蘇る彼女の語る幸せ

 真昼は言っていた。俺たち本当に死ねないんだなあと。それに関して後悔はしていない。それを悔いるということは即ち美紅様との出会いそのものを悔いることになるから。それはあり得ない、あり得てはならない。そう熱弁すれば美紅様は「きっと2人は私に必要以上の恩を抱いているだけですよ」と寂しそうに語られる。
 そうじゃないの美紅様。きっと私も真昼も出会いの形がどうであれ貴女に出会えばどうしようもなく惹かれて心酔しているの。どこにその要素があるのかと語り始めたら長くなるから割愛。というか話が逸れたね。

「死ねるか死ねないかと聞かれたら私は死んでいるんだと思う」

 それはきっと私は真昼と違って痛みに耐えられないから。それでも一般的な人やポケモンでは耐えられない激痛では意識を保てているのだろうけれど。どうだろう、比較対象が分からない。私たちがこういう身体になったのは幼少の頃だから。幼い、んー、幼いのかなあ。150年以上という年を考えれば二桁前半の年齢はいくつだとしても幼い気がする。
 え、じゃあ私はどうかなって? 夢子ちゃんはまだまだ若いよ。うん、60代でしょ。というか夢子ちゃんの場合はその年齢でも毛穴知らずのつやつやロリフェイスにロリボディじゃない。同じ女として羨ましいよ。うん、でもそれは支払った代償の後遺症という感じだし素直に喜べないよね。

「それでなんだっけ、そうそう。死んでいるという話だよね。うん、私の身体は活動限界があるんだと思う。致命傷を負って激痛に苦しんだら電源を落としたようにふっと意識が消えるの」

 真昼と比較するとよく分かるよね。私たち一度くらいは首と胴体が切断されているんだよ。どうしたらそんな機会があるかって? んー、なんだっけ。経緯は忘れちゃった。大したことないからね。その怪我で死んだとしても死ななかったとしても、私たちは最終的に生きているからね。怪我の全てが等しくかすり傷だったになるんだ。当時はそんな風に思っていないけれど、怪我をすれば痛いし苦しいしそれはもう辛いのなんの。だから振り返ってみればという話ね。

「真昼はねそんな姿になってなお普通に動くんだよ。頭の方は動かないから言葉発するとかはできないけれど身体の方が大暴れ。それを止めるのは一苦労だよ。あんな姿を見せれば美紅様は絶望するだろうし、私しか止められないというのが本当難点」

 タイプ相性が有利で本当によかったよ。これで種族も逆だったらもう無理。真昼は私対策にめざめるパワーを覚えているけれどね、狙ったようにかくとうタイプで。でも有効打がそれだけだとしてもねえ、マジカルシャインは広範囲で狙える分威力が落ちるし。だからこの振り分けは最適だったよね。

「対して私は首と胴体が分断されたら動けないよ。身体を支えることもできず重力に従って地面に叩きつけられる。頭部はボールみたいにごろごろと転がっていっちゃうの。夢子ちゃんは見たことあるっけ? そこまで身体が破損したら志寿さん以外は治せないと思うからここで治療を受けたと思うんだけどなあ」

 あ、見たことない? じゃな夢子ちゃんが森にくる前のできごとだ。年かなあ。もう何年前のことかとか、誰が関わっていたとか思い出せないんだよねー。その時期にこんな子と仲良くしていた気がするけれど誰だったかなって。楽しかった雰囲気は思い出せるのだけれどその子の顔とか名前は全然思い出せないんだあ。当時は大切なお友達のつもりだったんだけれど。

「ちなみに真昼は深く親しくなった人のことは全員覚えているんだよ。ほどほどにするとか口では言いながら深入りしちゃうの。んー、それも死ねない死んでいるの差なのかなあ」

 あ、話が逸れてるよって? ごめんごめん、ついお喋りがすぎて脱線しちゃうんだあ、夢子ちゃん聞き上手だし。ちなみに真昼とお喋りが盛り上がると本題忘れて落ちが作れないときは多々あるよ。2匹して忘れん坊だね!
 で、首と胴体が切断したときのお話に戻るんだけれどね。私たちの反応の違いから真昼は確かに死ねない。どういう状態になっても生きている、記憶が残るかどうかはおいておいてね。あ、さすがにミンチとかミキサー状とかになったらどうなるかは知らないけれど……さすがにそんなむごい状態になることはないでしょう、絶対なりたくない。で、私は死ぬことはできる。ただ首と胴体がつけばこの通りなんの後遺症も残らず活動できるようになる。つまり死んで蘇っているというわけ。

