狂い花
*新宿のアサシンに対する真名表記あり。




その日も任務を終えた名前は、暫く同行してくれた英霊たちと語り合った後、1人で自室へと戻る。いつもならば新妻の如く名前の帰還に合わせて出迎える弟たちは、もう一人のマスターの任務に同行しているため、彼は久々の静寂に羽を伸ばすことにした。

軽い足取りで白い廊下を歩き、見えてきた自室に目をやった名前は、扉の横に佇む影を見つけた。見慣れたその影は、名前に気付いたのか顔を上げると、ふと微笑む。




「にいさん…帰ったのか」


「ああ、だがお前はまだ任務中の筈だろう?
何かあったのか?」


「いや、何処かの未熟者がクラス相性を間違えてね。
土壇場で気づいて、外されたのだよ」


「……そうか。まあ…あいつらしいな」


「全く、迷惑にも程がある。にいさんの方に同行できたというのに」


「そう言うな。これもまた経験さ」



明かりの落とされた暗い廊下に、冷やかな月の光が差し込む。
影を纏ったそれは、端正なその顔を歪めて、忌々しげに吐き出した。
相変わらず容赦のない英霊だが、もう一人のマスターであるリツカへの怒りというよりも、ただ名前と行動を共に出来なかったことへの苛立ちが見え隠れしていて、それに気が付いた彼は、静かにほほ笑む。

光るように浮き立つ黄色に、そっと手を伸ばす。
英霊の全身を走るその傷に瞳を曇らせた名前は、浅黒い肌に覆われた頬に指先で触れた。慈しむような優しい指先に乗せられているのは、言い知れぬ懺悔。
己の頬に触れるその手に静かに目を伏せた英霊は、胸に蠢く何かを堪えるように、己の拳を握り締めた。



「にいさん。疲れただろう…中へ」


「ああ、そうだな」




するりと離れた手を、掴もうと上げた手。
英霊の様子に気が付かない名前は、開けられた扉から部屋へと入っていく。その背中に続いて中に入った英霊は、魔術礼装を解除して上の服を脱いだ名前に、思わず目を見開いた。しなやかな背中は細かい傷はあるものの、綺麗なそれである。だがそれに対して、胸や腰に刻まれた傷跡は深く大きいものであった。

名前の体の傷は、まるでその生き方すら表しているかのようで。英霊は、その体に『みいる』ように、動作により動く筋肉なども含めた、名前の動きを見ていた。




「どうかしたか?」


「…あ、…いや。…なんでも、ないさ」


「そうか。シャワー浴びて来るから、大人しくしていてくれよ」




名前に声を掛けられ、乱れた視線をさり気なく修正した英霊は、掛けられた言葉に頷いた。タオルなどを手にして浴室へと入っていった名前を、見送ると、部屋の隅に置かれたソファーに座り深い息を吐く。

肌を裂く痛々しい傷跡が刻まれた手を伸ばし、天井から注ぐ人工的な光に透かすように、それを見上げた。そして再度重い溜息を吐いた英霊は、その手で己の目を覆った。

聞こえて来る水の音が、雨垂れのように英霊の心を叩く。名前が浴室から出てくるまで、英霊はずっと何かを堪えるように、目を塞ぎ、ただ水の音に耳を傾けていた。




「…暑いな」


「っ、…にい、さん…」




下半身はしっかりと服を纏い、上半身は裸でタオルを巻いただけの名前が、英霊の隣に座った。動揺を露わにした英霊の姿に、そっと口角を上げた名前は、何も言わずに髪をタオルで拭き始める。

ぽたぽたと落ちる雫に、惚けていた英霊は、はっとしたようにそのタオルを奪い取ると、立ち上がって名前の背中に回る。




「そんな拭き方では、傷んでしまう」


「ああ、助かるよ」




この名前が、自分のこととなると途端に無頓着になるのを、英霊は良く知っていた。だから呆れたような顔をしても、口には出さずに触り心地の良い髪に触れると、タオルで包むように乾かし始めたのだ。
ガラスにでも触るような、慎重さを以て触れる指先に、相変わらずだと笑った名前は、そっとその目を閉じる。



