この間から一体何が起きているのかまるで理解出来ない。どうしてことごとく巻き込まれなければならないのだろうか。少し前まで平和に優等生として過ごしていたはずなのに、後ろからついて来ているレンのおかげで意図も簡単に崩れてしまった。
このところ、ついていないと言うよりもついていなさ過ぎる。もしやレンと出会ったせいで運気が下がっているのだろうか。ため息を吐こうとして、ふと気付く。最近やたらとため息を吐くようになったからだろうかとレギュラスは考えた。そんなことあってたまるか。それでもレギュラスはレンに気付かれないように、小さなため息を吐くのであった。
「それで、何故一生徒であるレンの研究の成果が僕の課題になってるんですか。レポートのことも知ってたんですか?」
「さっき言った通りだ。時間を短縮して作れるものがあると教授に話したところ、課題で出しても言いかと聞かれたものだから二つ返事で答えたまでだ」
「普通じゃまずありえませんね。レンだから可能なのでしょうけど」
「最高の誉め言葉だな」
くくっとレンは喉を鳴らして笑った。陰険臭さが出過ぎているが、レギュラスはその笑いが嫌いではなかった。前まで気になる笑いではあったものの、一緒にいる内に麻痺してきたのか今では何とも思わなくなった。人それぞれ個性と言うものは持ち合わせているものだし、あのくくっと言う喉の奥で笑うのがレンの個性なのだとレギュラスは思っている。
「それで、レンはこの魔法薬をどうやって短縮して作ることが出来たんですか?」
場所は図書館の奥の席。
レポートを広げ、必要な本だけを集めてレンにそう問い質した。昔の誰かが作った魔法薬を短縮して作ったなど、聞いたこともない。レギュラスからしてみればあり得ないことでも、レンにとってはあり得ないことではないのだ。新しく魔法薬を作った人物は目の前にいるのに、本人から話を聞かないと言う選択肢はレギュラスの中に存在しない。こんな機会はそう滅多にないことだから、この際聞いてみたいとレギュラスは思ったのである。
「………材料も調合の仕方も完璧に覚えてはいたんだがな。何を思ったのか間違えた材料で調合した所、運良く完成したって話だ。運も実力の内と言うだろう?」
「つまりレンの才能ではありませんね」
「天が私に味方をしてくれたのだよレギュラス」
「レンの場合は天がと言うより悪魔が味方してくれたんだと思いますよ」
「その悪魔につかれている私がレギュラスを気に入ってるのはいいのか?」
「レンですから問題ありません。悪魔がついているからと言って吸魂鬼でないのなら別に構いません」
「そう言うところはアホンダラそっくりだな」
「冗談はやめてください」
レギュラスは心底嫌そうな顔をする。
アホンダラのことなど一切考えたくもないようだ。レンは面白がってまたくくっと笑ってみせた。レンがアホンダラのことを言うせいで、レギュラスは考えたくもない兄のことを考えてしまった。
先程の光景を見て、自分が感じたものは一体何だったのだろうかとレギュラスは思考に耽る。アホンダラに捕まっていたレンを見て、何故か無性に腹が立っていた自分がいた。あのイライラが何処から来るものなのか、レギュラスはまだ分からなかった。
ただ一つ思ったことは、レギュラス自身も自分で思った言葉だとは思えないものだった。
「……負けてたまるか…ッ」
「それは私の魔法薬学の才能に関してか?」
「何故そうなるんですか違いますよ。でも、レンには秘密です」
「そうか、レギュラスはそんなに真実薬が飲みたいのか。ちょうど今あるから飲むか?」
「物騒なもの持ち歩かないで下さいよ」
「無理だ」
何も気付いていない隣の人物に、レギュラスは静かに微笑むのであった。