「この違いは体験しないと分からないのだけれど結構違うんだよ。真昼は死ねない。つまり愛おしい人ができてしまえば苦しむことになるの。だってそうでしょう? その人が亡くなったらあとを追って同じところに行くなんてできないんだもん」

 私は死ぬことができるから。大切な人を失ったとして後を追うことはできるから。……後を追っても途中で帰されるのだろうけれど、蘇生しちゃうし。きっとその人への気持ちだけついていってこちら側に戻ってくるということ。例え話だよ、そういうこと一度もしたことないから実際は分からないの。
 でも真昼はいつまでも昔の友人を覚えていることに対して私はほとんど忘れちゃっているというのはそういうことなんじゃないかなって。記憶が薄れ始める直前に大体死んでいるし。でもいいの。美紅様と真昼がいれば十分なの、忘れようもないでしょう? それと緋王様と朱彦様ね、美紅様がとてもとても大切にされているから覚えているよ。夢子ちゃん? んー、どうだろう。忘れたことないなあ。関わりあるうちは忘れないと思うよ、縁が切れたら記憶も薄れるというやつかな! あ、でも森の子たちのことを忘れることだけは辛いと感じるかな。

「問題は何度も何度も死を体験するということ。あ、これ死んだかなと思いながら意識を手放して、数日後に蘇る。もちろん治療が終えてからの話だよ、目を覚ますのは」

 それってすごく恐ろしいことだよ。目を覚ましたとき、死の瞬間が一瞬で駆けるの。激痛や苦しみ、じわじわと下がる体温、遠ざかる景色や音。それから聞こえるの、心臓の最後の音が。生々しく蘇って気持ち悪いんだ。ね、いくら蘇生するとはいえ何度も体験したくないものでしょう? だからといって死ねない方がいいかと聞かれると答えられないけれど。

「ねえ、夜子ちゃん。やっぱりそれは自身の体質を嫌悪していない?」
「え、まさか! 何度も言うけれどね、この身体になったことは後悔してないんだよ、とっても喜ばしく思っているくらい!」
「……でも」

 一連の話を聞いた夢子ちゃんは難しい顔をして言葉に悩んでいた。うんうん、その気持ち分からなくもないよ。到底理解しがたいお話だもんね。私だったら頭大丈夫か心配して病院連れて言っちゃうんだもん。でも自分の身に起きたことだからなあ、理解できなくても感覚で分かっているというか。

「この身体である最大の利点はこの命、尊い美紅様とともにあれることだよ」
「美紅様が亡くなられたら終える命でもあるんだよね? じゃあもう少し生きたい、一緒にいたいと思える相手と出会ったときに美紅様の寿命がきたらどうするの」
「当然美紅様とともに」

 即答。
 夢子ちゃんは言葉を失った様子だった。それからこれは言ってもいいのかどうだろうかと悩む仕草を見せる。

「私も真昼も本当にこの身体になって悔いたことはないよ、絶望したことはあるけれど。それでもいいと思えるの。だって美紅様を1匹にすることはないのだから」

 緋王様がいるから彼女だけが取り残されるということはないのだろうけれど、そこは例外として。朱彦様も比較的長命であられるけれど……恐らくキュウコンの寿命よりは短いでしょう。そして美紅様が愛おしく思う人も彼女の生涯を見届けることはできない。

「必要なんだよ、美紅様には。ずっと傍にいて最期を見届ける人が。その大役を私たちが担えるというのならそれ以上の幸せはないよ」

 美紅様は唯一知らないことだと思う。緋王様がそれを考えて私たちにそういう身体を与えたということを。一生知らなくてもいい。知ってしまえばそれこそ優しい彼女は自分を責めるから。

「……でも」
「ん?」
「それってやっぱり誰も幸せになれない関係性よね」

 それは幸せの定義によるんじゃないかな?
 そう笑ってみると夢子ちゃんはやっぱり眉間に皺を寄せて理解できないという顔をするのだった。

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