幸せに微睡む

 目を覚ます。1番に見えたのは規則正しくお腹を上下させて目を瞑っているここなちゃんの姿。少し視線をずらせば、同じように目を瞑って寝息を立てている蒼士くんの姿。2人の体格差は何倍もあって、ここなちゃんが蒼士くんにすっぽりと埋もれてしまいそうなところがまたなんとも微笑ましい。

「……」

 それにしても困ったな。まだ空は白む様子すらない時間だというのに、頭も目もいやにすっきりとしている。寝直したくても難しそうだ。
 穏やかな寝顔が並んでいるのを眺めながら、小さくため息をつく。これが自宅や実家ならば寝ることを諦めて朝食の準備をするところなのだけれども。

「……離したら起きちゃう、よねえ」

 私の人差し指をしっかりと握っている小さな手のひらを見て思わず苦笑い。
 誰かと、しかも赤ちゃんと一緒に昼夜を過ごすというのは思っていた以上に気を遣ってしまうみたいだ。トラくんたちだと物音を多少たてたところで起きやしないし、1人暮らしの自宅なら誰にも気遣わなくて済むからなあ。……まあ、この感じは嫌じゃない。なんだか胸もあったかい気持ちになって満たされるところがある。

「 眠れないの?」
「……起こしちゃった?」

 どうしようかなあ。ここなちゃんの寝顔を眺めているのも癒されるけれど、朝がくるまでずっとそれはさすがに大変かな。なんて悩んでいると、少し声が掠れた蒼士くんに話かけられる。寝起きで目が乾燥しているからか、それともまだ眠たいのか。瞼を重たげで 空を連想させる優しい瞳が半分しか見えない。

「ここちゃんが離さないんだね。解く?」
「うん。でもそんなところも可愛いなって」

 しんと静まっている部屋で、ぽつりぽつりと小さな会話が繋がる。なんだか内緒話をしているみたいで耳がくすぐったい。

「蒼士くん、眠たいなら寝てもいいんだよ?」
「んん、でも」

 うつらうつらと寝かけては起きるを繰り返す蒼士くんに無理をしなくて付き合わなくてもいいんだけどなと声をかければしぶる声が返ってくる。まるで眠くても眠りたくなくてぐずっているここなちゃんのように……うーん、さすがにこの例えは違うかな。
 どうしたら寝かしつけられるんだろうと悩んでいると、大きな手が私の頭を撫でた。

「操ちゃんを独り占めできる時間に眠るのはもったいないなって」

 へにゃり。気の弛むようなそんな笑みを浮かべる。下がった目尻に胸がきゅっと締め付けられる。
普段そういうこと言わないし、言葉にする以前にここなちゃんがいてくれて当たり前だからそういうことをお互いに思うことがないからなんだろう。だから、不意にそんなこと言われたら緊張してくる。

「ずるい」
「え、だめだった?」
「駄目じゃない。だけど独り占めできる時間覚えると味をしめちゃいそうで」

 頭を撫でる手を空いている手で包むように握る。私の手よりも大きくて、ごつごつしている。男の人の手だなあ。

「でも多分独り占めがずっと続くと物足りなくなると思うなあ。ここなちゃんがいてくれないと」
「……、……操ちゃんのそういうところ」

 と、言いかけたところでここなちゃんが身を捩り始める。そして眉間に皺を寄せ、唇はむぐむぐと動く。起こしちゃったかなと慌てて口を閉ざしたのもつかの間、ここなちゃんの表情はまた穏やかな寝顔に戻る。
 どうやら起きる様子はないようだとほっとして、蒼士くんと顔を見合わせてはふふっと笑いがこぼれてくる。

「蒼士くん」
「はい」
「ここなちゃんだけじゃなくて私も同じくらい大事にしてくれようとしてるところ、大好きだよ」

 気持ちがいっぱいに満たされたところで、先ほど途中で終えた蒼士くんの言葉の代わりに私が言ってみる。どうやら予想はあっていたようで、蒼士くんは目を丸めていた、よかった、これで言おうとしていたことが違っていたらどうしようかと。

「先に言われちゃった」
「言ってみちゃった」

 どれだけの時間が経ったのか分からないけれど、これ以上お喋りしていると本当にここなちゃんが起きちゃいそうだからそろそろ寝なおそう。蒼士くんとお話していたからか、それとも繋がれた手に安心したのか、その両方なのかは分からないけれどいい感じに眠気が戻ってきた。

「操ちゃん、おやすみなさい」
「うん。おやすみなさい、蒼士くん」

 なんだか幸せな夢が見れそうだ。

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