魔女の秘め事




「ああああ…っ、なんで…なんでいないの…」




10/31、ハロウィン。
それは古代ケルト人から始められたとされる、秋の収穫祭及び悪霊退散などの意味を持つ日。
現代では、アメリカなどの民間行事として定着されているが、宗教的な意味はもう薄れてしまっている。
そんな海外のお祭りが日本に伝わった。日本は元々外の文化を取り入れつつ発展してきた国であるので、定着するのに時間は掛らなかったのだろう。

そして今、人理の修正を急ぐカルデアでも、行事を楽しもうと催されたハロウィンパーティーが開かれたのだ。
人間も英霊も、様々な衣装を纏いカルデア内を巡る。行われるのは定番であるお菓子交換であった。
勿論、参加の有無は自由であるので、温度差はあるが普段の忙しない空気が一変して、和やかで賑やかなそれがカルデアに流れていた。

イベントの日ぐらいは、と通常の任務は取り止めとなっている。
なのでイベントごとなどが好きなマスター、リツカはその身にオレンジをベースとしたドレスを纏い、職員やら英霊に無差別特攻を食らわして、籠の中の大量の戦利品をゲットした。

パーティー用に並べられた軽食と飲み物が置かれた食堂に戻った彼女は、椅子に座り突っ伏してその拳をテーブルに打ち付けた。隈なく施設を回り、ほぼ全ての英霊と職員には会えた。だが、彼女の大本命には会えなかったのだ。そう…彼女と同じ最後のマスターである名前の姿を、彼女は朝から見ていない。




「せ…先輩、落ち着いて…。すれ違っているだけですよ」


「そんなことない…っ。だって何周もして一回も会わなかったんだよ…?」


「なんだ…あんた、マスターに嫌われてんのか?」


「きっ…!!」


「先輩っ!!心折れないでください!!大丈夫ですって」


「おいおい、兄さん。かわいそうなこと言ってやんなよ」


「…#name#姉さんに嫌われた…もう生きていけない…」


「せ、先輩!!!」





がっくりと机に突っ伏したリツカを、面白そうに笑った新宿のアサシンが、テーブルに頬杖をついてそう揶揄う。
全身に刻まれた刺青が彼の筋肉の動きにつられるように形を乱し、背中に伸びる黒髪がさらりと流れた。彼の言葉にショックを受けた彼女は更に項垂れる。
そうして影を背負ったリツカを、憐れむようにキャスターのクー・フーリンが庇う…が、そんな彼の口元も愉快気に歪んでいたのだ。椅子に横向きに座り布で隠された足を組むと、彼は青い髪を後ろへと払った。
各自好き勝手言い始めた英霊達に、慌ててフォローするマシュが、彼女の肩を叩いた。





「…だが、我々も彼女の姿を見ていないのは事実だろう」


「ああ…あのムカつく野郎もなァ」


「ううう…名前姉さん…。も、もしかして…エミヤオルタと…」


「はァ?そりゃねーだろ、嬢ちゃん。
あの腰抜けにそんな大胆な真似できるわけねェさ」





思わずそう唸ったリツカに、青いタイツを纏う槍のクー・フーリンが酒を煽り眉を上げる。
そして彼は料理を片手に現れた弓兵に、その紅玉の瞳を滑らせると、にいとその形の良い唇を歪ませた。





「何故、そこで私を見るのか…解せんな」


「いやァ?…どっかの誰かさんも、同じような性質だったのを思い出しただけさね」


「一緒にするなと言った筈だが?
アレはもう、私ではない。貴様だってそうだろう」





ぴきり、と灰と赤の視線を交わした2人の男の間に緊迫した空気が流れるが、彼らが犬猿の仲であることも腐れ縁であることも周知されているので、誰も止めるものはいなかった。





「名前姉さんんんん…どこなの…」





呻くように彼女の名前を呼ぶリツカを眺めて、アサシンは静かにその瞳を細めた。




「さあて、姫さんはどこにいったのかねェ…」








****************







きゅとシャワーのコックを捻る音が浴室に響いた。
豊かなその髪を絞り、バスタオルで体を拭いた名前はそのまま浴室を出ると、白いバスローブに腕を通す。
肌触りの良いそれを面倒だと前を閉めずに、形の良い胸や引き締まった腰など一切隠さず自室へと戻ると、彼女に向けてペットボトルが1本差し出された。




「風邪を引く」


「暑いのよ。放っておいて頂戴」




水の入ったそれに、ぽってりとした唇が付けられ、水の流れと共に細い喉が上下する。
その様子を見た男は相変わらずの主に、表情は変えずにタオルを頭から被せると、滴る水滴を拭き始めた。
銃剣を繰る武骨な手は、意外にも優しく器用で、うっとりと瞳を閉じた名前はある程度髪が乾くまでそのまま好きなようにさせたのだ。そして彼がタオルを放すと、体を反転させて彼女は目の前の分厚い胸板に手を置いた。
身長の関係から大分上の方にある端正な顔を見上げると、彼女は手にしていた水を口に含む。気紛れな彼女が成そうとしていることを読み取った男は、その身を曲げて名前に顔を近づけた。

とん、と軽すぎる衝動が男の胸を襲う。それは彼を動かす程の物理的な威力は皆無であったが、名前からのアクションであればまた別の話だ。大人しく後ろにあったソファーに腰を落とすと、男を追い掛けるように、その膝の上に向かい合うように名前が座る。そうすると当然ながら彼女の方が、目線は高くなる。

