目の前のこれは一体どうすれば消えてなくなってくれるのだろうか。どんなに考えても消失呪文しか思い付かないのだが、そんなことをすれば周りにいる奴等がまた持ってくるか魔法を使うだろう。
今すぐ此処から逃げたいレンだが、両側と背後を取られてしまっている為、逃げようにも逃げられない。
隣でニヤニヤとするアホンダラの顔面に拳をお見舞いしたいところだが、そんなことをすれば自分の手が無事では済まないだろうなとレンは思い、ひとまず殴ることは諦めた。後は魔法か薬品をぶちまけるかの二択だが、どちらもローブに手を伸ばした瞬間拘束されるのが目に見える。どうしたものかとレンは小さくため息を吐いた。
「シリウスにジェームズ。いい加減にしてくれないか? リーマスとピーターもだ。黙って見てないでこいつらをどうにかしてくれ」
「それは無理な話だよレン」
「お前がさっさと食べればいい問題だからな」
「監督生の僕としては他寮の生徒に対し深く関わるつもりはないけれど、個人としては好き嫌いはしない方がいいと言いたいかな」
「レン、諦めて食べた方がいいよ。君が食べるまでジェームズ達はいなくならないんじゃないかな…」
「何故私が食べなければならない? 別に嫌いと言う訳ではない。私は食事を済ませたのだ、退いてくれないか?」
「少しくらいなら入るんじゃないかな」
「無理だ入らん」
「やっぱり嫌いなんじゃないのか?」
「しつこいな」
「僕等がそう言う人間だとレンはすでに知っているだろう?」
「そうだな、知っている。ではそちらも私がどのような人間か知っているだろう。私は次の試作品作りで忙しい。失礼」
「おいおいちょっと待てよ」
待てるかアホンダラ。
しかし彼等はこのくらいで引き下がるような奴ではないと言うことをレンはよく知っている。知っているからこそレンの眉間に皺が寄る。
「試作品、ねえ? 本当にそれだけなのかな。他にも理由があるよね?」
「何が言いたいリーマス」
「君が最近スリザリン生と仲良く歩く姿を目撃する生徒が多くてね。シリウスが知ったらきっと激しく嫉妬すると思うんだ」
「なんでそこで俺が出てくるんだよ? まさかスニベルスとか言うんじゃないだろうな!? あいつとは早く縁を切れとあれほど言ってるだろ!?」
「残念だがシリウス、セブルスではないし彼はそんな名前ではない。次私の前でその名を口にしたらお前との縁を切る」
「と、とりあえず二人とも落ち着こうよ。ね?」
「私は至って冷静だよピーター。逆に君が落ち着くべきだ。そのレポートはほぼ間違っている」
呑気にレンの隣でレポートを終わらせようとしていたピーターにそう指摘すると、彼は顔を真っ青にして頭を抱え込んだ。無理もない。ピーターがやっていたレポートは魔法史で出た宿題で、自力でやろうと努力はしたみたいだがどうやらさっぱりだったようだ。提出日は明日だけれど、ジェームズが付き添うらしいから間に合うだろう。
話が上手い具合に逸れていった所まではよかったのだが、此処に一人納得していないシリウスが話を掘り返してきた。全くもってしつこい男である。レギュラスにアホンダラと言われるのも無理はない。
「んで、誰なんだよ。マルフォイか?」
「アホンダラには関係ない」
「アホンダラ? シリウスがかい?」
「とある美少年が言っていた」
「美少年? 誰だそれ」
「アホンダラもよく知ってる美少年だ」
くくっ、と喉で笑うと「陰険だからやめろ」とシリウスに注意された。「悪いが今更だ」とレンは返す。そう言えばレギュラスはこの笑い方を何度も見て聞いてきてはいるが、レンは未だに注意された記憶がない。気にしていて言わないのだとしたら、レギュラスは寛大な心をお持ちのようだと思ったが、今までのことを考えそれはないかと思うのであった。
「どーでもいいからさっさと食えよ」
「断る」
「どうしてそんな頑なに断るんだい?」
「私は忙しい」
「やっぱりレンの嫌いなものなの?」
「間違ってはいない」
「じゃあ何なんだよ」
「レン? 何をやってるんですか?」
その声に振り向けば、見知った顔であるレギュラスがいた。少々怪訝な顔をしているが、これは助かった。流石は私が見込んだ美少年だと、レンは自画自賛していた。
「アホンダラ共がしつこい。何とかしろ」
「嫌そうな顔してますね」
「そう言う顔にしてるからな」
「助けて欲しいですか?」
何とも上から目線なレギュラスだが、生憎「助けて」など可愛い言葉をレンは言えない。言えないと言うより、言いたくないが正しい。言う選択肢はレンの頭にはない。
レンは何か交換条件はないかとレギュラスをじっと見つめ、手に持つものにくくっと笑いが込み上げるのであった。
「レギュラス。その手に持つ魔法薬学のレポート、助けて欲しいか?」
「スネイプ先輩に聞くので問題ありません」
「セブルスに分かるはずがないだろう」
「随分な自信ですね」
「今回のは私が考えたものだからな。教授に聞いてみるといい。私は魔法薬学に関しては頭がいいからな」
「自分で言っていたら世話ないですよ」
レギュラスはそう言いながらも何処か納得した様子である。「通りで薬学の本を片っ端から読んでも何処にも方法がない訳ですね」と、初めてレンを良い意味で感心したのである。五月蝿く言うジェームズやアホンダラからレンを解放するよう言い付け、レンは凝り固まった身体を思い切り伸ばした。
「悪戯仕掛人共、次はないと思え」
「ああ? 俺達がレンなんかにやられる訳ないだろ? そうだよな、ジェームズ」
「それじゃあレン、アホンダラにだけ例の物売らなくていいよ。無視してくれていいから」
「はっ?」
「あとついでに、次がないのはアホンダラだけにしてくれるかな?」
「おい」
「レン、次の前にもういいですよ」
「おいコラ! レギュラス!」
「しかと聞き入れた」
後ろで喚くのには無視をして、レギュラスと大広間を後にした。レギュラスを盗み見ると、些か機嫌が悪そうだった。余程アホンダラと関わりたくなかったのだろう。アホンダラに名前を呼ばれた瞬間いつもの優等生の顔ではなくなり、レギュラスは苦虫を潰したかのようにチッと舌打ちをしていた。
「レン。先程あったたくさんの茸料理は一体何だったんですか?」
「私に対しての嫌がらせだろう」
「つまりレンの嫌いな食べ物ですか」
「違う」
「好きではないということですね?」
「そう言うことだ」
「レン、図書館に行きましょうか」
先程の不機嫌オーラは何処へやら。
レギュラスの機嫌がいつの間にかに直ったことに疑問に思いながらも、レンはその細い背中を追い掛けたのだった。