「…にいさん?」


「お前の手は心地良い…。眠くなってくるんだ」


「疲れが溜まっているんだろう。仕事のし過ぎだよ」


「ふふ…。此処に来てからそこまでしていないさ。
したくても、お前たちがさせてくれないからな」


「嘘を吐くなよ…にいさん。此処のところ、碌に寝てないだろう」




いつもよりも気だるげな口調。今日は一日任務で走り回ったのだ、流石の名前も疲労の色を隠せない。カルデアの職員としても仕事をする名前が、溜まった書類などの消化のために、毎晩机に向かっている姿を見ていた英霊は、眉を顰める。
名前が来るまで、カルデアの人手不足は顕著であった。何とかカルデアのトップや職員が徹夜を繰り返して、運営していたが、それでも出来ることは限られる。だが…この名前が現れてからというもの、書類やデータなどに関するシステム化やプログラム化が進み、滞っていたものが全て消化されるようになったのだ。
しかし、名前の背負う負荷は大きい。それを案ずる英霊たちが名前の仕事をサポートし始めて、やっと最近、彼は自分の時間を得ることができるようになっていた。



「そんな顔を、しないでくれ。
俺はただ自分にできることを、やっているだけだ」


「……それでも…俺は」


「…お前が、支えてくれるんだろう?」


「…………にい…、さん」




近くにあった櫛を手に取り、名前の髪を梳く。さらりと流れる髪は持ち主のようにうつくしく、英霊の手を零れていく。英霊はその腕を回して名前を後ろから抱き締めた。頬に当たる柔らかな髪に、その薄い唇を押し当てる。名前は自分の胸の前で交差する、太い腕を撫でると、そろそろ寝ようかと呟いた。




「どうした?…もう少し、こっちに来い。寒いだろう」


「……ああ…」




いつも名前が纏っている匂いに満ちたベッドに横になった英霊は、煩く跳ねる心臓を無理やり鎮めようと、大きく息を吐く。慣れた様子で英霊を引き寄せた名前は、何とも憎らしいことに、もうその瞳を閉じてしまっている。英霊の方を向いて、眠りへと片足を沈める名前を暫く見つめていた英霊は、音を立てないように腕を上げて彼に手を伸ばした。そして、先ほど名前がやったように、その頬に触れる。

しっとりとした肌は吸い付くような弾力があった。片手で頬を包み込むと、英霊は苦しげに顔を歪めた。




「…ますたー…」




じわりとこみ上げる熱が、何かはもう気付いていた。
涙腺がじわじわと緩んでいくのを、頭で感じつつも、それを制御することはできない。
つう…と英霊の頬に透明な雫が零れ落ちる。




「…お前も、苦しいのか…燕青」



穏やかな低音、それはその英霊にとって『真綿』であった。柔らかくも強いそれは、残酷な優しさで、この男に魅了される全てのもの達を絡めとる。本当にひどい…男だ、と零れ落ちる涙をそのままに、燕青と呼ばれた英霊は口元を歪めて、嗤った。




「ああ、…ああ!苦しいさ、マスター…!!
俺を信じなかったあの、主よりも…憎くて…、憎く、て…、でも…っ」


「…………燕、青…」


「あんたは、強い…、強すぎるんだ、だからなんでもやっちまう、まるで孤高の王のように…周りに味方を置こうとしない。なら…何故…?何故、あいつだけ…?あいつだけに、触れる?」




まるで月のように、その姿が変わる。
金のそれから緑に変わった瞳は、変わらずに透明な雫をぽたぽたと落としていた。
白から黒、短髪から長髪へと変わった髪が、ふわりと空を舞う。軽やかに体勢を変えて名前の上に跨った英霊は、己の腹からこぼれ上がる醜い毒を、勢いのままに吐き出していく。慟哭と化したそれを、名前はただ聞いた。真っ直ぐに自分の英霊を見つめながら。

