「…此処何処ですか?」
「禁断の森の奥の奥のそのまた奥だ」
「帰れるんですか、僕達」
「大丈夫だろう」
「帰る気なさそうですね」
「ある……少しな」
「それで、どうするんですか」
「40分程真っ直ぐ進んだら左斜め45℃に曲がれば無事帰れるはずだ」
「…その自信は一体何処から来るんですか」
「世界の●窓から」
「………」
「冗談だ。待て、私を置いて行くな」
何処をどう間違えればこんなことになるのか、レギュラスは大きくため息を吐いた。「幸せが逃げるぞ」と言って、こうなった原因の人物は実に楽しそうだ。どうしてこんなことになったのか、レギュラスはため息を吐くしかなかった。
禁断の森に入って材料を採取するから手伝えと、半場強制的に変人に連れて来られたレギュラスは歩き疲れてしまった。意外にも材料探しに熱中してしまい、まるで変人と同類になってしまった自分に嫌気が差したのは内緒の話だ。
辺りはすっかり黄昏時で、世界はもうすぐ闇を連れてくる。気温もグッと下がったこの森をこれ以上歩き回りたくはない。
「もうじき真っ暗ですよ」
「ルーモス」
「つかぬことをお聞きしますが、」
「聞くな迷子だ状況を見て自分で判断するんだ美少年よ」
「………」
それから二人で森の中を彷徨い歩いていたら、夜の蚊帳が降りてきてしまった。此処には魔法生物がたくさん生息している。毒蛇や毒蜘蛛などがいてもおかしくはない。トロールなんかもきっといるのかもしれない。二人は時折聞こえる物音に反応するたびに光を宿した杖先を向け、辺りを警戒しながら森を進んだ。
そして冒頭に戻るのである。
「…う、動けん」
「動きたくないのは僕だって同じです」
「少し休憩するか」
「今休めば夕食に間に合いませんよ」
「急ぐぞ」
休息より食い気の勝ち。
余程お腹が空いているのだろうか。
なるべく意識しないようにしていたレギャラスも空腹だ。思い出したら腹の虫が鳴り出し、頭の中で思い描いた食べ物が浮かんでは消える。自分が死ぬ時、絶対餓死は嫌だと唸る腹を押さえながらレギュラスは思ったのである。
「美少年も腹が減るのか」
「誰だってお腹は空きます。あなたの言う通りに進んでみましょう。もしかしたら辿り着くかもしれません」
「そうか、もしもの時は私にすべての責任を押し付けると言う訳か。成程な」
何故そんな風に考えてしまうんだと、レギュラスは深くため息を吐いた。この人は相手を怒らせたいのだろうか。レギュラスは怒りを通り越して呆れを感じるのであった。
進んでみるものの、行けども行けども獣道が続くばかり。信用するんじゃなかったと、レギュラスはため息を吐いた。
「美少年、早く先を歩け」
「……もしかして、怖いんですか?」
「この私が怖いと思う訳がないだろう。獣道だから美少年に先に行ってもらうのではないか。女性をエスコートするのは英国紳士の基本だぞ」
「お言葉ですが、先程から獣道です。ついでに言わせてもらえばあなたを女性と認識するのではなく、変人と認識する方が正しいかと」
「美少年もなかなか言ってくれるな」
「褒め言葉として受け取っておきます。後、その美少年って言うの止めてもらえますか?」
「気にするな美男子」
そろそろレギュラスは頭を抱えたくなった。こんな変人と話していると頭が沸騰してしまいそうだ。僅かにイライラが募ってきてはいるが一応先輩である為、レギュラスは強く出ることが出来ないでいた。こういう人は適当にあしらっておかないとすぐ疲れてしまう。レギュラスは一つ大きなため息を吐いた。最近ため息を吐き過ぎているのは気のせいではないはずだ。
「僕はレギュラス・アークタルス・ブラックです」
「やはりそうか。ヘタレ犬の弟だな」
「兄はヘタレ犬じゃなくてアホンダラですよ。強ち間違いでもありませんが」
「フォローはしないのだな」
「しなくてもこの先僕が困ることなんて何一つありませんから。あんなアホンダラ、知りません」
「それならもっと貶しておこう」
「それで、あなたは一体誰なんですか?」
「そういえば自己紹介がまだだったな。私はレン・キサラギ。レイブンクローの5年生だ」
レン・キサラギ。
レギュラスは口の中でそっと呟く。
それを見ていた変人基レンが満足そうに笑っていたことなど、レギュラスは知る由もなかった。