集う役者
*ヒロイン・FGO側不在
最も魅力的に輝くようにカットされたクリスタルに、優雅な曲線を描く金と散らばる宝石たち…。
それはまるで天井から零れ落ちる宝石箱のようで。
上品に零れ落ちる光を受け止めるのは、白い刺繍で描かれた文様が描かれた、しっとりと落ち着きのある赤い絨毯。
洋式にセットされたその会場はまさに広大の一言である。
その中でさり気無く所々に置かれた飾りには、代々受け継がれてきた誇りである家紋が刻まれていた。
「準備は出来ていような」
「ええ、抜かりなく」
「ならば良い。
今夜は我が一族の最後の宴。
それに似合う客人を多く呼んである。
…失敗は、許されぬぞ」
「すべて、御心のままに」
その会場を一望できる向かいの屋敷の最上階に、2つの人影があった。
光を落とした部屋に、会場となるホテルが放つ煌びやかな光が惜しげなく注がれ、部屋の闇を更に際立たせていた。
車椅子にその身を預けた白髪の男。
老いたその顔は、男の人生が刻まれている。
それは決して衰えを感じさせるものではなく、両肩に背負ってきた荘重たる何かを、感じさせる、厳かなものであった。
その男の傍に控える男。
黒いスーツを身に纏ったそれは、
祈りを捧げるように一礼した後、静かにその瞳を開いたのだ。
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太陽に代わるように人工的な光が咲き誇り、それを受けた宝石たちが最高級の輝きを散らす。
次々に足を踏み入れる人間たちはそれを当然のように受け入れ、敷かれた赤にその艶やかな靴を乗せていく。
1つまた1つと会場内に火が灯るように賑わいが増していき、気が付けば会場は多くの人で埋め尽くされていた。
使用人達だろうか、控えめな色を纏った男女が所々に控えており、
ウェルカムドリンクとして置いてあるグラスの補充や、受付などを行っているのが見える。
流れるように現れる車たちは、どれも世界に名の知られたブランドのもので、その価値を考えるのは愚かなことであろう。それはそこに乗る人間が纏う服も同様だ。
会場を含む一帯は、主催者の土地である。
良く手入れがなされた庭も然り。
全体的に洋風にまとめられたそこは、庭の中心の置かれた噴水をはじめ、屋敷を支える柱や、所々に置かれたベンチなど、映画の舞台のようなまさに芸術の園であった。
「これまた随分ご立派なところで…」
白い大理石を、黒い皮の靴が弾く。
かつん、と澄んだ音を立てた男は、小さくそう呟くと白く伸びる柱に凭れ、腕に巻いた時計をみた。
細かな彫刻の施された柱に体を預けるその男に、訪れる女性たちの目が向けられる。
それもそうであろう。
光を受けてきらきらと輝く金の糸はさらりと流れ、男が持つ褐色の肌を更に引き立てる。
穏やかな青を帯びた瞳ははっきりとした何かが覗き、引き締まった体に黒いスーツがよく似合っていた。
その職業柄視線には敏感であるようで、男に向けられる視線にふわりとした微笑みを返すと、品の良い化粧をした女性達がその頬を赤らめ、中には引き寄せられるように、声を掛ける女性もいるほどであった。
「あれ…?安室さん?」
流石といえるほど、自分に声を掛けて来る女性達に対して微笑みを崩さずに、当たり障りなく対応していたその男は、不意に聞こえたその声にはっと顔を上げた。
そして見慣れたその少年の顔を確認すると、待ち人が来たので、とやんわりと女性達を振り切りその声の主の元に駆け寄った。
どうやら此処に来る女性は、所謂良いお家柄のお嬢様のようで、その仕草や話し方は洗練されており、一方的に詰め寄って来る女性はいつもよりも少なかった。故にあっさりと解放されたので、ほっと安堵の息を吐いた男は、こういうお嬢様達との会話を長引かせてはいけなくことを良く知っていたのである。
何故ならば、彼女たちは気に入ると権力にものを言わせて、物理的に距離を詰めて来るのだ。
それに男はいくつもの顔を持つ、あまり表には立てない人間であるので、下手なことはしたくない。
