バタフライエフェクト
*fate作品内転生主人公
*エミヤ&エミヤオルタ夢…?
*さりげないネタバレ…?
これは…誰が為の、物語であったのだろう。
いや、そんなことはとうに理解していた。
物語には、タイトルに相応しい主人公が在る。
主人公には、大抵相応しい相棒がいて、仲間となる存在がいる。
そうして何かしらの苦難を乗り越えて、成長していく。
たとえそれが結末を迎えても、どんな形であれその物語を紡ぐ数多の登場人物たちには、意味があるのだ。
なればこれは『藤丸立夏』という人物を中心に織り成す物語であると共に、『彼』と共に歩む人間と英霊たちのそれぞれの物語が、交差する、混合作であるのだろう。
そんな膨大な物語の中に、意図せずに入れられた女がいた。
彼女は聖杯と運命を共にし続けて来た『魔女』であり『人間』であった。
聖杯の出現と共に現れ、聖杯の消滅と共に消える女は、多くの人間と英霊に影響を与えて来たのだ。
だがそれは彼女が望んだことではない。全ては運命という歯車の1つに過ぎない。
だから、彼女はカードを切った。
自分の運命を勝手に操るものへの、反逆として。
「私が望むのは、カルデア組織への口出しと手出し無用。
ただそれだけですよ」
黒い皮のソファーに座り、テーブルを挟んで向き合う人影が2つあった。
薄暗く広いその部屋は、毛の長い絨毯がひかれ、壁のいたる所に蝋燭の妖しい光が灯っている。
分厚いローブを羽織った老人とは思えない程の重厚な存在感を放つその人物が、覗く瞳を鋭く尖らせると、目の前の女を見据えた。
黒いロングドレスを纏った女は、赤く塗った唇をゆるりと動かして、そう囁く。
ドレスと同じ色をした手袋に包まれた手が、テーブルの上に置かれた分厚い紙の束を撫でると、老人の瞼がぴくりと揺れる。
「人理修復という気が遠くなる程の偉業を成し遂げたカルデアの英雄を、まさかまさかそちらが実験体として使うことはないでしょうけれども。正直五月蠅いんですよ。眠っていただけのお坊ちゃま方が。
彼を学校へ通わせることは反対しませんが。…魂胆がどうも見え見えなので。釘を刺しに参りましたの」
人理修復がなされた後。カルデア組織に待っていたのは、追及と拷問じみた尋問であった。
只さえ魔術師という人間は、一般人を人間と思わない節があることは嫌という程知っていたのだが、まさか此処まで馬鹿だったとは…と怒りを宿した瞳で女はゆるりと微笑む。
「あなた方がこれ以上『カルデア』及び『藤丸立夏』という人間に関わるというのならば、これを全て公開して差し上げましょう。そうすれば高貴な魔術師一族も、あなた方も全て破滅…。あまりに呆気ない終わりですね」
「………なぜ…お前のような女が…こんなものを…っ」
「そもそも実力のない、プライドだけの人間が英霊を操ろうなどと無理な話…。あなた方魔術師は一度道徳心から学ばれるのが宜しいかと」
「そんなもの…っ!必要ない!」
「左様ですか。どうでも良い話です。
さあ、選んで下さいな。カルデアの解放か、…破滅か」
「……良いだろう。だが条件が足りん。
カルデアと藤丸立夏からは手を引こう。ただしお前が、代わりとなれ」
皺の寄った顔が屈辱に歪む、が何かを思いついたように一変すると、企みの籠る笑みを浮かべた。
女は、悪い奴程変な方向に頭がキレるのだなと、内心呆れたがある意味それが狙いでもあったのだ。
「……この機密中の機密文章だけでは、足りないと…?」
「当然だ」
「わかりました、では契約を結びましょう。
この資料と私を差し出す代わりに、カルデアと藤丸立夏への関与は一切ないものにする…とね。
ああ、勿論…これは契約であり約束、そして呪いでもあります
例え私が死んでも、これは生き続けるものですので。よしなに」
にこりと笑い、契約の紙を差し出した女は、部屋中に満ちる影の気配に気付かぬ振りをする。
何かを企むもの同士の交渉、しかも狸のような性質を持つ相手だと、警戒に警戒を重ねなくてはならない。サインを交わすと同時に素早くその紙を回収した女は、その影が動くよりも早く、目の前の老人に呪いを刻み付けたのだ。
「…っぐ…ぁ…っ」
「少し不用心過ぎましたね。サインを交わした瞬間に紙を奪い取り、資料も燃やす。そして私も始末しようとするのは、もう常套手段として読んでいますよ」
老人の右手に黒い亀裂が走ると同時に、女の手にも同じものが伸びる。
