白を纏うもの
*続いてしまったもの。
*調和する世界の続編にあたるものです。
*少し百合要素…?
*ヒロインの設定は以下の通り
・ワンピースの世界では大将のうちの1人であった。
(=4大将という設定)
・象徴とする色は白で、付けられた名は白魚。
・能力者ではなく、海の神の加護を受けているために属性は水という能力者殺しの力がある。
海の匂いを抱いた風が女の髪を揺らす。
眩しいほどの『白』が照り付ける太陽の光を弾き、その存在感を更に際立たせていた。
もくもくと上がる黒い硝煙が、澄み切った空へ向けて立ち昇る。
沈みゆく船を一瞥した名前は退屈そうに腕を組み、忙しそうに動く部下に指示を飛ばす。
名前の動きに合わせて揺れる、これまた白いコート。
肩についた金の装飾、そして後ろに大きく印された『正義』の文字。
それは彼女の身分を示す1つである。
「あららら…もう終わっちゃったの。相変わらず仕事が早いねぇ、名前」
「貴方が来るのが遅いのが悪いんでしょ。おサボり大将さん?」
「まいったね…こりゃ。
どう?この後食事でも。おごっちゃうよ俺」
「仕事が終わったらいいわよ。
貴方の机の上が全部片付いたら、の話だけれど」
「そりゃ手厳しい」
「そろそろ片付けないと、限界よ。ボルサリーノが」
「げ……」
名前の後ろから突然伸びた大きな男の影、それに振り替えることなく行われるやり取りに、周りの人間の方が冷や汗をかく。
それはそうだろう、唯さえ見る機会の少ない『大将格』が2人揃ったのだ。
そして、唯さえ上下関係の厳しすぎる体育系社会ということもあり、いつも以上に場が緊張するのは必然のことであった。
「なら、さ。…手伝ってくれない?これで残業デートも偶には良いでしょ」
ぱきぱきとその男の腕が凍り始めると、その周りの気温がぐんと冷える。
『ヒエヒエの実』を食べた男がその身に宿した能力、自然系という身体を自然物そのものに変化させ、最強と謳われるそれは、この男が如何に厄介な男であることを示すものでもあった。
そして、生み出された氷の槍を握ると、物陰から飛び出てきた海賊の1人の男を穿つ。
飛び散った血すら女に触れることは許されなかった。
無慈悲なその一閃にすら、表情を変えずに名前は言う。
「付き合ってもいない男とデートなんて御免よ」
「なら、付き合っちゃえばいいじゃない」
「……この適当男…」
呆れたようにため息を吐いた女は、背後に立つ男を振り返り、ふと口角を上げた。
「まあ、良いわ…。仕事は手伝ってあげる」
「あらら…。そんな顔しちゃって。
悪いコト考えているでしょ」
「嫌なの?」
「まさか」
その返事に満足したように笑った名前は、男の脇を擦り抜けて、任務の後始末に向かう。
翻る『白』を眩しそうに見送ったその男は、やれやれと、自分の髪をかき上げた。
「あー。なんであんなのに惚れちまったんだろうね」
海軍の最高戦力として高い地位を誇る大将格は4人いる。
1人は、憎悪とも呼べる業火を繰る赤き犬。
1人は、光を以て味方をも惑わす黄い猿。
1人は、命をも凍らせる氷を宿る青い雉。
そして…もう1人。
女の身でありながら、大将という地位に昇りつめた女…。
与えられたのは『白』、つけられた名は『白魚』
『悪魔の実』という人に人ならざる力を与えるそれを、覆すほどの力を持つ、『水』を司るもの。
その力は、海賊だけではなく海軍ですら危険視し、手放すことを何よりも恐れているという、危険因子。
そんな謎多き女に、いつの間にか染められていたこの男は、年甲斐もなく踊る心臓を感じ、目を細めた。
************
「名前姉さん、
…この魔術礼装は…」
蜜柑の髪を持ったリツカは、その白い服を見て思わず聞いてしまった。
それは本当の『白』即ち純白と呼べるほど輝き、とある女王が纏うウェディングドレスに勝るに劣らないほど、もしかしたらそれ以上の存在感を放っていた。
「ああ、それ?…それは…私の戦闘服よ」
