水中遊戯
*色々オリジナル設定です。
*人魚姫主
*エミヤオルタ&クーフーリンオルタ夢




水の中まで差し込む太陽の光により、照らし出される世界は、きらきらと輝く青に包まれた柔らかな世界。
水面に薄く広がる月光の道により、静まり返る世界は、光を拒絶する黒に包まれた孤独な世界。

カルデアの一番奥には秘密の部屋がある。
一部の人間だけが知るその部屋からは、常に水の音が聞こえ、夏でもひんやりとした冷気が漏れ出ていた。
そこにあるのは、巨大な水槽であった。
一階から地下まであるそれは、いくら澄んだ水で満たされていたとしても、底が見えないほど深い。

一階にあるその扉を開けると、そこからは別世界となる。
円形につくられたその部屋の壁は洞窟の中のように、ごつごつとした岩と様々な色を放つ水晶に彩られていた。
水の上に伸びる道は、部屋の中心に浮かぶ円形の足場に続いており、その先には水に浮かぶ、宝石で彩られた豪奢な玉座があった。
龍のような姿をした像が玉座を守るように囲い、その眼光は、訪れるものの心までも見透かすような鋭さを宿していた。

夜の帳が下りて、闇に包まれた部屋に、ふわりふわりと小さな光を発する球体が舞い踊る。
うっすらと光を放つ灯篭のようなものはあるが、人工的な光よりも暗いそれを助けるように光るそれは、小さいが精霊に名を連ねるものであった。

一言でいえば、神秘的なこの空間に訪れるものは多い。
それはこの水の音と、微かな光により得られる癒しを求めるものや、インスピレーションが込み上げる静かな空間で物語を生み出すものなど、目的は様々であるが、この部屋の主に会うためという理由が一番多いであろうことは言うまでもない。



ふわりと何かを察したように、小さな精霊たちが騒めくと、…かつり、と靴の音が静かな部屋に落とされた。
不安定に揺れる光により、描かれた黒い影が水面に映し出される。
その靴音の主は慣れた足取りで部屋の真ん中に広がる丸い足場に辿り着くと、腰を落としその膝を付くと、鍛え抜かれ筋肉の浮き立つその体を曲げた。

ぱしゃ、
その男が頭を下げて、その瞳を閉じた瞬間。水面が騒めき跳ね上がる水が足場に落ちた。
それを合図に、部屋中の精霊がぱっと舞い踊り、近づく一つの影を照らし出す。

ばしゃんっ、と水が弾けた。
その水が男の頬を濡らし、肌を伝う。冷たいその感触に男がその金の瞳を開けると、

そこには、1人の女の姿があった。



「もう…。私は貴方の主であり、王ではないのだから、それはしなくて良いといったのに。その固い頭、なんとかならないの」


「これは失礼。アンタの躾が身体に沁みついているものでね」


「躾けた記憶、ないんだけど」


「記憶障害か?随分と馴染み深い病名だ。日記を書くことをお勧めするよ」


「水中で書ける日記があるならね!」


「別に人型になれば良い話だろう。なに、心配する必要はないさ。
俺が大切に保管しよう」


「……はあ、貴方に口で勝とうとは思ってないわ」



一つ一つが磨かれた宝石のような鱗が、淡い光を受けて輝く。
その鱗が形を作るそれはどうみても魚の鰭であった。
女性の柔らかな上半身に繋がるそれは、その女が人間ではないことを示すもので、とある作家により童話の主人公として描かれたこともある、世界的にも有名な『人魚姫』、それが名前の第二の名前であった。

海を司る神の姫君として生を受けた名前は、その役目を果たしてきたが、なんの因果に巻き込まれてしまったのか、足を得る代償としてなのか、聖杯戦争という人間が勝手に始めた戦いに引き寄せられた。
…何故か、マスターとして。

人間の姿にもなれるが、その代わり声を失うという、誰かの書いた物語と同じことになってしまった彼女は、元々聖杯に願うことなどなかったし、別に地上で生きたいとも思っていない。
だが、名前が一番初めに召還した『エミヤ』という青年が、いつだったか、話は割愛するが彼女が助けられたことのある『衛宮士郎』という少年であったことから、彼女の災難ははじまった。

そして、また別の話となるが…。
名前が救ってきた人間に捕まり、実験体として散々な仕打ちを受けた挙句、惨たらしく殺されるという世界に行き着いたとき、『エミヤオルタ』という反英霊が生まれた。
全ての記憶と共に転生した名前は、それまでの縁で召喚した彼らと共に人理修復の為に、人間を救うことを役目として、奔走している。

本来であれば、海の姫君である名前が人間を救う義理はない。
故に転生したときは、マスターとしての資格を有していることを告げる気はなかったし、カルデアに来るつもりもなかった。

だが、燃え盛るとある町で藤丸立香という人間に出会い、自分の為に堕ちた英霊を召喚したことで、後に引けなくなった…それだけの話である。



「で、何の用かしら」



珊瑚で出来た玉座に座し滑らかに光を滑らせる鰭で水を弾くと、再度水飛沫が男を濡らす。
その行動の意図を読み取りつつも、やれやれと言うように立ち上がった男は、視線を合わせるように彼女を見上げた。



