禁断の森で迷い、クッキー(異臭が凄まじい)を食べてから数日後。レギュラスは眉間にシワを寄せている。こんなこと今まではなかったせいか、少し混乱していた。

おかしい、明らかにおかしいのだ。
絶対あのクッキー(仮)には何か入っていた、とレギュラスは睨んだ。何か入っていたからあんな異臭を放っていたんだと思うが、絶対変なのが混ざっていたに違いない。

数日が経つのに、未だにレギュラスの中でおかしなことが起きていた。それはとても小さな変化なのだが、レギュラス自身あまり変化を求めたりはしていないので、ほんの少し変わってしまった自分に戸惑っていた。何が変わってしまったのか具体的なことは分からないけれど、それでもいつもの自分ではないとレギュラス自身が感じる程度の変化があったのである。


「やあレギュラス。調子はどうだ」
「レン、この前のクッキーに何を入れたんですか。大人しく白状してください。今なら半殺し程度の呪いで勘弁してあげますよ」
「なんだ急に物騒な奴だな。あれには私の嫌いなものと砂糖しか入ってない。魔法薬は一切入れていないから安心しろ。それよりレギュラス、薬の効果が切れたようだな。少々残念だがまあいいだろう」

「…一体いつ何処でどうやって、何の薬を入れたんですか」
「今日の朝食にレギュラスがあのでこっぱちと話しているのを見つけてな。面白そうだから弱めの惚れ薬を飲み物に入れただけだ。他には何も入れていない、本当だ」
「やっぱり惚れ薬だったんですね」

だから朝マルフォイ先輩を見て変な気分になったのか、とレギュラスは苦虫を潰したような顔をした。あんな体験もうごめんだ。何が嬉しくてマルフォイ先輩なんかと…。

「兄とは違い冷静だな。あのアホンダラのようにうるさく喚くかと思ったぞ」
「僕はアホンダラとは違いますから当然です。喚き散らしていればいいんです。それより、この間のクッキーには本当にそれ以外何も入れていませんか?」
「アホンダラもこんな弟の言葉を聞いたらさぞかし嘆くことだろうな。クッキーには魔法薬は一切入れていないと言っただろう」
「兄のことは今どうでもいいです。本当ですね?」
「私の言葉が信じられないか?」
「僕にはレンの言葉が逆になって聞こえます」
「そうか。なら是非ともポピーの所へ行くのを奨める。絶対安静の時は口うるさいが医療の方は信用してもいいくらいだしな」

とても怪しい。あのクッキーには絶対何かあったはずなのだ。レンは変人であり魔法薬学大好き人間なのだ。何もないなどありはしないだろう。何か入れたとしてそれが何なのか分からないレギュラスはレンに直接聞くしかない。

レンの手首を掴み、そのまま壁に押し付けた。レンはレギュラスの行動を見通していたのかそれほど驚いた訳でもなく、至って冷静だった。レンの紅い瞳が静かにレギュラスを見つめていた。

「言わないならこのままですよ?」
「強行突破か。レギュラスが大嫌いなアホンダラと同じだな」
「一緒にしないでください。僕は違います」
「ならこの手はなんだ? 私には何が何でも無理矢理聞き出そうとしてるようにしか見えないんだが?」
「………これ以上、僕に近付かないで下さい…ッ」

そう言い、レギュラスはゆっくりと手を離した。レンは掴まれた手首をぷらぷらと振って血の巡りを少しでも早く戻そうとしていた。


あのクッキーには絶対に何か入っていたはずなんだと、レギュラスはレンの言葉にもはや耳を貸すことなどなかった。自分自身が最近おかしいと思うのはレンのせいなのだと、レギュラスは勝手に決めつけていた。レギュラスがここまでレンを信用しないのは、きっとまだ知り合って日が浅いことも要因の一つなのだろう。

レンはそれが分かっている。しかし、レギュラスに信用してもらおうなどとは全く思っていなかった。

レンは別にそのままでいいのだ。信用されようがされまいが、レンはどうでもよかった。自分は魔法薬学が大好きで、怪しい薬を作っていることを周りに隠すことなくしているから、レンのことを嫌いな連中の方が圧倒的に多い。けれど、レンは気にはしていなかった。それが自分自身であり私なのだからと、それを隠すことなどしなくてよいのだと考えている。

何も言わずに去ろうとするレギュラスを見て、レンは聞こえるように声を飛ばした。

「僕に近付くな? 残念だがそれは無理だレギュラス。諦めることだな」
「レンはストーカー癖がおありで?」
「少し違うが似たようなものだな。レギュラスは私のお気に入りだ。近付くなと言われようが知ったことか。避けるなら纏わりつくのみだ」
「レンがそんなにも粘着質な人間だとは思いもしませんでした。避けないのでやめてください。けれど今度は正直に答えていただきます。あのクッキーに何を入れたんですか」
「……時間差で味わうものだが、レギュラスは今頃来たのか。私は昨日来たがな。それは味が出始めてから24時間経たないとその舌の味は消えない」
「レンは一回シメた方がよさそうですね」
「レギュラスは甘いものが苦手か。面白いだろう? 食べても食べていなくとも甘さが残るのが」
「レン、覚悟はよろしいですか?」
「全くもってよろしくないな」

杖を取り出したレギュラスに対し、レンはひらりと身を翻すとくくっと笑いながら逃走を始めた。レギュラスは急いで追いかけるが、レンは小動物のように逃げるのが上手くなかなか捕まえることが出来ない。

レギュラスが聞きたかったことは舌のこともそうだが、他にもあった。しかし今それを聞いた所でレンが正直に答えてくれるかどうかも怪しい。それを聞くのはまたの機会にすることにしようと、レギュラスは逃げるレンを追い掛けながら思うのであった。

結局レンを捕まえることは敵わず、レギュラスの舌は時間が経つまで正常に機能することが出来なかった。



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