意味深な笑みにのせられた言葉に、リツカは何かを感じて思わず口籠る。どこまで、なにを聞いて良いのか…リツカは名前との距離感をイマイチ図れないでいた。
距離を詰めたいのに、何かが邪魔をしている。それが酷くもどかしくて、仕方がない。
「まあ、もうコレを着ることはないでしょうけれどね」
「え…?」
最低限のものだけが置かれていた筈の名前の部屋は、『とあるお菓子の日』に英霊たちからこぞって贈られたプレゼントで飾られている。
リツカの部屋も同じような感じではあるけれど、大きく違うのは、名前の部屋には少女からの少女の部屋には名前からのプレゼントが、鎮座しているという点である。
これを確認する度にリツカは嬉々すると共に安堵するのだ。
自分の席だと勝手に思っている場所に座り、女の淹れた紅茶を口にしていた少女は、零されたその言葉に思わず女の顔をみつめた。
「目立つし汚れやすいし、気を遣うのよね」
ふうとため息を吐くその顔すら、リツカにとっては憧れを感じてしまうものである。
思わず赤くなる頬を隠すように慌てて下を向いた少女は、何故かその言葉を素直に飲み込むことはできなかった。
その裏に、何かが隠れているような気がして。
「でも、その服…なんでかすっごく名前姉さんに似合いそうな気がする…」
「そう?…それは嬉しいわ」
ふわりと微笑む女に、リツカの胸はどきりと震える。
同時に流れ込んできたそれはトキメキのように華やかな感情ではなかった。
憧れを抱く『自分だけ』の姉の、その笑みが…他のものに向けられた気がして。
「失礼するぞ、名前。
ブラマンジェというケーキを作ってみたのだが…ティータイムにどうだろうか」
「あら…いいわね、エミヤ。
私の好きな、色よ」
「…知っているさ」
こんこん、というノックの後に開かれた扉の向こうには(主に台所で)見慣れた赤い英霊の姿が。
このカルデアの台所を任されてしまった彼は任務以外は、ほぼ台所にいる。
だけれども、リツカは知っていた。ティータイムと称してこうして女の為にお菓子をつくるのだ。他の英霊や人間には頼まれたときにしか作らないのに。
「んー、まずまずね。
良いかしら。こういうシンプルなものにはね、あまり隠し味を入れない方が良いのよ」
「ほう…。少し洋酒を入れすぎた、か」
「お菓子を作るのは、女の子を扱うのと同じ。
貴方女性にはモテるじゃない。少しはそっちも勉強したら?」
「な…っ!、ごほん!
ま、マスター、何故いつもそういう話になるのかね」
揶揄うように笑う名前に、顔を赤らめる赤き英霊。
その姿はまるで『姉と弟』のようで、リツカも思わず笑みを零してしまう。
数々の女に翻弄されてきたこの男はなんとも哀れなことに、誠実過ぎたのだ。
そう…どんな運命の中でも、たった1人の女性を思い続けてきたという男は、男が辿る数々の運命の1つで、その女性が原因となり堕落させられたこともある。
それでも尚その女性の傍に『在り続けるのだ』。
そしてこの時はもうリツカの頭から白い服のことは消え失せてしまい、それ以上のことは、聞けずに終わってしまった。
***************
高く縛り上げた髪が名前の後を追い駆け、白い衣が、風を切って翻る。
肩に飾られた金と、黒い手袋とブーツだけが、彼女の纏う色であった。
背負う正義の文字が差し込む朝日に堂々と輝き、煌々と輝くその瞳はこれから迎えるであろう戦いを見据える。
誰もが、そう英霊すら息を呑む圧倒感。それは『王』の如く。
「ふふ、…随分酷い顔」
「…アンタがそんな恰好をしているからだ」
「だから今回は外そうかと聞いたのよ」
「ふん。俺はアンタの武器だ。
武器を持たずに戦地に向かうというのかね」
「損な性質ね、貴方達って」
「一緒にしてくれるな。それこそ反吐が出る」
揺れる正義の文字。
それは女の後ろを歩くその英霊にとっては、今すぐにでも破り捨てたいものであろう。
