ネタ帳


雪組の過去話
フブキ(トレーナー♀)
赤羽(ムクバード♂)
 赤羽は不満を抱いていた。

「ん」
「ピアッサー? え、どうしたの」
「買ってきた」

 珍しく出かけに行っていた赤羽が戻ってきたと思いきや、買い物袋ごと押し付けられたことにフブキは困惑する。旅の合間に稼いだお金はほとんどバトルによるものだから彼らが自由に使うことにはなんの問題もない。無駄遣いする子たちでもないし、生活費さえ残してもらえれば勝手に持ち出してくれたって構わない。しかし、買ってきたものが予想外の品物だった。

「開けて」
「え、え、赤羽? どうしたの突然」
「いいから」

 今までピアス穴開けたいなんて一言も言っていなかったのに。ポケモンセンターの宿泊室に付属しているクッションを抱えて座る赤羽の傍に寄ってもう一度「どうしたの?」と問いかける。

「駄目なのか?」
「だめってわけじゃないけど、突然すぎて驚いたというかなんというか」
「じゃあ早く。青花たちが戻ってくる前に」

 買い物から帰ってくるのがやたら早いとは思っていたけれど。2人がいない間にやりたいからなんだ。この時間は確かロビーの通信機で春光たちと近況報告をしているはず。などとぼんやり考えて開けてくれる様子がないと見た赤羽は、クッションに顔を埋めて言った。

「お前ら3人ともしてるのに俺は駄目なのか」
「え……もしかして気にしてたの?」
「たまに同じやつつけてるくせに」
「赤羽もしかして拗ねて」
「ない」

 食い気味に否定される。しかしそっぽ向いた様子はどう見ても拗ねていた。捕まえたばかりの頃はあんなにつんけんどんで、自分をトレーナーとして認めないさっさと逃がせと騒いでいたあの赤羽が。1人だけピアスしていないことを気にしていた。その変化に気付いたフブキは感動のあまり飛びつく。べたべたとしたスキンシップを好いていないことは知っていたから避けていたが、そんなの気にしていられない! と喜びを全身で表現するようにめいっぱい抱きしめた。

「〜〜っ、赤羽!」
「抱きつくな!」
「ごめんね、仲間外れにしてたわけじゃないんだよ。だから拗ねないで!」
「だから拗ねてないつってるだろ!」
「いいよ、開ける。開けてあげるから!」
「その前に離れろ!」

 強引に引き剥がされる。しかしフブキは嬉しさのあまり頬を緩めたままでいる。赤羽は舌打ちをしてこの場に青花と長白がいなくてよかったと心から思う。いたらさらに騒がしいだけでなく、あの青花のことだからからかわれたに違いない。

「それにしてもちょっと意外だな〜」
「何が」
「赤羽が繋がりを目に見える形で求めるなんて」
「別に。……ただ」

 赤羽は不満を抱き始めていた。なんとなくそれを自覚したのはムクバードに進化したあたりから。最初はもやもやとした不明瞭なものだったが、その不満がなんなのかはっきりしたきっかけはよく覚えている。3人が同じピアスをしている。青花と長白がつけているものが同じであったのは知っていたが、あれは人の姿になったとき既に身についていたものだと思っていたから気にしていなかったが、フブキも同じものを身につけているのを見たとき、 意図的に揃えているのだと気付いた。

「俺は月日の付き合いだから」

何年も一緒にいる2人と、旅をしてから出会った自分ではどうしても埋められない溝がある気がした。フブキにとって家族である2人と比べたら、自分は大した存在にはなれない。そんならしくないことを考えるようになっていた自分自身に、赤羽は不満を抱いていた。

「当然のことだって分かりきってるのにな」
「……そっか、赤羽は気付いてなかったんだ」

 鞄から消毒薬とアイライナーを取り出していたフブキは、赤羽の独り言に近い語りを聞いて笑う。ちゃんと話せばよかったね、ごめんね寂しい思いをさせちゃって。そう言って頭を撫でると、何が。と再びクッションに顔を埋めた。

「赤羽を捕まえたその日に目には見えないけど見える繋がり作っていたよっていう話」
「なんだよそれ」
「名前」
「……名前?」

 始めるから顔あげて。そう促されてあがった顔はむすっと不機嫌そうだった。余計なことまで語った気がする、とでも言いたげだ。

「私、決めていたの。旅の中で捕まえた初めてのポケモンの名前には赤をつけるんだって」

 耳たぶを消毒する。アルコール独特の臭いと触れた冷たさに肩を揺らす。マーキングするから動かないでと顔を小さな手で固定された赤羽は、フブキの声に耳を傾けて大人しくしている。

「青花と長白って個性が強いでしょう? 」
「フブキと長いこといるだけあってな」
「あはは、それは否定できないな〜。……だから思ってたんだ。旅で合流した子、特に最初の子は同じくらい個性豊かで強かになってもらわないとって」

 このあたりかな。使い慣れたアイライナーでピアス穴を開ける位置をマーキングする。1度開けたらやり直しが効かない。しかもコンテストで活躍する子、人に見られて輝く子なのだから尚更気を遣う。慎重になりすぎるくらいがちょうどいいくらいな作業を終えると、一息ついて手鏡でここに開けるけどいい? と確認をする。

「世界中どこでも見られる空。自然界の大部分を占めている海。それが青花の色」
「…………」
「どの色にも染まる。けれどたっぷりと混ぜればどんな色でも淡く優しい色にする。それが長白の色」
「……壮大だな」
「まあ2人の場合は旅を出る前に浮かんだ後付けみたいなものだけれどね〜」

 耳元でぱちんっと音が響く。耳たぶを貫く痛みより、その音に赤羽は顔をしかめた。「思っていたより血がでないな」と呟けば、「少ししたら熱帯び始めるから冷やした方がいいかも」と返してからもう片方の耳にピアッサーをあてる。

「だから旅に出る直前に決めたの。次に家族として迎える子は絶対赤色にするって」
「……赤色」
「生きていくうえで必要不可欠な火の色。愛情や情熱を表現する際に用いられることの多い色」

 ぱちんと同じ音が再び響いた。2度目となればそこまで不快な感じはしない。両耳綺麗に開いたことを確認したフブキは満足して頷く。先にピアス穴を開けた耳がじんじんと痛み始めているが、我慢できないほどではないなと赤羽は口にしない。

「赤羽は2人と並んでも色褪せない、十分特別な存在だよ」

 優しい声色で語りかけられた赤羽は目を閉じて、今の言葉を頭の中で反芻する。
フブキは思っていた以上に自分に期待をしていたこと、自分が知らないところで消しようのない繋がりを結んでいたこと。きっとその意図は語られなくても青花たちは察していたのだろう。

「思っていた通り。赤羽によく似合うよね、その色」

 じくじくと痛み始めた耳に触れると、言われていた通り熱を帯びている。そしてかつっと触れたファーストピアス。無意識に選んだ色であったが、フブキはそれに大変満足しているらしい。にこにこと幸せを噛み締めているのを隠しもしない様子に、赤羽はため息を1つ吐き、雑に撫で回す。髪が乱れるとすぐに解いて整え直す彼女のこだわりは知っているが、そんなのお構いなしに。一通り撫で終わるとそっぽを向き、呟いた。

「当たり前だろ。お前がつけた色なんだから」

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