あれから一週間が経った。
あれ以来、リーマスとは話していない。意識して避けているわけではないし、リーマスの方も話しかけてくる様子はない。だから避けているわけではなく、ただ単に話す必要もないから話しかけていないだけなのだ。
リーマスは相変わらずで、相変わらず過ぎて逆にどう接したらいいか分からなくて困る。リーマスは私がジェームズを好きだと知っていた。知っていて、きっと私が右往左往しているのを見て楽しんでいたのだ。だってリーマスはいつも私を見て笑っていたのだから。
リーマスなんてただの最低男じゃないか。シリウスみたいに女の子を取っ替え引っ替えしているわけではないけれど、ある意味シリウスより質が悪い。
まるで子守唄を歌うように授業を進める教授は何なんだろうかと、ふと思う。私達に「真面目に勉強しろ」と言うくせに、子守唄を歌うのだから勘弁して欲しい。睡眠学習でも何でもない。
鐘が鳴り、そんな深い眠りへといざなう魔法史の授業もようやく終わった。この後は夕食を食べて天文学の授業に出て一日は終わる。
半分寝ていたせいで身体が痛くて仕方ない。固まってしまった身体を無理矢理伸ばして血の巡りを良くする。
大広間に向かうのがすごく面倒くさい。けれど、行かなければリリーに何をされるか分からない。リリーさん色々と容赦ないから本当に怖い。この前なんて私が被害を受けたわけではないけれど、ジェームズが大変なことになっていた。詳細を思い出そうとすると何故か身体の節々が痛くなるのでやめておこう。
ジェームズは「リリーの愛だから!」とか言って自力で関節何とかしていたな。ああ痛い。
夕食の時間までまだ少し時間があるなと思い、天文学の予習でもすることにした。久し振りに図書館で勉強でもしよう。色々と調べたいこともすぐ分かるだろう。
星の観察はなかなか面白い。けれどちゃんと調べておかないと、どれがどの星だか全く分からないのである。これでも結構自主的にやっていると言うのに、どう言うことなのかさっぱりだ。
そうと決まれば私のその後の行動は早い。図書館に着き、誰も来ないであろう薄暗い所を陣取る。灯りなんてマダム・ピンスに気付かれないように杖を使えばいいわけだし、大して問題はない。
そう言えば、天文学はリーマスも取っていたなあと思い出す。最近本当に話していないし、授業中も大抵リリーと一緒で絡むこともないからすっかり忘れていた。
天文学の授業は大体野外で行われる為、夜だと真っ暗でいちいち他の人の確認なんてしたこともない。からかわれていたのだと、そう思うと少し心が痛い。
そりゃあのリリーのことが超大好きジェームズを好きだなんて他の人からしてみれば、物好きもいたものだと思われてしまうのは仕方ないのかもしれないけれど。
それでも今まで友達と思っていた分、私は裏切られた気がしてならなかった。
「…リーマスの、馬鹿……」
「なんで馬鹿なの?」
「うわぁッ?!」
なななななな、なんでリーマスが此処にいるの!?