いや始めに見た時から、その服自体消し去ってしまいたい衝動に駆られた。
その服が主を縛り付ける囚人服のように見えたのだ。
もしその英霊が本能のままに動くバーサーカーの性質を持っていたら…。
いや、それでも、きっとこの英霊は女の意に沿わないことはしない。腐っても『誠実』な男故に。
「レイシフトした先は、大戦争真っ只中よ。覚悟は良くて?」
「誰に向かって言っている」
腰に装備した2丁銃は、殺戮のためだけに生み出され、目的遂行のためには情け容赦ない殺戮を繰り広げる英霊を象徴するもの。
今回の任務は『人を助ける為に人を殺す』。なんとも矛盾を帯びたそれだが、帳尻を合わせるためには丁度良い。
「名前ねえ、…さん」
「リツカ。…悪いわね。今回のレイシフトは譲ってもらうわ」
「それは良いんだけど…でも、本当に行くの?」
「ええ、行かないといけないの」
レイシフトするための装置が並ぶ部屋に続く、最後の扉。
その前に佇むリツカ。
いつもは快活な表情を浮かべて見送るリツカの表情は、暗い。
今までも厳しい環境に送られたことは何度もあったし、彼女自身も何度も赴いた。
だが、その白い服を纏う女の姿が、リツカの不安を更に掻き立てるのだ。
普段とは違う、凛としたその姿は、何度でも見惚れてしまうほどうつくしい。
そして、その何かを見据えるその瞳は…ぞくりとするほど、おそろしい。
リツカは畏怖していた。
自分の知る姉と、同じ体で違う顔をするその女に。
「大丈夫よ、リツカ」
だから、それは反射的な行動であった。
リツカは自分に向けて伸ばされたその手を、弾いて、逃げるように走り出した足を、止められなかったのは。
***************
「おお…名前!、今日は一段とイイ女じゃねぇか!
いいねぇ、今回の任務も屈せずに済みそうだぜ」
リツカの背中を追おうと名前を、浅黒い肌をした英霊が止める。
そのまま背中を押されるように、少し重い足で踏み入れた部屋には、青い英霊の姿があった。
そして名前の姿をみて、その赤い瞳を好戦的に輝かせた男は、
もう既に名前の放つ『戦いの匂い』に酔わされたようにその唇を歪めると、その白い手を取り、軽い音を立て女の手の甲に口づけたその時。1つに縛られた青い髪が、肩を滑り落ちる…寸前に、男は後ろへ跳躍した。
「…外したか」
「おー、今回は赤い方が来ると思ったが…。随分ご執心じゃねぇの」
「ふん、良く吠える駄犬には躾が必要か」
床に空いた小さな穴。
それは的確に青い英霊の頭を貫く筈であったが、流石ランサーといったところである。
今回の任務は練りに練られた状況や戦術から、遠くを狙えるアーチャーと、広い戦地を俊敏に駆けられるランサーが先行し、様子を見て他の英霊が送られる計画となっている。
…これは、カルデアの策士達がこぞって集まり、立てられた計画の1つである。
某王様達が揃って名乗りを上げて、戦場ごとぶっ飛ばすような計画は阻止されたことは、些細な蛇足に過ぎないであろう。
「はいはい、喧嘩しない。
私に此処で令呪を使わせるつもり?」
どうやら、エミヤとクー・フーリンという存在は、反発しあうのが常らしい。どんな姿となっても。
名前は武器を下した2人の英霊の姿にため息を吐きつつ、いつもと同じ調子で現れたダヴィンチちゃんに、レイシフト開始を頼んだ。
「さあて…我らが女王に仇なす敵さんを一掃しますか、ね」
「俺の邪魔をするなよクー・フーリン。手元が狂って殺してしまっても、知らんぞ」
「はっ、そいつはおもしれぇ。
そのいけすかねぇ面、穿ってやろうか」
人選ミスじゃないかと、笑顔でこの編成を押し付けてきた、某悪の教授を殴り倒したい気持ちになってきた名前に、世界的にも歴史的にも名を馳せる美女が、その絵画の名の通り微笑んだ。
かくして、名前は海賊の世界へと舞い戻ったのである。
*終わり*
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