肩まで伸びたそれは、じくりとした熱と痛みを暫くお互いに与えて、収まった。
「さて、契約成立です。あとはお好きにどうぞ。
ああ…そうそう、契約が破られた時、あなたは死にます。
そしてこの呪いは子孫へと移る。あと…関わった人間にも…ね」
後ろから迫った影に拘束され、魔術を以て動きを封じられた女は、忌々し気に彼女を睨み手にしていた杖を振るった老人に高らかに笑った。女の頬に振り下ろされた杖。何度も殴りつけられる痛みにも、彼女は笑みを隠さなかったのだ。
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「ちょー快適、なにこれ天国だわ…」
かたんかたんと聞こえて来る電車の音が、夜の街に響く。
カルデアの自室よりも少し狭い部屋に炬燵を置いて、座椅子に座り体を伸ばした名前は、ふかふかのカーペットにごろりと横たわる。
暫くとある施設に監禁されていた彼女は、それから暫くして呆気なく死んだ。元々無茶を続けて、ぼろぼろであった彼女の体は、そこで行われる過酷な研究と称した拷問に耐えられなかったのだ。こうなることは予測していたけど、ちゃんと予告してあげたのだから良いよね〜というのが彼女の言い分である。
だが死んだからと言ってどうやら解放されたわけではないようで、気が付いたら、彼女が元々いた冬木という大きな街に戻されていたのだ。これまで散々稀有な運命に翻弄されて来ただけあって、彼女は動揺1つせずに住居を決めて、今に至るということである。お金の出所は…とある宝物庫であることは言わないでおこう。
「ふふふ…ひっさびさのジャンクフードに、お酒…罪深いわぁ…」
今までの聖杯戦争で、彼女の周りには何故か世話好きの赤い影が付き纏った。
彼女が拾って育て上げた少年を始め、その面影をばりばり浮かべる青年、挙句の果てには青年がグレたような姿をした男にまで、世話を焼かれ続け、気が付けば彼女は健康的な生活をずっと続けていたのだ。
おかげで健康診断に引っ掛かることもなくなって、あの婦長にもそこだけは太鼓判を押されるくらいの、健康体である。
「衰弱死は結構辛かったけど、まあ…丸焼きにされたり釜茹でにされるのよりはマシよね」
テーブルに広げたフライドポテトを口に含んだ彼女は、ご機嫌丸出しでにっこりと笑う。
聖杯と共に死を迎えるという彼女だが、その死に方はその時々で異なっており、安らかな死とは程遠かった。それは物語にどれだけ影響を及ぼしたかで決まっており、彼女が関われば関わるほど、その死は惨たらしいものになっていったのである。その死を見届けてしまった者…特に赤と青、金の青年たちは、どうやらそれがトラウマになっているらしく、彼女に召喚されてからというもの、傍を中々離れてはくれない。
心強い仲間の存在は大変ありがたく、頼もしいのだが…やっぱプライベートは大事だよね…と、何処かの姫君に執着される藤丸立夏と、毎晩語り合っていたのは、懐かしい話だ。
「聖杯の気配は…今のところカルデアだけだし。
ひっさしぶりのおひとり様を満喫しましょうかね」
彼女は始めまた違う次元の聖杯戦争へと飛ばされたのかとも考えたが、どうやらまだ同じ場所らしい。右腕の呪いはちゃんと生きているし、一般の生活の中では一切情報は漏れてこないが、とある伝手から仕入れた情報によると、カルデア組織は独立して今も尚活動を続けているらしいのだ。
ある意味では、彼女の思い描いていた通りの、いやそれ以上のハッピーエンドを迎えたということである。
彼女は呪いのことがなくても、カルデアへの帰還は頭になかった。元々イレギュラーな存在であることは理解していたし、戻る理由はもうないのだ。高度な魔術を施された彼女はもう、令呪を持たないのだから。
あの老人はまず名前とカルデアの繋がりを完全に絶った。そこには令呪も含まれており、研究も兼ねて施されたそれは、魔術とは言い難い物理的な方法である。そう…手の甲の肉ごと毟り取るという。おかげで彼女の左の手の甲には歪な円形の傷痕がしっかりと残っている。
「……長く生きていると、何が役立つかわからないものね…」
