見つめるなまえの瞳がとても綺麗で、吸い込まれそうな感覚に身を委ねてしまいそうになる僕がいた。この前見た泣きそうな顔じゃなくていつからか見なくなった、僕に向けた微笑み。

笑っているのにやっぱり何処か泣き出してしまいそうで、泣くまいと必死に眉を歪めているなまえ。奥歯をグッと噛み締めて堪えているなまえは、もう微笑んではいなかった。


「…リーマス……」

久し振りに名前を呼びたかった。
それなのに僕の口は息を吐き出すだけで、囁くことさえ出来ない。

名前を呼びたいのに呼べない。なまえの笑顔を見て、それだけで安心しきっている僕が自分の中にいた。あとはシリウスに任せられると、勝手なことを考える僕がいる。

そうじゃない。僕はなまえに伝えたい言葉がある。口で言わないと伝わらなくて、今言わないとこの先後悔するかもしれない。今までウダウダと考えていた自分は一体なんだったのか、名前を呼べなかった代わりにその言葉はすんなりと声となって紡ぎ出された。


「今、幸せ?」

なまえは顔を歪めて俯いた。何かを堪えているのか肩を震わせ、拳をぎゅっと強く握り締めている。なまえはそのままの状態で小さく何かを呟くと、勢いよく走り去って行った。

何かの間違いであって欲しい。去り際に顔を上げた際、涙が頬を伝っていた。どうして泣き出したのかなんて、分かるはずもなかった。


「リーマス。俺お前が分かんねえよ」
「……僕にも、解らないんだ…」
「はあ? だったらなんで……!」

「なまえは今、幸せじゃないの…?」

シリウスと一緒なのだから、幸せなはずなんだ。なのにどうして。

そればかり考えていたらガツッと頬に衝撃が来て、何だと思えば怒ったシリウスがいて殴られたのだと理解した。

「……ッなまえに聞いて来いッ!」
「それは駄目だよ」
「何がだよ!!」
「会えばなまえが泣く」

さっきみたいに、泣いてしまう。
今度は僕も泣きそうだ。

いつから、いつもの日常が壊れはじめたのか。この壊れた日常のままなのが酷く嫌で、逸そ僕も壊して欲しかった。

なまえに最後に「幸せ?」と聞いたのはいつだったのか、もう覚えていない。その時どんな返事をしてくれたのかさえ、そこだけ綺麗さっぱり忘れている。


シリウスは僕を一瞥した後、なまえを追いかけて走り出した。そうだよ、僕ではない。僕は追いかけることが出来ない。なまえが泣いているのに、だ。

いつからすれ違ってしまったのかも分からない。幼馴染みとしてなまえの隣にいた。ホグワーツに入学してシリウスが現れ、もう限界だと思うことも多々あった。それでも僕がなまえの傍にいたのは、それくらいなまえが大好きだからだ。

なまえだけはと、それくらい思っていたのに。


僕はいつから、こんなにも臆病になったんだ。傷付くことを恐れていたのにそれでもと、何度思ったか。何度諦めようと思ったか。諦めるそのたびに諦めきれなくて、それを繰り返してきた。

寂しいと言うなまえの顔が頭から離れない。どうしてこんなに捻れてしまったのか。


「忘れちゃったんだ」

そう言ったなまえの言葉が、僕の頭の中でぐるぐると回っていた。






何を忘れているのかさえ、忘れている





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