獰猛な鳥の鳴き声と共に赤い羽根が空に舞う。それを掻き消すように炎が渦巻く。
びりっと、頭が痺れるような感覚に支配される。久しぶりに抱いた高揚感。それと同時に、ああどうしてと悔しくなった。
「空純。そんな炎、消してしまって」
「我慢比べか、望むところだ。劉、その風を追い風として利用してやれ」
ウォーグルの勢いのある羽ばたきによって吹いた風が炎を掻き消す。数秒の間を開けるまでもなく、バクガメスが次の炎を吐き出す。消されるのならば先程よりも強い炎を。その企みは成功したようで、未だ吹き続ける風によって炎の勢いが増す。
「本当、トレーナー譲りのしぶとい炎ですね」
「それが売りだからな」
「消せないのならば仕方がない。空純、いわなだれ」
「チッ。劉、トラップシェルだ!」
大きな岩を容易く持ちあげたウォーグルは、バクガメスにめがけてその岩を投げつける。岩がバクガメスの甲羅に接触すると同時に、甲羅から生える硬い棘が光る。咄嗟に「空純!」という鋭い指示が飛ぶ。
「っ、」
「本当、逃げ足の速さはトレーナーに似ているな」
「それは誤った認識ですよね」
「……ああ、そうだった。お前は逃げたように見せかけて、できた隙をつくような奴だな」
爆発によって巻きあがった砂埃が目に入って痛い。けれども、この2人のバトルから一瞬でも目を逸らすのが惜しいと思った。どうして俺は外野にいるのだろう。本来ならば俺もそちら側にいるはずなのに。未だ外れないギプスや動作に制限をかける松葉杖が忌々しい。
「振りほどけ!」
「そのまま食らいついて!」
寸前の爆発によって岩との直撃を免れたバクガメス。そして間一髪で爆発に逃れたウォーグル。今の一瞬によって遠距離で繰り返されていた攻防が近距離に変わる。
ウォーグルの鋭い爪がバクガメスの腕に食い込む。痛みに唸るバクガメスはその腕を退いてウォーグルの首に食らいつく。
「ブレイククロー!」
「りゅうのはどう!」
硬い爪で切り裂き、悲鳴があがる。しかし、その悲鳴も小さいもので、次の瞬間には紫色の衝撃波がバクガメスから吐き出される。攻撃をしたばかりで態勢を整えられずにいたウォーグルに直撃をする。
「空純、もう少し行けますよね」
「劉、次で決めるぞ」
激しいぶつかり合いもいよいよ大詰め。2匹のポケモンは身体のいたるところに傷を作り、肩で息をしていた。同じように2人のトレーナーも汗で地面にシミをつくり、呼吸を荒くしている。でも楽しいんだろうな。そう、楽しいんだ。
「ほら、そこのぐれた引きこもり。ちゃんと見ていてくださいよ」
「お前がへまをして入院している間にどれだけ距離が開いたのか見ておけよ」
島をめぐってバトルして。ライバルと切磋琢磨をしてポケモンと強くなる。そして長い付き合いの友人と繰り広げるバトルは本当に楽しいのだと知っている。けれど、俺は不注意で大怪我を負い、こうして病院に長居することになった。完治したところで島めぐりの再開は難しいと言われた。それが悔しくて悲しくて、もうポケモンバトルも見たくないほどで。その思いが頭を埋め尽くして母さんにはもちろん、毎日欠かさずお見舞いに来てくれた園香にも八つ当たりをした。ぱたりとお見舞いにこなくなった他の手持ちたちを恨めしく思った。……もう長いこと顔を見ていないあいつらが、今どういう状況なのかを知ったのはつい最近のことで、園香に言わせてはいけない言葉を言わせてしまったと後悔した直後にこんな思いに駆られるなんて、タイミングが悪い。
「怪我人だから優しくしてもらえると思ったなら大間違いだぞ」
「甘やかしすぎるのは貴方の手持ちだけで充分です」
いや、タイミングが悪いのではなく、この2人の性格が悪いのかもしれない。園香からされた話を思い出すだけで辛いというのに、それを押し殺して2人に相談してみれば突然病院の庭に設置されたバトルフィールドに連れ出されてこんなものを見せつけてきたのだから。……かもしれないじゃない。鬼だ。鬼が2人もいる。
「空純、ブレイブバード!」
「劉、かえんほうしゃ!」
空高く飛び、バクガメスから距離を置いていたウォーグルは、鋭い鳴き声をあげて急降下する。そんなウォーグルに向けて膨らました腹に力を入れて、勢いよく炎を吐き出す。離れた場所からでも熱く感じるその炎に、ウォーグルは羽を畳み、躊躇いなく突っ込んでいった。
「……俺もバトル、したいな」
園香にあんなことを言わせた駄目トレーナーが何を言っている。そう言って蹴り飛ばされそうな俺の発言は2匹のポケモンの衝突の音によって掻き消された。
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