交渉材料として用いた機密文章という名の魔術師たちの黒歴史は、初めて彼女が聖杯戦争に巻き込まれたときからずっと記録していた、彼らの闇である。そこには彼らが行ってきた決して公表を許されないことが、全て記録されており、暴露されることは、即ち破滅に繋がる恐ろしいものだ。しかもあの場に置いてきたものはコピーであるので、原本は彼女が今も隠し持っている。
持てる手は全て切った。あとはカルデアと彼次第であると、久々のハンバーガーに頬を緩めながら口を付けようとした時。
ぴんぽーんと高い音が鳴った。
反射的に立ち上がろうとした体を押さえて、思考する。何か嫌な予感が過ったのだ。
こういう時の勘は良く当たるものなので、馬鹿には出来ないし、それよりもなによりも現在久しぶりのジャンキーな食事中なのだ。だが万が一宅配便だった場合、ただの居留守を使った迷惑者と成り下がってしまう。しかもこんな時間だから家の明かりは外に漏れているだろう。
しかたないと腰を上げた彼女は、一応警戒して気配を断ちつつドアへと近づいた。
因みにこのドアには不法侵入者除けとして、結界が施されているので、ちょっとやそっとでは霊体化した英霊でも入って来れないようになっている。
音を立てないように、そろりとドアスコープを覗き込んだ瞬間、彼女は体を反転させると音もなく駆け出した。狭い部屋を走り抜けて、閉めていた窓を開け放つと、躊躇なく飛び降りたのだ。ちなみに彼女の部屋は10階である。
近づく地面に着地の体勢を取りつつ、考えていた避難先へのルートを頭に思い描いた、が。
「お見通しだよ、名前」
着地点に突然現れた男によって、短い逃走劇は幕を閉じたのであった。
彼女がその時頭に描いたのは…部屋に置き去りにした、ディナーのことである。
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「ふふふ…このダヴィンチちゃんを舐めたら駄目ダゾー?
マスターの考えていることなんて、ぜーんぶわかっちゃうんだから」
「………ぷらいばしー…」
「おやおや、そんなものが今のキミにあると思うかい?
取り敢えず帰っておいで?ね?」
「……そろも…違った、ドクター…笑顔が怖い…」
がっしりとした腕に、そのままホールドされた名前は、部屋に連れ戻された。
呼び出し音が鳴った時に逃げておけば良かったと、遠い目をする彼女に見せられた、モニターにはにっこりとその顔に笑みを浮かべるカルデアのツートップと、じとりとした目を向ける見慣れた英霊たちの姿…そして、泣きそうな顔をしたもう一人のマスターとその相棒の姿が映し出されたのだ。
これには流石の名前も白旗を上げるしかなくて。明日にでも帰還するという約束を取り付けられ、こってりと絞られる羽目になった。
「………そりゃ、心配してくれたのは…ありがたいけど…さ」
炬燵のテーブルに項垂れる名前は、そこにあった筈のあるものが無くなっているものに気が付くも、触れずにただ顔を伏せる。冷や汗が流れて来ているのは気のせいだろうか。いや気のせいに違いない。
「名前」
「なあに、えみ、…や…っ」
だが、その聞き慣れた声が…彼女を呼んだ瞬間。悲しいかな習慣というものだろう。ぱっと顔を上げてそちらを向いてしまったのだ。そしてそこに恐ろしいものを、見ることになる。
「カルデアで、俺が作った時は微妙な顔をしていたが…」
「エミヤ…」
「ふむ、まあ効率的な食事だな。だが…理想とは遠い」
「お、オルタ…」
そういえば、此処に奇襲を仕掛けてきたメンバーをちゃんと確認してなかったな…とうっかり気を抜いていた自分を責めるしかなかった。そこには、彼女の体を作り維持して健康に保つことに生きがいを感じてしまった、食事に五月蠅い世話焼きが揃っていたのだ。
2人の中では比較的好きにさせてくれたエミヤオルタも、記憶と味覚を取り戻すに従い、口煩くなり今では赤いのとあまり変わらなくなってしまった。逃げようものなら固有結界に閉じ込められ、延々と説教などされることはもう経験済みであるので、彼女は大人しく、また机にへばり尽くしかなかった。
「……とりあえず…買い物に、行きましょう」
明日になればきっとカルデアでまた絞られるだろう。あれだけ勝手なことをしたのだ、まあそうなることは理解していた。しかし彼女は想定していなかったのだ…。
これから先、この部屋で3人で生活していくことになるとは…。
*終わり*
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