花に込める

「俺が女じゃないって知っていますよね」

 これが初めて渡されたときに言ったもの。

「……女の人に振られた花束を押し付けていませんか」

 これが数度目の贈り物となったときに返した言葉。

「花を濡らさないようにする前に自分をなんとかすべきじゃないですか!」

 そしてこれが本日、雨に濡れてやってきた姿を見て怒った言葉。濡れた人と一緒にいるこっちの身になってみてくださいと言っているこっちの都合なんて気にせずに笑っていたことが腹立たしい。まったく、あれで風邪をひかれたら困るのはこっちだというのに。


「と、怒りながらなんだかんだで花束を毎度もらってくるのが綾目だね」
「……花には罪がありませんし、店主が相当手入れしていたのでしょう。香りもよくて綺麗ですから」

 花屋の人が真心こめて育てた花を道端に捨てるなんて言語同断。薔薇を渡されたときと比べたら飾りやすいし。などなどと、にやついた顔でこちらを見てくる竜胆さんにため息を吐きながら懇切丁寧に説明する。そう、決して俺好みの花だったからではなく、顔も知らぬ人が大切に育てたであろうものを無下にしたくないだけ。

「またまた照れ隠ししちゃってー」
「これまでの話しちゃんと聞いてましたか?」
「聞いてた聞いてた。そしてその感想だよ。綾目、だいぶその子に甘くなったなあと思って」

 薄氷のような髪を揺らして笑う竜胆さんに呆れる。本当に人の話を聞かないんだからと。散々言ったじゃないか、相手はあの忌々しいゾロアークで、口から出る言葉はその種族に相応しい胡散臭さだ。そんな相手に甘くなるなど、増してや気を緩めるなどあっていいはずがない。言いたいことは山ほどあったが、それを言えば「必死になってるところがますますあやしー」なんて茶化されるに決まっているのでなんとか言葉を飲み込む。
 これ以上相手にするのも疲れるので、受け取った花束を硝子細工の花瓶に挿す。うん、綺麗。姿勢よく広げた白い花弁を指でつついて頬が緩む。

「なんだかんだで悪い気していないんでしょ」
「その話、まだ続けるんですか」
「だってほら。今まで受け取った花を1本抜いて栞にしているくらいだし」
「…………」
「しかも日付までつけているくらいだからまめというかさあ」
「いつのまに俺の部屋漁った!?」

 そして引き出しにいれていたはずのそれを何故今持っている!? ほれほれと見せびらかしてくるいくつかの栞を奪い返すために手を伸ばす。が、竜胆さんが背伸びをして手を頂点にまであげられたら届かない。くっ、なんて憎い身長差。
 だが、その栞をそのままにしていたら鬼灯さんたちにまであることないこと脚色して話を広げられかねないので今ここで奪い返すしかない。

「サイコキネシスを使った場合はこちらも実力行使で」
「それもともと俺のですからね!?」

 なんて暴言を吐くんだ。悲しいことに非力さなら散華でも最下層を荒そう俺に対し、いのちのたまを所持した怪力な竜胆さんの実力行使に勝てるわけがないというのに。しゃらんしゃらんと涼やかな音をたてる彼女の髪飾りを恨みがましく睨んでおく。

「実際のところ、今でも本気で嫌なの?」
「ゾロアークは論外だって竜胆さんも同じでしょう」
「じゃあもしも彼のがゾロアークじゃなかったら? あ、性格とかそういうのは全部そのままで」

 ずいっと顔を近づけて、真剣な表情で問われる。どうしてこの人はいつもこうして恋愛だとかなんだとかに繋げようとするのか。ああ、自分のご縁がないからせめて周りから幸せを吸いたいと口癖のように言ってた気がする。

「……いや、性格そのままならどの道論外でしょう。胡散臭すぎて」
「もう、つれない! ここはそんな姿を想像して、「ああ、そうか。自分がこだわっていた種族という枷を外してしまったら……!」みたいな漢字にときめくところでしょう!」
「今度はなんの少女漫画読んだんですか?」

 あと顔近いです。とでこを叩けば、竜胆さんの雪のように白い肌に赤みが残る。さすが、怪力のくせに病弱なだけある。刺激に弱いなあ。
 どんな切り口で話題を振っても返答がぶれない俺の態度に飽きてきたのか、竜胆さんは畳の上に転がされたくっしょんに倒れこむ。

「にしてもマーガレットとは愛されてるよね」
「はあ?」
「だってほら、マーガレットの花言葉は『真実の愛』でしょう」
「いや、あれに限ってそれは」
「そして疑い深い綾目に対して『信頼』ときたものだよ」

 同じ会話に飽き始めた頃から携帯をいじり始めたと思えば、花言葉を検索していたらしい。漫画みたいな運命的かつ情熱的な恋愛を夢見ている竜胆さんらしい。花言葉なんて所詮名前も顔も知らない人がつけた印象に過ぎないというのに。……あのゾロアークがそれを考えて選んだなんて思えない。

「あと、白いマーガレットには『秘めた愛』というのもあってね」
「どうやってもそっちの方面に仕向けたいんですか」
「ぜーったい彼、綾目のこと本気で好いてるって」
「あれは絶対遊びですからね。落ちたところを笑って突き落とす屑ですよ、賭けてもいいです」
「言ったな、言ったね!? じゃあもしそれが本気だって思わざる得ない状況になったら、種族のことを抜いて真剣に考えること。そして私に報告し、惚気ること!」

 それしか頭にないのか、この脳内お花畑がと毒づきたくなるのを耐えて、代わりにもう1度だけため息をつく。そして「分かりました。じゃあその報告をするまでは金輪際この手の話題を振らないでください、不快なので」という約束を取り付け、竜胆さんを黙らすことに成功した。

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