火照る身体は求む

 仮眠から目を覚ます。下腹部から太ももにかけてけだるさが襲う。瞼は重く、頭はぼんやりしている。決して良いとは言えない、しかし嫌というわけでもない体調にひまわりは無音のため息をつく。
 寝返りをひとつ打てば右側に規則正しく胸を上下させているガレットの姿。短い前髪は汗で額にはりつき、跳ねて柔らかげな後ろ髪もぺったりしている。その寝姿が可愛らしいだけに、ひまわりと比較して黒い肌に浮かぶ赤い縛り痕が艶めかしい。
 その痕を人差し指の腹をそっと撫でる。高さも幅も自分より一回り以上大きい男性がその拘束感に時折身をよじりながらも熱い吐息を零し、快楽に身をゆだねる姿は何度見ても気持ちが昂る。火照った身体や湿っぽい肌に情事の名残を感じ、ひまわりは頬を緩める。

「くすぐったい」
「あれ、寝てたんじゃないの?」
「そんな風に触られて起きない方が難しいな」
「ふふ。まだ敏感なの?」

 くすくすと笑ってすり寄ってくるひまわりを微笑ましく見ながら、名前通りの色をした柔らかな髪を撫でる。大きな掌に触れられて心地よくなったひまわりは言葉短く声を漏らす。そのときの仕草がいつもよりも緩慢なもので、1時間程前に繰り広げていた情事に小さな身体が疲労していることに気付く。

「水飲むか?」
「うん、飲みたい」

 飲みたいと言うわりには離れる様子がない。水取るから手を離すように伝えれば、首を横に振って嫌がる様子から甘えたがっていることを察する。幸いなことにコンビニで買っておいた水の入ったペットボトルはベッドの近くにあるローテーブルに置いてあるため、長い腕だけを伸ばしてなんとか取ることができた。

「身体が大きいって便利だねぇ」
「ひまわりが離れてくれたら起きてとれたんだけどな」
「やーだー」

 こういったわがままを言うことをはいつものことで。それを疎ましいと思うことがないのは、年の割に幼い容姿が愛らしいからか、それとも恋人として贔屓があるからか。少しの間考えてからどちらも有り得ると結論を出して、身体を起こす。
 ガレットにつられるように身体を起こしたひまわりだが、やはりその動作はどこか辛そうでさすがにやりすぎたか。いや、でも焦らして長引かせたのは他でもないひまわりの方がと思い返せば少し笑いがこぼれる。

「ほら」
「飲ませてくれないの?」

 そしてこの発言。くりっとした瑠璃色の瞳がガレットを映す。それはやっぱりそうきたかという表情を浮かべていた。ひまわりの方も伝わっていると思っていたのに。などと言いたげな様子で、ガレットはやれやれとしながらも満更でもない気持ちでペットボトルの蓋を開け、生温くなった水を口腔内に含む。

「ん、」
「んー」

 指で顎をくいっとあげ、口の端から零れないようにゆっくりと流し込む。ひまわりの小さな喉は1回、もう1回と上下した。ガレットは含んだ水を移し終えたところで唇を離そうとするが、それで終わらせるわけがないとでもいうようにひまわりは太い首に腕を回す。そして水を流し込むために開けていた唇の隙間に薄く小さな舌を差し込む。

 ぬるりと、舌を絡める。互いの唾液が混じり合う頃、水音が響いてくる。銀糸を垂らして唇の間に生まれた隙間からお互いの吐息が溶け合う。その音と温もりがお互いを煽り、もう一度と絡み合う。

「ふ……満足したか?」
「そんなにいやらしい顔しておいて、ガレットさんは満足するの?」
「誰かが煽ってきたせいで難しいな」
「わたしの方が先に煽られたんだけどなあ。ガレットさんの身体、糸の痕がくっきり残ってるから」
「残るように縛ったのはひまわりだろう?」

 それもそうだった。 だろう。
 ゆったりと会話を繋げながら視線を合わせる。互いの瞳に情欲を孕んだ顔が映し出された。1時間前にしたばかりだというのにこうも火照るのは仕方がない、性癖も身体の相性も良いのだから。浮かされてきた思考でぼんやりと考えて、ひまわりはガレットの首筋に吸い付く。

「じゃあ煽っちゃった責任とろうかなあ」
「明日が辛くなるぞ」
「そのときはガレットさんに甘やかされるからいいもん」

 だからいいでしょう?
 ふんわりと笑って可愛らしくねだられれば、断る理由もないガレットは返事の代わりにもう一度口づけるのであった。

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