「アイス食べたい」
「自分で取りに行けばいいじゃない」
氷里を膝に乗せ腰に腕を回して抱きしめては「ヒサト、冷たくてきもちい」と言い、「暑いなら暖房消すけど」と雑誌を読みながら適当に対応する。そんなのんびりと過ごす2人だったが、突然思いついたようにサイラスは「食べたくなった」と言い始める。
「まあいいけど」
「ちょこみんとがいい」
ちゃっかりと味を指定してきた。本当にマイペースな男である。氷里は呆れながら読んでいた雑誌を横に置いて立ち上がる。そうだ、ついでに紅茶をいれよう。アイスのお供に紅茶がほしくなった氷里はそう思い立って淹れ始める。相手を待たせていることを気にせず、自分がほしくなったものを付け足すために時間をとるところに関してはサイラスに劣らないマイペースな一面ではなかろうかと彼女の仲間である卯月は以前語っていたことを湯を温めている間に思い出したが、相手が相手だから別に問題ないと一人で頷く。
そうして淹れたての紅茶とアイスを2つずつもって戻ると、氷里が読んでいた雑誌を読んでいたサイラスが「ヒサトー」とのんびり顔をあげる。「今度は何?」とテーブルに持ってきたものを置いて首を傾げると、彼もまた同じように首を傾げて尋ねた。
「ねっちゅーしょー、ってなんだ?」
「ねっちゅーしょ? ……ああ、熱中症のこ」
言葉はそこで途切れた。氷里は唇を押さえる柔らかい感触に目を丸める。状況を把握するにはさほど時間はかからなかった。が、今の流れでどうしてこうなったのかという原因に頭を悩ませた。彼の行動が予測できないから考えるだけ無駄というのは十分すぎるほど知ったつもりだったが、それでもこれは。
考え込んで抵抗しないことをいいことに、サイラスは閉ざされた唇を舐める。ぬるりと触れられた感覚にぞくっとして、薄い隙間を作る。しまったと思った頃には時すでに遅しでこういうときに限って素早く舌をねじ込まれた。
「ん、も……やめ……っ」
「っ、」
が、そこで大人しくなるような性格を氷里がしているわけもなかった。口腔内に侵入して自身の舌と絡めようとするサイラスの舌を躊躇なく噛んだのだ。遠慮したものだと甘噛みだと捉えられそうだから、噛みちぎる勢いで。これにはさすがのサイラスも引っ込める。
「痛い」
「痛めるために噛んだのだから当然でしょ」
したくなったからするという自分の欲に正直なサイラスが突然キスをしてきたということに関してはあまり驚かなかった。氷里が驚いたのは「熱中症」というキーワードを用いて相手にキスを誘わせるというテクニックを使ったこと。
その原因はすぐに見つかった。先程まで氷里が読んでいた開きっぱなしの雑誌。そういえば私がアイス取りに行っている間に読んでいるようだったな。相手からキスをねだらせる方法! みたいな文字がでかでかと書かれた記事を見て納得する。
「そして貴方は得た知識を使いたがる子供かって話よ」
「んー」
さて、どうしようか。何をどう言おうといつものように気にされないのは目に見えているのだけど。するだけして満足したのか、氷枕代わりに自身を抱きしめて身体を冷やすサイラスに深いため息を吐く。ため息を吐くと辛気臭くて幸せが逃げる気がするので、できるだけ吐かないように心がけている氷里だが、今回の行動には我慢せずにいられない。
「サイラスさん」
「なんだぁ?」
何を言っても効果が得られないのはここ最近の経験でなんとなく予想ができる。無駄になる確率が高い、というか確実にそうなる。だったら無駄に騒いで疲れたくないので諦めよう。一言だけ言ってこの話は終わりにしよう。つらつらと浮かんだ考えをまとめて結論を出した氷里はサイラスに呆れた目を向けて否定する。
「熱中症はキスの誘い文句じゃないからね」
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