推しキャラの見つけ方

「あ」
「あ」

 久しぶりにみんなバイトが休みだし買い物を行こうという話になり、コガネ百貨店にやってきた。福と闘が2人揃うと騒がしいから傍に寄りたくない、他人の振りしたいねとはしゃぐ2人を遠目に見て瞬と話していた。たまに4人の休暇が揃えばよくある出来事。違いと言えば、私たちを見て声をあげた梢くんたちとの遭遇。私もびっくりして声が出た。

「……みんなでお買い物ですか?」
「ん。無理矢理連れ出された」

 鋏くんたちの突拍子のない発案なのだろうか。3人でお買い物来るなんて仲が本当にいいんだなあと胸あたりが温かくなる。梢くんと百貨店で会うなんてめったにない出来事な気がするからとても新鮮。

「……うざい」
「酷くない!? お前、今謎のイケメンとほんわかと頬を緩めてお喋りしてたくせに、俺らが近寄った瞬間ふぶきのように冷えた目でその一言は酷くない!?」
「その面白ものを見つけたと新たな玩具を手に入れた幼児みたいに楽しそうな顔をして、にやにやと気持ち悪いくらいに口を緩めて軽い足取りで近寄ってくるその存在そのものがうざい」
「一言が酷いって言ったけど、具体的に述べろとは言ってないからね! 闘が余計なこと言ったせいで紫鳴にこっぴどく罵られた!」

 ぎゃんっと騒いで嘘泣きをする闘と福に「うわ、気持ち悪い」と瞬がぼそりと零す。ああ、そうだ。今日は4人で来ているんだった。梢くんと会えたのはとても嬉しい、柄にもなくはしゃぎそうなくらい嬉しい……けど、よりにもよって福と闘がいるとき……はっ!

「えっと、3人は同じ森に住まう子で……」
「あ、ああ」

 引かれている、確実に引かれている気がする。それも当然……だって私、梢くんたちの前ではまだ物腰低いしこんなきつい言葉を言わない、言えるはずないし! やらかしてしまった大失態に顔を覆って後悔する。それを見て福たちが笑った、見ずとも分かったので脛を控えめに蹴っておく。

「紫鳴の友達ということは俺たちの友達だな!」
「それもそうだ!」
「よし、じゃあ僕らも一緒に回るよ!」
「こんな可愛らしい子と一緒に買い物できるとは役得やなあ」

 紅くん、福は男です。その見た目でも男です、騙されないで。そう伝えたいのに私が話すのを遮って自己紹介が始まり、盛り上がっていた。口を挟めずにいること5分程くらいかな。4人が何やら結託して、鋏くんと闘が瞬の腕を引っ張り、紅くんと服が背中を押してあっという間にどこかへ行ってしまった。その先頭を歩く福はまるで男を引き連れたお姫様みたいで……って、え。

「ちょ、ちょっと!?」
「……置いてかれたな」
「……、……ごめんなさい」
「いいよ、別に。それにしても大声出すんだ、初めて見た気がする」
「め、めったにないですよ! その、あの福と闘くらいというか、あの2人の勢いに乗せられてって感じで」
「……仲良いんだな」
「えっと……形は違うけど、梢くんにとっての鋏くんと紅くんみたいな感じだと思ってくだされば」

 いい例えなのではないかと思った話は梢くんもイメージしやすかったらしく、なるほどと頷いていた。彼の名誉のために瞬だけは比較的まともです、とも付け足しておく。

「あの5人、帰ってくると思いますか?」
「時間かかるに決まってる」
「ですよね。買い物長い福もいますし」

 となるとしばらくのあいだ2人……え、2人きり。改めてそれに気づくと緊張する。普段はお家にお邪魔してゲームとかやらせてもらうから話題に困らないけれど、こういうとき……こういう場でこそ鋏くんや紅くんがいてくれたら沈黙もなくて雰囲気も微妙にならないのに。えーっと、えーっと……あ、そうだ。