「次のレイシフト先のデータだ」


「貴方のその顔からすると…ランサーの巣窟のようねぇ。
クーを呼んでおいて頂戴」



差し出されたその資料は水を弾く特殊な素材でコーティングされたものであるが、資料などの説明は基本的に彼女の英霊が率先して行ってしまうので、彼女が目を通すことは稀である。故にその表情でも察することは可能なのだ。
表情など微塵もみせない機械のような男を相手にしても、名前からすればその機微を穿つことなど容易い。



「補助として同行する分には、構わんだろう」


「そうねぇ…予想外の出来事なんて、日常茶飯事だし。
好きなようになさい」



男と同様に、名前に従うとある青い英霊の名が挙がった途端に、男の鉄仮面が微かに歪んだ。
どこの次元に辿り着いたとしても必ずその顔を見るというまさに宿敵の青は、今回は味方であるが違った意味では敵である。名前が呼ぶとエミヤの名が付く男が何処にいても現れるように、名前と共に在ろうとするクー・フーリンという男は、欲しいものを必ず手に入れる執拗な性質を持っている。それを示すように、クー・フーリンと名の付く男達が次々と彼女のもとに呼ばれるのだ。



「この世界は、気に食わんな」



黒に近い色を持つその手が名前の透けるほど白い手に触れると、その冷たい手の甲に、男はその唇を寄せる。
1人のマスターに対していくつも英霊が集まるこのカルデアのシステムは、男にとっては疎ましいものに過ぎなかった。



「アンタの武器は、1つで充分だ」


「なら、テメェが消えな」



赤い、槍が名前の目の前に突き立つのと、赤黒い銃が突如現れた気配を切り裂くのは同時であった。

棘に覆われた尾が名前の細い体をぐるりと絡めとり、一瞬宙に浮いた体に悲しいかな彼女は慣れていた。
棘の王が唯一その棘を無くす相手である名前は当然ながら無傷のままに、大きな体にすっぽりと収まる。横抱きにされた体から伝う人の熱に、鰭を軽く揺らしながら現れた相手…クー・フーリンオルタを見上げた。



「乱暴が過ぎるわ、クー」


「あ?俺のモンに何しようが勝手だろう」



見下げる赤い瞳が、彼女を射る。
禍々しい甲冑に包まれたその手が名前の頬に触れると、ぐとその端正な顔が近づいた…
その瞬間に響いた2つの銃声に体を反応させた隙をついて伸びてきた腕に彼女の体が再度宙を浮く。



「獣が獲物にするには…少し上質過ぎるものだ。お前にこの姫君は扱えないさ、死の棘よ」


「愚かな男だ。その身を落としても…手に入らないものに執着するなど、無意味なことぐらいわかっているだろうに」


「そのセリフは、俺だけにいうものではないと思うがね」



赤と金の瞳が、執着という醜い欲を油として黒い炎をあげるように睨み合う。
苛立ちを示すように叩き付けられた黒い尾に、銃を握りしめる手に力が込められた。
黒い頭巾から覗く青い髪がゆらりと揺れ、黒い腰布がじりじりと隙を狙うその動きにつられる。
息さえも忘れる、その圧が膨れ上がり風船のように弾ける…、と思われたその時。



「ぐ…っ、」


「…なっ、」



エミヤオルタの腕の中にいた名前がその尾鰭で彼を思いっきり蹴り上げた。
不意を突かれ、そしてその強い衝動により後ろへと倒れこんだ彼を受け止めたのは、水。
そして、勢いをそのままに反対方向にいたクー・フーリンオルタに飛びつくと、思わず動きを止めたその体を押し倒すように後ろに倒す。

ざばあん!と部屋に2つの水柱が立ち、噴き上げられた水が雨の如く降り注ぐ。
するりとクー・フーリンの腕から逃れた名前は、水を滴らせながらも流石の身体能力で足場へと戻った男達に、呆れた顔でため息を吐いた。



「喧嘩両成敗ってやつよ。
頭は冷えたかしら?」



にんまりと笑った名前であったが、目の前の男達を改めて目にして嫌な予感と呼ぶべきものが込み上げた。
揃って剥き出しにしている厚い胸板首筋を滴る水に、香り出す色香。なんかこれダメなやつだったかも、と表情を引き攣らせた彼女に
男達の標的が変わったのは当然のことであったのかもしれない。

無言で延ばされた、白と黒の腕を避けて水の奥底まで潜ろうとした動きは、既に読み取られていたようだ。



「…扱えないなら、扱えるように躾ければ良い話だろう」


「少し、オイタが過ぎたようだな…マスター。
お仕置きが必要か」



ふ、と緩められたその唇に、体に絡みつくワイヤーと黒い尾、足場に引っ張り上げられ、まるでまな板の上の魚のようだと、迫る2つの影に冷や汗しか流れない。
ひやりとした汗がなぜか水よりも冷たく感じられた。

この後、同じ名前の違うクラスの英霊が訪れて、更に名前が干上がることになるのだが…。


それはまた次の話である。





*終わり*
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