ぽたぽた、と降り注ぐ雨垂れ。それは水晶を砕いた粒のように、うつくしく名前へと落ちていく。




「あんたが、憂い愛でるのは、あいつの傷かい?
ならばこの体に刻めば良いさ、そうだろう?もう…この体も、心も全て、俺はあんたに捧げたんだ。なあ…俺を、見てくれ…マスター。あんた専用にして構わない。なあ…」


「燕青、落ち着け。お前の体には誇りが刻まれているんだ。
そんなことできるわけないだろう」


「…良いんだ、マスター。俺はあんたのモンになるためなら、何だってする」


「馬鹿なことをいうな。お前はお前だろう?
そんなことをしなくとも、お前を見ているよ」


「嘘だ…っ、いつだってあんたは、あいつを見ている…!
あの壊れた男を…っ、ああ…!にくい、にくい…にくい…っ」




顔の両脇に置かれた、武人の太い腕が震える。
憎しみと怒りが織り交ざるそれは、煮詰まった嫉妬心なのだ。
名前を渇望するもの達は、皆…殺したい程に妬ましく思っている。壊れた英霊の、あの男を。

それを知っているから、あの男は、『壊れたままで在る』のだ。味覚も記憶も保てるだけの力を取り戻した癖に。マスターから与えられる魔力を使えば、あの傷だって…塞がる筈なのに…。なんて狡猾な男なのだろう。腐り果てた心ではもう、名前を己のものにするためならば、手段は選べないのか。そう英霊は、心の底で、あの英霊を何度も殺し、罵倒を繰り返してきた。

ふ、と名前の瞳が閉じられたかと思うと、ゆっくりと開かれる。




「燕青」


「…あ…っ…」




くるりと英霊の視界が回ったと思うと、気が付けばシーツに体を押さえ付けられていた。
白いシーツに、黒の髪が舞い落ちて、扇のように広がる。そして自分に覆い被さる名前を見上げて、見開いた瞳を恍惚に濡らした。うつくしい絹の肌に包まれた喉仏を、名前の指先が這う。そして突如その手が、英霊の首に回されると、ぐと力が込められた。強い強い力、自分の体重を込めて締め上げられる、それに、英霊は苦しみに喘ぐように薄っすらと唇を開ける。だがその瞳は、悦びに染まっていたのだ。

勿論、英霊も名の知れた武人の1人。抵抗しようと思えば簡単なことだ。

しかし英霊は、体の力を抜いて、それを受け入れた。地獄の底までも供をすると決めた主が、この時初めて己を見たような気がしたのだ。英霊の体はこみ上がる悦びに、ただ震えていたのだ。




「…っ、は…ぁ!!!、は…ぁ、ぁ…なん…、で…、ある…じ、」


「死へと向かう、主を制すことの出来なかった愚かな従者は今、死んだ」


「…は…ぁ、は…っ」


「なれば、お前は誰だ?」


「…ぁ…、」


「俺に組み敷かれ、浅ましい恍惚を享受する…お前は、なんだ?」


「…お…、おれは…」


「天巧星を背負うものか?」


「……おれは…」


「お前が名乗りを上げた、梁山泊百八傑が一人、浪士燕青か?」


「ち…がう、おれは…。俺は…あんたの、マスターの懐刀であり、右腕であり、腹心である…。
あんただけに忠誠を誓い、あんただけを…慕うもの…」


「ふふ…随分欲張りだな」


「いいだろ?…俺は、あんたの従者だ。それが俺が俺である…意味」




落ちそうになる意識のままに、虚ろな意識で名前を見上げていた英霊は、また突如彼の手が離されると、一気に入ってきた空気に顔を歪ませたまま嗚咽を零す。
だが…英霊の首についてしまっているだろう、名前の手跡。
それを愛おしむように撫でた英霊は、名前に陶然の如き笑みを向けた。




