ネタ帳


HEROs
苺花(ニンフィア♀)
雪蜜(ロズレイド♀)
 女の子らしい桃色の髪は傷み知らずで、とても綺麗。丁寧に編まれたフィッシュボーンの髪型はよく似合っており、少し横髪が跳ねているのはご愛嬌。長いまつ毛に縁どられたぱっちりした目は澄んだ空色をしている。色白で滑らかな肌。小さな顔はいつも優しい笑みが浮かべられている。ニンフィアという種族柄リボンもよく似合っており、背中で結んでいる触手は時折感情に合わせて動いている。そんな可愛いの塊が苺花である。
 恵まれた容姿だけでなく、愛らしさが詰め込まれた内面を兼ね備えた彼女はさすがの一言に尽きる人気者。その人気を一目で分かるようにするとしたら、HEROsを取り扱う雑誌で行われた人気投票の結果を参考にすることが一番である。可愛い女の子ランキング、笑顔に癒される子ランキング、妹にしたい子、彼女にしたい子、その他いろいろ。あらゆるランキングで1位を独占している。ちなみに男女混合のランキングでも上位に食い込んでおり、その前後には彼女の同じトレーナーの下にいるポケモンたちの名が連ねている。

「……羨ましいわ。愛想のバーゲンセールを容易にする貴女が」

 そんな可愛いの代名詞みたいな苺花を、雪蜜は羨んでいた。それと同時にひどく妬んでいた。外を歩けばいろいろな人に声をかけられ、笑顔を向けられる彼女の存在が。HEROsを知る人なら誰にでも認知されている人気者が。

「バーゲンセールというのは、あまりいい気分のしないものなのですが」
「でも実際そうでしょう? 誰にでもにこにこ笑いかけているもの」
「それはいけないことですか?」

 そして苺花はそんな雪蜜に苦手意識を抱いていた。人を嫌うことをほとんどしない、いや雪蜜に出会うまでしたことのない彼女が珍しく。刺々しい言葉を向けられた苺花は普段浮かべている笑顔ではなく、警戒した表情を浮かべる。

「いけなくないわ。ただよくやるものだと思って」
「別に故意でしているわけではないのですが」
「あらそうなの? 媚を売るのは貴女の専売特許だと思っていたから、てっきりその愛され笑顔も計算の上だと思っていたわ」

 だってほら。貴女は異性ならば誰でも魅了するメロメロ使いじゃない。
 くすりと人を小馬鹿にした笑みを浮かべる。全く別種のものだが、そうやって人の嫌なところを突いて煽るところは人型をするポケモン嫌いなトレーナーにそっくり。目に見えて分かる挑発に苺花は乗らないように、深呼吸を数度繰り返した。

「雪蜜さん、私に何がご用事ですか? わざわざ声をかけてくださったのはそのようなことを言うためだなんてことないですよね?」
「特に用事はないわよ。ただお散歩をしていたら今日も今日とて人気者をしている貴女を見かけたから声をかけただけで。ああ、そうね。強いて言うならその人気者の秘訣を教えていただきたいというところかしら。やはりメロメロを使ってのことなの?」
「……本当に私が嫌がるところをつくのが上手ですね」

 技構成にメロメロをいれているのはシグレの戦略。だからそれに文句を言うつもりはない。しかし、この技を使うと相手の好み関係なく魅了してしまう。それでバトルで有利になることは当然なのだが、同時に自分に好意的でいてくれるのはメロメロにかかった後遺症であるからなのではないか。使っていない相手でも、もしかしたらメロメロを覚えているからそれに釣られているのではないか。だとしたらそれは本当に自分自身を好いてくれることになるのだろうか。このような不安は苺花の胸の奥で常に渦巻いているものだった。

「だってそうじゃない。貴女はにこにこ笑っていればそれ以上何をしなくたって愛される存在になれるもの」
「……何もしなくても」
「私だって誰かに愛されたいのに、愛してほしいのに。それなのに何をしようとしても、それをする前に避けられるのよ。笑顔を浮かべる間もなく逃げられるの」

