昔からなまえの隣にいるのはいつだって僕だった。僕となまえはいつも一緒で、互いの家を行き来し合う仲だった。休みの日はよくなまえの家族が僕の家に遊びに来てくれたし、僕もなまえの家に遊びに行ったことがある。

幼い頃に狼人間に噛まれて以来、僕も狼人間となってしまい、僕の家は森の奥深くに建てられた。どの人狼が僕を襲ったのか、まだ分かっていない。父さんも母さんもその話題には触れたくないらしく、僕には教えてくれないからだ。

まだ幼い頃、人狼のことを気にしていた僕は森の中か家でしか遊ぶことが出来ないのがとても嫌だった。森の中は絶好の遊び場だったけれど、狼人間だからこんな所でしか遊べないのだと思っていたのだ。遊ぶことが限られている中でも、なまえはとても楽しそうだった。「ふたりっきりのもりよ! あそびほうだいね!」と喜ぶなまえを見て、僕も次第にそんなことは思わなくなった。

あの時から、僕の中にはなまえがいる。どんなにつらいことがあってもなまえが笑顔でいてくれるから、僕は頑張れた。脱狼薬は今ほど開発に勤しんではいなくて、とてもとても不味いものだったけれど、少しでも良くなるために我慢して飲んだ。

脱狼薬を飲んだとしても、薬の副作用で数日はベッドから起き上がれなくて、家から出ることが出来なかった。そんな状態でも、なまえはお見舞いとして何度も来てくれた。それだけで僕の心は救われたし、僕の両親も彼女には感謝していた。


あの頃から成長して今現在、こうしてなまえの隣にいるのは紛れもない僕だ。

そしてなまえを挟んだ向こう側にはシリウスがいる。移動の時は大抵シリウスも一緒に行動するようになり、三人になることが度々あった。ジェームズはそんなシリウスの行動に何度も目を擦っていたけれど、やがて何も言わなくなり、彼は彼なりにエバンズに猛アタックをするようになった。そんなジェームズに対しエバンズは無視を決め込んでいるけれど、ジェームズはいつも嬉しそうだった。

こうしていつしか移動の時は三人でいることが多くなった。なまえは特にシリウスがいることに何も言わない。僕もなまえに何か言うことはなかった。その隙を狙ったのかどうかは分からないけれど、シリウスはなまえによく話しかけるようになった。

僕はまるで、ここにいるのにいないような扱いをされている気分だった。

なまえにもシリウスにも、そんな気はないのだとは思う。大抵聞き役に徹する僕がいけないのだと思ったからだ。自分から何も話さないから、こうなったのは僕自身のせいなのだ。会話の邪魔をしてはいけないと、いつも後ろから追いかけているからだ。二人のせいにするのは間違っている。

時々、どうしようもなく辛いと思ってしまうことがある。自分が悪いのにも関わらず。なんて愚かなのだろう。


「今日の悪戯の対象はフィルチだ!」
「程々にしなさい。ブラック」
「分かってるって。何なら一緒に悪戯するか?」
「遠慮するわ。人を困らせるようなことはしたくないの」
「たまには羽目を外すことも大切だろ?」
「あなた達は外し過ぎなのよ。特に、ポッターは……セブルスに対してね」
「それはスニベルス次第だ」
「セブルスよ、ブラック! ……あなたが教えてあげるって言う方法もあるわよ? 親友なんでしょ?」
「近々言うつもりだ」
「つもり、ね…」

少しずつ少しずつ、気付かれないように二人と距離をとりながら歩く。ちょっと速度を緩めただけで簡単に距離が開いた。これでいいのだ。まるで最初から僕が付け足しのようについて行って、なまえの隣にいるのはシリウスだったように見える。最近そんなことを思うのが多くなった。

シリウスと仲良く肩を並べて歩く姿を見ていると、至極悔しくてたまらない。それくらい、本当に、二人はお似合いなのだ。初めから二人でいるのが当然のようで、僕は近付くことをやめた。

そろそろ、一緒に行動するのはやめた方がいいのだろうか。きっとシリウスも気を利かせろと思っている頃だと思う。

成長するにつれて、自分が人狼であると言うことが重く圧し掛かってきた。人狼の自分は、彼女と一緒にいて良いわけがない。なまえは、普通の人と一緒にいるべきなのだ。

明るいところで笑っているのがとても似合うのだから。そう思うと至極寂しくてたまらないのだけれど、そうする方がいいのだ。


「なあなまえ。今度一緒に図書館で勉強しないか?」
「今度っていつ?」
「そうだなあ、今週の休日なんかはどうだ?」

今週の休日は僕となまえの二人で勉強をする予定だ。なまえもそれは覚えてくれていることだろう。きっとシリウスに「一緒に勉強しよう」と言うのだろう。なまえは大抵のことは断ったりしない。人を困らせるようなこと以外はしない。彼女はとても優しいのだから。

「リーマスと勉強をする予定なの。ねえリーマス。ブラックもいいわよね?」
「うん。分からないところは教え合えるからね」
「良かった!」

心の底からそう思っているのか、なまえは綺麗に笑って見せた。その笑顔に応えるように微笑んで、僕は「先に行く」と言って二人から離れる。

分かっていたことなのに、心の中でぐるぐると吐き出せない感情が渦を巻いている。果たして自分は上手く笑えていただろうか。なまえの顔を見ることが出来なかったため、確認のしようがない。


薄々気付いていたことだった。シリウスがなまえを想っていることに。なまえが、シリウスに少しずつ惹かれているかもしれないと言うことに。金魚の糞同然の僕には、知るには造作もないことだ。小さい頃から、なまえだけをずっと想って見てきたのだから。だけど、それももうすぐ終わる。

遅かれ早かれシリウスは自分の想いを伝え、なまえはそれに答えるだろう。「好き」だと。言い表せない感情が爆発しそうで必死に抑える。堪え切れなかった感情は表に出てしまったらしく、廊下の窓にピシリとヒビが入ってしまった。修復呪文で直し、急いでその場から立ち去った。どうすることも出来ない感情に、無意識の内に言葉が零れた。


「…ずっと前から好きなのにね……」

「君のことを」と呟いた言葉は誰に届くわけでもなく、響き渡らずに虚しく消え失せた。







今も尚、僕はあの森に独り、取り残されている気がしてならない。





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