魔力補充
*腐敗砂漠と同ヒロイン。
*原作とはエミヤオルタの性能が異なる設定ですが、あまり明確には表記していません。




ぶわりと視界が広がったかと思うと、目に飛び込んでくるのは見慣れた部屋と人の顔。コンピューターの機械音に包まれたこの部屋の清潔感溢れる匂いも、私をほっとさせる1つだ。今回もまた、1つの任務を終えて生還することができた。この達成感と疲労感と…そしてまた思い知る自分の無力感は未だに慣れない。


「おつかれさま、リツカ。
予定よりも時間が掛かってしまったが、許容範囲だろう。
怪我はないかい?」

「うん、大丈夫。」


艶やかな光を滑らせる黒髪と、絶世の美女と称されるその顔が眩しい英霊が満足げに笑うと、任務を共にしていた英霊がそれぞれ解散していく。
今回の任務はそれほど難しいものでなかったから2日で終わる筈であった。だが…いつも通りというか、案の定色々トラブルに巻き込まれ5日間まるまる掛かってしまったのだ。


「……あっ、」

「どうしたんだい?」

「そういえば、名前姉さんにエミヤさんをサポートに回してもらったんだけど…」

「ああ、そういうことなら問題ないさ。
もう彼はいないようだからね。」


ぽつりと呟いた言葉の意図を理解し、すんなりと返ってくる的確な返事。何度か行ったやりとりとはいえ、会話のスムーズさというのは、頭の良さに比例するのだなと改めて思う。
名前姉さんには、任務の度に英霊をサポートに回してもらうことが殆どで、その時のパーティに合わせてチョイスを行うのだが、1つ絶対に守らなければならないルールがあった。
それは、名前姉さんの右腕と呼ぶべき存在であるエミヤオルタをかりるとき限定で発動するものだが、5日間以上連続でかりることはできないというものだ。

非常に特殊なルールであるが、これにはわけがあった。
エミヤオルタという英霊は非常に不安定なひとで、名前姉さんによりその存在が保たれているといっても過言ではない。故に名前姉さんの魔力が届かない範囲で行動すると徐々にその存在は蝕まれていくのだ。その症状は明確で、記憶障害及び味覚障害が認められ、段々とその肌が裂けていく。戦闘には影響しないのは流石というところだが、戦い方も荒々しくなり、敵と呼ぶもの全てを殲滅させるために、自分を削るように引き金を引くその姿はとても見ていられない。

そんな英霊だがその性能はずば抜けていて、弱点属性がメインに出て来る戦場ではすごく活躍をしてくれるので、とてもありがたい存在なのだ。デメリットが大きい分、メリットも大きいというやつである。


「…しょーがない、今日は譲ってあげようかな。」

「おや、良いのかい?
いつも帰ったら名前に飛びついているじゃないか。」

「ぎりぎりになっちゃったから、今回だけ!!」


本当は…ただいま。と笑うあの大好きな優しい笑顔が今すぐにでも見たいけれど…。今回は私が大人にならないといけないから。5日間に任務が伸びてしまったのも私の失態もあるし。その分、あとで充分に構ってもらうんだから!
取り敢えずお風呂にでも入ろうと、ダヴィンチちゃんに手を振り部屋に戻ったのであった。








強いコーヒーの匂いが部屋中に広がっていて、部屋の住人はもうその匂いすら麻痺する程に、山積みになった書類とひたすら戦っていた。普段は彼女の世話を焼く英霊が口煩く注意し寝かせるのだが、生憎すべての英霊が出払ってしまっているのだ。

これまでの任務について報告書とは別にレポートにまとめ、その時の戦法についての考察を綴る。それと同時にカルデアの職員としての仕事を担っているので、そちらも進めていく。更に、己の英霊の弱点を補うために宝石魔術を応用した【とっておき】のものを作るために、自らの血を抜いて、古代の王様方から下賜された最高級の宝石に織り込むという作業も行っていた。

つまり、多忙による疲労困憊かつ魔力不足状態である。


「…………つかれた…」


限界を感じたのかぼふりと机に突っ伏した彼女は、疲労により固まった体を感じつつ目を閉じて、その儘動かなくなった―――――。










「……う…ん、?」

「起きたか、マスター」

「……オルタ?…、なに…かえったの」


ふと目を開くと、目の前には見慣れた顔があった。どうやら完全に寝てしまったようだと、名前はぼんやりする頭で考える。
あれだけ煌々とついていた部屋の電気は消されており、体の下の柔らかさと、掛かっている布団の感覚から、ベットに寝かせられたのだと気が付いた。


「また寝ていなかったのかね。」

「……つい、夢中になると…ね。
それに口煩い誰かさんがいないと、区切りがつかないのよ。」

「それは、俺がいないと駄目だということか」

「どこをどう解釈すればそうなるの…。」

「ふ、…意地を張るのはいい加減にしたまえ。
人間素直が一番さ。」

「貴方…性格悪いのね」

「何を今更」


枕の柔らかさとは程遠い固い腕に引き寄せられて、名前は自然と筋肉質で分厚い胸に顔を埋めさせられる。任務から帰還した時にみられた、彼の【褐色の肌に走る黄色の亀裂】はいつの間にか跡形もなくなっていた。


「…任務、どうだった?」

「さてね、忘れたよ。」

「そう。何もなくてよかったわ。」



静かな暗い部屋に2つの声だけがぽつりと響く。それは淡々としていて、温かさを含んだとてもとても穏やかな音色であった。柔らかな肌を包み込むように己が主を腕に抱く英霊は、そっとその額に唇を寄せる。


「寝ろ。…悪い夢は消してやるさ。」

「……ええ、頼りにしているわ…My gun(マイ・ダーリン)


その大きな瞳が再び閉じると、彼女の英霊はその口角を上げる。そしてその滑りの良い髪をゆるりと撫でて、大切な主人を穏やかな夢へといざなうのだ。
これが名前にとっての眠りの合図である。


「言い忘れていたわね。
…おかえりなさい、貴方が無事で良かった。」


数々のものを失ってきた彼女が発するその一言がどれだけ重いものかを、彼は知っていた。聞こえて来た小さな寝息に、こみ上がる想いを殺し、英霊はそっと囁く。





「……ただいま、名前。」





*終わり*
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