「…もう、意味のない投影はするな。お前が壊れてしまっては、悲しいよ」


「……本当に?」


「当然だろう。お前はお前以外の何でもないさ」


「ますたー…。わかった、よろこんで従うさ」


「………あいつの、記憶をみたのか?」


「………」


「…そうか。なら…忘れろ」


「……あんたが、忘れさせて、くれないのか?」


「自業自得だろう、燕青」


「そう言うなよ、マスター。
そうだ…俺は、今…生まれ変わったんだろ?
なら、あんたのを刻んでくれよ…好きにして良い」




名前の手を取った英霊は、誘うように艶美な笑みを浮かべ、己の体にあてがった。
英霊の体に優雅に咲き誇る牡丹の花、それに手を加える気は全く無い名前が首を横に振るが、どうも納得してくれないらしい。
ならば、と名前は何かを思いついたように、指先に魔力を込めると。その刺青に1つ、『それ』を足した。すると足りないと不満げに強請られたので、背中側にも足しておく。




「これも含めて、お前だよ燕青。
全てを書き換える必要はないだろう?
お前は前の主だって、憎んでいないのだから」




そう言って笑う名前に、英霊は体を起こして抱き着いた。
背中にしっかりと腕を回し、その胸板に顔を埋める。とくりとくりと規則正しい鼓動を刻む、その胸に何よりも安堵を覚えたのは、あの名前の記憶が混じったからなのか。それとも。
身を起こしてもシーツまで流れる長い黒髪に指を通して、そっと撫でる名前に、英霊はそっと息を吐いた。




「落ち着いただろう、燕青」


「ああ…、ありがとな…マスター」




この男は、いつも凪いでいる。どんなに歪んだ感情をぶつけられようとも、揺らぐことを知らない。まるで名前が一番…。そこまで考えて、英霊は静かに目を閉じた。

先ほど自分が称した…孤高の王。この男がその通りならば、いつかそこに辿り着いてみせよう。そうすれば、名前はきっと自分を見てくれるのだろう。使える道具としてでも、良い。傍にいられるならば…それで。ふと開いた緑のそれは、英霊のその想いを映し出すかのように、鋭い光を放ったのだ。








*************







リツカが帰還したという知らせは、翌日の昼前に届いた。

いつも料理番として動いている英霊が任務に出ていたので、名前はその代わりにキッチンに立っていた。血の繋がらない弟にも料理を教えてきた名前は、当然ながら料理の腕前はずば抜けていて、バランスの良い色鮮やかな朝食が並び、カルデアの職員や英霊が食堂へと押し寄せた。
その英霊はどちらかというと和の料理を多く作る。頭の中のレシピには各国の料理が詰め込まれているのだが、やはり生まれた国の料理を大切にしているのだ。特に朝食においてはその傾向が強い。
なので、名前は各国の郷土料理を組み合わせて出した。これが中々に好評であったため、昼もまたバリエーションを変えて出そうかとも考えていた。




「これで良いのかい、マスター」


「ああ、充分だよ…燕青」




野菜やら肉の下処理をしていた英霊が、それを名前へと渡す。
一応料理の下拵えはこれで終わるので、後は英霊が戻り次第交代しても良いだろう、と調味料を揃える名前を見て、英霊は穏やかな笑みを口元に浮かべた。
カルデアに召喚されてからというもの、英霊は、『とある英霊に構う名前の姿』しか目に映していなかった。元々従者の気が強いことは自覚していたが、名前と任務を共にする内に芽生えた感情が、それを歪ませたのだ。
名前の傍はとても心地よいもので、今自分がそれを独占していると思うだけで、天にも昇る気持ち…というやつである。




「……これで良いだろう、戻ろうか燕青」


「はいよ、マスター」




今日も今日とて、分厚い雲に覆われたカルデアは、良い天気とは言えないだろう。
窓の外で唸りを上げる吹雪を横目に、エプロンを取った名前は、自室へと足を向けた。
すると遠くから何やら賑やかな声が聞こえて来たと思うと、聞き慣れた声が名前を呼ぶのが分かった。
だだだだ、と廊下に響く足音に、名前はため息を零しつつ、緩やかな笑みを浮かべた。