背後から急に声をかけないで欲しい。
寿命が縮まる。
「それで、なんで僕が馬鹿なのかな?」
「えと、その…」
「まあいいけど。大体分かってるから」
「…分かってるって、何がよ」
リーマスは私の隣に腰かけ、肘をついてそこに顎を乗せていつもの笑顔でそう言った。
相変わらず裏があるのかないのかよく分からない顔をしている。大抵こう言う時は裏に何かあるのだろうけれど、私ではよく分からないから放っておくことにした。触らぬ神に祟りなし。
「なまえのことは大抵分かるから」
「分かるって、だから何をよ」
「天文学の予習でしょ。一緒にやらない?」
「え? あ、うん……いいよ…」
何だかよく分からない内にそう言うことになっていた。私が聞きたかったことはそう言うことではないのだけど、今は別にいいかと思った。
リーマスと話すのは久し振りだ。私自身が避けていたからだけど。未だにこの前の言葉が頭の中をぐるぐると回っている。ジェームズを好きなのは間違ってはいないわけだから何も言えないけれど、リーマスはそれ以上確かめようとはしない。本当に、何がしたいのか分からない。あれから何もないのも少し気になる。
けれど天文学が得意だと言うリーマスに教えてもらっている内に、私はそんなことなど忘れかけていた。
「早くしないと夕食が終わっちゃうよ」と、リーマスに言われて顔を上げる。そんなに集中していたなんて気が付かなかった。
天文学が面白くなってきて勉強に集中し過ぎたみたいだ。「頑張れば出来るじゃん私」と自分を褒める。
「なまえ、すごい集中力だったね」
「そんなにすごかった?」
「うん。何回か声かけたから」
「あ、ごめんね」
「別にいいよ。天文学、楽しかったんでしょ?」
「リーマスのおかげでね」
「それはよかった」
「おやおやご両人。いないと思ったらこんな所にいたのか」
「ったく、さっさと飯食いに来いよ」
「なまえ、リーマス。二人で勉強してたんだね」
呼ばれてそっちを見てみれば、リーマス以外の悪戯仕掛人がバスケットを持っていた。ピーターがバスケットを机に置いて上にかけていた布を取ると、中にはパンやチキンやゴブレットに入ったかぼちゃジュースが入っていた。かぼちゃジュース、よく零れなかったな。
素直に感心していると、ピーターが「持ってくるのに苦労したよ」と苦笑しながら言っていたのを聞いて、浮遊呪文を使えばよかったんじゃないかと言うことは伏せておいた。せっかく持ってきてくれたのだから何も言うまい。
此処で食べるとマダムに見つかった時金輪際図書館の使用を禁止されたら困るので、寮に持って行くことにした。
「それにしても、リーマスもすみにおけないな」
「何言ってんのシリウス。気持ち悪いよ」
「なまえは黙ってろって!」
「何よ!」
「ま、まあまあ二人とも」
「リーマスとなまえって案外お似合いだしね」
「……え…?」
今、ジェームズはなんて言ったのだろう。
嫌な汗が体中から噴き出してくる。なんで、なんでジェームズがそんなことを言うのだろう。確かに、私とリーマスは一緒に勉強をしていたけれどそれだけでそんなことは言わないだろう。
もしかして、最近避けていて今日一緒にいるところを見たからだろうか。どれだけ考えても分からなくて、黙ったままだった私を変に思ったリーマスが顔を覗き込んできた。きっと、今の私は酷い顔をしているのかもしれない。
「ごめん。それ要らない」
「なまえ?」
「どうしたのさ、なまえ」
みんなの声も聞かずに、私はその場から逃げた。ジェームズがびっくりした声で私の名前を呼んだけど、今はジェームズの声を聞きたくなかった。
私とリーマスがお似合い? なんて馬鹿なことを言っているのだろう。ジェームズの口からそんな言葉は聞きたくなかった。
私がジェームズのことを好きだと知らないからそんなことが言えるのだ。私がジェームズのことを好きだと告白しないからこう言うことが起きるのだ。
早く告白してしまえばいいのだ。けれど、今の私には告白なんてもう頭の中にはない。本当に、私なんてジェームズの眼中にないのだから。ジェームズはリリーしか本当に見えていない。だから、私はどう頑張ったって友達までしかいけないのだ。それでいいと幾度も思った。
なのに、どうして私は逃げているのだろう。本当は納得していないから、こんなことになっているのではないか。ああもう、本当に、私は馬鹿だ。
名前を呼ばれるのが嬉しいだなんて、今は思えない。
呼ばれるたびに、鋭い針が私の心臓を貫く。
逃げるなんて、本当に馬鹿だ。
これでいいんだと
思えないのは私の心が我儘だから
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