 たっぷりと毒を含んだ言葉は1つ1つ的確に、苺花の嫌なところを刺していく。これだから彼女と話すのは嫌なのに。大人しく聞いていた苺花はささくれだってきた心を押さえるように、ぎゅっと拳を握る。

「笑顔1つで愛されるお姫様になれるなんて、本当に妬ましい」
「……人を妬むだけでそれ以上は何もしない。誰かが傍に寄ってくれるのを待っているだけ。そんな受け身な貴女に笑顔だけで、なんてことは言われたくありませんね」

 しかし我慢もそう長くは続かなかった。もともと苺花の周りには感情的になって動く類の者たちが多く、彼女自身もそちら寄りなのだ。それでも怒る姿はなかなか見られないのは、そもそも地雷が少ないからその機会がないというだけの話で、こう何度も踏みつけられたら怒りを抑えるというのは難しい話であった。

「確かにそうです。ええ、貴女の言う通り。皆さんが私を可愛いと言ってくれるのは、好意的に思ってくれるのは。過去一度でも私とのバトルでメロメロを受けたから、もしくはその技を覚えていることで周囲の人を惹きつけるなんらかのものが発せられているから。そのようなことを言われたら否定しきれません。私だってそうかもしれないと思っています」

 だから誰かに恋情の目を向けられると自信がなくなる。段々好かれることが怖くなる。メロメロというフィルターを通した自分を見ているから抱かれている好意で、それがなくなった途端に失われるかもしれないという不安がある。

「だけどその分その好意に恥じない私であろうとする努力はしています。自分でも可愛いと納得できるようにいろいろしています」
「可愛い見た目というのは否定しないのね」
「大事な家族たちも褒めてくれる容姿を否定する程悲観的ではないですから」

 身内贔屓の激しい春光と流生からの言葉だとしても、苺花は素直に受け止めていた。そこまで可愛いと言ってもらえるのだから、彼らのセンスが疑われないようにと自分を磨くことを怠らなかった。主であるシグレの妹がシンオウ地方のコンテストを制覇するコーディネーターであるため、心強い味方となっていた。

「何もしていないのにただ自分のために愛されたいとだけ願っている貴女から馬鹿にされるなんて不愉快です」
「あら。じゃあ貴女は自分のために愛されたいと思っていないのに、好かれる努力をするの?」
「私だけのためならここまで頑張れませんし。それに貴女にそのようなことを言われてこんなに腹を立てるなんてこともしません」

 苺花は雪蜜をきっと睨みつける。そんな顔しても可愛らしさが抜けないのだから、やはり容姿というのは大切なものね。と、ご立腹な様子の彼女に臆する様子はなく見下ろす。

「生真面目なせいで誤解されやすく、優しさに気付かれにくい結果人に疎まれやすいマスターの代わりに愛されようとしているのですから。彼のための努力をただ笑っているだけと言われるのは心外です」

 堂々と胸を張って言い切る。その姿に雪蜜は目を細めて再び思う。ああ、やはり彼女は羨ましくて妬ましいと。愛されたいと渇望している自分の理想を、主のためだけに容易に成し遂げてしまうことが。そのために頑張っている結果、自分の容姿は可愛いというところに自信を持って何が悪いのですかと言い切る姿が。その全てが眩しくて遠い。

「前言撤回してくださいとは言いません。しかし2度目はないと思ってください」
「怖い怖い。いったいどうなるのかしら」
「決まっています」

 背中でリボン結びをしていた触手が解け、威嚇するように雪蜜の方を向く。戦意も敵意も剥きだしである。逸らされることのない鋭い視線が刺さり、雪蜜はぞくりと身体を震わせる。
 この感覚、嫌いじゃない。むしろ良い。これだから彼女を挑発するのをやめられない。自分を通して家族のことを馬鹿にされたらすぐに怒るから。毒タイプが苦手なくせに、真正面から向き合って喧嘩を買ってくれるから。

「HEROsの隊員らしく実力行使で黙らせます」
「それは素敵ね」

 羨ましくて妬ましい苺花の不安を煽ることが楽しくて仕方がないのだ。

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