先程から同じ言葉が頭の中でぐるぐると渦を巻くように転回している。どうしてあんなことを口走ってしまったのか。今になって後悔しているなんて馬鹿だ。
『なまえなんか大嫌いだ』
思ってもいない嘘を吐き、挙げ句の果てにはなまえを泣かせた。泣かせるなんて僕はどうかしている。
なまえの幸せを願っているのに、これじゃあなまえは幸せになんかなれない。ずっと良い幼馴染のままで、ずっと隣にいてなまえを見てきたのに。
目を瞑ると、なまえが泣きそうな顔をして僕を見ている。目に焼き付いた光景はなかなか離れてくれないらしく、僕を責めるように追い詰める。
「………何やってんだ……僕は…」
頭が上手く働かないのはやっぱり風邪を引いているのに外出したからで、もしかしたら悪化したかもしれない。あと三人いるはずのこの部屋の住人の姿は何処にもなく、まだホグズミードを満喫しているのだろう。
ヵ医務室に行く気がしない。
寧ろもう部屋から出たくない。
今出て、もしなまえと鉢合わせしてしまったらと考えると出る気が失せる。
今はなまえに会わせる顔がない。
けれど、今日でこれまでの関係すべて終わってしまうのは嫌だと思う僕がいるのも確かだ。なまえがシリウスと付き合いはじめるのは時間の問題で、そこに僕が加わってはいけない。
傍で見守る幼馴染は、彼氏と言う存在にその隣を譲らなければならない。ただの幼馴染が隣にいるのも可笑しな話だし、第一彼氏のシリウスが黙っていない。
なのに、どうしてもなまえの隣がいいと駄々を捏ねる僕が僕の中に存在しているのも確かだ。僕が隣じゃ駄目なのに、頭の何処かでは譲りたくないと思っている。
こんなのただの我儘じゃないか。
こんな女々しい男なんて僕自身も嫌になる。どうして譲りたくないのかって、どうして意地になって幼馴染でいるんだって言っているのかって、そんなの。
ああ、そうだ。
僕は自分が傷付くのが嫌で、言ったらもう元の関係に戻れなくなるのが怖くて、ずっとなまえから逃げていたんだ。そんなこと、とっくのとうに分かっていたはずなのに。分かっていたのに知らない振りをして自分を偽り、いつから慣れてしまったのか分からない作り笑いをして。
気付きたくない想いにずっと目を背けてきたけれど、自分で受け入れたからにはなまえと話さないわけにもいかない。そうと決まれば、これはもうなまえに謝るしかない。
ふらつく足に力を入れて踏ん張りながら談話室へと続く階段を降りて、暖炉に一番近いソファーでなまえの帰りを待った。そう言えば、今日限定の秘密のチョコレートはやっぱり外で落としたのかもしれない。
いつの間にかソファーで寝てしまった僕は、シリウスだけが帰って来てなまえの姿が何処にもなかっただなんて気付くはずもなかった。
寝ても覚めても
僕の中にいるのはただ一人、君だけだ
ALICE+