だからこうして、毛利探偵の助手という立場の『安室透』としてこの場所にいた。
「やあ、コナン君。助かったよ」
「…ハハ…、相変わらずだね、安室さん」
さらりとした笑みを浮かべて寄って来た男に、コナンと呼ばれたその少年は呆れを混じらせた笑みを返した。
相変わらず、モテるというか、人目を惹く男である。と内心で呟きながら、もうすぐ毛利探偵達も来ることを告げると、改めて会場のエントランスで同じように話し込む人達に目をやった。
「やっぱり凄い人ばかりじゃない?」
「ええ、歴代のスポーツマンから、日本を世界へと導いた創業グループの社長、女優、芸術家…。
政治界を始め、警察や、弁護士…なんていうのもいます」
「世界的に名を残した有力な人を片っ端から集めたような感じだね…」
テレビで一度は顔を見たことのある人間ばかりが集められた会場に、思わず少年がそう呟く。
別世界にでも来てしまったような、今この場所が日本の中心であるような、不思議な感覚に囚われそうになるけれど、その瞳は世話しなく動き、『観察』を忘れない。
探偵とは、まず目に焼き付けることだ。
そしてその焼き付けたことは、忘れてはならない。
少しの『違和感』から、解決する事件も山ほどあるから。
要は、『気づける』人間でなければ、探偵は務まらないということである。
2人の明晰な脳に、次々と訪れる人間のデータが入力されていき、そろそろ式が始まる時間に近づいた時、彼らの耳にばたばたとした音が聞こえた。
「あー!コナン!!
お前、勝手に先に行くなよな!!」
「そうですよ、コナン君。
団体行動は大事です」
「あ!探偵さん!来てたんですね!」
子供用の正装をした少年2人と少女1人が元気よく駆け寄り、その後ろを1人の少女と大柄の初老は過ぎたであろう1人男性の男性が現れた。
同じ車で来たのだが、どうやら先に来てしまったらしいコナンは、次々に詰め寄られて悪ィと頭を掻く。
肩に付かないくらいの艶のある髪を部分的に結い上げた少女は、その隣で柔らかな笑みを浮かべる安室を見上げると、視線を合わせるように彼は、腰を落とす。
「やあ、歩美ちゃん。
今日は随分おめかししていますね」
「そうなの!お母さんが用意してくれて…」
女性は、例え少女であろうとも女性である。
むしろ少女の頃こうしてお洒落を楽しむことによって、そういう感性は磨かれていくのかもしれない。
嬉しそうにはしゃぐ少女に、もう一度笑みを落とした…その瞬間。
ふと落ちた影に、その瞳を滑らせると、かちりと彼の時が一瞬止まり、こみ上げたその感情を唇を引き攣らせることにより、ようやく制御することができた。
「あ…っ、あか…ごほん。
これはこれは、沖矢昴さん。貴方まで来るなんてねぇ」
「ほう…。こんなところで会うなんて奇遇ですね、安室君」
額に青筋が見えなくもないがその内心とは、裏腹ににこやかに笑みを作った安室は、流石いくつもの顔を持つだけある。と横で見ていたコナンは乾いた笑みを浮かべた。
そして、いつものように綺麗に変装し、きっちりとしたスーツを纏う沖矢と呼ばれた男は、読めないその表情を安室に向けた。
潜められたその瞳に、精悍な顔立ちはミステリアスなその男によく似合う。
すらりとした体は、安室と同様に引き締まっていた。
その体に黒のスーツを纏い、緩やかに上がる唇に、更に周りからの視線が集中する。
まさに犬猿の仲…こうみると随分一方的だが、仲の良いとは言えない2人が、表面上では穏やかに会話をしていると、またエントランスにコナンにとって、聞き慣れた声が聞こえてきた。
両側に美女を伴いデレデレとした顔でやって来たのは、最近テレビによく映るようになった、コナンの居候先の主、毛利小五郎である。それをジト目で見るのは娘の毛利蘭であった。
これにて、役者が揃ったのである。
*終わり*
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