青い翼をもった女の子は1羽木の上に

 ペラップとは人の言葉を覚えて鳴くポケモン。仲間と集まるとみんなで一緒の言葉を覚える。舌が人のものにそっくりだから話せるらしい。いつだったか、仲間と一緒に過ごしていたときにそう教えてもらった。いつのことだったかな。もう忘れちゃった。だって群れから追い出されもう長い時間が過ぎた気がするんだもん。一匹でいると退屈で時間がすごくゆっくり進んでいる気がするし。

「今日もいいお天気だね」
「雨はしばらく降っていないけど、あなたはだいじょーぶ?」
「何日もひでりが続いていると乾いちゃいそうだね。ほら、少ししおれてる」

 枝を広げて葉をつけた大きな木。それの一番太い枝の上が今の住み家。雨も風も日差しからも逃げることのできるとてもすてきな場所。ただいくらおしゃべりしても返事をしてくれる人がいないからさみしい。せっかく人の姿になって上手におしゃべりできるようになったのに。あーあ、さみしいなあ。

「ろうで固めた鳥の羽で飛んで、おひさまに近づきすぎて死んじゃった人のお話とかあるよね。あれって周りの忠告を聞かず調子に乗ると失敗するぞ、って感じだよね」
「じゃあわたしもみんなのお話を聞かずに人に近づこうとしたせいで失敗しちゃったのかな」
「でもさあ、でもね。わたしはペラップだけじゃなくて、もっといろいろな人やポケモンとおしゃべりしたかったの。違う種族とおしゃべりしたらもっといろいろなこと知れると思ったから」

 誰も聞いていないのは知っている。でもわたしは毎日飽きることなく同じことをお話する。聞いてくれるのは大きな木くらい。風に揺れてかさかさと鳴る葉っぱの合唱を聞きながら背中から生える青い翼で身を包んで小さく丸まる。さみしいなあさみしいよ、誰でもいいからお返事してほしいよ。せっかく人の姿になったのにこれじゃあ意味ないよ。

「あのね、あのね。わたしのこの姿、気味が悪いんだって。不気味でこわいんだって」
「何度も試したの。どうにかして翼をしまおうとしたよ。でもできなかったの」
「だからね、せっかく人の姿になれたけど人になじめないから、元のペラップに戻ろうとしたよ。でもね、できなかったの」
「あのね、あのね……っ」

 群れのみんなとおしゃべりしているときに、人の姿をしているポケモンに出会った。それは擬人化というらしい。人の姿をして人と同じようなことをして、人が作り上げた生活の一部となって過ごすことができる姿なんだってその人は言っていた。わたしはそれにとても、とっても憧れたの。ペラップでいて、みんなと暮らすことが嫌だったわけじゃない。それだって大好きだった。でも人に近づけばもっとたくさんの言葉を知れる、そしたらもっともーっとたくさん楽しいおしゃべりができる、そう思っただけ。

「わたし昔からそうなの。飛べるようなるのも遅くてね、みんなが言ってたの。お前は物覚え悪いなあって。だからね、人の姿になろうとしたときもどうせ失敗するからやめておけって止められてたの」

 結果、やめておけばよかったってすごく後悔した。確かに人の姿にはなれたの、あの通りすがりの人の姿をしたポケモンさんと同じ。でもね、人と大きく違うところがあったの。わたし、擬人化したときにペラップ青い翼が残った状態だったの。もしも髪の色が赤とか青とか、そういう人と違う色をしていたら一目でどじなポケモンだから翼が残っちゃったのかなって思ってもらえたのかもしれない。けれどペラップのわたしの髪色は黒、瞳の色も黒。そう、翼以外は人にそっくりそのままだった。だから町の人に見つけられたとき言われたの。化け物とか異形の者が山から降りてきたとか、すごくすごく怖がられたの。悲しくて群れに戻ったらだから言ったろと笑われた。それで人の姿にも戻れない、そんな目立ったやつと一緒にいたら自分たちまでハンターに狙われるだろと言われて群れを追い出されたの。

「さみしいなあ。わたしはただ、たくさんの人と仲良くなりたかっただけなのに」

 そうやっていつもと同じように膝を抱えて泣いているときだった。久しぶりに自分以外の声を聞いたのは。

「だああ! どこ行っても木、木、木!」
「そりゃ森だからね」
「ここに来てほんっとーに意味あんのかよ? おい、言い出した未過! ちったあ、なんか言えよ!」
「…………」
「はい、でた! 毎度おなじみのだんまり、しかも無表情!」
「いや、未過くんは無表情じゃないぞ。これはなんて説明しようか考えてる顔だ」
「カケルもカケルでだ! こーんな木しかない森を延々と歩かされた挙句ひと際おーきな木しか見つけれなかったってのになんで文句言わねえんだよ!」
「剛貴、うるさーい」

 とてもとても賑やかな声。こっそりと葉っぱの隙間から覗いてみる。そこにいたのは4人の男の人たち……? 人、人なのかな、あの人たちは。青色の混ざった黒色の髪の一番背の高い人と、砂っぽい色の髪をした一番小さな子。それと緑色の髪をしたぼけーっとした表情の人と……雲みたいに白い髪と空みたいに青い瞳をした人。ポケモンに近い気がする。一番背の高い人はちょっと分からないけれど……それ以外の人は。

「まあまあ、こうやって迷子になる旅も楽しいだろ?」
「旅っつーか有休消化のための旅行だけどな! なんで旅行でまで迷子になんなきゃなんねーんだよ!」
「未過の予知を信じたからには迷子になってもいいことあるって。例えばほら、そこの木に隠れている子についてとか」
「はあ?」

 白い髪の人と目がぱちんと合う。びっくりした。それなりに高い場所にいて、葉っぱで隠れているのにすぐに見つかるなんて思ってなかったから。それを聞いた小さな男の子は「はあ?! こそこそ盗み見るとか卑怯だぞ、さっさと降りてこい!」なんて白い髪の人の目線を追ってわたしに怒鳴る。

「こんにちは、お嬢さん。俺らこれから昼飯食うんだ。ちょっと騒がしい子もいるけどよかったら一緒に食べない?」

 笑顔で誘われてわたしが地面に降りるまで残り10秒。
 背中に生えた青い翼だけを見て白い髪の人がペラップかと当ててくれるまで残り1分。
 彼らが持ってきたお弁当を一緒に食べながら、白い髪の人が正真正銘の人間でありトレーナーで他の3人がポケモンであることを自己紹介で教えてもらうまで残り10分。
 そんな彼に手持ちに加わらないかと誘われるまで、それを大泣きして受け入れるまで、一緒に森を出る間に「音羽」という名前をつけてもらうまで……楽しい時間はあっという間に過ぎちゃってそこまで覚えてないかなあ。

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