目が覚めて、一番最初に感じたのは頭の痛みだった。地味にガンガンと痛い。昨夜は一体何をしていただろうかと記憶の糸を辿る。思い出したがどうにも恥ずかしい記憶なのでなかったことにすることにした。

「それにしても妙な夢だったな」と現実逃避をしながら起き上がろうとするが、お腹に妙な重みがあることに気付く。別に確かめなくても良いのだが、視界の隅にチラリと見えてしまったのだからどうしようもない。夢であればどんなによかっただろうか。レンはため息を吐くのであった。

ゆるゆると重みの正体に目を向ければ、スリザリンカラーのネクタイをつけた男子生徒がいた。もちろんレギュラスである。レギュラスは椅子に座り、上半身だけレンが寝ているベッドに預けている。この構図はまるで病人を看病しているようだと、レンは何処か客観視していた。


真っ白な仕切りに区切られたこの空間はたぶん医務室なのだろう。あまり来たことがなかった為、此処が何処だがすぐに分からなかった。どうやらポピーは席を外しているらしく、医務室にはレンとレギュラスの二人だけだった。

昨日の出来事が夢じゃないとすれば、きっとあの後レギュラスに迷惑をかけまくったことだろう。なかなか素直になれないレンはレギュラスが寝ている今ならと、感謝の意味を込めて優しく頭を撫でたのであった。

「…レン……」

一瞬起きたかとびっくりして撫でていた手を引っ込めたが、どうやらただの寝言らしい。「吃驚させんじゃねーよ」と悪態を吐きつつも、レンは寝ているレギュラスを見て微笑んだ。いつもの変人振りは何処へやら、こんなに穏やかな気分は久し振りだと思った。

何処かの窓が開いているのだろうか。時折仕切りがふわりと揺れ、優しい風を運んでくる。

最近は楽しくて何かとはしゃぎ過ぎていたかもしれない。こんな機会は滅多にないので存分に休むことにしよう。もう一度寝てしまおうと考えたが、ふとレギュラスの寝顔を見て動きが止まる。徐にいつもローブの下に忍ばせていたマグル式のカメラを取り出すと数回シャッターを押し、再び眠りについた。


二度寝から目覚めた時、傍にレギュラスの姿は何処にもなかった。今頃は授業に出ているのだろう。優等生である彼が授業に出席しないと言うことは有り得ないだろう。「当たり前か」と思いながら、一日中何も食べていなかったのでお腹が鳴る。ポピーがいない今、勝手に出歩くことは許されないだろうがレンはお構いなしに大広に向かおうとベッドから出たのだった。


「あ、やっと起きましたか。死んだように寝ていたのでこのまま起きないのではと思ってましたよ」
「……随分な挨拶だな、レギュラス。私の寝相はとてもいい方なのだよ。トロールよりもな」
「トロールと比較しないでください。良いのか悪いのか分かりません。まだ寝ていた方がいいですよ。起き上がらないでください」
「ほぼ一日寝てたのだ。そろそろ腹が減った」
「それはそうですけど二日酔いの馬鹿は寝ててください」
「随分と言うようになったな」
「レンの傍に居れば遠慮なんて無意味だと言うことが嫌でも分かりましたから。消化に良いものを持ってきたのでこれを食べてください」

レギュラスの手元を見てみれば、何だか懐かしい土鍋の姿があった。何処で手に入れたのだろうか。ロンドンでもなかなか見ることはないと言うのに。入手方法も気になるが、それよりも中身の方が気になる。「中身はなんだ」と聞いてみれば、先にベッドに戻された。

「んで、中身はなんだ?」
「開けてください」

結局レギュラスは答えなかった。
焦れったいなと思いながら手を延ばして土鍋の蓋を掴んだ。開けてみると、中に入っていたのは懐かしいお粥だった。

「……これ…どうやって、作った…?」
「わざわざ厨房まで行ってきて作らせたんです。レンに馴染みのあるものの方が良いかと思いまして」

そう言うレギュラスの頬が少し赤く染まっていることに気付いた。何処に照れる必要があるのか、見ているこっちまで恥ずかしくなってきた。

ひとまず「いただきます」と食事の前の挨拶を済ませるとレンゲに手を伸ばした。が、レンが取る前にレギュラスはサッとレンゲを取るとお粥を掬い、ふーふーと冷まし始めたのである。

「はい、大人しく食べてください」
「そう言われると暴れたくなるな。レンゲを寄越せ。自分で食べれる」
「いいから、早くしてください。具合の悪い時はこうするのだと東洋の本で読みました」
「レギュラス、それは間違いだ。一体何の本を読んだらそうなるのだ」
「文字が少ない薄い本ですよ」
「それは本ではなく子ども用の絵本だ!」
「どっちでもいいですよ」

何を考えているんだと、レンは呆れるしかなかった。しばらくレンとレギュラスの攻防戦が続いたが、レギュラスの「冷めたら美味しくなくなりますよ」と言う言葉に呆気なく断念したのであった。

久し振りに食べた故郷の味は懐かしさで溢れていて、ホグワーツの屋敷下僕妖精達の本気にレンは舌鼓を打つのであった。


後日、早速レギュラスの寝顔写真を売り捌こうとしたレンだったが、しばらく写真を眺めた後やめようと考えを改めたのだった。レギュラスの寝顔写真は今やレンのローブの中の仲間入りを果たしているのはレギュラスには秘密である。バレたらきっと、燃やされるであろう。

レンは未だに気付く様子のないレギュラスに対し、くくっと笑うのであった。



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