百合の花は毒。
もとい、百合の花の根かしら。
百合のように可憐に笑うあの子にも、そんな毒があるのかワタシは知りたかった。
恋だなんて、ワタシには必要ないと思ってたしすることもなかったけれど。
あの子だけは。あの子のその百合の花が綻ぶような笑顔にだけは惹かれてしまったのよ。

「イリス」
「ヴィル!久しぶり。学校始まってからはこっちに帰ってくる時しか会えないから嬉しいよ。誘ってくれて!」
「勿論帰るときはアナタを一番に誘ってるわよイリス」
「まーたそういうこというんだからー。美人が言うとなんか違うわ。迫力ある!」

会うといつも笑顔で話す彼女はRSAの卒業生であり、ヴィルがいつも帰省のときに必ず訪れるジュエリーショップの店員兼デザイナーだ。
腕利きのデザイナーで在学中に様々なスカウトがあったようだが、彼女はどれも断りこの地元のジュエリーショップへの就職を決めた。
そんな彼女を最初に見かけたのはまだミドルスクールへ通っているとき。
既に学生だった彼女はRSAの帰省のときにこのジュエリーショップでアルバイトをしていた。

「何かお探しですか?」
「ええ。今度着る衣装に合わせるものが欲しいのだこけれど中々良いものが見つからなくて」
「どのようなイメージかお聞かせ願えますか?」
「ええ。もちろんよ」

気さくで凛とした彼女の接客はとても美しかった。所作も美しく、非の打ち所がない。
ヴィルがイメージだけ伝えると彼女はそれに見合うものを幾つか持ってきた。

「これ…!」
「そちら新作で、まだ店頭には出せないんですけど一番近いのかなと思いまして。というのも、店頭に並ぶか分からなくて…」
「どういうことかしら?」
「それ、私のデザインなのでまだきちんと出せる段階ではないんです」
「アナタ天才なの?」
「…へ?」
「最高だわ。ワタシこれが欲しい」

とてもシンプルであったが、次の衣装のイメージにとても合うものだった。
洗練されていて美しく、派手でなくて主張し過ぎない。
ヴィルの想像通りのものがそこにあった。 

「まだお値段、つけられないのでそちらお客様にお譲りしますよ」
「え…?」
「そのほうがその子も喜ぶと思います」

その時の百合の花が綻ぶような笑顔。
その笑顔に一瞬で惹かれてしまった。
それ以来ヴィルはそのジュエリーショップに良く通うようになったし、ナイトレイブンカレッジに通うようになってからも帰省のたびに訪れた。
沢山通っていたお陰か、はたまた趣味が合うからかこうしてプライベートでも会えるようになった。

「ついでにこれをヴィルにプレゼントしちゃいましょーかね!これ、店頭には並べるつもりないのよ」
「アンタまたそんなこと言って。自信持ちなさいよ。アンタのセンスは最高よ」
「ふふ。ありがとね。でもそういうんじゃなくて、ヴィルのためにデザインしたから」
「ワタシの、ため?」
「うん。良かったら」
「もちろんいただくわ」

開けるとりんごの花を模したネックレスだった。
小さなモチーフながら、とても可愛いくて美しくそれでいて飽きのこないシンプルなデザイン。
本当、いつも綺麗なデザインでもってくるのよね。

「美しいわ…」
「そう言ってもらえて良かった!」

満面の笑みで喜ぶイリス。
そのイリスの右手の薬指に、百合の花をモチーフにした指輪を見付けてしまった。
それは、一体、誰のもの…?
嬉しさの中に突然黒いものが渦巻いてしまった。

「イリス、あなたその指輪…」
「ああ、これね。これはね…あまりにしつこく迫ってくる営業の人がいたから。断っても断っても駄目だったから牽制のために作ったのよ」
「え…?」
「今はデザイナーの仕事が好きだし、そういうのも考えられなくてね。だから、何かいい方法ないかなーと思って…」

少しだけ困った顔をしたイリスを複雑な気持ちで見つめるヴィル。
それは自分のことも対象から外しているということなのか。
それとも言ってくれるということは何か別の意味があるのか。
今自分の顔は酷く醜いだろう。
ポムフィオーレ寮寮長の名が廃る程に。

「その男、今店にいるのかしら」
「ええと…今日は…きてるかな?店長と打ち合わせって言ってたと思う」
「そう。ねえイリス、ちょっとお店行きましょうか」
「ええ!?」

無意識に手を掴むと少し強引にイリスを引っ張る。
これが嫉妬という感情なのか。
店につけば営業の男は打ち合わせを終えて出てきたところだったようだ。

「やあイリスちゃん。僕に会いに?今日お休みだったよね?」
「ええと…」

胡散臭そうな笑顔の男がイリスに詰め寄る。
それをヴィルは止める。

「っ…君は?」
「俺はイリスの恋人だ。彼女の指輪が見えないのか?分かったら金輪際、イリスに執拗に迫らないでもらいたい」
「イリスちゃん本当かい?何かの間違いでは?」
「っ…!!」

イリスの顔は真っ赤だった。
何故ヴィルが突然そんな口調で、ましてや自分を恋人だと言ったのか。
そんな風に意識したことがなかった…といえば嘘にはなるが、驚きで言葉が出ない。

「イリスから聞いたが、貴様イリスに執拗に迫って困らせていたようだな。迷惑だ」
「イリスちゃん…?」
「あの…その…ヴィルの言っていることは本当です」

振り絞った勇気が言葉として発せられた。
何に対しての本当なのか、自分でも分からなかった。

「分かった。もうやめるよ。すまない」
「こちらこそ、ごめんなさい」
「謝らないでイリスちゃん。僕こそ本当にすまない。嫌な思いをさせたね」

そそくさと帰る男は最後までヴィルに睨まれいたたまれない気持ちだったという。
突然のことで腰が抜けて立てなくなりそうなのをいつの間にかヴィルに支えられていた。
ぎゅっと、抱き締めるように。

「ヴィル!!!」
「指輪してるし、変なのに迫られてるし。こっちの身にもなりなさいよね。なんでワタシが貴女のこといつも誘うか。考えたことないでしょ」
「っ…それは…」

もう返す言葉もありません、とヴィルに身を委ねた。
反論したって、多分この男には勝てないだろうと。

「今までそんなの考えたこともなかったけど、ワタシはいつからかイリスのことが好きになってた。イリスがデザインする作品も好きだけど、それを生み出す貴女のことも」
「ヴィル…」
「だからちゃんとした指輪、贈らせて頂戴」
「ええ!?」
「当たり前でしょ。返事は?」
「…私もね」
「なぁに?」
「私もずっと、ヴィルのことが好きだったよ。最初にお店にきてくれたあのときからずっと」

艶やかな顔でそう言う彼女に自身の頬が熱くなるのを感じる。
ああそうか、彼女の毒はこういうことなのね。とヴィルは思う。
これはもう抜け出せないわね、と。

「こんな形になったけど、これからもよろしくね。ヴィル!」
「ええ、もちろんよ」


合の花
(例えそれが猛毒だとしても、ワタシはアナタを受け入れてハッピーエンドにしてあげるわ。)
2020.07.25