移ろう季節、変わるもの

 うだる暑さもひと段落し、肌寒さを覚え始めた今日この頃。青々と生い茂っていた木々の色も落ち着きを見せ、町の香りはほろ苦く、乾いたものになっていた。秋も間近だなとうきうきする気持ちが抑えられずお散歩。マハロ食堂に寄り、秋の味覚をぎゅっと詰め込んだプリンを2つ買う。さすがラウレアさん。季節はまだ秋の入り口だというのに品揃えが充実していた。これはまたしばらく通いつめなきゃ。
 軽い足取りで見慣れた道を進む。道中、紅葉が綺麗に見れるだろう場所を発見し、後日みんなと来ようと思う。お花見のときと同じく、愛でるのは食物となるのだろうけれど。そんなこんなでお散歩を満喫して辿り着いたのは1つの探偵事務所。中に入れば今日も相変わらず可愛いうねちゃんに歓迎される。雑談をしてから案内された部屋にいけば物が散らかしたまま寝落ちしている味噌の姿があった。この間お部屋を掃除したはずなのになあと苦笑しながら衣類を拾いつつ、眠る味噌に近寄る。

「みーそー」
「……ん」
「物を散らかしたまま寝たら、起きた時に躓くよって言ってるでしょー」

 肩を揺すれば唸るような寝ぼけた声が返ってくる。……不覚にもそんな姿を可愛いなと思ってしまうのはまあ、その、恋人相手なら仕方がないと思うわけで。などと、自分の考えていることに胸のあたりがむずむずして意味のない言葉で叫びたい衝動に駆られる。

「まだ寝るの?」
「ねる」

 即答された。最近お仕事でも忙しいのだろうか、それとも夜更かししたのかな。それとも過ごしやすくなってきた気温に眠気でも誘われたのか。味噌が起きるまで待とうかなと、買ったプリンを我慢しながら視線を落とす。落とした先に映るのは私よりも一回りと大きな味噌の手。黒く塗られた爪を眺めて「こういうところが手持ちになってから変わったなあ」と、呟いて指の腹でつつっとなぞってみる。こういうのに興味を示し始めたのはとみーくんの影響なんだっけ。などということを考えながらごつっとした手の甲に自分の掌を重ねる。味噌の顔をチラ見するが起きる様子はない。ならばと指を絡めるようにぎゅっと握ってみる。こういうのを恋人繋ぎというんだっけ。なんやかんやと付き合うことにはなっても、恋人らしいことが少ないならちょっと嬉しくなって、そのままにぎにぎと遊んでみる。

「……さすがに目が覚める」
「あれ、起きちゃったの?」
「こんだけ遊ばれてればなあ」

 と、寝起き特有の掠れた声で手遊びについて指摘する。いったいいつから起きてたんだろう。ばれていた恥ずかしさに慌てて手を離す。味噌の方からじっと突き刺さる視線にどぎまぎしながら「プリン! ラウレアさんのところで買ってきたプリンあるから食べよ!」とわざとらしく誤魔化す。これ以上この話題を掘り下げられないことに必死な私の意を汲んでか、何も考えていないのか。「お、美味そう」とプリンに目を向けて身体を起こしていた。

「あれ。今日の三蔵、なんか匂い違う?」
「へ?あ、シャンプー変えたからかも」
「ふうん」
「ミクモが新商品買ったのはいいが僕には合わんって武士みたいな顔して押し付けてきたから」
「武士みたいな顔って」

 ルガルガンは鼻がいいから気付いてくれたのだろうか。こういう変化に気付いてくれるのは嬉しいと改めて思う。……メイクのやり方とかは変えても気付かれそうにないけれど。
 髪をひと房掬い、まじまじと見られることに緊張しながら、気を紛らわすために他のことを必死に考える。

「三蔵も手持ちになってからこういうところ変わったよな」
「えー、何いきなり」
「野生のときは匂いとかあんま気にしてなかったろ?」
「それはそうかも。ミクモが旋毛から足の爪先まで気にしてるから多少なりとも影響を……って」

 味噌の発言にひっかかりを覚える。今彼はなんと言った?野生のときは匂いとか気にしてなかった、というのは事実なので何も思うことは無い。じゃあ何に引っかかったのか。そう、味噌は今「三蔵も」と言った。も、って。
まさか、と嫌な予感がして味噌の顔を見ればにんまりとからかうような笑みを浮かべていた。

「味噌」
「おう」
「聞いてたでしょ、最初から起きてたでしょ?!」
「何のことだかなー」
「にやにやした顔で分かるんだからね!」

 それ悪戯とか意地悪が成功した時の顔だよね。起きてたの?寝るって言ってたくせに起きてたの?!と、怒ってみせるが気にとめられず。さあ、なんのことやらといった態度で流される。こういうところがダメだと思う。恋人という関係性が変わったからってそれらしい触れ合いを求めるのは露骨だったり違和感だったりして苦手かなと思って求めたくても求められないし、だから寝ている隙にとしたというのに!

「怒った!味噌のプリンも私が食べる!」
「といいつつスプーンを2つ出してくれると」
「美味しいもの独り占めするよりも味噌と食べた方が美味しいから」
「三蔵、数秒前の発言思い出してみ?」
「もー、黙って!」

 栗味のプリンを掬ったスプーンを口の中に突っ込んで黙らせてみるものの、その行動すらおかしそうに笑うものだから最終的には顔面をべちんと叩くことになった。

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