雪色をしたチョコの味

「また眉間に皺が寄ってる」

 疲れているか苛々しているからかは分かんないけど、そういうときは甘い物でも食べて癒されなさい! と無邪気な笑みを浮かべて俺の手の平に転がされた正方形の形で紙に包まれたホワイトチョコレート3つだった。


 見つめても睨んでも転がしても減らない手の平にあるチョコレート。紙に包まれている状態でも分かる甘い香り。野生のときには嗅いだことのない、人工的に作られた匂い。さてどうするか。警戒して1つも開けられていない3つのチョコレートを見てため息を吐く。

「なーにじめっとした空気まとってため息吐いてるんだ。幸せ逃げんぞ!」
「お前らに捕まってから幸福の大部分は逃げたと思うが」
「またそういうつれないこと言いやがって。青花に負けたからって八つ当たりはよくないぞー」
「負けてない」
「強がりを。ムックルがガバイドに勝つとか難易度鬼すぎるだろ、力の差は素直に認めるべきだぞ」

 乱暴に頭を撫でまわされる。力の加減を考えてほしい、お前は無駄にでかいんだから。頭がもげそうだ。そう言って手を払えば「赤羽の頭がもげるならフブキちゃんの頭はずっと昔に胴体とお別れしてるぜ」とげらげら品のない笑いをあげた。確かにと納得するしかない例え話だ。俺よりも小さくて細いあいつならいとも簡単に千切れそうだ。

「で、フブキちゃんが慰めの意味込めてあげたチョコは食べないのか?」
「……俺、甘いの好きじゃない」
「そっかそっかあ。それは早いうちに言ってやれよ。好き嫌いを把握するのもコーディネーターの仕事だっていつも言ってるし」
「……」
「嫌いなら無理せず後で返すか、なんなら俺が貰ってやってもいいけど」

 ん、と差し出された大きな手。くそ、種族がイワークなだけあって無駄にでかい。これがハガネールに進化したら更に大きくなるとか腹立たしい。何年経ってもこいつの身長だけは抜かせそうにない。自分の手と見比べながら「お前が食べたいだけだろ」ため息を吐く。

「あ、ばれた?」
「ばればれだ。貰ったからには自分で食う」

 包み紙を剥いで口の中に放り込む。すぐさま広がる独特の甘い味。ただの茶色いチョコレートも甘ったるいが、この白いやつはなおさら甘ったるい。好き嫌いが分かれるような味だ。それにしてもこの味、何かを思い出すような。ああ、そうだ。

「……あいつだ」
「ん?」
「これ、フブキみたいだ」

 癖の強い甘ったるさ。大量に摂取したいわけじゃない、けれどふとしたときに欲しくなる嫌いにはなれない味。なくなると物足りなくて寂しくなるような。そんな味がする。
 そう長白に伝えたらにやにやと笑っていた。しまった、言うんじゃなかった。チョコレートを食べて口が軽くなったらしい。そういうところもどことなくあいつに似ていて、腹立たしい。

「いやあ、赤羽もフブキちゃんの良さが分かってきたんだなあ」
「別に」
「いやいやそういうことを言えるということは分かってきたってことだよ」
「お前らみたいに妄信とかはしてないが」
「妄信ってお前なあ……うん、まあでもそのうち分かるって」

 何年も一緒にいたらどっぷりはまってるぜ。フブキちゃんにはそういう魅力があるから。
 なんてにんまりと笑って言う長白に「馬鹿馬鹿しい」と鼻で嗤ってやった。


「なあにチョコをじっと見て。何か不満なの〜?」

 手のひらに転がされたチョコを見つめて懐かしい長白との会話を思い出していたら、顔を覗き込まれる。頬を膨らませた表情で。どうやら何も言わない俺に拗ねたらしい。

「フブキは俺が甘い物をあまり好んでいないって知ってるよな」
「何年の付き合いだと思っているのさ〜。それくらい言われなくても知っているよ〜」
「……というわりに、毎度なんで渡すのはホワイトチョコなんだ。よりにもよって一番甘ったるい」
「んー……」

 少し考える素振りを見せる。それからすぐにいつも浮かべている緩い表情を浮かべて「だってそのチョコだけは食べているとき表情柔らかくなるし」と言う。表情に出した覚えは一切ない。それなのに当然のように断言するフブキは流石というべきか。

「だから好きなのかなあって思っていたのだけれど……違った?」
「……違わない」
「でしょ〜?」

 いくらポーカーフェイス気取ったって、このフブキさんの目は誤魔化せないのだよ! なんて手を腰にあてて偉そうに胸を張って言う姿は……数年経っても相変わらず小さい。青花は腹が立つ程にょきにょきと縦に伸びたくせにこいつはちっとも伸びていない。変わらない奴だなと穏やかな気持ちになる。

「あ、でも」
「ん〜?」
「昔もらった市販のチョコよりも今のフブキが作ったチョコの方が好きだな」
「へ?」
「フブキの味くらいすぐ分かる。何年の付き合いだと思っているんだ」

 包み紙を剥いでチョコを口の中に入れる。包み紙まで市販そっくりに似せているのだから凝り性のところも変わらない……どころか増しているな。昔初めてもらったホワイトチョコレートの味と比べるとしつこくはないけれどやはり独特で甘い味がするのを感じながら折り目のついた包み紙を伸ばして眺める。こんなものどうやって作ったのやら。

「〜〜っ」
「ああ、照れてるのか」
「照れてない!」
「照れたんだな」

 白い頬を染めて静かになったフブキに笑うと、怒った様子で顔を逸らされる。本当に褒められることには弱いな。微笑ましくて頭を撫でまわすと「昔はそんなこと素直に言えない子だったのに……!」と悔しそうにしていた。普段好き勝手して俺たちを振り回す彼女が照れながら大人しくなるというのは気持ちがいいものだな。少し青花の気持ちが分かる。

「やっぱりこの味が好きだ」

 数年前の自分に言ってやりたい。
 馬鹿にしていた長白の予想は怖いくらいに的中したぞ、と。

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