「兄さん!!ただいま!!」


「おかえり、リツカ。怪我はないか?」




弾けるような笑みに、そう返した名前は、そのまま勢い良く突っ込んで来るであろう彼に、腰を少し落とした。だがその予想は外れることになったのだ。




「はいちょっとごめんよー」


「…っぐえ…っ!…な、にすんだ…あさ、しん…っ」


「主に対する無礼はこの燕青が許しません!ってな。
それにしても、あんた…あれだろ?マスターに武術教わってんだろ?
もうちょっと、こう受け身取れないかねぇ…」


「ふふ…そう急くな、燕青。
リツカは良くやっているさ…荒波に揉まれながら、ね」


「ほお…そりゃ興味あるね。なあ…マスター、俺も参加しても良いよな?」


「構わないが、あまり虐めないでくれよ。
俺の大事な弟なんだから」


「…に…兄さん…っ!!」




飛び付こうと足に力を込めた瞬間、リツカの無防備な腹に無慈悲な一撃がくわえられた。
それに怯んだ彼は、名前の前で腹を抑え踏み止まる。当然だが他の英霊に対する攻撃と比較すれば、それはただ添えただけの軽過ぎる一撃ではあるものの、修行を初めたばかりの彼にすればたまったものではない。




「大丈夫か?…ああ、泥だらけじゃないか、リツカ。
早くシャワーを浴びておいで。話は後で聞こう」


「ほんと?わかったよ、兄さん」




柔らかな髪を撫でて、体のあちこちを汚したリツカに、名前はそう言った。
すると何やら話したいことがあったらしい彼は、瞳を輝かせて自室へと走っていく。
その後ろ姿を、恐らく任務の報告を行っていただろう管理室から出てきたマシュが発見し、同じように名を叫びながら追い掛けていくのがみえた。




「にいさん…、遅くなったが今戻った」




ふと後ろから聞こえた声に、振り返った名前は、そこにいた英霊にふと表情を緩めた。




「ああ、おかえり…。どうだった?」


「別に何も。問題ないさ。いつも通りだ」


「そうか…安心したよ」




金の瞳が、名前を見る。無機質にも見える硝子玉のようなそれは、名前を映す時だけその機微を覗かせるのだ。ふと細められたそれに、彼は首を傾げた。そして名前の手が、英霊の浅黒い肌に包まれた頬に伸ばされた…その時。




「マスター、部屋に戻るんだろう?」


「ああ…そうだな、燕青」




ぴたり、と名前の手が止まったかと思うと、その視線は隣に寄り添う英霊に向けられる。そして名前は手を下ろしてそちらの方を向こうとした、が…その手は伸びてきた黒い手に掴まれ、引き寄せられた為に失敗に終わった。




「……どういうことだ」


「どうもこうも、そういうことだ…壊れたフリした英霊サン。
あんたの『にいさん』は、あんただけのモンじゃないのさ」


「…貴様……っ」




挑発するかのように英霊の手を払うと、もう一人の英霊…燕青は、歪な笑みを以て、名前の肩を抱いた。すると金の瞳を怒りで染めた英霊は、燕青に銃剣を突き付ける。名前のことになると喧嘩っ早くなるのはお互い様か、と頭を掻いた燕青は、好戦的な色を瞳に浮かべ英霊を見据えた。

あっという間に一触即発の雰囲気となった場に、深いため息を漏らした名前は、肩に置かれた白い手をぽんぽんと叩き離れると、それだけで人を殺せそうな程の殺気を零している英霊に近づく。




「オルタ。…此処で戦闘はなしだ」




銃剣を下ろさせた名前は、先ほど触れなかった頬を撫でると、言い聞かせるようにそう囁いた。
暫く燕青を睨みつけていた英霊…オルタは、素直に武器を下すと、その両腕で名前を抱き締める。すっぽりとその体に収まった名前は、金の瞳に宿るそれが、昨夜の彼のように、熱く歪んでいるのを確かに見た。




「……部屋に入ろう、な?」




恐らく、後ろにいる燕青も同じような目をしているのだろう、と名前はそっと息を吐いたのである。








*終わり…?*
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