惹かれて、惚れて、恋をして

 ファッションデザイナーと言ってしまうと仰々しく聞こえてしまうが、甘宮は服をデザインすることからお店まで飾るところまでしたいと思った。chain game、スズメの幼馴染が店長を担うエンテンのお店でバイトを始めてからそんな夢を抱えるようになった。
 生活費をいれつつもバイト代を貯金し、本格的にその手の勉強をしたいとスズメに述べたところ快く送り出され、カロス地方に留学することになった。そんな甘宮は今。

「あまみーの作ってくれたイヤリングが本当可愛くてバイト中にもつけちゃってさ!」
「えへへ、喜んでもらえてなによりだよ」

 喫茶店の一角で女子会をしていた。絵面的には立派な女子会、だが甘宮の話し相手は可愛いのは見た目だけで中身は立派な男の福であった。和気藹々とした2人のやりとりには通り過ぎる見た目は愛らしく、人目をひいた。

「ところで最近のお仕事はどーお?」
「おかしいよね。デザイナー目指して学校に通っているはずなのに隙あらばパーツモデルのお仕事の方がくるって」
「やっぱり種族柄ってやつだよね」
「ポケモン図鑑にすら美脚と記載されちゃう種族ですからー」

 最近は脚だけじゃなくて手や背中も求められる売れっ子さんだよ。と、あざと可愛くピースをしてみせる甘宮に福は「顔も可愛いんだから顔だしすればいいのにー」などと言いながら堂々と写真を撮る。満足な写真を撮った後、ドヤ顔の福は「ポケスタあげていい?」と聞くが、甘宮に「どうせなら一緒に撮ろうよー」と提案され、結局テーブルに並ぶコーヒーとミルクティーを美味しそうに見せつつ自撮りをする。ポケスタ映えのする写真が撮れたところで「そういうふくりんの方は?」と、近況報告の続きに戻った。

「んにゃー、もとがバカな方だっただけに大変も大変。科学とか全くわかんなーい」
「ポケモンが使う道具をアクセにするなんて難しいよねえ」
「だけどさあ、やっぱ紫鳴……あまみー会ったことあったっけ? 長身眼鏡の女の子」
「前髪が長くてスタイルのいい可愛い子でしょ? 前ちらっと見た!」
「あの子とかがさ、バトルで理性とんで狂暴化しちゃうタイプだからさあ。そういうのを抑制するものをもっと増やしたいし、でもどうせなら可愛い方が身に着けてる方もわくわくするじゃん? でもあれこれ考えたらデザインも決まらなくて、助けてあまみー!」

 この会話の流れがチャンスだと、福はすかさず課題のプリントを広げる。毎度課題に息詰まると後輩に助けを求めるのはどうなの先輩と苦笑しつつ、ああじゃないかでもこうじゃないかとデザインについて話し合いが始まる。
 湯気だっていた飲み物が冷めてきた頃、課題に飽きてきた福は「ところであまみーに聞きたいことあったんだけどお」と、にんまり笑ってテーブルの隅に置いてある甘宮のスマホを指さす。

「あまみーの待ち受け画面の人だあれ? 彼氏?」
「え…………なっ、い、いつの間に見たの!?」

 予想外の指摘に一瞬で顔が赤くなった。好きな人を前にして躊躇いもなく好きとは言う度胸はある。が、ひっそりと働いている彼を写真に残して待ち受けに設定していたことがバレるのはさすがに恥ずかしい。見られたくないから人前ではいじらないようにしていたのに!と叫びたい思い出ある。
そんな乙女のような反応をする甘宮は新鮮であり、福は「恋するあまみーだ」と茶化す。

「えっと、その、好きな人……一方通行なんだけど」
「片思い!」
「うああ、改めてそういうの言われると照れる! 身内にそういうノリで言う人がいないからなおさら!」
「あはは、あまみー照れてる。かっわいー」
「やーめーてー! そ、それにもう片思い歴が長すぎて人にそういうこと言われるのがあ」

 火照った頬を押さえ、頭を横に振る。黄緑の髪がふわふわと揺れ、その仕草に愛らしさが増す。これが原型の姿であれば凶器となっていたのだろう。などと考える福であったが、はっと思い出したように顔をあげた甘宮の発言に、次は福が照れることになった。

「……そういえば、ふくりんの彼女さんも年上だったよね?」
「へ? あ、あー、うん。確かに年上といえば年上だねえ」
「どうやって付き合ったの? やっぱりふくりんから告白したの? それとも相手から?」
「え、えっと、うんと」

 福は目線を左上に彷徨わせてから言葉をつまらせる。どうやって付き合ったかというと、そもそも付き合うまでの順序がいろいろと違ううえに、お昼間の喫茶店で語れるような内容ではないし、いくら年上の女の子相手だったとはいえ身体を好き勝手されていたなんて……馴れ初めを聞こうと目を爛々に輝かせたピュアな甘宮の耳にいれられるわけがない。
 そもそも、もう何年も前になる出来事だというのに思い出しては未だに顔が熱くなる時点で人に話せるわけがないのだ。しばらく考えた後、福は「どちらかといえば彼女の方から」と、嘘ではないけれど全てを話さずという回答をした。

