しんしんと降る雪を窓越しに見ながら、ベッドから起き上がる。周りの空気がとても冷たくて、寒さでぶるりと身体が震えた。今日は休日だ。こんな日は暖かい談話室で宿題を終わらせてしまおう。

ひとまず起き上がり、朝食を取りに行こう。寒さでベッドの中に戻ってしまいたいけれど、起きてしまったのだからもう行動してしまおう。


女子寮の階段を下りて談話室に行くと、休日の早朝だからか、誰もいなかった。みんなが起きて来るまでまだ時間はあったけど、待つことはしないで一人で大広間に向かう。

何となく一人でいたかった。早く起きたからと言うのもあったのだけど。大広間にはちらほら何人かいて、見知った顔はいなかった。早々に食べてしまおうと思い、食事を始めた。


食事を終え、宿題を終わらせようと談話室に戻る。扉を開けるとリリーが怒った顔をしながらこっちに向かって来た。

「なまえ! 一人で朝食に行くなんて酷いわ! いつも一緒に行ってたんだから一言くらい言ってくれてもいいでしょ?」
「ごめんねリリー。すっごくお腹が減ってたの」
「全くもう!」
「次からはちゃんと言うようにするね」
「当たり前だわ! 言わなかったら今後一切宿題の手伝いなんてしないわよ?」
「うっ……はい…」

それは困る。
自分のしたことの重大さに気付き反省をする。リリーがいなかったら変身術のレポートや魔法薬学がどうなるかなんて考えなくたって分かる。

「なまえ、リリーをおいて行くと言うことは僕の恋の後押しをしてくれたのかい?」

後ろから、こっそりとリリーに聞かれないようにジェームズがそう言った。ジェームズ達もリリーも朝食はまだのようで、ジェームズはこれからリリーを誘おうとしているらしい。

けれど今のリリーは私のこともあり、少々気が立っている。リリーの拳が飛ばないことを祈るしかない。

「なまえ、おはよ」
「おはようリーマス。ご飯食べた後って時間ある? もし大丈夫なら闇の魔術に対する防衛術を教えて欲しいんだけど」
「うん、いいよ。でもシリウスとかジェームズでなくていいの? 二人の方が上手いと思うんだけど」
「シリウスとジェームズは感覚でやってるみたいで教えてもらってもよく分かんないんだよね。教えるのはリーマスの方が上手だし」
「そうかな?」
「うん。そう思うよ」
「それじゃあなまえの期待に応えようかな」

「ちょっとなまえ! 僕等が教えるの下手ってどう言うことだい?!」
「俺等のが成績良いのにな!」
「だって二人とも『こんなのひょいひょいだよ』とか感覚で言いながらちゃんと教えてくれないじゃん」
「確かに。ぼくもリーマスに教えてもらった方が分かりやすいかも…」
「ほら、ピーターもそう言ってるし」
「ピーター! なんでだい?!」
「レ、レポートならすごく分かりやすいんだけどね」
「それよりいいの? リリーならとっくのとうに大広間に向かったけど」
「何だって?! パッドフッド、急いで追い掛けるよ!」
「ま、待ってよジェームズ! シリウス! リーマス急いで行こう!」

至極慌てているピーターだけど、きっとジェームズはリリーと朝食を取ることは出来ないかもしれない。今頃「五月蝿いのがいないから静かに食べれるわ」なんて言ってそうだ。大広間に着いたとしても、リリーの拳が振るわれること間違いないだろう。

ただでさえ機嫌が悪いのに五月蝿いのがきたとなったら、想像するだけで恐ろしい。ジェームズが無事だといいな。


「なまえ」
「リーマス? あれ、ピーターは?」

談話室内を見渡せど、ピーターの姿は見えない。もしかしてリーマス、置いていかれた?

「ねえ、今失礼なこと考えたよね? ピーターには先に行ってもらったんだ」
「ごめん、そうなんだ。リーマスはどうしたの?」
「どうしたってわけじゃないんだけど。ちょっと気になったから、かな」
「気になったって?」
「いつもエバンズと一緒だったから、今日はどうしたのかなって。何かあった?」
「………何もないよ。今日は、本当にすごくお腹が減っちゃって、だから先に行ったんだよ」

「そう? 僕には、なまえがエバンズから逃げてるようにしか見えないけど」
「…逃げるって、なんで…ッ」
「エバンズに隠し事してるの、辛い?」
「ッ…!」

どうしてリーマスには、分かってしまうのだろう。

そうだ、本当は至極怖いんだ。リリーに知られてしまうのが、怖くてたまらない。ずっと黙ったまま、けれどもし気付いた時、リリーになんて言われるのか怖くて怖くてどうしようもなく辛い。

ホグワーツに来て、初めて出来た大事な友達だから。もし失ってしまったら、私は自分がどうなるのか分からない。否、きっといつも通り変わらないのかもしれない。

表には出せないで、きっと意地を張ってしまうのかもしれない。「リリーがいなくたって大丈夫。私は独りでだって頑張れる」と、自分自身に言い聞かせるのだろう。

けれど、やっぱりいつも通りにはいかないのかもしれない。リリーに嫌われてしまったら、私はきっとこの先自分自身を許せなくなる。リリーが一番の友達だから。だからこそ、尚更。


「……リーマスには、関係ないよ…!」
「関係あるよ」
「ないったらッ!!」

「関係ある」って、リーマスなんてただのジェームズの友達じゃないか。リリーとだって監督生同士ってだけじゃないか。私とも、ただの友達じゃないか。ただの友達だからこそ、関係ないんだ。私達にそれ以上の関係はない。

「関係ある」なんて、どの口が言うんだ。


「なまえ、聞いて」
「…リーマスには、関係ないよ……ッ」
「なまえ」
「関係ないったら! だからッ!!」
「なまえ!」

ぐいっと前に引っ張られ、体勢を崩した。

突然のことで身体は反応することが出来なくて、そのまま前のめりに倒れる。けれどぼふっと顔に何かが当たり、次いでぎゅっと身体に何かが巻きつく。

何かなんて分からないはずないのだけれど、私はリーマスがどうしてそんな行動を取ったのか分からない。どうして私を抱き締める必要があったのか、どうしても分からない。

私がリーマスの話に聞く耳を持たなかったからだろうか。けれど、リーマスには関係のない話なのだ。ただ私がジェームズを好きだと言うことを知っていると言うだけで、首を突っ込む必要はないのだ。リーマスはジェームズの友達なのだから、早くリリーと結ばれる案でも考えていればいいのだ。


だから、リーマス自身がそんなに苦しそうに「なまえ」って、私の名前を呼ばなくたっていいのだ。

「……なまえ…」
「離して」
「なまえ、お願いだから聞いて…ッ」

今更何を聞けと言うのだ。
これは私がただ、臆病だと言う話なだけなのに。

「辛かったら、僕が話を聞くよ。恐かったら、僕が抱き締めるよ。寂しかったら、僕がなまえの傍にいるよ」

ねえ、やめて。
お願いだから、そんな風に言わないで。

分からなくてよかったのに。
分からないままだったら、よかったのに。


「僕はただ、なまえに笑顔でいて欲しいだけなんだ」

そう言って私の身体をようやく離したリーマスは、とても泣きそうな顔をしながら、私に向かって笑った。

無理に笑うリーマスはとても辛そうで。

いつものリーマスとは程遠い。
リーマスの涙はきっと、私のせいなのだろう。





触れることさえままならなくて
私はリーマスに声をかけることが出来なかった



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