ローブから取り出したものをレギュラスに差し出す。怪訝な表情でそれをじっと見つめていた。レンの手には白い布に包まれたクッキーらしきものがあった。クッキーではないのかと問い質したいところだが、クッキーと呼ぶにはあまりにも不格好な形であり、尚且つ異臭を放っていた。そんなクッキー(異臭を放つ)を食べるかと進めるレンの気がしれないレギュラスであった。

「なんですかその尋常じゃないくらい異臭を放つクッキーらしきものは」
「らしきではなくクッキーだ。何も問題はない」
「どうしてそう平気で嘘を吐くのですか。それはクッキーでも食べ物でもありません。今すぐ廃棄してください」
「何を言う。これは紛れもなくクッキーだ。まだ実験段階だが食べれなくはない」

「………色々混ぜたんですね」
「よく分かったな」

実験段階の言葉はあえて聞かなかったことにしようと、レギュラスは現実から目を逸らした。何が何でもクッキー(市販のように完璧な)だと主張するレンに対し、レギュラスは「それなら自分が食べろ」と強く思うのであった。

「あるものすべて混ぜただけだ。何も心配する必要はない」
「嫌です(にっこり)」
「爽やかに返すとは、流石美少年だな」

何が何でも実験段階のクッキー(市販のように完璧な)をレギュラスに食べてもらいたいレンは強引に押し付けた。レギュラスは渡されたものの食べる気は毛頭なかった。誰がこんなクッキー(異臭を放つ)を好んで食べようと言うのだ。手渡されたクッキー(仮)と距離が縮まり、より一層異臭が強くなった気がする。

何を隠そう、このクッキー(仮)はレンの大嫌いなものを寄せ集めて作ったものである。苦みの強いものを始め辛いものや渋いものを上手く混ぜ合わせた特製クッキー(仮)なのである。言い方によっては大嫌いな寄せ集めだが、レンとて何も考えずにただ混ぜ合わせた訳ではない。どうしたら自分の大嫌いなものを食べられるようになるだろうかと、考えるあまりそれを行動に移したのだった。後になって考えてみると、別に大嫌いなものを無理に食べようとしなくていいのだと気付いた時にはすでにクッキー(市販のように完璧な、はず)は完成してしまい、廃棄するにはどうするか考えている最中なのであった。


「どうした食べろ」
「そう言うレンが食べてください。僕はまだ死にたくありませんので」
「ん? 私はレギュラスよりも年上だった気がしたが気のせいか?」
「レンが先輩だとはとても思えなくなりました。よって“先輩”は要らないでしょう」
「そんなことを言うのはこの口か?」

レギュラスの顎に手を添えて、レンは少しばかり挑発をしてみる。それでもレギュラスは何ともなさそうな顔をしていた。

「心の声が出たまでですよ」
「ならお仕置きだな」

先程レギュラスに渡したクッキー(仮)を奪い取り、レンは無理矢理レギュラスの口の中に入れた。驚いたレギュラスは思わず一口噛んで飲み込んでしまい、何とも複雑な顔をしていた。自分が食べなくて良かったとホッとしてるのもつかの間、眉をひそめたレギュラスの顔が瞳に映った。とても複雑な表情で、何かに驚いているようだった。

とりあえず見たところレギュラスは無事そうなので死にはしないのだろう。時間差で腹を下したりでもしたらその時はお見舞いにでも伺おうと考えていた。ついでに味の感想を聞いたらレギュラスは素直に答えてくれるだろうか。


「レンも一口どうですか?」

そう言うレギュラスの手に摘ままれているのはレンが強引に奪い返したクッキー(仮)だった。何故レギュラスはそんなにもにっこりと笑みを浮かべているのだろうか。いつもは無表情のくせにこういった時にしか笑えないのかと、レンは眉をひそめた。しかしレンもレンなのでレギュラスのことをとやかく言う資格などないのである。先程のレン同様どうしてもレンに食べてもらいたいレギュラスは一歩も引かなかった。

「激しく遠慮する」
「え? 食べたいんですか? それならそうと早く言ってください。遠慮なさらずにどうぞ」
「聞いてない、と」
「レン、食べてください」

混ぜたものがものなだけに、とても食べづらい。

否、食べたくない。
寧ろ食べることが怖い。

しかし有無を言わさないその迫力に、レンは意を決して口にした。


「…何故美味しい」
「異臭はしますけどね」

何故だかクッキー(異臭を放つ)はとても美味しかった。あれだけ大量に大嫌いなものを入れ尚且つそれを凝縮しザッと砂糖を入れただけなのに、どうしてこんなに美味しいのだろうか。もしかして“あれ”が関係しているのだろうか。それとも自分の味覚が変わってしまったのだろうか。それか何らかの化学変化が起きてこんなにも美味しいクッキー(但し異臭は凄まじい)になったとでも言うのだろうか。これは早速研究対象だと、城に戻った後の今後の課題にしようとレンは思うのであった。

ついでに面白そうだから悪戯仕掛人共に一枚1ガリオンで売り付けてやろう。たぶん、と言うかきっと面白いから食い付いてくるだろう。「こんなに臭いのにどうしてこんなに美味しいんだい?!」などとジェームズ辺りが目をキラキラと輝かせながら聞いて来るに違いない。


クッキー(仮)を食べ歩きながらレンを先頭に森を歩くこと数分、ポツリポツリと明かりが見え始めた。もう歩けないと文句ばかりを言っていたレンだったが明かりが見え始めた途端に走って行ってしまい、レギュラスは呆れたように追い掛けた。森を抜け視界が開け、目の前には大きなホグワーツ城が佇んでいた。

あれほど先頭は嫌だと駄々を捏ねたレンに対し、レギュラスはにっこりと満面の笑みを浮かべながら背中に黒いオーラを放っていたので、レンは渋々先頭を歩かざるを得なかった。レギュラスを怒らせたら後々厄介だと、レンは感じ取ったのであった。


「戻って来れたみたいだな」
「レンの言う通りの道順で、ですね」
「さて、夕食だ」
「どうでもいいですけどレン」
「なんだ?」
「…何でもありません。早く行ってください。変人のあなたと一緒だと思われたくはないので」
「此処まで付き合ったレギュラスも変人だと私は思うがな」

レンはくくっと笑い、鼻歌を歌いながらスキップして大広間に向かって行った。やはり角を曲がった辺りから「ポッテトにチッキンにハンバーグー」などと変な歌が聞こえたのであった。



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