「ねえブラック。ちょっと、協力して欲しいことがあるの」
なまえが急にその話を持ち出してきたのは六年に上がってから、すぐのことだった。なまえとはあまり話したことがない。大体リーマスがなまえに悪い虫が付かないかと目を光らせていたからって言うのもある。その当時俺はなまえにそこまで惹かれるものはなく、他の女子とよろしくやっていた。
親友のジェームズはそんな俺の様子に「君もいい加減に一途になれるような恋をしなよ」といつも言う。余計なお世話だ。何だかんだで俺はこう言う後腐れない関係が落ち着くのだ。何も考えずに済むし、何より楽だ。だからこそ、そんな俺になまえが声をかけてきたのが正直不思議でならなかった。
「何を協力するんだ?」と聞いてみれば、なまえは顔を真っ赤にしながら小さな声で答えた。「リーマスを嫉妬させて欲しい」と。話を聞きながら俺は「惚気かよ」とため息を吐いた。
リーマスが自分に自信がないことは俺を含め悪戯仕掛人は知っている。だったら奥手なリーマスをなまえがリードしてやればいい。ただそれだけの話だ。協力するまでもない。見ていてもどかしさはあるものの、俺は他人の恋路に巻き込まれたくはない。ジェームズのこともあり、よーく身に染みている。
どう考えても面倒くさい頼み事だ。
断ることなど簡単に出来る。「リーマスのような奴は返って逆効果だ。なまえからアタックしろ」と、言うはずだった。しかし数秒考えた後、俺は了承してしまった。自分でもよく分からない。ただ、顔を真っ赤に染めてまで俺に頼み込むなまえの顔を見て、僅かに湧き上がった何かに押された気がした。
それから俺となまえ、そしてリーマスの奇妙な関係が出来上がった。リーマスは何か言いたそうな顔をしながらも追求してくることはなかった。
それに不満げななまえは次に動いた。その行動力をアタックする力に使えばいいと、なまえに言えなかった。この奇妙な駆け引きを、俺は面白半分で見ていた。リーマスのまっすぐな気持ちを知っていながら、もう半分の気持ちが俺に働きかけていた。
「………ねぇ、ブラック」
「何だよ」
「協力してって言ったのは私だけど、やっぱり…」
「まだはじめたばっかなんだ。そんなに焦ることないと思うけどな」
「…そう、かな」
「大丈夫だ」
納得した表情をしているわけではないと、分かっている。リーマスを嫉妬させる為だけの関係のはずだった。一緒にいる時間が前より明らかに増え、なまえの知らないところを見付けると嬉しかった。もっとなまえを知りたくなって、近付きたくなった。リーマスに対して少しの罪悪感を抱きながら、なまえの隣にいることを選んだ。
いつの間にか俺は、なまえを好きになっていた。けれど分かっているのだ。俺は最初から、失恋しているのだと。これは単なる俺のわがままなのだと。
それでも俺は、この関係を終わらせることなど出来なかった。
冬が近付いて来たある日のことだ。
一人の女子生徒に声を掛けられた。一つ下の後輩で、最近になってよく見掛けるようになった女子だと記憶する。彼女はリーマスのことが好きだと言った。良くない考えが浮かんだ。それをしてはいけない。けれど、すでに自分の気持ちに抗うことは出来なくなっていた。
「お前、リーマスと付き合いたいのか?」
「…………はい…」
「ふーん、そうか」
「む、無理だって言いたいんですか?」
「いや、そうじゃないさ」
「…なら、馬鹿にしているんですか?」
「俺が言いたいのはそう言うことじゃない」
「……何ですか…」
「俺が協力してやるよ」
今までで一番最低だと、気付いてはいたんだ。
悪魔の囁きを君に渡すよ
(後戻りが出来なくなるくらいまで、惹かれていた)
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