皇帝って感じで」

 ああ、そうだ。そういえば彼もエンペルトだった。確か色違いの。シンオウ地方でポッチャマは初心者用ポケモンと言われているけど、それと同時になかなか見つからない珍しい種族とされている。その上色違いだなんて大変なんだろうなあとぼんやり思った覚えがある。

「サインとかもらえたらいいよね。そーちゃんときゅーちゃんもファンなんだよ!」
「そういう邪な考えを抱くのはやめてくれないかい? 僕たちは自分を律し、お手本になるような振る舞いをし、困っている人たちを助ける」
「それシグレさんがよく言っていて飽きた。あ、この部屋だ」

 今日も清心の話は長い。そして忠直の切り方もいつも通り清々しいくらい。うん、いつも通り。あの夢を見てもいつも通りの日常だ。任務の内容も珍しく護衛系なものだけど、初めてなわけではないし。特に変わったことはない……のに、今日はどこか心がふわふわと浮ついた感じがする。

「いい? くれぐれも失礼のないようにしてよ。相手はメディアで情報操作するのだって容易い人気グループなんだから」
「あー、はいはい。分かった分かった、中はいるよ」

 忠直がノックをするとすぐに返事がきた。テレビを通して聞く声と生の声ってやっぱり違うんだなあという感想とともに、何かひかっかる感じがした。なんだろう? もやっとした胸を触って首を傾げる。
 そうしていると、早く中に入ってと清心に背中を押された。そこにいたのはテレビでよく見かける4人の男性。その中でもやっぱり、毎週日曜日の朝に見ている戦隊ヒーローポケレンジャーのブルー役をしている彼、山音さんに目がいった。あれ、こんなにミーハーだっけ、そんなつもりなかったのに……。と少しショックを受けていた間に、話が進んでいた。

「お待たせして申し訳ございません。この度HEROsからあなた方を護衛させていただくことになりました、清心と申します」
「同じく、忠直」
「……安澄、です」

 2人につられて軽く会釈をする。それから風林火山の人たちが自己紹介をしてくれる。その間も私の中にはよく分からないものがぐるぐると回っていた。なんだろう、何が引っかかっているんだろう。テレビではよく見ているけど、ブルーの人以外はあまり知らないのに。

「俺が風林火山のリーダーを務めている」

 他の人の自己紹介は右から左に流れてよく聞き取れなかったのに、彼の声だけははっきりと聞こえてきた。最後の人だから、とかそうじゃなくて。同じエンペルトだから惹かれたとかそういうのではなくて。この人の声を最初に聞いて、何が引っかかっていたのか気付いたから。

「名は山音。短い間ではあるが、よろしく」

 そうだ、この声。あの夢の声とどこか似ているんだ。

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