「好きです! 私と付き合ってください!」

名前も学年も知らないハッフルパフの女子生徒に、突然告白をされた。


みんなと朝食を済ませ「魔法薬学の授業は憂鬱だ」と話していた最中に、突然女子生徒が僕等の前に飛び出してきた。びっくりした僕等は立ち止まり、飛び出した女子生徒は俯きながら落ち着きがないように思えた。きっとまたシリウスに告白しようと頑張っている女の子なのだろうと僕等は目を合わせ、先に教室に向かおうとした。

彼女が掴んだのは僕のローブだった。なまえも見ているこんな時に限ってどうして僕なのだと八つ当たりをしてしまいたくなった。

どうあっても離そうとしない彼女を見たジェームズは「先に行ってるよ」と僕を見捨てることにしたらしい。シリウスはなまえの肩に手を置いて、なまえは「教室で待ってるね」とぎこちない笑みを浮かべていた。きっと「うわ、意外」とでも思ったのだろう。失礼だ。

誰もいなくなった後、彼女はようやく腕を離してくれた。俯いていた頭を上げて真っ赤に染まった顔で冒頭の告白をされた。


彼女は僕の何処を見て好きだと思ったのだろう。

自分で言うのも可笑しな話だけれど、愛想が良いのは自覚している。

この女子生徒と関わったことがあるだろうかと記憶の糸をたどってみるが、僕の記憶の中の顔と彼女の顔は当て嵌まらない。全くの初対面だと言うのに何故彼女は僕を好きだと言ったのか、益々理解出来なかった。

僕と目が合うたびに顔を真っ赤に染めて俯く彼女はとても可愛らしいと思う。勇気を振り絞って僕に想いを伝えたのだと彼女を見て思う。

可愛らしいとは思うものの、僕の心はまるで揺らがなかった。可愛いとは思う。しかしその先に他の言葉はない。可愛いと思うだけで、不思議に思うくらい彼女には何の興味も湧かなかった。


「ごめんね。君と付き合うことは出来ない」
「………」
「君とは今日初めて会って初めて話した。お互いのことをよく知らないまま付き合うのはあまり好きじゃないんだ」
「…そ、それなら、友達からならいいですか…?」
「それもごめんね」
「……それは、エバンズ先輩が好きだからですか?」

どうしてそこでエバンズが出てくるのか。彼女は一体何処を見てそう判断したのだろう。

確かに同じ監督生としてエバンズと一緒にいる時間が増えたけれど、正直に言って彼女は友人以外の何者でもない。最近僕を好きになってたまたま近くにいたエバンズだとでも思ったのだろうか。

目の前の彼女は真剣に僕を見つめている。此処で違うと言ったらきっと「じゃあ誰ですか?」なんて聞いてきそうだ。彼女の真剣な眼差しに答える気は失せた。彼女と僕の片想いは同じではないけれど、片想いと思うと言わない方がいい。その代わりに、はっきりすっぱり伝える。


「エバンズは、本当にただの友達だよ。監督生として仲良くさせてもらっているんだ」
「でも! 私知ってるんです! ルーピン先輩とエバンズ先輩がよく二人で会っているのを! それもジェームズ先輩に内緒で!」
「…期待させるのも悪いから先に言うべきだったね。友達から始めても、きっと君に気持ちが向くことはないと思うんだ。一生ね」
「そんなの、分からないじゃないですか」

「分かるんだよ。嫌でも」


そう、いつか思い知らされる。

自分じゃ駄目なんだと、現実を突きつけられる時が来る。遅かれ早かれ確実に。それなら最初から期待させなければいい。冷たくあしらい、無理だと言えばいい。

なまえは優し過ぎるから、その優しさが鋭い刃となって突き刺さる。深く深く、心臓を抉るように。柔らかい笑みを浮かべながら、そのことに気が付かないまま。


「……諦めてしまっていいんですか…?」
「とても大切な人だから。その人が幸せなら、僕はそれでいいんだよ」
「ルーピン先輩って意外と根性なしですね」
「そうだよ。あと、ついでに言えば僕は意外と女々しいんだ。失望したかい?」
「いいえ。こうしてルーピン先輩を知ることが出来て嬉しいです」

振ったと言うのに彼女は諦めていないのか、はたまた分かっていないのか。どちらにせよ、僕は無理だと伝えた。彼女の想いに答えることは出来ない。

それなのに彼女は一体何を求めているのか。頬を染めて恥ずかしそうに笑う彼女を見ているのが、どうしようもなく辛かった。


「もっと、先輩のことが知りたいです」

どんなに僕が付き合うことは出来ないと伝えても、彼女は歪んだ笑みを浮かべる。彼女の気持ちに答えることが出来ない僕も、無理に笑うしかなかった。彼女の望む返答は出来ない。

どうしてこんなにも、片想いは上手くいかないのだろう。彼女も、僕も、ジェームズ達も。すれ違う気持ちはどうすれば消化することが出来るのか。

偽りの恋愛をしたところで無意味だとは分かっている。分かっているから、彼女の気持ちに答えてはいけない。想ってもいないのに、それ以上は彼女の傷を抉る行為だ。


上手くいかないのは何故なのか。

僕がこんなにも臆病で情けなくて、嫌われたくないと言う独りよがりな思いだからなのは分かっている。

だからこうして、僕は目の前の彼女に歪んだ笑みを浮かべている。何処も彼処も上手くいかないのは、卑怯な僕の心が邪魔をしているからだ。


「僕のことを知っても、辛いだけだよ」

曖昧な返しに、彼女はまた歪んだ笑みを見せた。






僕も大概酷い人間、否、人狼だ





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