「ルーピン先輩の好きな人って、エバンズ先輩じゃなくてみょうじ先輩だったんですね。ブラック先輩がいたので気付きませんでした」
図書館で頭に入るはずもない魔法薬学に関する本を読んでいると、一人の女子生徒が前の席に座っているのが見えた。彼女はこの前僕に告白をしてきた子だ。
「お久し振りです」なんてのんきに言ってくる彼女に対してため息を吐くと、僕は本を閉じた。これ以上は無駄だと判断したからだ。
「気付けて何よりだよ」
「あれから暇さえあれば先輩のこと観察してましたから。馬鹿でも分かりますよ、ルーピン先輩の気持ち」
「ストーカー紛いのことをしないでくれ。これから先もするようなら減点するよ」
「……ルーピン先輩。みょうじ先輩のこと、諦めちゃうんですか」
「…君には関係ないよ」
そう言いながら荷物をまとめる。
彼女に話したところで何の問題も解決されない。
僕の気持ちも、幼馴染みとしての関係も、何も。
淡々と片付けをする中、彼女は机に肘をついてじっと僕を見つめていた。視線が気になるから何度か彼女と目が合うのに、これと言って何かを言うつもりはないらしい。本当に、こんな僕の何処を好きだと思ったのか理解出来そうにない。
席から立ち上がり、彼女に挨拶もしないまま図書館を出ようと歩き出す。突然ガタッと彼女も立ち上がり僕の腕を掴んだ。
どういうつもりなのかと彼女に目を向けると、至極真剣な表情だった。それはいつかの告白の時のようで、そんな彼女に対して「またか」と僕は勝手にそう思ってしまった。
「ルーピン先輩。最後に少しお話いいですか?」
「………」
「面白い話を聞きまして。是非とも聞いていただきたいんですよ」
「……何の話だい?」
「噂は所詮、噂と言うことみたいですよ」
「だから一体何の、」
「みょうじ先輩とブラック先輩、付き合っていませんよ。二人はただ、本当に“仲が良いだけ”みたいです。本人に直接聞いたので間違いないですよ」
「………ッ君……自分が、何を…言っているのか、分かっているのかい……?」
「ええ。もちろん」と、にっこり笑いながら彼女は答える。彼女は今、何と言った? 付き合っていないと言ったのか?
なまえとシリウスがただ仲が良いだけで、あんなにもくっつくと言うのか。そうだと言うのならば、幼馴染みよりも友達の方が大事だと、そう言うことだろうか。
僕はなまえに、見放されたと言うことなのだろうか。
「ルーピン先輩。一つ言い忘れていました」
「……今度はなんだ…」
「伝言です。『私は今も変わらない』と」
誰の伝言かなんて分かりきっている。
まとめた荷物を持って急いで図書館を出る。マダムの「走らない!」と言う言葉は耳に入っても抜け落ちた。
図書館を出る直前、後ろから僕を呼ぶ声が聞こえた。振り返るとまっすぐ僕を見つめる彼女がいた。図書館にいた生徒は何だと本棚の隙間から顔を覗かせている。
マダムはすでにカンカンだ。
それでも彼女は口を開く。
「ルーピン先輩。頑張ってください…!」
「………ありがとう」
僕に手を振る彼女は泣きそうになりながらも笑っている。彼女がどうしてここまでしてくれたのかは分からない。
けれど「好きな人の為ならば」と言うものが働いていたのだと考えれば分からなくもない。
そう考えたら、急に彼女の笑顔が眩しく感じた。とびっきりの笑顔で、僕に手を振っている。僕も自然と笑みが溢れる。彼女に手を振り踵を返し、なまえがいそうな場所まで走った。
ようやく、思い出したんだ。
あの時の言葉は、小さい頃の“あの約束”だった。
人はそれを「恋」と呼ぶ
変わってしまったのは僕の方だった
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