「きゃー! ふくりん、年上の女の子落としたんだ!」
「ああああ、これ確かに照れる! 身内にいないノリで恋バナは照れる!」
「ね、ね。ふくりんは彼女さんのどこに落ちたの? ずばり惚れてる場所は!」

 身を乗り出し、マイクを向けるような仕草で根掘り葉掘り聞こうとする甘宮から逃げられる気がしなく、惚気けるくらいはどうてことはないし良いかと指を折りながら今の時間は森でお昼寝でもしているであろう可愛い彼女について話始める。

「小さくてふわふわしているところは守りたいなと思うし、眠たげな目をしているのに僕から目を逸らそうとせずじっと見つめてくるときは愛おしくなるんだ。柔らかくて触り心地のよい頬はひんやりしててね。でも無機質的な冷たさじゃなくて、全身包むようにぎゅっとしたら温もりがあって安心する。あとは──」

 そういえば人でこんな風に惚気けるということをしなかったなあ。いつもつるむ面子は同じ森の子で語るまでもなく、ほとんど見られてるところがあるし。ああ、語り始めると止まらないし会いたくなってきた。
 この場にいない人を思い浮かべては優しい表情を浮かべる福に、甘宮は「聞いてるこっちがどきどきしちゃうね」と幸せのお裾分けをされた気分になり、胸が温かくなる。

「で、片思い歴長いあまみーは実際どれくらい?」
「2、3年どころの話じゃないよ」
「そんなに振られ続けてるの?」
「振られる以前に! 未成年だからって見てすらもらえないの!」
「うわあ……それでよく好きでい続けられるね。そこまでいい人なの?」
「最初はね、恋にも満たなかったと思う。確かに好きだなとは思ったよ。でもきっとそれはいろいろなことを好きと感じて楽しんでいる優しい笑顔がさ、もういない大好きな家族と似た雰囲気だったから惹かれたんだと思う。ちょうどその頃、他の家族たちも新たな繋がりを持ち始めて、家族以外に大切な人を、恋しいと思う人と出会っていて。寂しいし、羨ましいなと思ってたからね」

 今思えばそれは恋ではなかったのだと思う。自分も恋をしたらみんなに追いつけるのかなという気持ちもあって、その中でロンじぃみたいな雰囲気をしている人がいたから、いいなあと思って。それを恋と思い込んで。
 あまりにも幼くて浅はかな考えをしていた数年前の自分の姿を思い返して笑う。そりゃあ相手にもされないというものだと納得もできる。

「でも本当に恋をするのも早かったんだよ。誰にでもほわほわとした態度で接客しているけれど、家族は別って見てそうなところとか。遊びに行こうって誘ったら、予定がなければ付き合ってくれる優しいところとか。適当に理由つけて断った方が絶対楽なのに、そういういい加減なこととか嘘ついてまで拒否しないところとか。好みの真ん中当たったとき、意外って驚いた顔とか……残念ながら自力で当てれたことないんだけど」

 いつもにこにこしているから分かりにくいというのもあるけれど、スズメや空純と比べて洞察力がない甘宮が当たり前の顔をして好きなものを差し出すというのは難しいことだった。その分言葉で伝えるようにしているわけなのだが。甘宮の零した言葉に福は「それはすっごく分かる」と真剣な顔で頷いた。

「というわけで相手にされなくても好きな気持ちは大きくなっちゃったというわけ」
「べった惚れ」
「だって追い続けてたらどんどん好きなところが見つかるんだもん!」
「それには同意するけどさあ」
「聞きましたか、みなさん! ふくりん、彼女さんを見続けて何度でも惚れ直すって言ってます!」
「正確には何度でも惚れるんだけど。新しい一面見つけるたびに惚れるわけだから」
「わあん、ごちそうさまです!」

 絶賛片思い中。失恋する以前に相手にすらしてもらえない。いや、好き好きと言いながら構ってもらおうとしていたときにも彼女ができることは何度かあったから失恋といってもいいのかもしれないけれど、そんなこと数えてたらさすがに挫けるのでノーカンに。だって別れてるし。そんな甘宮にとって福の堂々とした惚れる発言は微笑ましい気持ちと羨ましすぎる気持ちが葛藤し、テーブルに突っ伏す。
 あのあまみーがこんな弱々しくなるというのは珍しい。と、福は目を丸めつつ、ふと最近抱き始めた悩みを甘宮に打ち明けることにした。

「そして相談なのですが」
「どんとこい」
「恋人に改めてプレゼントを贈るときって、何渡したら喜んでもらえるかな」
「好きで好きで仕方がない相手からの贈り物なら何でも喜べる」
「…………あ、うん。なんか何渡しても静かに喜んでは抱きついてくる姿浮かんだ」
「幸せそうでなによりだね!」

 でも私の心にはしみたのでお詫びにパンケーキ奢ってください、先輩! と頬を膨らませれば、その頬をつつきながら福は「よかろう、奢ってあげようじゃないか」と先輩風を吹かせて頷くのであった。

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