流星雨の下で

 卵とハムがたっぷりとつまった焼きたてのホットサンドイッチにかぶりつく。さくっとした焦げのついた外側としっとりとした内側。そしてレタスのしゃくしゃくとした食感がじゅわりと広がるトマトの味がとても美味しい。久しぶりにゆっくりとした朝食が摂れる幸せを堪能していると「はよーっす」「優楽、アホ毛たってるよ」といいながら剛ちゃんと海都ちゃんがあくびをしながら食堂にきた。え、アホ毛やだ。

「優楽、今日休みなんだっけ?」
「ん、久しぶりの休みだよー。ここしばらく連勤が続いたから幸せ……」
「じゃあ今日見に行けるね」
「え、何を?」

 ホットサンドイッチを頬張りながらアホ毛を直して聞き返すと2人はあー、と言いづらそうな顔をする。2人揃って何その反応、私だけ分かってないみたいで寂しいからいやだなあ。唇を尖らせて訴えれば、お椀にこんもりとついでもらったほかほかの白米と焼き魚を頬緩めて食べている海都ちゃんに「優楽、仕事続きで見てなかったんだね」と箸で食堂に備え付けられていたテレビをさす。お行儀悪いぞと剛ちゃんに注意されているのを聞きながらちらっとテレビに視線を移すと私としては一大事なできごとをバラエティ番組お天気予報で流されていた。あ、読み上げているの山音さんだ、かっこいい……じゃなくて!

「…………」
「だから教えてやれって言ったろ」
「でもほら、今日って優楽以外全員仕事だから僕たちから教えるのは悪いかなって。というか知ってると思った」
「え、みんな仕事なの!?」

 立ち上がった勢いで倒れかけた椅子が大きな音をたてる。その音で食堂にいる人たちの注目を集めてしまった。恥ずかしくて慌てて座る。「お味噌汁こぼれた」と不満を口にする海都ちゃんにはごめんと謝るけど、そのお味噌汁いれすぎだと思う。

「そっかあ……じゃあ今回はなしなのかあ……」
「俺ら無理だからあいつ誘えば?」
「え?」
「うん。彼なら一緒に行ってくれるんじゃない?」

 2人があげた人物の名前を聞いて、確かに一緒に行ってくれそうだけど、行きたいけど……! と頭を悩ませ、朝食後から夕方になるまで延々と悩みつつも準備を進めることになった。

*****

「うううう、どうしよう、準備万端で来ちゃったけどさすがに迷惑、でもきちゃったからなあ」

 本当どうしよう。誘っていいのかなあ、誘ったら優しいから頷いてくれそうで。でも毎日寝るのも起きるのも早い職業の人を遅くまで連れまわすのも……きっとお仕事で疲れているだろうし早く休みたいよね。
 なんてぶつぶつ呟きながらお店を覗こうとしてはやめて帰ろうとするのを繰り返す姿はきっと不審者なんだろうなあ。

「あれ、優楽」
「ひゃいっ!?」
「!?」
「び、びっくりしたあ」
「オレもびっくりした。え、凄い声出してたけど大丈夫か?」

 悩んでいると後ろから声をかけられて変な声がでちゃった。恥ずかしくて口元隠しながら笑って「大丈夫、ごめんね」と謝る。驚いてどきどきと早くなった鼓動を落ち着けながら「お仕事終わったの? お疲れ様」と服についた泥を払おうと手を伸ばす。

「あ、汚れるから大丈夫だって」
「でもザンくん今手も泥だらけだよ。それで払ったら服がますます汚れちゃうし」

 泥を払ってから他愛のない話をしてお店の中にお邪魔する。ザンくんが着替えてくるまでの間ぼうっとカレンダーを眺めていると想我さんは明日定休日でお休みなことに気付いた。タイミングいいなあ、だったら誘っても大丈夫かなあ。でも早朝から働いてたら嫌だよね、私だったら早番の日は早くお布団にもぐりたい……あ、でもザンくんから誘ったら絶対ついてくし、そう考えたら……。
 うんうん唸っている間に何度か呼ばれていたみたい。「優楽!」と少し大きめの声で呼ばれてはっと気づく。ザンくんの顔を見ると「具合でも悪い?」と心配そうな表情を浮かべているので「ううん、久しぶりの休日に元気すぎるくらい!」と笑いかける。ええい、心配かけちゃうくらいなら言っちゃえ。