するりと熱の残る白い手が、男の浅黒い頬を包むと、瞳と瞳が至近距離で交わった。
静かに重ねられた唇と、男に流し込まれる水。太い喉が上下して、彼女から与えられるそれを飲み干していく。





「……ねぇ、」





剥き出しの男の上半身と、剥き出しの名前の体が重なり合い、段々と部屋の空気が淫靡なものへと変わっていくのを感じた。彼女が唇を放そうと身を引いたのに合わせて、男の固い腕がその柳腰を捕らえる。がっちりと体を固定された彼女は、大きな舌が己の唇を割り、口内を蹂躙し始めたのを止めることはできなかった。
舐られる舌に段々と彼女の瞳が蕩けていくる。力の抜けた体を感じた男は、太い指を彼女の太腿へと這わせると、女の割れ目を指で撫でた。




「悪い、女だな…マスター」





名前が背中を軽く反らせたために、お互いの唇の間に隙間が出来る。吐息が絡み合うその空間は、更に2人に熱を与えた。
軽いリップ音を立てて彼女の首筋から胸に口づけが落とされると、その度に小さく彼女の体が震える。

普段は機械のように感情を映さない金の瞳に、熱が宿り切なげに光る。
何かを堪えるように歪められた顔が、余裕のなさを伝えていた。




「あら、悪いのは…私だけ?」


「当然だろう。俺はこう見えて一途な男でね」


「……っ…ぁ‥‥。なによ…わたし、だって」


「無意識に人を惹き込む性質の悪い女が、何を言う。
ほうら…もう、こんなに濡らしているじゃないか」





ぐちゃり、と生々しい音を立てて突き立てられた指に、荒い息を吐いた名前は背筋を震わせた。それと同時に男の指を無意識に締め付けて、蜜を垂らす。暖かく柔らかな肉壁とその収縮に男もまた追い込まれていく。それを隠して、いつも通りのニヒルな笑みを浮かべ、男は更に彼女のポイントを指の腹で押し上げた。
抑えられた声が漏れ出て、名前をひどく乱す。





「もう…、早く…。
今日は、パーティー…なのよ」


「ああ、そうだったな…忘れていたよ」


「…っ。…貴方が言うと、洒落にならないわ…」


「それで。パーティーだから何だね。
誘ったのはアンタだろう…名前」


「人が、まわって来るわ…」


「ふん、だから扉にあんな面倒な目暗ましをしたのだろう」





肉壁のざらざらとした部分を、男の指が撫でる。それに名前の腰が揺れて、流れ出た密が男の黒い衣を濡らした。

名前のマイルームへと通じる扉には、彼女の施した術が施されており、人や英霊を避けるものなのだが…高度な術を繰る英霊などからすれば玩具のようなものだろう。
見られる趣味でもあるのかね、と皮肉を交えて嫌な笑みを見せる男を、彼女は軽く睨み付ける。そして男の礼装を全て解除させると、弾けんばかりに勃ちあがったそれを少々乱暴に掴んだ。
喉を軽く上下させ唸った男の、色が滲む首筋に舌を這わせ、ねっとりと愛撫した彼女は彼に視線を合わせると。





「貴方が私を抱きたいと思った時点で、…貴方の負けなのよ、オルタ」





うつくしく笑ってみせた女は、そう暴論を男に放つ。
それに、呆れたように、だが恍惚が見え隠れする表情を見せた彼は、その言葉と自分のそれを上下する白い手に、ぞくぞくとした何かが背中を這うのを感じて、そのまま精を吐き出した。

白濁に濡れる細い指に、その赤い舌を這わせた女を見上げ…男は魔女のようだと、熱に浮かされた頭でそう思ったのだ。












「オルタ、邪魔なんだけど…」




腰に回された腕と、自分の下にある男の足。後ろから抱き締められた体勢で、用意された衣装の1つであるニーハイソックスに足を通す。

一緒に仮装しよう!!と押し付けられたその衣装は、彼女が可愛がっている妹分とお揃いというかペアらしい。
あれからもう一度シャワーを浴び直すことになった彼女は、再び捕まり、身動きを封じられていた。何とか近くに用意した衣装を、装備できるものから順に身に着けていく。

それを上から見下ろす男は、相変わらずの無表情ながらも、どこか不機嫌そうだ。
あまりイベントごとに興味を示さないのよね、と男の機嫌の悪さの原因を見透かしたように心で呟いた名前は、視線を合わせるように彼を見上げる。





「パーティーにはエスコート役が必要なのよ?」


「………ふん」





誘うように目を細めてワザと意味深に告げると、男は名前の腰に回した腕の力を緩めた。
その隙にするりと彼女は体を離し立ち上がる。
そしてドレスを身に纏うと、名前の後ろから伸びて来た手が、ふわふわと揺れるレースやリボンをより綺麗にみせるために整えてくれた。

何だかんだ言って世話好きである男を、とある男と似ているというと、否な顔をして毒を吐いてくることは経験済みであるので、彼女はただ一言礼を言う。





「さて、ハロウィンの始まりよ」





お化けカボチャを模した籠を持った名前は、先程の妖艶さなど感じさせない、少女のような笑みを浮かべた。
一歩後ろに付き従う男は、そんなマスターをただ静かに見ていたのだ。









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