「……梢くんって行きたいところありますか?」
「特にないけど……引っ張られてきた本人たちどこか行ったし」
「えっと、じゃあその……」

 ついてきてほしいところあるのですが! と、誘うことに緊張しすぎたせいで声が上ずった、恥ずかしい。マフラーで赤くなりそうな顔を隠しながら梢くんを見れば、不思議そうに首を傾げて「いいけど」と承諾してくれた。



「……おおー」
「今コガネ百貨店で展示会しているみたいで。梢くん、たしかこのゲームやっていたなあと思ったんですが……」

 人の歴史を守るとか、主が偉人を呼び出して戦うとかそういうゲームだったっけ。携帯類は一切もっていないから私はしたことないけど、前にちらっと梢くんがプレイしている画面にピンクっぽい髪で片目の隠れた女の子がいたのは覚えていたからこれかなと思って。
 おずおずと説明してみたが梢くんの意識は既に広がるイベント会場にいっているらしい。新しいゲームカセットを入手できたときのような目をしている。

「えっと空いているところから回りますか?」
「……いや、これは順番に回るべき」

 Zと書かれた表示の立っているところが一番空いている様子だからと提案すると、真面目な顔つきで断られる。え、でもTのところはまだ人が集まっているし、Yは長蛇の列ですよ。と言うと「これ、多分ゲームのストーリーに合わせているから」という説明を受ける。なるほどイベントを楽しむにはゲームに準じてということですねと納得すれば、梢くんは少し満足した様子でFと書かれた表示のブースへ向かった。

「それでこのキャラは……」
「赤と緑と青の三色で特化した能力もあれば6つ以上もタイプもあるなんて組み合わせが大変そうですよね」
「推しを見つけることが最優先だけどな、こういうゲームは」
「推し……あ、でも」

 この大きな盾をもってる子。髪が隠れてるところとか眼鏡かけているところとか、共通点があって少し親近感持っちゃいます。と、パンフレットに大きく乗せられた主人公格であるらしい女の子を指す。すると梢くんはしばらく沈黙をした。

「あ、ご、ごめんなさい。そういうことってあまり言われると気分良くないですよね。しかも私みたいなのに」
「……いや、別にそういうわけじゃないけど」
「でも怒って」
「ないから」

 というものの、顔を逸らしてこちらに目を向けてくれる様子がないからやはり怒っているのでは。あ、目や顔を逸らされるってこんなに寂しくなるんだ……私もよくやっているから気を付けよう。

「……」
「……」
「…………」
「…………」

 気まずい沈黙が続く。どうしよう。こういうとき場を賑やかにしてくれる鋏くんや闘が恋しい。どうしようとちらりと目を向けると、ぱちっと目があった。慌てて目を逸らしてから数秒後、再び目があって同じことをする。
 なんだろうこれ、顔も身体も熱くなる。心臓のどくどくとした音が聞こえてくるようなこの感じ、嫌じゃないけど嫌だ。

「……こっ、梢くん!」
「な、なに?」
「推しになるか分からないのですが、このローブかぶった緑色の弓の人、梢くんの色思い出すので見ていて好きかもしれないです!」
「あっそう……ん゛?!」
「実際は全然違うかもしれませんが色だけでいくと」
「待って、それ以上はいいから」

 梢くんに止められてから気付く。今の私、かなりとんでもないことというか言う側も聞いている側も恥ずかしくなるようなことを言ったような。ああ、今日はなんだか梢くんに見られたくない口の悪いところ見られたり、空気微妙にしたり、墓穴掘るように恥ずかしいことを言ったりして踏んだり蹴ったりな気がする。うう、これはさすがに迷惑かけすぎだと思うんと申し訳なくて。

「……いたらいたで煩いですけど、列に並ぶときはいてほしいですよね」
「……そうだな」

 この後、終局と書かれた場所に辿り着くまでに内容は違えど似たようなことをやらかし、みんなと合流するまでの間顔が赤いままになるとは思ってもいなかった。

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