「ザンくん、これから時間ある? 私と夜のピクニック行こ!」

*****

 ピクニックといって連れ出したけれど行先は標高が高い場所にある公園。つまり山の中。時刻は22時少し前。暦上は春にはいったとはいえまだまだ寒い。厚着になってもらっていてよかった。こんな時間に連れまわすのに風邪までひかれたら泣きたくなるもん。

「寒いねー」
「優楽は大丈夫? 寒いの苦手だろ?」
「えへへー。私はそれら見越してちゃんと準備してきたんだよ!」

 えいっとザンくんのほっぺたに温まったカイロをあてれば「ん、あったかいな」ほにゃりと緩んだ表情を浮かべていた。普段にっと口角あげた笑顔も好きだけど、こういう無邪気な笑顔も可愛くて好きだなあ。ほんわかと胸が温まるのを感じながらカイロを少し冷えたザンくんの手に預けて、いそいそとレジャーシートを広げる。それから持ってきたお弁当。お弁当といっても夜食に入りそうだから軽いものだけど……ザンくんからすると少なめになるのかなあ。

「わ、美味しそうだな!」
「ちょっと山登るし時間もかかるからお腹すくと思って!」

 というか実は私がお腹空いちゃって。とくうっと小さく鳴いたお腹を押さえて笑えば「オレも」と同じようにお腹を押さえて笑う。そんなやりとりがなんだかおかしくてくすくすと笑いながら、それじゃあ食べようかとお昼からあれこれ考えながら作ったお弁当に手を伸ばす。

「それにしてもなんでこんな時間に? 優楽って夜強くないよな?」
「うん、夜更かしすっごい苦手! でもね今日は特別なのー」
「特別?」

 初めてここにきて空を見上げたのは音羽ちゃんの提案だった。プラネタリウムに遊びに行くことが大好きなあの子らしいもの。私がカケルくんの手持ちになって間もない頃の出来事だから今でもつい昨日の出来事のように思い出せるの。まあ、話し始めちゃうと長くなるんだけどね!
 昔のお話を改めてするのってなんだかむず痒くなっちゃうね。と照れ隠しに髪留めをいじる。しゃらっと音を鳴らす飾りを見て「あ、それ星の飾りついてたんだ」とザンくんが言う。

「うん。カケルくんたちとここに来たときに開いてた露店で買ってもらったの!」
「へー、可愛いな」

 そんなおしゃべりをして数十分。もうそろそろかなと見上げると、青黒いお空に1本2本と長い光の糸が斜めにおちる。そしてそれは徐々に数が増えていく。「ザンくん、上見て上!」とはしゃいで空に指をさす。

「うわあ……」
「感動して言葉でてこないよねえ」

 そう、今日は流星群の日。ニュースで何度か流れていたらしいけれど今月にはいってずっと働きづめて疲れていた私の耳に入っていなかった。知ったのは朝ごはん食べていたとき。みんなもひどいよね、教えてくれたらよかったのに! あ、でも教えてもらってもカケルくんたち来れないんだけど。

「流星群がくる日はね、みんなで見にこようねって言ってる特別な日なんだー」
「えっ、それって大事なことじゃん。オレと来てるけど……」
「あのねあのね」

 流れ星がおちてきたとき3回お願い事を唱えると叶うというお話をよく聞く。それはとっても難しいこと。だけどねここに初めてきたときカケルくんが言ったの。こんなにもの流れ星がおちているんだから、少なくとも一緒に見ている人とずっと一緒にいたいっていう願い事くらいは叶うだろ! って。だからだったら流星群がやってくる日は一緒にみにこようねっていう約束をしてたんだけどね。

「お仕事優先なのはしょうがないことだしね。それにね」
「それに?」
「大好きなザンくんともずっと一緒にいたいから来れたら嬉しいなと思ったんだ!」

 ちょっと寒くなってきたからザンくんの手をぎゅーと握って寄りかかる。うん、ザンくんは今日も温かい。それにやっぱり隣にいてくれると落ち着くなあと言えば、優楽も温かいしオレも落ち着く。と返してくれた。

「だからまた一緒に来てほしいなーって」
「じゃあ約束な!」

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