月の銃口
*FGO→名探偵コナン
*名前変換なし


黒漆を塗ったような艶やかな黒、
漆黒と呼ぶのに相応しいその色が空を艶やかに染め上げ、その色を弾くように、馴染むように浮かぶ歪な月が、不安定な薄光を放つ。

これはそんな夜の話である。

そんな不気味な夜に相応しい廃墟。この場所は数年前まではリゾート地にある、有名なホテルとして人が絶えなかった。
高級感を重視して造られたのだろう、金が至る所に施された絵画や、宝石が鏤められた壺、不自然なほどに鮮明な赤が眩しい絨毯などが、そのままの状態で残されている。

『人がいないことが不自然』な程に整った廃墟は、その称される通り、人の気配も、音も感じない。


そんな廃墟に1つの影があった。
役目を果たさないシャンデリアに注ぐ月明かりが、唯一それに影を与え、生きている人間であることを証明させる。
絨毯に吸い込まれていく足音が、廃墟のとある階のとある部屋で止まり、初めて生まれた軽い音とともに、部屋の中へと入っていく。

その影は部屋の中を軽く探ると、大きなガラス張りの窓に近づき、何かを確認するように外に目をやった。
窓に反射するその『緑』、それ以外には黒という色しか持たないその影は、背中に担いでいた荷物を下ろす。
そして、その荷物からとあるものを取り出して組み立てる。

ふわりと歪な月から、まるで気まぐれのように柔い光が差す。

それに照らし出されたものは…黒き、狙撃銃。

まるで息をするように、自然に黒に包まれた指が踊り、覗き込んだ緑のそれが再び外を見ると…。

誰もいないはずのこの廃墟に、闇に紛れるような色の車が一台滑るように現れた。一拍おいて現れたのは、人相のあまり良くない屈強な男たちである。

そう…かつて人が溢れ子供たちの笑い声さえ響くこの光の場所は、今や闇の蟲たちの交流の場となっていた。
薬、銃、情報という表には隠されるそれらが、此処ではお菓子と同じように、手軽に扱われている。
中には商品として、人が扱われることもあるという、闇市場。

権力と力に守られたこの場所は、
力なき人間は、獣の前の鼠と同じ。
そして今日はその欲に塗れた舞台に、多くの子供達が招かれる日であったのだ。
『戸籍なき』子供たち、その使い道はいくらでもあり、商品価値はそれほど高くないために、需要は多い。
その分リスクは高いために、それを隠す獣たちはいつも以上に用心する。
だからこそ、チャンス。
念入りに練られた計画、そして多くの人間。
これほど穴の生まれることはない。

銃口が、向けられる。
その銃口は、正義ではない正義。
満月という神秘から歪められた今宵の月のように、穢れた正義なのだろう。

定められた狙い、そして…その指が、引き金に触れたとき。



…この物語は幕をあけたのだ。







************






「人生終了。…ご苦労様」



地面に伏した男。
大層な権力と力を以てこの世界で生きていたようだが、所詮は人間。心臓が止まればその存在は終わる。

さて、この闇の蟲からは何が生まれるのだろう。
引き継がれる意志があるのだろうか?
そしてそこに意味はあるのだろうか?
なれば、この男が生きた意味は?
表から『消されなければならない』仕事をするということはそういうことなのだ。

嘲笑うように、だが無感情に言い放った男は、その銃口を下ろし、同じように不安定な足場に立つ1人の女に視線を向ける。



「頭の黒い鼠がいるようだが…。どうする?」


「同業者?」


「ああ、どうやら…我々と同じような匂いのする人間だろうな」


「…ああ、それは面倒だわ」



闇の人間というのは、非常に執念深いものだ。
それは1つとして失敗を許されないこの世界にいるから故なのだろうけれど、1つを明かすと全て明かされる場合もある。


女の髪が夜風に揺れる。

男の瞳が緩やかに動く。


慣れた手つきで女を抱き上げたその男は、再度銃を手にすると大して狙いもつけずに、その弾を放った。同時に大きく跳躍し、屋上から躊躇せずに飛び降りる。



「なに、見つからなければ良いのだろう?問題ないさ」

「…そう…かしら」

「無能どもが雁首揃えたとして、何になるというのだね」

「まあ…任せるわ。スナイパー同士仲良くやって頂戴」

「仰せのままに、マスター」



手入れのされていない芝生に着地した男は、その金の瞳で、窓のその向こうを見据える。



「飛んで火にいるにならなければいいがね」



浮かぶのは1つの嘲笑。
腰のホルスターに銃を戻すと、くるりとその背を向ける。
相手の得物はわかっていた。
だが、その鉛玉など男にとっては夏の蚊と同じ。



「カッコつけるのは勝手だけど…。貴方自分の運の無さを少しは自覚した方が良いわよ?」



なんか面倒なことになりそうなのよね…。
抱えられた状態で、そう呟く女に視線をやると、女は呆れた顔をして頭を抱える。



「楽しんでいるでしょ。
久々に腕の良さそうなスナイパーを見つけて」

「…さて、な」



浅黒い男の手が、女の頭で軽く弾む。
宥めるようなその動作に、女はため息を吐くしか方法がなかったのだ。
己の目では捉えることのできない、その男がいるらしい方向を見ようとするが、銃口を覗き込むようなものだ、と抑え込まれてしまい、失敗に終わる。



「その軽い頭に穴が空くぞ、マスター。
証拠とやらを残してはいけないのだろう」

「…ほんとっ、……腹立つ……っ!」



ふと月の光が途切れる。
月の姿を隠すように被さる黒い雲が、その闇を完全なものとしたのだ。

そして次にその光が地上を照らし出したとき、2人の姿は、もうどこにもなかった…。






************





「……何者だ、あの男」



闇に浮き上がる金の瞳。
それはまるで、獣のそれ。
本能のままに相手を貪り、喰らう。そこには一切の感情もなにも、ない。

ぞくりと、背中に走ったそれは恐怖と呼ぶのだろう。
この世界に骨の髄まで浸かった男が久々に感じる感情であった。

向ける先のなくなった銃を下ろし、素早い動作で己の痕跡をすべて消す。



「Fear of death is worse than death itself」
(死の恐怖は死そのものより人を悩ます)



微かに震える指先、脈打つ鼓動。
それは恐怖だったのだろうか。
それとも…。



「おもしろく、なりそうだ…なんて、ああ…悪い癖だな」


興味が、湧く。
それは探る者(FBI)としての正義であり、狩る者(Hunter)としての本能でもあった。

脳裏を占めるは、あの鋭い金色と、夜風に揺れる艶やかな女の髪。


黒を纏う男の口元は、浮かぶ月と同じように酷く楽しげに歪んでいた…。





*終わり*
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